『話は聞いてるな?』

「………はい。」

 薄暗いコックピットに声が響く。
 俺……テンカワ・アキトは今、レイヴン試験のためにAC(アーマードコア)に乗って、シティの高速道路に立っている。
 相手の声はこの試験の審査官……先日俺達を助けてくれたレイヴンのものだ。

『このミッションは君のテストも兼ねている。内容は単純だ。この地区に逃げ込んだ敵勢力を全滅させること。このミッションを果たせば、君はアリーナに登録 され、レイヴンとして認められる。失敗すれば、その時は死ぬだけだ。』

 淡々と喋ってはいるが、その言葉の内容に思わず息を呑む。
 試験といえど、これは実戦なのだ。現に、今まで行われた試験でも多くの受験者が死んでいるらしい。

「…………」

『私は審査役として同行する。手助けは一切しない。そのつもりで。』

 恐らく俺が死んだときの保険、ということか。
 彼にとっては、このミッションなどあまりにも低レベルなものなのだろう。
 そんなことを考えていると、コックピットに「ピピッ」と電子音が鳴り響く。
 どうやら敵が来たようだ。

『……来たようだな。さあ、見せてもらおう。君の力を。』

 俺の新たな道が今、開かれた。





機動戦艦ナデシコ×ARMORED CORE2

MARS INPUCT

第一話「レイヴン試験」





 話は1ヶ月前に遡る。
 ユートピアコロニーからの脱出劇から俺とアイちゃんはジオサテライトシティと呼ばれる「ジオ=マトリクス」管轄のコロニーに身を寄せている。「ジオ=マ トリクス」とは、火星において最大規模の力を持つ企業体で、彼らの力無しには火星社会の形成は不可能だったと 言われている。
 もっとも、その他に「エムロード」や「ネルガル」といった企業も火星社会形成に尽力したが「ジオ=マトリクス」に比べると、今一歩及ばないと言わざるを 得ない。そのため、この火星の大地では激しい企業間紛争が繰り広げられており、コロニーのあちこちで資源の争いや企業同士の諍いが絶えなかった。
 ―――彼らが現れるまでは。

 彼らとは、1ヶ月前に突如現れたあの「蟲」たちである。
 公式発表によれば、彼らは木星圏から「チューリップ」と呼ばれるゲートを介して現われた「木星蜥蜴」と呼ばれる勢力であり、地球・火星圏を滅ぼしにやっ てきた無人兵器群である、ということらしい。
 その内容が真実か否かはともかく、「木星蜥蜴」は火星社会に大きなダメージを与え、各企業体も甚大な被害を被った。
 特に新興企業の「ネルガル」と老舗の「クリムゾン」の被害は凄まじく、「ネルガル」の火星支社であるオリュンポスと、「クリムゾン」の火星支社であるア ルカディアは壊滅状態であるらしい。
 この状況下でお互いを潰しあうのは得策でないと感じ取った各企業体は、お互いに協力しあいあるいは睨み合ったりしながら「木星蜥蜴」の撃破に乗り出し た。








『………といった具合が火星圏の現在の状況だ』

「そんなレイヴンの稼ぎ時に一体あなたは俺になんの用なんですか?」

 時間は深夜。
 コロニー内の電気が落とされ、シティは漆黒の闇に塗りつぶされている。
 横を見てみると、アイちゃんが可愛い寝息をたてて眠っている。そう、アイちゃんと俺は一緒に暮らしているのだ。
 最初は孤児院に預けようかとも考えたのだが、母親を亡くしたばかりのアイちゃんを一人にするのも不安だったし、なにより彼女が俺の傍から離れるのをひど く嫌がった。結局俺がアイちゃんの代わりの保護者となり、現在はシティの安アパートを借りて二人でひっそりと暮らしているのだ。
 そんな時である。あの黒いACのレイヴン……ストラングと名乗る男から連絡があったのは。

『現在各シティで「木星蜥蜴」への反攻作戦が行われているのはお前も知っているだろう? 各企業体が連携しながら作戦を展開しているが、どこもかしこも人 手が足りん。我々は少しでも使えそうな戦力が欲しいのだ』

「使えそうな戦力って………俺なんか誘って戦力になるっていうんですか?」

『あの状況下でMT1機で小型とはいえバッタ十機を倒したお前が何を言う。それほどの腕があればレイヴンとしても十分やっていける。』

 ACとはいえたった1機でバッタ数十匹を「屠った」ヤツにそう言われても説得力が無い。
 ちなみにMT(マッスルトレーサー)というのはACの前身ともなる作業用ロボットの総称のことで、技術が進化した今は戦闘用MTとも呼ばれる武装ロボッ トがこの世界の主な戦力となっている。

