私立室江高校。
偏差値は中の下。
普通な校舎。普通な校風。普通な制服。普通な教師達と、普通な生徒達。
平凡というものを絵に描いたような、日本のどこにもありそうな普通の高校。
しかし、今日の室江高校はいささか普通とは言えなかった――。
AM8:25――。
予鈴が鳴る5分前の室江高校通学路。
遅刻するまいと必死に自転車をこいだり駆け足で登校する生徒が目立つ中、一台のクルマが彼らを追い抜き、校門を通過し駐車場に落ち着いた。
「ふぅ。やべぇ、今日はギリギリだったな」
クルマから降りてきたのは、剣道部顧問のコジロ―こと石田虎侍(とらじ)だった。
やや長身のスポーツマンタイプの容姿を持つ彼は室江高の非常勤講師である。
だが、未だ担任のクラスを持っていない事もあり、朝はあまり早くない。
「あぁっ!? やべぇ、昼メシのパンを忘れた……!!」
くっそぅ、半額シール付きだから日持ちしないんだぞ……と、悪態をつきながら時計を確認し慌てて鞄を取ろうとしたその時であった。
キキキキキキィィ――――!!
コジローから約100メートルほど離れた位置の通学路から、とてつもないブレーキ音が響いてきた。
見ると、1台の軽自動車が通学路である道路の直線上を猛スピードで走ってくる。
コジローは不審に思った。あれ、ウチの講師であんな古い軽に乗ってる人居たっけ。
そこへ予鈴が鳴り響き、校門は来訪者を拒まんとばかりに自動的に規則正しく閉まる。
が、向かってくる軽は決して速度を緩めるどころか、加速したのである。
「バッ……、バカヤロ……!!」
コジローが台詞を言い終わる前に――
ドオオオォォォォォォ――――ン!!
クルマは、閉ざされた校門に見事に衝突した。
「おい!! 大丈夫か!?」
コジローがおそるおそる、全壊し白い煙をあげる軽に近づいていくと――
バコッ……!!
勢い良く助手席のドアが開け放たれ――
「…………もう…………むり……」
血だらけの清村緒乃(おの)は、言葉を搾り出して車外に倒れ込んだ……。
そこらじゅうに散乱した細かな自動車パーツの中に混じって「仮免練習中」のプレートを、教頭が発見したのはもう少し後の話である。
青い空……。白い雲……。
俺、今はそんなお前らが大っ嫌いだぜ……。
あれ……? 校舎の全ての窓から人が顔を覗かせ、こっちを見てる……。
……………………。
………………。
…………。
……こっち見んな。
こうして俺は意識を失った。
KIYOSUGI×BLADE 第1話「転校生・清村くんと転校生・杉小路くん」
髭猫 作
やあ。俺、清村。とりごや高校3年生。サッカー部。
とりあえず、何でいきなりこんな事になったか説明するな。
事の発端は、えーと、どっから説明したらいいかな……。
いいや。キリが無いし、簡潔にいこう。
今年、俺達はサッカー部を引退した。
元々5人しか居なかった部員がさらに減って2人になっちまったサッカー部、今どうなってるかは知らない。
俺と一緒に引退した、サッカー部部長の杉小路隆千穂(たかちほ)。
こいつの罠にはまった俺は、こいつと仲良く室江高校に編入する事になった。
今日、いつも通り家を出たら、杉小路の軽自動車が俺んちの前に停まってた。
「清村、早く乗れよ」
珍しく送迎なんかしやがって、何を企んでるんだ、と思いつつもとりあえず乗った。
そしてすぐに異変に気付いた。あれ、何かいつもの道と違うくねぇ?
気がつけば高速道路の料金所だった。
「お前、待て。何処へ行くつもりだ」
杉小路は爽やかに言った。
「室江高校。前に練習試合したけど、覚えてる? あそこ。ぼくら今日から室江高校の生徒だから」
「なめんな。俺は編入手続きなんてした覚えねーぞ」
「うん、大丈夫、ぼくがやっといたから」
「いや、大丈夫じゃねーし!!」
「信用しろよ清村、記入漏れなんかありえないくらい見直したから」
「そうじゃねーだろお前!! 違うだろ!!」
「室江高校の制服、後部座席にあるから後で着替えてね」
「ちょ……おま……」
そして、杉小路は、見事に道に迷った。
「おかしいなあ」
「俺はお前の行動がおかしいと思うがな」
「ナビがね、調子おかしいんだよ」
「へー」
「清村、ちょっと見てくれる?」
「いやだ」
「何で?」
「俺はメカのプロじゃねーから直せねーっつの」
「いやいや、そうじゃなくて」
「??」
「いっくよー」
ういいいいいいん。
何故かサンルーフが開いた。嫌な予感がする。
びょいーん。
「うわあああぁぁぁぁぁぁ――っ!?」
「どう?大体わかるー?」
俺はビックリ箱のバネ人形よろしく、助手席ごと宙に浮いていた。
「方角、あってるー?」
「わかるかああぁぁぁぁ――っ!!」
こいつまた訳わからん改造しやがって……!!
