衛宮士郎は魔術師だ。

 使える魔術は強化と解析という、かなりの半端者という肩書きは付くが。

 だが、彼には目指すものがある。

 全てを助ける正義の味方。十あれば十全てを助けようとする理想。

 九を救い、一を捨てるしかなかった養父の叶わなかった夢を受け継いだ者。

 困ってる人がいれば助ける。

 それが、衛宮士郎の在り方。

 例え裏切られようとも、傷付こうとも。



Fate/the prince of darkness
第二話――蒼き騎士王――



 交錯する青と黒。

 どう考えても人間同士の戦いではない青と黒。

 その禍々しい殺気に当てられ、衛宮士郎は動くことも出来ず、ただ魅入っていた。

 甲高い金属音が聞こえてきたのは弓道場の掃除をしていた時の事だ。

 次いで響いた銃声。

 映画やドラマなどでしか聞いたことのない音に一瞬驚き、気になって校庭に出てみれば目の前の光景。

 そしてその視線は彼らの持つ武器へと動く。

 槍と、刀。

 それを見た瞬間、昼間聞いた話を頭の中で反芻する。

 殺人事件、日本刀か槍の類…。

 校庭では、何合か交わされた後に構えを変える青。

 その持つ赤い槍に凄まじい魔力が溜まっていくのがわかる。

 そしてそれを迎え撃つ気がないのか、黒は両腕を下げて何も構えていないが、凄まじいほどの気迫。

 ぶつかる殺気と殺気。

 だが、それよりも頭の中で考えていたことが結びつき、息を呑む。

(まさか……あのどちらかが、殺人事件の犯人!?)

「誰だ!?」

 気付かれた!?

 素人でもわかる殺気がこちらに向けられるのが分かり、すぐさま校庭に背を向けて走り出す。

 追いつかれたら、殺される!

 玄関から校舎に入り、必死になって階段を駆け上がる。

 足がもつれ、崩れるように廊下へへたり込む。

 だがすぐさま起き上がり、辺りを見回す。まだ、何もいない。

 少し安堵し、息を整える彼の脳裏には先程まで見ていた戦闘の光景がくっきり焼きついている。

 耳にはまだあの金属音が鳴り響いているようだった。

「はぁ…はぁ…何だったんだ、今の………」

 相対すれば、絶対に殺される。だが、ここまで逃げれば…。





 そう思って背を壁に預け座り込んだ刹那、

「よお」

 すぐ真横から聞こえてくる男の声。

 心臓が高鳴り、心が恐怖に支配される。背筋が、凍る。

「うわっ!」

 叫び、その男、ランサーを見上げる。

「割りと遠くまで走ったじゃねぇか。だがま、運が無かったな」

 ランサーは面倒くさそうに槍を肩に掛けてこちらを見下ろしている。

 そして、槍を上に掲げる。

「見られたからには…死んでくれや」

 次の瞬間、槍が下ろされる。

 士郎は、それが自分の胸に吸い込まれていくのを唖然とした表情で見つめた。

 皮膚を貫き、肉を破るその赤い槍を呆然と見つめる。

「死人に口無し、ってね」

 ランサーが槍を士郎の体から引き抜く。その拍子に士郎の体が浮き、慣性にしたがって壁に背中を打ち付ける。

 そしてひどくゆっくりとした動作で膝をつき、うつ伏せに倒れこむ。

 それを見届けたランサーは踵を返して廊下を歩き出す。

 士郎は、薄れゆく意識の中で自嘲気味に呟く。

「こんな様で…正義の味方になんてなれるわけ……」

 全身の力が抜ける。冷たい。寒い。

(親父……。俺…誓ったのにな。魔法使いになったら人を救うって……)

 そして士郎は、意識を手放した。





「間に合わなかったか…」

 廊下に倒れている士郎を見つめ、アヴェンジャーが小さく呟いた。

 凛は、アヴェンジャーの呟きを聞きながら内心自らを責める。

(私のせいだ…犠牲者が出るくらい、覚悟してたはずじゃない…)

