50万HIT記念作品
スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION
IFストーリー
争いの英雄伝と古い鉄の巨人の戦い
蒼く澄み渡った空に響く二体の機動兵器による戦い。
一方は腰に一本の両刃の刀、背には赤い外套とまるで西洋の騎士、あるいは侍を思わせる洗練された独特のフォルム。身体は美しき海の青と宇宙の黒。
それは『争いの武勇伝』の名を持つもの。名はヴァイサーガ
一方は右手に不格好な杭打ち、肩は異様なまでに広がり、まるでそれ自体が一個の弾丸であるような鈍重で鋭いフォルム。身体は烈火の紅と無垢の白。
それは『古い鉄の巨人』の名を持つもの。名はアルトアイゼン・リーゼ。
「疾れ! 地斬疾空刀!!」
両刃の剣を居合いに構えたヴァイサーガから放たれた衝撃波が見えない空という大地を奔り、それと対峙しているアルトアイゼン・リーゼを斬り裂かんと 奔る。
だがアルトはそれを躱す行動は一切起こさずに真正面から殺意を受けきった。それどころか、衝撃によるブレを微塵も見せずに右腕に備わったあまりにも 無骨で巨大な杭打ちを振りかぶり
「この間合い、もらった!」
一気に貫いた。だが、貫いたのはヴァイサーガを護る赤い外套と腰の鎧だけ。致命傷と呼ぶにはあまりにも遠く、そして大きく踏み込んだが故に隙だらけ の格好を晒すことになる。
「愚かだな、ゲシュペンストMk-V!」
外套の後ろ、人で言えば背にあたる部分から飛び出す八つの刃。
「吼えろ! 紅蓮の牙!」
意志を持った八つの刃が縦横無尽に、剣の型の基礎となる八つの方向から猛る炎の刃となってアルトを蹂躙せんと奔る。
それと同時にヴァイサーガの両手甲に隠された三対六本のかぎ爪が現れ、見た目でわかるアルトの分厚い装甲を胴から薙ぐように引き裂く。
「水流爪牙!」
回避することなど絶対不可能の包囲網。恐らくこの世界に存在する機動兵器であれば大概がこれだけで片がつくだろう。
紅蓮の刃が、蒼い機体が、それぞれの色の軌跡を残す程の迅さでアルトに交差する。
もしこの場に観客がいればヴァイサーガが勝利を得た、そう思うだろう。
だがアルトが誇るは何も突進力に限ったことではない。相手へと突撃するが故に強固な堅もある。
炎の刃はアルトの装甲を蹂躙することなく、僅かな焦げを巨人の紅い肌につけただけで失墜し地面へと落ち、騎士のかぎ爪は巨人の装甲を僅かに――人間 で言えば皮一枚のみを裂かれただけに終わった。
致命傷はおろかかすり傷にもなっていない。
「アルトの装甲、その程度で破れると思うなよ!!」
巨人の操縦者が吠える。それに呼応するかのように巨人の碧の瞳が輝き、右腕の杭打ちとはまた異なったフォルムを見せる左腕――五つの銃口が揃って雄 叫びを上げ、騎士を滅ぼす鉛玉を吐き出した。
風の抵抗をまったく感じさせない無機質な弾が蒼い空を裂き、大地すらも震わせる破裂音が騎士の身体に木霊し、間違いなく騎士の身体に傷痕を植え付け る。
「取ったか!?」
どこかの機関が破損したのか、黒い煙を上げる騎士を見据えたまま巨人の操縦者が叫ぶ。
至近距離で受けたのだ、無事でいられるはずがない。けれど巨人が警戒を怠ることはなく、それが結果的に最善となった。
「!?」
目の前の光景に驚く巨人。
彼の目の前で煙を上げていたはずの騎士の姿が陽炎の如く揺らめき、さっきまでいた空間からいなくなっていたのだ。
慌てながらも冷静な頭で周囲を索敵する巨人。だが周囲に敵と思われる反応は一切見当たらず、それでも巨人は周囲を探ることを止めようとはしない。
彼は知っているのだ。騎士の操縦者がこの程度でやられるような男ではないことを、そして何らかの策をもっていることも。
「どこに行った、アクセル・アルマー……!」
巨人が呼ぶ騎士の操縦者の名。それが聞こえたかどうか定かではないが、巨人の碧の瞳がほんの一瞬だけ蒼い騎士の姿を捉えた。
それはただの勘だった。けれど長年の戦闘経験によって培われた直感が働き、背部スラスターから脚部スラスターに至る全てを稼働させて右に飛び退い た。
直後、一陣の風が吹いた。
それはまるで鏡を見ているかのように鮮やかな切断面。時が止まったかのように大地に落ちたまま反応を示さない、五つの銃口を持つ紅い左腕。
「――風刃閃……よく躱したゲシュペントMk-V。いや、キョウスケ・ナンブ!」
声に反応してようやく落ちた腕が、鏡面の如き切断面が青白いスパークが迸る。
風の正体はヴァイサーガ。手にしているは一度しか抜いていない両刃の剣。蒼く美しかった身体の所々が傷ついている。
あの時、アルトの五連装チェーンガンが当たると同時にヴァイサーガは己の持つ最高の速さで離脱、巨人の操縦者――キョウスケが見たのはその時に起き た残像。
これがヴァイサーガの性能。特機とは思えない速さを持つが故の技能。
