※注意
このSSはゲーム中の設定に関する設定に加え、ネタバレを多分に含むため、読了前にゲームクリアされてから読むことをお奨めします。
義勇軍第七小隊――それはこのガリアと帝国との戦争において、高い戦果を上げる敵味方問わず有名な部隊である。
そしてその第七小隊をさらに有名にさせているものといえば、やはり小隊長のウェルキン・ギュンター少尉の存在であろう。
彼はかつての第一次ヨーロッパ大戦で活躍したベルゲン・ギュンター将軍の息子であるという事から当初は親の七光等と揶揄されていたが、度重なる戦闘で順調に戦果を重ね、今では義勇軍の中では知らぬものはいないほどの有名人物である。
その他にも隊長のウェルキンを陰ながら支えるアリシア・メルキオット、ウェルキンの妹で戦車操縦士のイサラ・ギュンター、第一次大戦からの勇でもあるラルゴ・ポッテル、勇ましき戦場の歌姫であり第七小隊の切り込み隊長ロージー等多くの勇士が小隊を支えている。
このお話はそんな小隊の中で起こった二人の乙女の(ある意味)戦いの物語である。
戦場のヴァルキュリア 〜立ち上がれ!恋する乙女達〜
「ウェルキ〜〜ン!」
昼下がりの午後、義勇軍中隊が駐屯する宿舎の食堂で頭に赤いスカーフを巻いた少女――アリシア・メルキオット軍曹が、手にパンが一杯に入った籠を持って走っていた。彼女の視線の先にいるのは一人の穏やかな雰囲気を醸し出す男性――第七小隊隊長のウェルキン・ギュンター少尉だ。
「ほら、アリシア。今は仕事中なんだからちゃんと役職で呼ばないと」
「あっ、ゴメンねウェルキン……それよりほら! もうお昼の時間だからパンを焼いてきたんだ♪ 新作もあるからウェルキンと一緒にと思って」
「あれ、もうそんな時間か。じゃあ一緒に昼食にしようか」
アハハハハ、ウフフフフといった声が聞こえてきそうな桃色空気が宿舎に充満し、周囲にいた隊員達は、あぁまた始まったと思いそこから距離を取る。
この二人、これほどまでのラブラブっぷりを見せつけながら、未だ正式に付き合っていないというのだから、小隊の隊員達からは「お前達、さっさとくっつけよ」といわんばかりにせっつかれているが、本人達は至って暢気にしているのだから見ている方としては堪ったものではない。しかしそれも時間が解決するだろうという、半ばあきらめにもにた答えが出ているため、小隊員達は微妙に距離をとって微笑ましく二人を見守っていた。
しかしそんな二人を忌々しげに――いや、どちらかというと羨ましそうに見ている視線が二対。
「くぅぅぅぅっ!! あの男、またアリシアお姉さまとイチャイチャして〜〜〜っ!!」
「アリシアさんが羨ましい……あんなに親しげにギュンター君とおしゃべりして……」
食堂の入口のすぐ傍の柱に隠れるようにして中を覗き込む影が二つ。
一人はくりっとした大きな瞳と短く切り揃えたショートの灰色の髪が特徴な少女で、もう一人は背が高く、眼鏡をかけ知的な雰囲気を醸し出すクール系の金髪の女性だ。
「私は絶対に認めないわ! あんな男がお姉さまと付き合うなんて許せない!!」
「このままでは駄目よユーノ……今度こそギュンター君にこのラブレターを渡すの!」
ゴウッと燃え盛るのは嫉妬と羨望の炎。
その二人の乙女のあまりの迫力に、傍にいたカロスが食堂に入れず昼食を食いっぱぐれてしまったが特に本編とは関係ない。
「「アリシアお姉さま(ギュンター君)と付き合うのはこの私なのよ!!」」
ターリス・ワイアット――義勇軍第七小隊支援兵。女子校育ちのお嬢様でアリシアを「お姉さま」と慕い、恋心を抱く所謂『百合』系の少女。
ユーノ・コレン――義勇軍第七小隊偵察兵。ウェルキンと同じ大学に通い容姿端麗・頭脳明晰とあって多くの学生達が憧れているが、ウェルキン一筋の一途な女性である。
そう、二人の乙女の想い人と恋敵は奇妙に重なるという奇妙な縁によって結ばれた同士であったのだ!