 だが、こんなところで躓くわけには行かない。

 頭を振りつつ、アヴェンジャーに顔を向ける。

「ランサーを追って、アヴェンジャー。ランサーはマスターのところに戻るはず…せめてマスターの顔くらい把握しないと」

 凛の言葉を聞いたアヴェンジャーは頷く。

「わかった」

 霊体化してその存在を視界から消したアヴェンジャーから視線を外し、士郎の元へと凛は歩み寄る。

 膝をかがめ、彼を見下ろす。

「ごめんね。せめて、看取るぐらいはしてあげる」

 そう言って、凛は月明かりに照らされた士郎の顔を見て息を呑む。

 その顔はよく知っている。

 衛宮士郎。

 士郎は知らないだろう、凛は彼のことを中学の頃から知っている。

「嘘…やめてよね…なんだって、なんだってあんたが……」

 凛は呆然と呟くが、すぐ我に戻る。

 まだ、助かるかもしれない。

 凛は父親の形見の宝石を取り出す。

(ごめんなさい、お父さん。貴方の娘は、とんでもなく薄情者です)

 その宝石を仰向けにした士郎の体に掲げる。

 宝石に込められた魔力を解放する。すると、宝石が輝きだし、士郎の体を照らす。

(破損した臓器を偽造して代用…その間に心臓を修復……)

 そうして傷が塞がったことを確認した凛は、その場から逃げるように立ち去った。





―――interlude―――

十年前。

冬木の街を襲った大火災。

建物は例外なく崩れ、自然は燃やされる。

人は死に絶え、それはまさに地獄絵図。

黒い雲から降る雨に身を打たれ、よれよれのコートを水に濡らした男が呆然と立っていた。

衛宮切嗣。魔術師殺しと恐れられていた男だ。

彼は自らがもたらした惨状に目を覆いたくなった。

九を助け、一を捨てる。

これが、彼の目指した正義の味方ではないことなど分かっている。

だが、この惨状は九を救うどころか九を殺している。

彼は瓦礫の上を歩き回り、生きてるものを探す。

しかし、全ては死んでいたり死に瀕している者ばかり。

たとえ■■■■■を使ったとしても、原形を留めていない者に通用するのか。

彼は絶望の中歩き続ける。

そして、彼の視界に歩く人影が映った。

それはまだ小さい少年だった。まだ幼いながらも、懸命に歩いている。

生を求めている。

そんな少年の姿を目に捉え、切嗣は一筋の光を見た気がした。

倒れる少年に走り寄り、彼を見下ろす。

『よかった…』

少年の傷はひどいが、命はある。

切嗣は少年の体に■を埋め込む。

これが、士郎と切嗣の最初の出会い……。



『僕はね、魔法使いなんだ』

病院らしき所のベッドで切嗣の言葉を聞いた時、俺は子供心に驚いた。

『へぇ、凄いんだな』

そして聞かれた。

このまま孤児院に行くか、切嗣の養子になるか。

しかし、俺は子供心に思ったのだろう。

魔法使いと自称する、なんか子供っぽい切嗣を、誰が面倒見るのだろうって。

だから俺は、切嗣の息子になることを選んだ。

―――interlude out―――






「…んっ……」

 意識を取り戻した士郎は、ゆっくりと瞼を開ける。

 床に手を着いて起き上がるが、胸に鈍い痛みが走る。

 思わず胸を押さえ、その手を見てみれば赤黒い何か。それが血だと分かるのに時間は掛からなかった。

「………生きてる?」

 脳裏に、胸に突き刺さる赤い槍がふっとよぎる。

 あれから、一体何時間経ったのだろう?

 というより、何故生きてるんだ?

