早朝。
快晴の頭上からは陽光が差し込み、程良い心地よさを与えてくれている。
小鳥のさえずりが何処からか聞こえ、より一層雰囲気を盛り上げる。
塀の上を、ねこがトテトテと歩く。立ち止まり、あくびをする。
住宅街の歩道は人の気配もなくのどかで、朝露が眩しい。
ピアノやギターの弾き語りが似合いそうな時間。
神聖さすら感じるその煌いた時に、ぽつりぽつりと学生を見かける。
大抵は大きなスポーツバッグを背負って。
恐らくは運動部の朝練だろう。
眠い目をこすって、大荷物で、学校に向かう。
配達された牛乳と新聞を取りに外へ出た堤さん(仮名・会社員)は、思った。
う〜ん、いい朝だ。
注:堤さん(仮名・会社員)は、本編と全く関係ありません。念の為。
室江高、自転車駐車場。
そこに居るのは、朝練の為に登校してきたミヤミヤとダン。
低血圧なのか、朝は機嫌が若干悪いミヤミヤは思う。
お布団が恋しい。
朝はいつも、ちょっと憂鬱。
それでも、始まってしまった今日という日は止まらない。
ダンくんが居なかったら、きっと、こんな時間から学校になんか……。
隣のダンはというと、朝から快調のご様子。
マイペースに、元気いっぱい(?)。
自転車を停め、しっかり鍵をかけたミヤミヤに、ダンが言う。
「あ、ミヤミヤ〜。ちょっとそのまま、かがんだままにしてて〜」
なんだろう?
よくわからないが、素直に従うミヤミヤ。
すると、ダンの顔がみるみる近づいていき……。
……………………。
な……? な……?? な……???
不意に訪れた甘い瞬間に、ミヤミヤは顔を真っ赤にして動揺する。
「杉小路先輩から教えて貰った、恋のおまじないだよ〜。朝しんどそうなミヤミヤに、元気が出ますように〜」
後にミヤミヤは語る。
ええ、完っっっ全に不意打ちでしたね。
私の脆きハートは全壊、クリームが溶けてバターになったかのように(以下略)。
「ダンくん……」
顔を真っ赤にして目を潤ませたミヤミヤは、そっとダンの顔を引き寄せた。
「ありがとう。これはお礼よ」
……………………………………。
今度は、ダンが顔を真っ赤にする番であった。
朝っぱらからお熱い2人。
他に誰もいない、2人だけの空間。
清々しい朝の空気は、彼等を暖かく見守っていた。
KIYOSUGI×BLADE 第7話「ミルクとコーヒー」
髭猫 作
昼休み。
てっぺんまで昇って最高潮のお日様が絶好調に陽光を降り注ぐ時間帯。
賑わう運動場や体育館・校舎の雰囲気とは裏腹に、ミヤミヤの心は嵐であった。
ここは校舎裏。
静かな闇が身を潜める此処で、ミヤミヤは怒りの炎を燃やしていた。
「まったく、なんてこと!!」
今日もいつも通り中庭でみんなと昼食を取った。
今日はダンくんとユージくんも一緒だった。
が。
今日は、何故か杉小路先輩も一緒だった。
先輩は、最近ダンくんを連れ回す事が多い。
もっとも、休み時間だけに限定されてはいるが。
そして案の定、今日もお弁当を食べ終えた途端に、先輩は消えた。
ダンくんと共に。
「………………………。」
行かないで、とは言えなかった。
束縛がキツイ女は嫌われる。
ミヤミヤ自身、その我が儘を飲み込むのは苦ではない。
が。
ユージくんならまだしも、何故かあの杉小路先輩だと、イラっとくる。
転校してきて1週間。
あっという間に剣道部のみんなと仲良くなって、あっという間にダンくんに関心をもった。
なにさ。なんなのさ。
どうも引っかかる。よくない感じがする。
そりゃ、今朝みたいな嬉しい影響は大歓迎だが。
女の勘と呼ばれるものを胸の中でくすぶらせながら、ミヤミヤは煙草を取り出した。