「というわけで、お互いの想い人と恋敵が重なる私達なんだけど……」
「正直あの二人を別れさせる方法なんて何かあるの?」
チラと視線を横にするユーノとターリス。
「アリシア、この新作のパンすっごくおいしいよ!!」
「ホント? よかったぁ、実はこのパンって前にウェルキンが教えてくれた食べられる野草や香草を使って焼いたパンなんだ」
「へぇそうなんだ、しかしこんなに美味しく焼き上がるなんて、流石はアリシアだね」
「やだぁ、ウェルキンったら♪」
アハハハハハ、ウフフフフフ……
更に濃くなっている桃色空間。既に二人の周りにはこの甘ったるい空気に充てられたのか誰一人として座っていなかった。
「ユーノさん……私、無性にガリアンライフルを撃ちたくてしょうがないんですけど」
「抑えてターリスちゃん! 私だってランドグリーザーを叩きこみたくてしょうがないんだから!!」
「ちょっと、それってアリシアお姉さまも巻き込むつもりですか!?」
ゲームについて知らない読者のみんなに説明しよう!
ランドグリーザーとは、ライフルの銃身下部に擲弾発射器を取り付けられたライフルグレネードのことで、これを使う事によって離れた位置にいる敵を吹き飛ばすことが可能な偵察猟兵用の装備なのである!
勿論、こんな所で使えばウェルキンやアリシアだけでなく他の隊員達にも被害が及ぶのは言うまでも無い。
「そうだ、あの第一小隊の隊長さんをけしかけるとかどうかしら?」
「第一小隊……ファルディオさんのことですか?」
ファルディ・ランツァート――ウェルキンの親友で甘いマスクに紳士然とした立ち振舞から、義勇軍の女性隊員達から抜群の人気を誇る。
ユーノが言うには彼をけしかけて二人の仲をこじらせてみてはどうかというのだが……。
「駄目です! それって結局アリシアお姉さまが馬の骨とも分からない男にとられるってことじゃないですか!」
「ちっ、気づきましたか」
「わからいでか!」
無論アリシアLOVEのターリスがそんな作戦を受け入れるはずも無く却下される。
尤もその作戦を実行に移すにしても、成功させるためにはファルディオがアリシアを気に入らなければ話は進まないのだが――
「それにそんな展開はアニメ版だけで十分です!!」
「ユーノちゃん! メタな発言は駄目よ!!」
三角関係? そんなものは昼メロでやっていればいいのである。少なくとも深夜の放送枠で愛憎劇なんて一体誰得――――
閑 話 休 題
その後も様々な案が出るものの、どれもこれも二人の仲を違わせるようなものではなく、一向に妙案が出ないまま既に日はガリアの山脈の向こうに沈もうとしていた。
勿論食堂には、二人の女性以外の人気は無かったりする。
「このままでは埒が明かないわ。それにはっきり言ってあの二人の仲を裂くのは難しい問わざるを得ない……ならば逆転の発想! 私達が仲良くなって彼等の仲を超えればいいのよ!!」
「でも、どうやって?」
立ち上がって力説するターリスに対し、既に気力が尽きかけてるユーノはやる気なさげに返事を返す。
しかしターリスはそんな彼女の態度を丁重に無視しつつ、新たに思いついた案をぶちまけた。
「あの二人には下手な誘惑は恐らく通じないわ。ならば戦場で己をアピールし印象付ける!!」
「……なるほど、吊り橋効果ってやつね」
それは少し違うと思われるが……
ともかく少なくとも相手を陥れたり罠にかけてチョメチョメなんてするよりは印象がいいし、少なくとも相手からも悪い印象は持たれまい。
「そうと決まれば、今度の作戦は絶対に私達が参加しなくちゃいけないわね」
「戦場で活躍さえすれば、私のお姉さまの視線は独り占め……ウフフフフフフフフ」
「そうかそうか、俺も貴様達がやる気を出してうれしいぞ」
突如割りこんできたドスの利いた声にぴたと動きを止めるユーノとターリス。
ぎぎぎ、と首を声のした方に動かすと、そこにいたのは厳つい顔に眼帯をした男――我らがガリア公国軍の訓練教官殿だ。
教官の額には血管が浮き出ており、唯でさえ厳つい顔が真っ赤に充血して大変な事になっている。
この時に至って、二人は訓練をサボッて今まで話し込んでいた事にようやく気付いた。
「貴様等訓練をサボッて何やっとるかーーーーっっ!!」
「「ご、ごめんなさーーーいっっ!」」
この後、二人が罰として一週間もの間トイレ掃除の選任係とさせられたのは至極当然のことだった。