 心臓を貫かれたはずなのに。

 あの痛みは、忘れようが無い。

 背筋が思わず寒くなり、士郎はあたふたと雑巾を持ってきて廊下にこびり付いた血を拭い取る。

 無意識のうちに落ちていた赤い宝石のペンダントを拾い上げ、制服のポケットに入れる。

 一度弓道場へ戻りカバンを回収すると、足早に帰路ヘついた。





 武家屋敷の装いである自宅にたどり着いた士郎は、居間の障子扉を開ける。

 テーブルの上には夕食と思しき物とメモ書きがおいてあったが、士郎はそれに目もくれず柱に背を預ける。

 電気はつけず、ただ先程のことを考える。

「あいつら…一体何者だったんだ?」

 人間ではない。絶対に。これだけは、分かる。

「幽霊? いや…実体を持って殺しあってたじゃないか」

 青い槍の男が浮かぶ。

 奴に殺されかけたんだ…。

 いや、違う。

 確実に、殺されたんだ、一度。

 現に、制服の胸の部分が血に濡れているじゃないか。

「…心臓を一突き…奴に殺されたんだ。けど、あそこにいた誰かが助けてくれた…」

 脳裏に浮かぶのは赤いペンダント。

 解析してみたところ、おぼろけながらも魔力の残滓が感じられた。

「一体…誰が……」

 士郎が疑問を口にするが、次の瞬間屋敷内に響く音。

 敵意のある何かが侵入したときに反応する結界が起動したのだ。

 そして、感じたことのある身の毛のよだつ殺気。

「あいつだ…! 追って来たんだ!」

 赤い、槍の男。

「武器…何か、武器を…!」

 薄暗い中、手探りで探す。

 コツ、と手に何かが当たる感触。

 それを手にとって見れば、士郎の姉的存在が置いていったポスターだった。

「はは…最悪だ」

 ポスターなんかで、あの槍を防げるわけ無い。

(でも…ここまでどん底に落ちちまったからには、ただ前進するのみ!)

 手に丸めたポスターを握り、意識を手先に集める。

同調、開始(トレース、オン)

 自分の魔術回路を開き、ポスターを強化する。

 己が行使できる唯一の魔術。成功確率は低い。けど…やるしかない!

「構成材質、解明…構成材質、補強……全工程、完了」

 見た目は変わらないが、成功したなら生半可な鉄よりも硬いものが出来たはずだ。

 完成したポスターを軽く振って感触を確かめる。

 紙のポスターとは違う風切り音。うまくいったみたいだ。

「…来やがれ! さっきのようには…」

 トンッという軽い音が背後でする。

 振り向くと、すぐ後ろに槍を上段に構え、振り下ろす男がいた。

「うわっ!」

 後ろに下がって避けるが、拍子にテーブルを倒してしまう。

 よろめきながらも距離を取り、強化したポスターを正眼に構える。

「やれやれ…痛みを感じないで済むよう、俺なりに気ぃ遣ったんだがな」

 その槍の男、ランサーは槍を上段に構える。

「しっかし…同じ人間を一日に二度殺す羽目になるとは」

「くっ……」

「今度こそ…死になっ!」

「うおぉぉぉっ!」

 心臓を狙ったその一撃は、強化したポスターによって軌道をそらされ肩を掠る程度に留まる。

 ランサーは感心した様子で士郎を見る。

「ほぉ…こいつは驚いた…なるほど。心臓を貫かれても生きてるってことはそういうことか」

 肩の傷を抑える士郎の様子を見る。

「微弱ながら魔力を感じるな。お前…魔術師か」

 士郎はポスターを正眼に構えたまま微動だにしない。

「やる気は充分ってか? ハッ!」

 突き出される槍を強化したポスターで受ける。

 幾合もの槍を受けるたびにポスターが凹んでいき、その重い衝撃で腕が痺れていく。

 そして横薙ぎに振られた槍が士郎の脇腹を打ち、吹き飛ばされる。

「うわぁぁぁっ!」

 障子扉をなぎ倒しながら隣の和室に転がる。

「ふんっ…はぁっ!」

 ランサーは腕を軽く上げ、槍を投擲する。

 それを見た士郎は咄嗟に縁側の窓ガラスに突っ込む。ガラスの破片が飛び散るが、そんなものどうでもいい。

 地面に転がり、先程まで倒れていたところに槍が突き刺さるのを見た士郎は走り出す。

 ランサーは槍を回収すると窓ガラスをすり抜け、地面に立つ。

 少し遠くまで行った士郎の姿を捉えて地面を蹴ると、すぐさま追いつく。

「なっ!?」

「うらぁっ!」

 驚く士郎の脇腹に鋭い蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 宙を舞った士郎は、土蔵の壁に体を打ちつけ、地面に転がる。