「大体、トップランカーでもあるあなたがなぜレイヴンの勧誘なんかするんですか?本来レイヴンは自身の意思でなるもので、こんな風に勧誘なんか行う職業 じゃあないでしょう?」

 レイヴンという職業は「烏」の言葉が示すイメージの通り、あまり良い印象を受けることがない。
 最近はAC同士の戦いを見世物とする「アリーナ」の普及により、いくらか改善されてはいるが、それでもレイヴンに対する偏見は根強い。ましてやアリーナ のトップクラスのレイヴン、「トップランカー」が新人レイブンを勧誘するなど聞いたことがない。

『君の事は調べさせてもらった。君は12年余り、ネルガルによる監視を受けながら暮らしていたようだな』

「………!!」

(そういうことかっ!)

『ただの一般人があそこまで見事にMTを操ったことに興味を持ってね。この資料が事実なら、あの操作技術にも納得がいく』

「…………何が言いたい」

 自分でも驚くほど低い声が出る。

『別に何も。先程言ったように、我々が欲しいのはすぐに使える戦力だ。……それにレイヴンになることによって、君にもメリットは十分にある』

 あまりにも簡単に引き下がったので、少々拍子抜けしてしまう。

「メリット?一体俺にどんなメリットがあるっていうんです?」

『レイヴンになるということは、「ナーヴス・コンコード」に所属するということだ。企業間抗争の裏舞台の立役者であるコンコード社には、他の企業も簡単に は手出しできないからな』

 コンコード社とは初期段階から火星に進出した企業の一つで、「アリーナ」を火星で展開させる事のみに集中し、それを成功させた。
「ナーヴス・コンコード」はかつての「レイヴンズ・ネスト」を思わせるシステムで、レイヴンへの依頼を管理・斡旋するシステムのことである。現在、事実上 火星におけるレイヴンのほとんどがこの「ナーヴス・コンコード」に所属している。

『コンコード社に手を出す……つまりレイヴンに危害を加えると、下手すると「ナーヴス・コンコード」に所属する全レイブンを敵に回すことになる。もっと も、そんな事態はよほど優秀なレイヴンがやられないかぎり起こらないだろうが……』

「つまり俺がレイヴンになれば、ネルガルからの監視もなくなると?」

『ネルガル火星支社の壊滅で今は監視はついていないだろうが、時が来れば君は再び第三者の視線に晒されながら生活することになる。そのような事は君として も本意ではないだろう?』

 確かに自分の日常生活が常日頃監視されているというのは気分上良くない。しかも今はアイちゃんという同居人がいるため、下手すると彼女が人質になってし まうということも考えられる。それだけは絶対に避けなければならない……。

『それに………』

「……なんですか?」


『君は力が欲しいのだろう?』


 この一言が決定打だった。








 戦力が欲しいからといって、さすがに試験は免除にならない。
 ただ、暢気に無人MT相手にテストをする余裕もないため、俺はすぐさまシティのガードに回され、そのまま実戦へと相成ったわけだ。

 そして冒頭部に到る。



 敵勢力の詳しい内容は聞かされていない。
 敵が一体何なのか。何故排除されねばならないのか、そんな事は分からない。レイヴンに背景など関係無いのだ。
 必要な事を成し遂げ、生き残る。これが全てなのである。

『システム キドウ』

 古臭いAI音声と同時にACを走らせる。
 しばらくACを走らせていると、やがて正面モニターに敵が映し出された。
 赤いボディに8つの脚、口にマシンガンを搭載した敵はどことなく蜘蛛を連想させる。木星蜥蜴の機動兵器、「ジョロ」である。
 どうやら敵勢力とはシティに侵入した蜥蜴共のことのようだ。先日の脱出劇の戦闘から、接近戦は得策ではないと判断した俺は、右肩の2連装ミサイルを立ち 上げる。ロックオンした後、すぐさま発射した2発の小型ミサイルは、ジョロに命中し爆発する。
 すぐにレーダーに目をやると、まだ奥のほうに数機いるらしい。細長いトンネルの上に壁でかこまれているため、一度に複数の敵が現れることはない。俺は落 ち着いて機体を前進させる。








「なるほど……確かにいい腕をしている」

 そう黒いACのレイヴン……ストラングは呟いた。

(戦闘になると大概のやつはパニックになって被弾したり、武器を滅茶苦茶に撃ったりするがやつはひとつひとつの動作が滑らかだ。先の戦闘も無闇にブレード を使わず、アウトレンジからの攻撃で被弾は無し……。経験者に見られがちな安易な接近戦を仕掛けない辺り、頭も使っている)

「あの資料の中身通りだとすると、コイツはとんだ拾物だな」

 そう言ってストラングは口の端を吊り上げた。








 ドガンッ!