数日後、ガリア公国のとある戦場で第七小隊に出撃命令がかかった。
少数の帝国侵攻部隊が都市郊外のクローデンの森に展開しているため、これを撃破せよとの命が下ったのだ。
「それじゃあ隊員の編成だけど――」
「「私達を是非とも使ってくださいっっ……!!」」
早速巡ってきたチャンスを逃してなるものか! と積極的にアピールするターリスとユーノ。
「そ、それじゃあターリスとユーノは装備を整えて直に準備をしてくれ……」
普段は大人しい二人が怖いほどに積極的なため、少しばかり驚くもやる気になっていること自体は良い事だと、ウェルキンは二人を今回の作戦のメンバーに加わる事を決める。それを聞いてユーノとターリスはウェルキンに見えないようにガッツポーズをする。それを見ていたロージーとラルゴは、いつもとどこか違う空気に不安気な表情を見せていた。
「ガリア領に侵入してきた帝国軍を叩くぞ! 第七小隊、出撃する!!」
大型戦車エーデルワイス号の上でウェルキンは檄を飛ばし、作戦を開始を告げる。
敵の部隊は森の奥深くにある陣地に拠点を設けているが正面からいけば対岸の対戦車砲台から攻撃を受ける為、部隊を二手に分けて片方をそちらに対処させる必要がある。
「アリシア、君は片方の部隊を率いて裏側から回りこみ砲台を沈黙させた後、前線の偵察を頼む。余裕があれば敵を攪乱してくれ」
「了解です! それじゃあユーノさん、あなたは私と一緒についてきて」
「えっ、私はギュンターく……隊長の傍で彼の援護を――」
「偵察兵が戦車の傍にいてどうするんですか! 敵が来てるんだから急いで下さい!!」
「は、はい〜〜〜〜っ!!」
かく乱部隊なのだから当然機動力は必要。寧ろ偵察兵が後方にいてもそも能力を発揮する機会は無いため意味は無い。よって偵察兵のユーノがウェルキンと行動を共にする必要は皆無と言えた。
「お姉さま! 私もお供します!!」
「何言ってるんだい! アンタは支援兵だろ? だったら戦車の傍にいて修理に補給に地雷の処理をこなしな!!」
そして支援兵は機動力こそ偵察兵に次ぐとはいえ、その役割はサポート一辺倒。前線に赴くことは稀で戦車や狙撃兵、対戦車兵の弾の補充や地雷処理をこなさなければならないため、偵察兵のアリシアと行動を共にすることはほぼ不可能と言っていい。
「そ、そんな……お姉さま〜〜〜〜っ!!」
結局の所、二人の乙女は戦場において意中の相手に己をアピールする機会を見せられぬまま、それぞれの持ち場につくことになるのだった。
一時間後、情勢は帝国に傾きつつあった。
「くっ、思ったより敵の数が多い。このままではジリ貧だな……」
対岸の戦車砲を沈黙させたまではよかったのだが、敵は複数の拠点をガチガチに固めており、絶えず後方の拠点から増援を呼んで弾幕を張っている。
敵が積極的に攻勢をかけてくれたら偵察兵が前線をかきまわすことができるのだが戦車や突撃兵も拠点を固めてるとなると、そう簡単なことではない。
『隊長、こちらアリシア! 敵は後方より次々と増援を送り込んでいます! このままでは部隊が戦線を支えきれません。至急応援を!!』
「すまない! こちらも敵の対戦車兵によって足止めされている!」
加えてウェルキンが相手をする部隊には対戦車兵が四方八方に配置され、物騒な砲弾があちこちから飛来し前進できないでいる。
エーデルワイスの機動力のおかげでなんとか直撃を受けないでいるものの、操縦者のイサラもいつまでも体力が続くはずも無く、このままでは時間の問題である。
『きゃあっ!?』
そうこうしている内に前線を偵察していたアリシアが敵の銃弾を受けて負傷し、
「くうっ! 被害甚大!」
ウェルキンの乗るエーデルワイス号がとうとう対戦車砲を受け煙を上げる。
しかし、意中の相手が瀕死の危機に陥ったその時……!
乙女の力が発揮した!!
「私がお姉さまの元へ行って治療するの! 邪魔な男共はさっさとのきなさい!!」
「お、おいターリス! 何支援兵が突っ込んでんだい!?」
ロージーの制止を振り切り、戦車兵の元へと突っ込むターリス。
彼女の両手の指には複数の手榴弾の柄が挟まっており、ターリスは一斉にそれを敵対戦車兵へと放り投げた。
対爆性能に優れた防護服を着込む対戦車兵に、手榴弾はあまり効果的ではないのだが……
ドガガガガーン!!
