昼休み――。
 私立室江高校の中庭はのどかな空気漂う午後だった。
 大きな木の下で、直射日光を避けるように日陰でおしゃべりする女子達がいる。
 1年・タマちゃんこと川添珠姫(たまき)と、さとりんこと東聡莉(さとり)、2年・キリノこと千葉紀梨乃(きりの)と、サヤこと桑原鞘子(さやこ)である。
 彼女達は剣道部員である。部活以外でも仲が良いので、こうして昼食を共にする事もしばしばある。

「――でね、最後は彼女を抱き寄せて、優しくキスするの……!」
「きゃー! 展開早過ぎじゃないですかー!?」

 どうやら昨晩のドラマの話題らしい。
 見逃したさとりんに、録画までしてあるサヤが熱心にストーリーを語る。
 それをのんびりと訊きかじるキリノと、なんだか話がよくわかっていない(そもそも興味がない)タマキ。
 タマキは空を眺めながら呟いた。

「……青い空」






 東城高校との試合後、剣道部はいわゆる黄金期に突入した。
 女子剣道部員が5人揃った事で、単純に、彼女達にかかる余分な外部圧迫がなくなったからだ。
 体調の事やプライベートな事は抜きにして、これからはどんな試合でも、人数が足りない事で悩む必要はない。
 思う存分試合や練習に打ち込めるし、何より、活動の幅が全国に広がった。
 一番最後に入部したさとりんも、部員達との親交を深め、成績に対する余裕も見えてきた。
 サヤも相変わらずではあるが、学校への登校率が上がった。
 今、室江高校女子剣道部の結束力は、驚くほどに高い。

 室江高校は今日も平和であった。
 そう、今日までは……。





KIYOSUGI×BLADE プロローグ
髭猫 作





 放課後。
 剣道部では、今日もなごやか(?)な雰囲気の中、練習が繰り広げられていた。

「あったまきたァ――――!!」

 ビシッ!!バシッ!!

「ちょっ……!? ミヤミヤ!? いきなり激しっ……!!」

 攻撃。攻撃。攻撃。
 ミヤミヤこと宮崎 都(1年)は、のっけからハイペースで打ち込んでいく。相手の事などお構いなしに。
 それは端からすればとても練習に見えない、一方的な斬撃だった。

「たッ!! たァアッ!!」

 スパッ!! スパーーン!!

「たっ……!! たんまッ……!!

 相手をしているサヤは勢いに負け、防御で精一杯の状態だ。反撃の隙を与えてくれない。
 ミヤミヤは日々のストレスを剣道で発散している。
 故にしばしばビースト化する。
 計算など頭にない、勢いで獲物に襲いかかるライオンのように。

「面ェ――――ンッ!!」

 バシィッッッ……!!

 見事な面がサヤに喰らわされた。技あり。
 勢い余ってよろめくサヤ。
 だが、それでもミヤミヤは更に竹刀を浴びせてきた。

「ヤバい……この娘、マジだわ」

 サヤは汗の温度が急激に下がったのを肌で感じた。

「おー、ミヤミヤ荒れてるねぇ……」

 キリノは部室の端に座り、粗茶をすすりながらのほほんとそれを見ていた。
 隣では、同じくタマキとさとりんが半ば硬直した状態で、「ビースト・ミヤミヤ」を観察していた。
 さとりんが、こわいよあの人……と、震えている。ガクガクブルブル。

挿絵「そういえばね、タマちゃん」
「?」

 キリノがタマキに質問する。

「タマちゃんってね、恋愛とか興味ないの?」
「――!???」
「いやね、昼間のドラマの話じゃないけどー、そういうのどうなのかなーって」

 タマキは考えた。
 こ、これはどう返せばいいのだろう。ボケるべきなのか。頭の中で?マークが無数に浮かぶ。

「……よくわかりません」

 結局、素直に答える。
 そこへ、今度はさとりんが会話に加わる。

「じゃあ、どんな男性に好意を持ちます?」

 これは良い質問だった。さとりんナイス。
 キリノが親指を立てる。

「……かっこいい、正義の味方」

 もちろんタマキの頭に浮かんだのは、ブレードブレイバーである。
 キリノとさとりんはぽかんと口を開け、佇んだ。

「(正義の味方って……?)」
「(何……?)」






「あーすっきりした。帰ろ」

 嵐は去った。
 ミヤミヤは思う存分ストレスを発散し、着替えて部室を出た。
 部室のど真ん中ではサヤが真っ白に燃え尽きていた。

「……なんで荒れてたんだろ」

 サヤが肩で息をしながらも、なんとか絞り出せた言葉である。
 キリノがサヤに水を渡し、のほほんと答える。

「あー、なんかね、ダンくんとお昼一緒出来なかったからみたいよ」
「……」
「男同士の話があるんだ、ってユージくんとどっか行っちゃったみたい」
「……」

 ちなみに、ユージこと中田 勇次とダンこと栄花 段十朗は1年の男子剣道部員である。
 クラスも一緒なのでこの2人はかなり仲が良い。
 そしてダンはミヤミヤの彼氏なのだ。