そしてヴァイサーガはその速さを活かし、アルトの索敵限界範囲スレスレから一気に近づいて――斬ったのだ。
すなわち高速移動からの居合い斬り。それが風刃閃。ヴァイサーガだからこそ出来る芸当であり、鍛え抜かれた身体を持つアクセルだから可能とする業。
「まさかこの程度で終わりではないだろうな! ゲシュペンストMk-V!!」
この程度で終わるなどアクセル自身、微塵も露程も思っていない。仮に腕が一本失われた程度で決着がつくような相手ならば、ここまで二人が争うような ことはない。
その証拠にアルトの機械的であるはずの瞳には、さらに強い意志の光が感じ取れる。
まだまだ終わらない。そう語っているように。
「頼むぞ、アルト! まだ左腕一本が逝っただけだ!!」
キョウスケが吼え、巨人の身体が躍動する。
「そうだ、それでこそだゲシュペンストMk-V!」
同時にアクセルが喜び、自らも騎士を躍動させる。
再度訪れる紅と蒼の邂逅。
アッパー気味に振り上げられるアルトの右腕。アルトが誇る武器の中でキョウスケがもっとも使い慣れ、そして信頼を置く杭打ちを振るう。
何度躱されようとも、まるでそれしか出来ぬと言わんばかりに何度でも何度でも繰り返す。
「どんな敵であろうと、打ち貫くのみ!」
キョウスケの裂帛の気合と共に打ち出される杭打ち。
「ふざけるな!」
同時にヴァイサーガの腕が動く。
それは本当に特機同士の戦いなのだろうか?
杭打ちを叩きつけようとしたアルトの手を掴み、それが届く前に止めてしまうヴァイサーガ。
「俺を――」
幾分の嘲笑と怒気を混ぜたアクセルの咆哮。その多くに含まれているのは、彼の言うように失望。
長い時間を、アクセルはこの巨人との戦いに費やしている。時には思いもよらぬ奇策で翻弄され、あるいはその爆発的な突進力で策すらも弾き飛ばされた こともあった。
だが今のキョウスケはそんなことがあったとは微塵も思わせない、あまりにも不恰好で児戯と言われても仕方がない程拙い。
「失望させるな!」
その怒りを叩きつけるように右腕を振り上げ、アルトの装甲を引き裂いたかぎ爪を引き出す。
装甲を裂けなかったさっきとは違う、爪そのものが熱を帯びているかのように赤くなっている。
これが水流爪牙の本当の姿。いかに強固で頑強な鎧も紙屑のように引き裂いてしまう、本当の姿。
「これで終わりだ、ゲシュペンストMk-V!!」
灼熱の爪が一筋の紅の軌跡を描いてアルトのコックピット――キョウスケを収めている装甲へと迫る。
左腕を失ったアルトには回避不可能の位置。右腕を掴まれているアルトには回避不可能の距離。
アクセルが勝利を確信し、後数mでかぎ爪が装甲に届くほんの僅かな時間にソレは聞こえた。
「この勝負、俺の勝ちだ」
絶望、恐怖、悲嘆、そんなものはまったく感じない声。そしてアクセルは悟った、自分はキョウスケとの賭けに負けたのだと。
続いて訪れるコックピット全体を揺るがす激しい衝撃。重傷を負ったことを示す警告音がアクセルの耳に入ってくる。
それでもさすがは軍人、何が起こったのかを素早く確認する。
「右腕全壊、両脚部半壊寸前、各装甲50%弱が融解、スラスター出力30%低下、やってくれる」
かろうじて空に浮いているヴァイサーガ。そのコックピットの中で予想以上に酷いダメージに軽く舌打ちし、こうなる原因を作った者を睨みつける。
一方、大地に叩きつけられたアルトアイゼン・リーゼ。それを立ち上がらせたキョウスケも同じように各部の損傷をチェックし溜息をついた。
「メインカメラ欠損、左半分が使い物にならない、おまけにスラスターの大部分もいかれたか。
だが、分の悪い賭けであった分報酬は大きかったな」
ゆっくりと降りてきているのか、それとも降りざるを得ないのかわからないヴァイサーガを正面から睨むキョウスケ。
キョウスケが行った賭け、それはリボルビング・バンカーの補充に使う弾丸をそのまま使うという半ば自爆に近いことをしたのだった。
あの時、キョウスケはコックピットに迫るかぎ爪が回避不可能だと悟ると、自ら突進してヴァイサーガの右腕をプラズマホーンで斬り落とした。
無論、その程度で退くわけのないヴァイサーガにアルトの胸部装甲も大半が持っていかれたが、それ以上に掴まれていた右腕が自由になったメリットの方 が大きく、動けるようになった瞬間にリボルビング・バンカーがヴァイサーガの胴部を――――貫いた。
一発、二発、三発、四発、五発、六発。
全てを打ち込まれ、元より機動力のために装甲を犠牲にしたヴァイサーガのそれをあっけなく貫いた。
だが、アルトの攻撃はそれだけには留まらなかった。
後ろ腰に備え付けた杭打ち補充用のシリンダー、それを巨人と騎士の間の空間に射出。
そして、自らの頭を使ってヴァイサーガへと打ち付けたのだ。
そう頭をバンカーの撃鉄として見立てたのである。
ドオオオォォォォォォォンンン!!