 脇腹を押さえる士郎の左手の甲に、刺青のようなものが浮かび上がってくる。

「鬼ごっこはここまでだ」

 槍を両手で器用に回し、それを突き出す。

 それは確実に士郎を狙うが、辛うじて士郎は避ける。

 ―――まるで、遊ばれてるじゃないか!

 いや、まともに当てる気が無いのだろうか。

 ランサーが繰り出した心臓を狙う一撃はポスターによって弾くが、衝撃で士郎の体が飛ばされる。

 ぶつかった拍子に土蔵の扉が開け放たれ、士郎はそこに転がる。

 痛みを堪えて立ち上がるが、目の前にはランサー。

「諦めな」

 最後通牒のような言葉。実際、そうなのだが。

「うっ…くっそぉぉ!」

 ポスターを振り下ろそうとするが、槍の一突きで弾き飛ばされる。

「詰めだ」

 尻餅をつき、真紅の槍を突きつけられた士郎は、目を見開いてその切っ先を睨みつける。

 二度目の、死の恐怖。

「割りと驚かされたぜ、坊主。…ひょっとするとお前が七人目だったのかもな」

「七人目…?」

 訝しげに聞く士郎に、ランサーは低く笑う。

「だとしても、これで終わりだ」

 そのランサーの言葉に、恐怖に竦んでいた士郎はランサーを睨みつけた。

「ふざけるな……!」

 士郎のその言葉に、ランサーは片眉を上げる。

「折角助けてもらった命だ。簡単には死ねない!」

 脳裏に宝石のペンダントが浮かぶ。

「こんな風に…意味も無く死ぬわけには行かないんだ!」

 そして思い出すのは、養父との約束。

 正義の、味方。

「殺されるもんか!」

 その言葉と共に、左手の刺青のようなものが輝きだす。

 そしていつの間にか土蔵の地面に現れた魔法陣から光りが溢れ出す。

「な、なんだ!?」

「チッ…まさか本当に七人目だったとはな」

 するとその魔方陣から一陣の風が舞起こり、何かが飛び出してきたかと思うとランサーが土蔵の外に弾き飛ばされる。

 士郎は左手の甲に鋭い痛みが走ったことで反射的に右手で左手を押さえつける。

 ザッと靴か何かが地面をする音が聞こえ、士郎は顔を上げる。

 目の前には、青いドレスに銀色の甲冑を身に纏った、金髪の少女。

「問おう―――」

 その凛とした声に、ぼーっと見ていた士郎はハッと視線を少女の眼に定める。

「貴方が、私のマスターか?」

「え…マス、ター?」

 我ながらぽかんとした表情をしていると思う。

 士郎の言葉にその少女は顔色一つ変えず、淡々と答える。

「サーヴァント・セイバー…召喚に従い参上した。マスター、指示を」

 指示、といわれても、何を言えばいいかなどわからない。

 とりあえず、目の前の少女は『セイバー』ということ名前であることはわかった。

 しかし、いきなりのことで声がでない上に、体が震えているのがわかる。

 落ち着けるため左手の甲に現れた刺青を右手で強く抑えながら、今の状況の整理を試みる。

「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した」

「な…契約って、何の――!?」

 セイバーのその言葉に士郎は疑問を投げつけようとするが、セイバーはハッと顔を上げると土蔵の外へと駆け出していった。

「な! ま、待て!」





 凛が自宅に帰ってきてから数時間ほど。

 これから先の戦略を自分で淹れた紅茶を飲みながら考える。

 悶々と考え込んでいるうちに、アヴェンジャーが戻ってきた気配を感じる。

「お帰り。で、どうだった?」