「………………………。」
地面に腰を下ろし、火を点ける。
最近吸ってなかったからか、肺にいれる1発目がキツイ。くらっとくる。
臭いが制服につかないよう、思いっきり離して煙草を持つ。
いつだってそう、ダンくんに頼れない類の悩みはこれで解消してきた。
先生に注意されたのに。
私って、なんだかんだ言って、意志が弱いなぁ。
まるで、簡単には止められない悪魔との契約のようだ。
心の平穏と引き換えに、それは身体を蝕んでゆく。
しかも、少しずつ、少しずつ……。
ガサッ。
校舎の角の茂みがざわめく。
反射的にミヤミヤは煙草を地面に押し付けようとした。
が。
茂みの奥から登場したのは――。
「ばうあう!!」
いぬだった。
なんだ、と、胸を撫で下ろすミヤミヤ。
そこへ――。
「おいおい、何で逃げるんだよ、お前は」
いぬを追いかけてひょっこり顔を出したのは、清村であった。
「…………!!」
あまりに唐突な出現に、固まるミヤミヤ。
清村はすぐにミヤミヤを視界に捉え、同じく固まる。
「…………ッッ!?」
しまった。煙草。
だがもう遅い。
見られてしまった。
なんという失態。
これで清村先輩から杉小路先輩に、杉小路先輩から部のみんなに、話は伝わる。
あああ。もう。
ミヤミヤは思い切って、尋ねてみた。
「……何かご用? 清村先輩」
ミヤミヤの背後では、黒い炎がメラメラと燃えている。
ひるんだら負けだ。堂々としているに限る。
弱みを握られ、それを利用されるのは、嫌だ。
半ば開き直り、清村の目の前で煙草を吸ってみせる。
大量の副流煙が、ミヤミヤの唇から吐き出される。
「…………。」
依然、清村は固まったまま、沈黙を守っている。
ちょっと。何か言ってよ。言ってみなさいよ。
ミヤミヤは煙草を吸いながらも、生唾をごくりと飲み干した。
すると――。
ぐぇほ!! ぐへっ!! ゲホッゲホッ!! ぐえぁ!!
清村は煙草の煙にむせ返り、涙を浮かべたまま無言で立ち去った。
「…………。」
呆気に取られて呆然とするミヤミヤ。
なんだったのだろう。
気がつけばいぬは何処かへいき、そこにはミヤミヤしか居なかった。
煙草は既に根元まで燃え尽きてフィルターだけになっていた。
まあいいや。とりあえず危機は去った。
吸殻を捨てると、ミヤミヤは立ち上がり大きく伸びをした。
一気に気が抜け、何に悩んでいたかも一瞬忘れた。
いい意味で、頭は真っ白。気分爽快とは言えないが、まあ、悪くはない。
「…………?」
ふと見ると、飴玉が落ちていた。
ピンクの紙で丁寧に包装された、いちご味。
清村先輩のかしら。
ぷ。くふふ。あっははははははは。
途端に面白くなってきた。
人は、見かけによらないものね。
さて、午後の授業が始まる。
洗い場で手を洗って、教室に戻ろう。
後は、どうやって清村先輩の口を封じようかしらねえ。
……TO BE CONTINUDE
あとがき
どうも、髭猫です。
恋のおまじないネタと煙草ネタ、如何でしたでしょう(笑)。
これはもう、クロスでSSを書くに当たって即座に思いついたネタです。
ええ。そりゃもう。ビビビと。
閃いて、脳内コルクボードの一番上に、ピンでぶすりと。
いてて。
それはそうと、The Fratellis(洋楽)の新作が来月らしいです。超楽しみ。
ライヴ行きたいなぁ。
次回。
もう1回ミヤミヤと清村で話を転がします。このコンビはけっこう面白いので。
読んで下さってありがとうございました。次回もまた読んで下されば幸いです。
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