一瞬の間を置いて響く爆音、目が眩む程の閃光、盛大に巻き起こる砂煙。
膨大な熱量が周囲一帯を包み込んでいく。
やがてその熱量が力を失っていき、融解させられた大地が姿を現した時に二体の特機は地面の上で睨みあっていた。
それが今の状況であった。
「……まさかここまでやられるとは、な。さすが地球連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズ隊長、キョウスケ・ナンブ」
「それはこちらとて同じことだ。地球連邦軍特務部隊シャドウミラー隊長、アクセル・アルマー」
よく見ればアルトのコックピットの少し上がへこんでいる。
「爆発までの僅かな時間にアルトを蹴って、被害をぎりぎりまで押さえられるとは思わなかった」
爆発する瞬間、アクセルはほとんど条件反射のようにヴァイサーガを動かしてアルトを思い切り蹴った。
その反動でヴァイサーガを捉えていた杭打ちが抜け、騎士の機動力を限界まで使って爆心地から逃れたのだ。
でなければアルトより遥かに装甲の薄いヴァイサーガが生き長らえていられるわけがない。
「く」
「ふ」
「くっくくくく……あーっはっはっはっはっはっは!!」
「ふふ、ははははは!!」
唐突に、本当に唐突に笑い出した。それもまったく同じタイミングで。
気でも触れたのだろうか、他の第三者がいればそう思ってしまうだろうが彼らに限ってそんなことはない。
彼は純粋に嬉しいのだ。実力伯仲の相手と鎬を削りあってより高みへと近づけることが。
それに彼らは似たもの同士。それ故に惹かれあいながらも反発しあう。
「このまま一旦戻って再びお前と戦り合うのもいいが、ここらで決着をつけようか。ゲシュペンストMk-V……いやアルトアイゼン・リーゼ!!」
「それはこちらも願ったり叶ったりだ。これが最後の賭け……賭け金は高くつくぞヴァイサーガ!!」
どちらも既に満身創痍で動けるのはたったの一回だけ。
だがその一回でも彼らには十分過ぎる。
動かなくなった右腕を斬り捨て、左腕一本のみで両刃の剣を居合いの型で構えるヴァイサーガ。
スタートダッシュする体勢で、生き残っていた脚部スラスターに全エネルギーを送るアルトアイゼン・リーゼ。
「―――――――――――――奥義」
「これが―――――――――――――」
「―――――――――――――光刃閃」
「俺のジョーカーだ―――――――――――――」
それは極めて近く、けれど限りなく遠い世界での出来事。
どちらも優秀な指揮官であり、最強と称される戦士。
それ故にぶつかりあい、それ故に互いを理解しあった。
古い巨人を駆る気高き孤狼と争いの英雄伝を駆る誇り高き孤虎。
今もまた、彼らはどこかで戦っているのかもしれない。
あとがき〜
ども、火炎煉獄でございます。
即興で書き上げた50万HIT記念作品、かンなり遅れましたが、いかがだったでしょうか?
kろえ書いて思ったのは人間同士のバトルシーンはともかく、ロボット同士のバトルシーンは難しいです。いや、表現が特にね。
何せ、人間くさい動きをしても人間ではありませんから。
私、火炎煉獄はアクセル隊長好きです。OG2のシリアスなキャラもいいんですが、Aのドラグナーチームとの漫才はいまだに忘れてませんw
でもまあ、バトルなんでアクセル隊長はシリアスなまま、と。
それと性格もちょいっと変更。ゲシュペンストMk-Vことアルトをあまり憎んでいない、どっちかって言うと好敵手と思ってます。
多分、あの二人も出会い方が違えばきっとこうなってたかな〜と脳内妄想の結果の産物です。
ちなみにヴァイサーガは英語だと『Vie Saga』で『競い合う者達の物語』と読むんだとか。
私の独断と偏見で変えましたけど(爆)
またドイツ語を習ってる知り合いに聞いたところ、『Weis sager』(ヴァイスサーガー)ってのが一番近く、予言者や占い師という意味を持つそうです。
それでは、シルフェニアの更なる発展を祈りつつ、ここらでさようなら。