「これで3機……!」

 順調に敵機を撃破していくが、敵を示す赤い光点はまだ消えない。
 すぐに次のジョロが道路の奥から顔をだす。しかも2機同時だ。

「……だったらっ!!」

 俺は奥のジョロをミサイルでロックし、手前のジョロにむかってACを前進させる。
 ジョロはマシンガンを乱射してくるため、機体を左右に振らせながら後方のジョロの射線上に、手前のジョロを重ねる。
 こうすれば機体への被弾は最小限に抑えられる。そのままミサイルを奥のジョロに向けて発射し、すぐさま手前のジョロに向けて左腕を振り下ろす!
 低出力ながら、一閃させたブレードはジョロの赤いボディを真っ二つに切り裂き、発射されたミサイルは見事命中し、道路上に二つの赤い華を咲かせた。

『リーダー格の機体がそっちへ行った。任せるぞ』

 後方から様子を見ていたストラングが、敵のいたエリアでの動きに気付いて警告を出した。
 するとレーダー上に新たな光点が現れ、ものすごいスピードでこちらに迫ってくる。俺はライフルを正面に構え、敵が現れるのを待つ。するとすぐさま敵が姿 を現した。
 黄色いボディに4つの赤い瞳。間違いない、「バッタ」だ。しかしその大きさは全開シェルターで戦った奴よりもずっと大きい。
 バッタは飛行形態で、猛スピードでこちらに向かって飛んでくる。
 ……ここから先へ行かせる訳にはいかない!
 目標をロックと同時にライフルを連射。バッタの頭に銃弾を叩き込む!

 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 ライフル弾の数発は回避されるが、残りは全てバッタの黄色のボディに吸い込まれた。
 だがバッタの瞳はまだ輝きを失ってはいない。そのままスピードに乗って、こちらに向かってくる!

「体当たりか……ならっ!」

 ACをバッタの真正面に立たせ、そのまま左腕を上段に構える。
 ぐんぐんとこちらに迫ってくるバッタ。
 まだだ。もう少し引き付けて―――――――今!!

「でえええぇぇぇい!!!!」

 斬っ!!!

 上段から振り下ろしたレーザーブレードによってバッタは左右に別れ、それぞれが道路の壁に激突して爆発した。

 ドドンッッ!!

 すぐさまレーダーに視線を走らせる。
 ……機影無し。どうやらこれで終わりのようだ。

『―――なるほど、それなりの力はあるようだ』

 しばらくして、ストラングの声が聞こえてきた。
 そして誰もがレイヴンとして認められたときに聞く言葉。
 戦場という大空を飛ぶ、一匹の新しい烏が誕生したことを祝福する言葉が紡がれる。


『認めよう、君の力を。今この瞬間から君はレイヴンだ』




 この言葉から、全てが始まるのだ。





TO BE CONTINUED




あとがき

 はじめましてこんにちは。作者のハマシオンです。
 此度は私の拙い作品を読んでいただいてありがとうございます。
 さて、この小説の内容ですが――PS2専用ソフト『アーマードコア2』とのクロスオーバー小説です。
 おそらくロボットアクションゲームが好きなら大抵の人がやったことがあると思います。ただこのゲーム自体は六年も昔のものなので、シリーズを通してやり こんでる以外の人はほとんどが忘れてるかと思います^^;
 なぜ今頃になってAC2?といわれるでしょうがあえて言いましょう。
 

ACがまるごと全部好きだから!


 ってこれじゃ答えになってませんね……AC2を題材に選んだのは、設定がナデシコと非常に似ていることや、ストーリーがシリーズの中で一番王道っぽい所 にあります。今でもちょくちょく引っ張り出してやっていたりします。
 また、ぶっちゃけて言うとこの小説、実は序章と一話は一年以上も前には出来ていたのですが、そのころはプロットも立てておらず、ただ思いつくがままに書 いていたのでとても投稿できる代物ではありませんでした。
 しかし、開発会社のフロムソフトウェアがPS3で最新作の『アーマードコア4』を発表するにあたって、何かが私の琴線に触れたのか少しずつ少しずつ書き 溜めていき、また修正を繰り返すことでようやく人様に見せられるレベルまで持っていくことができたのです。
 今週にも(12月17日現在)PS3で4が発売されますが、「金が無くて買えねぇよ!」というシリーズのファンの方はこの小説を読んでAC2発売の頃を 懐かしんでいただければ幸いです。また「AC?ナニソレオイシイノ?」という方はこれを機に興味を持っていただければ作者の思惑通りでもあります(笑)
 ……こんなこと書くとフロムの回し者なんじゃないかと邪推する方もいると思いますが、全く持ってそのとおりです(ぉ)
 それではまた次回にお会いしましょう




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