「ま、ユージくんと一緒なら何か特別な用事でもあったんだと思うんだけどねぇ……」
「……疲れた」

 今日は、剣道部顧問のコジローこと石田 虎侍が職員会議の為に部室に来ない。
 約1名を除いて早々に今日の練習はお開きとなった。
 サヤはしばらく床から起き上がれなかった。






 夕方、下校時刻。
 今日は珍しくタマキの横にユージがいない。
 良き幼なじみとしてタマキはユージの事を友人として高く評価してはいたが、居なくても特に寂しくはない。
 タマキとユージがカップルになる事は、現時点で地球が2つに割れてもあり得ない事だった。
 タマキは歩きながらぼんやりと思い出していた。
 小さい頃、確かに淡い恋心を抱いていた事があったのを。






 ああ、あれはいつだったっけ。
 確か母が亡くなって、剣道を真剣にやりだした頃だ。
 父の元へある親子が尋ねてきた。
 この子は父と母、そして弟さんと生き別れてしまって、私が面倒みることになったんですよ。
 本当の親子ではない。タマキにはよくわからなかったが、ひょうひょうとしているその男の子を見て、タマキは思った。
 寂しくないのだろうか。
 だがその日1日彼と遊んでタマキは知った。
 彼は強い。精神的な意味で。なおかつ活発で明るい。眩しい。
 剣道を見せてる時、1匹のあばれいぬが迷い込んできてタマキを追い掛け回したのだが、彼は自慢の必殺技でいぬを撃退してしまった。
 いぬはちょっと可哀相だったが、それよりも彼の勇ましい姿の方にタマキの意識は奪われていた。
 その勇姿はブレードブレイバーと重なった。正に正義の味方だった。






 その彼とも最近は遊んでいない。
 ちょくちょく遊びに来てくれてはいたのだが、彼は彼で忙しいらしい。
 なんでも最近は里親の力を借りず1人で暮らしているのだとか。

「……ふう」

 私は私で最近忙しかった。
 高校生になってから剣道部に入り、父の道場以外での剣道と学校生活。
 過去を振り返る暇もなく、今が楽しかった。
 そうだ彼に連絡してみようかな。
 何か、剣道部の話とかを、急激に訊いてもらいたくなった。

「……」

 だが、タマキは彼の携帯番号を知らなかった……。






 そして翌日。
 タマキは彼と再会する。
 予測すら出来なかった、全く予想外の方法で。
 そして更に、室江高校剣道部に大きな試練(?)が訪れるのである。






 ……TO BE CONTINUDE








 あとがき



 はじめまして、縁あってSSを書かせてもらう事になりました、髭猫という者です。
 ご存知の方もいらっしゃるとは思いますがわたくし、平成幕府というサークルに所属しております。

 CHECK THIS OUT!

 さて、KIYOSUGI×BLADE。
 これは「BAMBOO BLADE」(以下「バンブレ」)と「清村くんと杉小路くん」シリーズ(以下「清杉」)とのクロスSSになります。
 どちらの漫画も原作者が同じなので、原作者より先にクロスさせてみました(笑)。
 
 YO!YO!YO! CHECK IT OUT!!

 今回はプロローグという事で、「バンブレ」を知らない方の為に、大体こんな感じです、と、
 ショートダイジェスト的な感じで仕上げてみました。
 基本的な舞台は「バンブレ」の室江高校です。

 DA NEXT NIGGAS!!!

 設定的にはあまりいじっていません。
 時間設定的には、「バンブレ」の原作コミックス6巻以降……、東城高校との試合後のお話、としています。
 もちろんこのSS完結後、原作コミックス7巻へは、お話的に繋がりません(笑)。
 わたくし髭猫が考えた、6巻以降のifの世界です(笑)。

 GET DA FUCUP!!!!

 アニメ版「バンブレ」はわたくし拝見しましたが、このSSはアニメ版とは無関係で進行させようと思っています。
 原作やアニメ版が好きな方々にも勿論このSSを読んで欲しいですが、やはり知らない方々にこそ読んで欲しいからです。
 で、興味をもってもらえたなら、是非原作の漫画をパラパラとでも読んでもらえたなら幸いです。  





 うーん、HIP HOP聴きながらあとがきとか書くのって、難しいですね(笑)。



 さて、それでは準備はよろしいでしょうか?
 よろしければ「KIYOSUGI×BLADE」第1話をご覧下さい。
 室江高校剣道部の新たに始まるバイオレンスな日々を。



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