「……失敗した。わかったのは、この周辺に奴のマスターがいない、ということだけだ」

 アヴェンジャーは先の戦闘で破損した刀をソファに放りながら申し訳なさそうに言う。

「そう。ま、そう易々といくとは思ってなかったけど」

「そういえば、あの少年はどうなった?」

 勝手にカップを取ってきて紅茶を淹れ始めたアヴェンジャーは、あの魔槍で貫かれた少年を思い出す。

「私が魔術でなんとかしたから、生きてるはずよ」

「生きている…?」

 眉根に軽く皺を寄せ、アヴェンジャーは鸚鵡返しに尋ねる。

 その反応に、凛も待てよ、と思う。

 あのランサーはアヴェンジャーとの戦闘を放棄してまで目撃者を殺しに掛かった。

 それを自分たちに置き換えてみる。

 記憶をいじるか、確実に殺すか――

「しまった…」

「凛、どうする? 生きていると知られれば、またあの少年に襲い掛かるぞ」

 アヴェンジャーのその言葉に、凛は憮然とした表情で考える。

「詰めが甘かった、としか言いようが無いわ…。アヴェンジャー、彼の家に行くわよ」

「知ってるのか?」

「サーヴァントの気配を追えば分かるでしょ?」

「そこまで簡単なものじゃないが…」

「嘘よ。知ってるから、案内するわ」

「冗談を言い合っている場合ではないんだけどな…。わかった、行こう」

 アヴェンジャーは凛を腕に抱くと屋敷の窓枠に足を掛け、強く蹴って街中を飛ぶように駆ける。  暗闇で分かりにくいが、黒い魔力の本流が足元から流れているはずだ。

「こっちか?」

「ええ、そう。そのまま直進よ」

「しかし、よく少年の家を知っていたな」

「当然よ。この土地の管理者なんだから」

 しかし、この辺りは街並みも簡素だ。

「あの屋敷みたいなところでいいんだな?」

 バイザー越しに少し遠くを見つめるアヴェンジャーに、凛は頷く。

「確かに、サーヴァントの気配がするな…二人分」

「一人はランサーでいいとして…もしかしたら」

「あの少年もマスターだったということか、それともまた別の奴に巻き込まれたのか。どっちかだな」

 軽い音を立てて屋敷の塀の前に降り立つと、凛を地面に下ろす。

 戦いに邪魔になるバイザーを外してマントの内に仕舞うと、アヴェンジャーは刀を構える。

 ぼろぼろだが、何もないよりは幾分マシというやつだ。

「来るぞ…気を付けろ」

 さりげなく凛の前に立ち、気配を探る。

「チッ…まさか避けられるとはな」

 カンと瓦の乾いたような音がしたかと思えば、塀の上にランサーが降り立っていた。

「ッ! ランサー……」

 上を見上げ、殺気を漲らせる。

「お前か……残念だが、戦いはお預けだ。じゃあな」

 ランサーは一瞬こっちを見てにやりと笑ったかと思うと、そのまま風のように去っていく。

 去っていくランサーの青い魔力の奔流を見つめながら、アヴェンジャーはなんともいえない表情をする。

「…アヴェンジャー。もう一人のサーヴァントは?」

 凛も苦虫を噛んだような顔でアヴェンジャーに尋ねる。

「ああ、すぐ上だ」

 凛がすぐさま上を向くと、そこには何も持っていない手を振り下ろさんとする金髪の少女。

 アヴェンジャーは刀を右手で構え、それを迎え撃った。

「……!」

 無手で飛び掛ってきた少女に内心戸惑いを覚えてはいるが、本能的な危険を感じ取って力強く刀を振る。

 甲高い金属音が響き、彼女を迎撃したアヴェンジャーの刀が真っ二つに折れる。

「…っ!?」

 この小柄な体のどこにこんな力があるんだ!?