「う、うわあっなんだこの爆弾は!?」
なんと爆発の衝撃は防護服を貫き、並みいる戦車兵をまとめて吹き飛ばしてしまった!
そしてターリスの進撃はそれだけに留まらず、次々と手榴弾を放っては敵兵を吹き飛ばし爆発から逃れた兵がいれば容赦無くガリアンライフルと打ち抜いた。
「支援兵がなんでこんな突破力を――」
爆風によって吹き飛ばされ地に付していた戦車兵がそう呟くとふ、と気配を感じ面を上げると、そこにいたのはあどけない顔を煤で汚したガリア義勇軍の服を着た少女。
しかし自分を見下ろす彼女は汚物を見るような眼でこちらを見据えており、容赦無くライフルの銃口を向けると――――一瞬後、甲高い銃声が戦場の音にまぎれて上がるのだった。
ターリス特殊ポテンシャル、それは連続行動と爆薬類取扱技能。
所変わって前線の帝国中継拠点。
そこでは後方の拠点からの増援によって鉄壁の守りを築き、ガリア義勇軍の部隊を尽く撃退し、今正に反撃を開始しようとしていた。
「見ろっ! 敵の攻勢部隊は総崩れだ!」
「よおしっ、このまま一気に敵を倒して……」
カランカランッ……
何かが転がった音が傍から発し、何だとそちらを見てみると――そこにあったのは信管の抜かれた手榴弾。
それを見た瞬間恐怖の感情が身体を支配し、すぐに身体を動かす事が出来なかったその兵士は直後爆風に身を焼かれてしまった。
突如受けた攻撃によって拠点に動揺が走り、右往左往する兵士達。
「落ち着けぇっ!! この近辺にガリアの兵士がいるはずだ! 警戒を厳にして――」
タアンッ
「へっ……?」
拠点にいた小隊長の話を聞いていた一般兵は、頭を撃ち抜かれゆっくりと倒れる小隊長を呆然と見遣り、次いで銃弾が飛んできた方に目を向ける。
そこには銃口から煙の上がったライフルを右手に、そして左手には一振りのナイフを握った金髪の女性が佇んでいた。そしてその服装は敵のガリア義勇軍のもの――
「ガリア兵!? いつの間にこんな近くに……」
「ウェルキン君のためにも……あなた達はここで引きなさい」
「う、うるせえ!」
帝国兵は手に持ったライフルのボルトを引き、弾を装填させて銃口を向けるが、先程までそこにいたガリア兵は既にそこにはいなかった。
「な……消え――」
ザシュッ
何かを切ったような音が今度は横から聞こえ、そちらを見ると首から血飛沫を上げる友人の姿。
彼は前の部隊から一緒の友人で、年齢が近いこともありよく一緒に飯を食っていた。そんな彼の友人の言葉がうっすらと脳裏に蘇った。
『俺、この戦争が終わったら結婚するんだ。相手は俺の幼馴染でね……結婚指輪もとっくに買ってあったりして』
そう笑顔で言っていた友人が、今は血濡れになって隣に倒れている。
これが……戦場っ!
そしてそんな友人を見下ろしているのは、先程まで自分が撃とうとしていた金髪のガリア軍の女性。そのガリア軍の女性の瞳が今度はこちらを真っ直ぐに貫いた。彼女の手には友人の喉を?っ捌いたのであろう血濡れのナイフが握られており、それがギラギラと妖しい光を瞬かせている。
「ひ、ヒイイイイイッッ!!」
それから数分の間、帝国の中継拠点では恐怖と音叉の声が木霊し、ガリアの攻勢部隊が現場にいた時には、拠点にいた帝国兵は残らず頭を撃ち抜かれるか、喉を切り裂かれていたのだった。
ユーノ特殊ポテンシャル、隠密行動と暗殺技能。
その後、帝国の戦車を足止めした対戦車兵と前線の攻勢部隊が壊滅したことにより敵の進軍が停滞。義勇軍の反撃によって帝国は撤退を余儀なくされた。
しかしこの戦闘において、敵の拠点の単独撃破と対戦車兵相手の大立ち回りをやってのけた立役者は憂鬱な気分の中にいた。
「はぁ……結局ウェルキン君と話す機会が無かったわ」
「私もアリシアお姉さまを助ける前に衛星兵が連れて行っちゃって……せっかくのお姉さまの御身体を触れるチャンスがぁぁぁ」
思いがけず戦場で活躍できたものの、その雄姿を想い人に見せられることが出来なかったため盛大に落ち込んでいた。
何故か異様に隊員の多いこの小隊では戦場に出る機会もままならないため、こんなチャンスはもう二度とないだろうなと諦めかけているその時である。
「ターリス、ユーノ、お疲れ様」
「ギュ、ギュンターく……隊長!?」
思いがけない意中の人物との会話に胸の鼓動が速くなるユーノ。