「あ、そー。じゃいいよもう」
ういいいいいいん。
サンルーフが閉まる。
「俺を車内に戻せええぇぇぇぇ――っ!!」
で、なんとか室江高校近辺の駅に到着。
が、時計を見ると既に8時23分だった。
「しまった!! 予鈴に間に合わない!!」
「おいおい、転校初日に遅刻かよ」
「とばすぞ!! 清村!!」
「って、オイ!!」
「よっし、いける!!」
「お前一般道で90キロ出すなああぁぁぁぁ――っ!!」
キキキキキキィィ――――!!
衝突スレスレでカーブを曲がる。あとは直線100メートル。
「駄目だ!! 校門が閉まる!! ええい、ままよ!!」
「よせええええぇぇぇぇぇぇぇぇ――っ!!」
ち――――――ん。
「あ、目が覚めたよ」
……ん。
……ここは?
「えっと、清村先輩、だっけ? 大丈夫?」
……保健室?
「駄目っぽいね、なんか目の焦点があってない」
……この声は!!
「杉小路いいぃぃぃぃ――っ!!」
杉小路の声に反応して突然ガバッとベッドから起き上がる清村。
が。
「――っ!?」
「ほらー、もうちょっとじっとしてなきゃ駄目ですよー」
未だ頭がくらくらする。
知らない女子が俺の両肩に手を置き、ベッドに戻す。
「おっはー」
視界がはっきりしてきたので横を見ると、杉小路が椅子に座ってニヤニヤとこっちを見てる。しかも全くの無傷で。
え、何で。お前は神か。
「しっかし長い事寝てたね。もう昼休みだよ。清村は軟弱だなぁ」
うーん、殺したい。こいつがただの人間だって事を今ここで証明したい。
「そういえば、運転してたのって、杉小路先輩ですよね? なのに無傷って凄いですねー」
知らない女子が杉小路と話してる。
「ま、そこいらの奴らとは鍛え方が違うからね。スポーツやってる人間としては常識かな」
「へー、杉小路先輩って、前の学校では部活は何を?」
「サッカーだよ。で、ぼくが部長やってたんだ。とりごや高校って訊いたことない?全国優勝したんだよ」
部員5人で出場出来た事自体奇跡なのに優勝しちまったのはお前の計画通りなのか?
とりあえず心の中でツッコむ清村。
「あー、そういえばなんかそんな話訊いたかも。今年は初出場んとこが優勝したって」
「そうそう、それそれ。それぼくらだよ」
「へー、なんか凄いなぁー」
おお、見える、見えるぞ杉小路。謙虚に振舞いつつも、お前の見えない鼻がにょきにょきと伸びていく様が。
つーかコイツ、こんなキャラだったっけ? 女子の前だとキャラ変わるな……。
「で、清村もサッカー部で、最後シュート決めたのはこいつでもあるんだよ」
「そうなんですかー、じゃあ二人共サッカー上手なんですねー」
「まあねえー、あはははははははは」
……違う!! こいつはそんないい奴でも凄い奴でもない!!
こいつは……!! こいつは……!!
さっきから清村は懸命に黒いオーラを放って異議を申し立てているが、どうも完全にスルーされている。
「あ、じゃあ清村先輩の事、後はまかせていいですか? ちょっと部活の後輩と用事がありまして――」
すっと、知らない女子が立ち上がった。
「うん。いいよー。まかせといて」
いやいや、杉小路。俺はお前にまかせたくない。
「キリノも大変だね、保健委員代理でこいつの世話とかやらされて」
お前もう下の名前呼び捨てかい!!
「いえいえ、ただの世話好きなだけですってー」
キリノは若干照れた表情を見せる。
そこへ――
ガラッ。
保健室の扉が開かれ、別の女子が顔を見せた。
「あ、ちょっすー」
キリノが妙な挨拶をかます。
が、女子はそれを返さずに何故か固まってしまった。
「あ、杉小路先輩、この子ですよー、用事のある後輩――」
「タマちゃん??」
キリノが言い終わるのを待たず、杉小路は女子の名前を呼んだ。
「たかちほ??」
タマちゃんと呼ばれた女子も、杉小路の下の名前を呼んでみせた。
しばらく固まる二人。
頭の上にいくつものクエッションマークを浮かべながら、キリノは言葉をひねり出した。
「えーっと――――二人共、知り合い??」
……TO BE CONTINUDE
あとがき
どうも、髭猫です。
BAMBOO BLADE寄りのSSを期待していた皆様、ごめんなさい。
第1話は清杉寄りになりました(笑)。
とりあえず、転校してまいりましたね、清杉の二人(笑)。
この展開は多分予想してなかったんではないでしょうか。
しかも杉小路とタマちゃんの意外な接点も……。
皆様には予想外かと思われますが、如何だったでしょう?
まずはじめに杉小路とキリノを絡ませたのにはいくつか理由があります。
が、あえてここでは書きません(笑)。
とりあえず動かしやすいから絡ませた、ってのもあるのですが(笑)。
なるべく原作との対比で違和感がないようには気を遣っております。
あと、清村くんと杉小路くんは、原作では女子との絡みがほぼないので、
ここで絡ませると一体どんな表情を見せるんだろう、と、
わたくしもワクワクしながらSSを執筆しています(笑)。
一応このシリーズは不定期的な定期更新を予定しています(なんだそれ)。
毎週月曜日を更新予定日としておりますが、都合で若干遅れる場合もございます。
ただ確実に毎週1話は更新します。
それでは。
また続きも読んで頂けたら幸いです。
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