 そう不思議に思うほどの衝撃が刀を伝い、腕に通る。

 折れた刀身が宙を舞う。腕が一瞬痺れるが、突っ立ったままでは危険と判断し、地面を蹴って距離を取る。

 真ん中から折れて刀身の半分が無くなった刀の柄を左手で握り、鉄拵の鞘を右手で持つ。

 例の少女は、やはり無手のまま踏み込んでくる。

 しかし、先ほどの刀を叩き折った衝撃。何かがあるに違いない。

 そんな直感を信じ、振り下ろされた両腕から距離を取るため再び力一杯地面を蹴る。

 彼女の振り下ろされた両腕からは、激しい風が巻き起こってマントが翻る。

 更には、マントの一部が剣ですっぱりと切り裂かれたかのように舞い散る。

「不可視の武器……!?」

 再び間合いを詰められ、それに応戦しつつも凛を守るような立ち位置は崩さない。

 しかし、その不可視の武器の一撃一撃、かなり重い。

 彼女の武器を受け止めていた鞘が砕け、反動で足場が崩れる。

 素人目にはほんの些細な隙だ。

 しかしその隙はこの戦い――サーヴァント同士の戦いにおいて大きな隙だ。

 彼女の返す腕の一撃には対応できない。

 手元には半ばから折れた刀のみ。もう、防げるのは己の腕だけ。

 ならば、傷を少しでも浅くするため後ろに飛び退く…!

 相手の武器が見えないせいで間合いを計れないが、自分の脚力を限界にまで使って地面を蹴る。

 振られた瞬間、咄嗟に左腕をマントの裏で腹との間に挟む。

 風圧と共に、胸から膝にかけてまでマントが切り裂かれる。

 貫通した斬撃が二の腕に直撃し、鮮血が噴出す。

「くっ…!」

 思わず口元を歪め、着地時のバランスを取りつつ刀を右手で構え直す。 「アヴェンジャー!?」

「傷は浅い。大丈夫だ」

 凛の声に平坦な声で答える。

 不可視の武器というで虚を突かれた。だが、次はそうはいかない。

 本能が、あの少女には勝てないと訴えている。だが、負けることも無いはずだ。要は、戦い方の問題。

 痛みを無視し、そのサーヴァントの少女を見据える。

 見た目こそ美しい…が、雰囲気からして格が違う。まず普通に戦ってはきっと勝てない。

(俺の戦闘はボソンジャンプによる奇襲とユーチャリスによる陣形のかく乱…そして中枢の破壊)

 あくまで機動兵器戦での話だが、白兵戦で活かせないわけでもない。

 右手を下げつつも刀を油断無く構える。そして痛む左手で銃を抜く。

 その無骨な銃を少女向け撃つ。

(ランサーの様子からして、おそらく彼女はセイバー。最良のサーヴァント、か)

 放たれた銃弾をいとも簡単に武器で弾き、アヴェンジャー目掛け駆け出す。

 アヴェンジャーも牽制のため数発撃ち、地面を蹴る。

 セイバーから放たれる剣戟を辛うじて避ける。頬に切り傷が走るが、無視。

 だが、それは甲高い音と共に防がれる。彼女がすぐさま武器を引き戻し、弾いたのだ。 (彼女にも飛び道具は効かない…く!)  右手のスナップで、刀身の折れた刀を投擲する。

 それをセイバーが刀を受け止めた瞬間。これが、アヴェンジャーに残された攻撃手段。

(…ジャンプして肉薄……そして、撃つ)

 予想通り、セイバーはアヴェンジャーが投擲した刀を受け止める。 (今…っ!)

 セイバーの後ろ。そのイメージが瞬時に固まり、アヴェンジャーはボソンジャンプの態勢に入る。

「やめろー!」

 その声に、イメージが霧散していく。

 響く剣戟の音を背に、正義の味方と、元復讐鬼は邂逅する。






あとがき。
原作どおりに士郎を殺してみました。
違った展開を望んでいた方々には申し訳ないです。
あまりというか全く表立ってはいませんが、これでアヴェンジャーの心境が少し変化します。
それは追々現れてくることになりますが。
もう少し頑張って続きを書かないと。
まだ全然クロスできてないですし…。
というか、見直してみるとまんま原作の流れそのままだなぁ…。
次からはオリジナリティも混ぜていこう、うん。
では。
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