「さっきの戦闘ではお疲れ様、今回は君達のおかげで勝利することができたよ」
「そ、そんな……」
その言葉にユーノの顔は赤くなり歓喜の表情を見せるが、反してターリスは「男に言われてもねぇ……」と表面上は取り繕った表情で御褒めの言葉を聞いていた。
「それにユーノ、君のおかげでアリシアを助けることができた。隊長としてではなく、ウェルキン個人としても礼を言うよ」
「はうううぅぅぅ」
更にはユーノ個人への礼を想い人から言われて、彼女の心は天にも昇るような高揚した気分であった。
ターリスはそれを若干羨ましそうな眼で眺めており、自分には何も無いのかと一人落ち込んでいるが……
「そうだ、ターリス。さっきアリシアが呼んでいたから行ってくるといい」
「え? あ、ハイ」
ウェルキンからそう言われ、ターリスは期待と困惑の中アリシアが休んでいる天幕へと向かった。今回の戦闘で敵の対戦車兵を倒して活躍したとはいえ、アリシア本人から何か言われるような事はしていないと彼女本人は思っているため、何のために呼ばれたのか分からなかった。寧ろ支援兵が傍にいたのにエーデルワイスを大破寸前まで陥った事に対する叱責があるのではないかとびくびくしていた。
そしてそうこう考えている内に、ターリスは負傷兵が集められたテントの前へと到達する。
「あの……お姉さま、ターリス・ワイアットです」
「いらっしゃい、入って」
許可を得て中に入るとベッドには腕から肩にかけて包帯を巻いたアリシアがおり、ターリスはすぐ傍まで寄って痛ましそうな顔でアリシアを見舞う。
「傷の方はどうですか?」
「大丈夫、弾も貫通してたし私は傷の治りが早いから直に復帰できるよ」
負傷したとは思えないほど明るい表情を見せるアリシアにほっとするターリス。
しかし今回呼ばれた事情についてまだ話を聞いてはいない。
「あの、それでお話って……?」
「あなた、ウェルキンが危険になった時にいの一番に飛び出して敵を蹴散らしたんですって? あなたは支援兵なんだから無茶したらダメだよ?」
(あう……やっぱり怒られた)
仮にも上司で想い人のアリシアに優しいながらも注意されて、目に見えて落ち込むターリス。
「でも、あなたのおかげでウェルキンが助かった……だからお礼が言いたかったの、ウェルキンを助けてくれて本当にありがとう」
「え……」
アリシアから直接感謝の言葉を言われ、しかもなんか手まで握ってもらっちゃったため、ターリスの顔が恍惚としたものに染まっている。
その後ターリスはアリシアと、ユーノはウェルキンと共に決して長くはない時間だがいつも以上に話すことができ、作戦が終わって引き上げる頃には二人の顔は今まで見たことが無いほどに幸せそうな表情をしていたそうである。
こうして二人の乙女達は当初の目論見通り、想い人との仲を今まで以上に深めることができた。この作戦以降、二人は積極的に作戦に参加し度重なる成果を上げて、度々想い人からの称賛の言葉を受けることになる。
しかし彼女達は気付いていない。それはあくまで作戦の活躍や彼等にとって大事な人を守った事に対する称賛であって、彼女達が望むような愛情を含めた言葉では無いという事を……
彼女達がそれに気づいたのは終戦して数年後、ウェルキンとアリシアの結婚式の招待状が来た時のことだった。
おわる
あとがき
帝国兵の頭を撃ち抜いて「うんっ♪」なんていうヒロインがいるんだから、こんな少女達がいても別にナニモオカシクナイヨ?
さて、初めて書いた戦場のヴァルキュリアの小説ですが、みなさんいかがだったでしょうか?
最初は主要キャラについて書こうとも思ったんですけど、既にイメージが固定気味のキャラよりサブキャラの方が色々と弄りやすいこともあったので、このような小説になってしまいました。まぁ単純にメインキャラを書ききるほどの力が無いってのもありますけどね(ぉ
あとゲームだけでなく、アニメ版で自分が思う所も存分にいれちゃってますが、そこは見逃してくれると有り難かったりしますw
遅くなりましたが、黒い鳩さんシルフェニアの4000万HIT本当におめでとうございます!
これからもちまちまと小説を書いてシルフェニアの発展に協力しますのでこれからもよろしくお願いします!!
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