実際にこのようなカップリングになるかどうかはまったくの未知数。加えて良い終わり方になるかどうかも決まってません。
あくまで短編!! あくまでifの世界!! そのことを了承してくださってからお読みください。
ついでにネタバレも激しくいっぱいありますので。
Summon Night
-The Tutelary of Darkness-
IFカップリング
パターン1 ファリエル
ここはかつて名も無き島と呼ばれた場所。そこでは過去と今、二度に渡って大きな戦いがあった。
過去では島の召喚獣達と無色の派閥との争い。一人の青年が自らが犠牲となることでその戦いに終止符は打たれた。
今では過去の亡霊と今を生きようとする者達の戦い。過去以上に悲惨で大きな悲しみを生んだその戦いは、島の住人達と外から喚ばれた者達が見事に過去 の亡霊を打ち破った。
始めの内は皆、戦いの傷を癒さなければならないほど疲弊していた。
だがその傷跡も癒え、今では島の復旧に向けて皆が力を合わせて頑張っていた。
「もうそろそろ復旧も終わりですね」
ファリエルが島を一望出来る高台に上って、島全体を見渡しながら感慨深く言う。
まだ森の一部が禿げているところもあるが、島そのものはもう大丈夫。所々で元気に駆け回る子供達の声も聞こえてくる。
「あれだけの戦いが嘘みたいですよ。そう思いませんか?」
後ろを振り返る少女の視界に入ってくる一人の青年。少し髪が伸びたらしく、ボサボサだった茶髪が後ろで綺麗に纏められ、手には目の調子が悪い人が持 つ杖。
服装そのものはこの島に喚ばれた時と変わらない漆黒。けれどその顔に浮かんでいるのはとても澄み切った穏やかな笑み。
彼は彼女にとってもっとも大切な人。過去の亡霊『ディエルゴ』との戦いを一緒に乗り越えた仲間の一人だった人。
けれど今は違う。彼は少女にとっても一番大切で、何者にも変えることの出来ない人になっていた。
「いや、嘘じゃないさ。今でもハイネルと最後に交わした言葉は覚えている」
青く澄み渡る空を眺め、彼は過去に島の者達のために“核識”となる道を選んだ親友の言葉を口にする。
「『君はもう十分許されることをしたんだ。だから、いつまでも自分を責めるような真似はしないでくれ。
それにありがとう。アルディラやファリエルのこと、きちんと見守ってくれて。これからは君自身が幸せになってくれ。
君の横に立つファリエルと一緒にね』」
人としての器は失くしてもその心は変わらないハイネルが言ったその言葉は、アティ達と過ごした時によって氷解しかかっていたアキトの心を完全に氷解 させた。
ハイネルとは違った意味で人としての器を失いつつあった体、無色の派閥との戦いの中で修羅となった心、容赦なく屠った者達の血で汚れきった両手。
他のために常に嫌われ役を演じ続け、道化となった自分を指差して、
「こんな俺でもいいのか? ファリエル」
アキトはファリエルに問うた。ここで拒絶されようとアキトは何も思わない。否、思ってもそれを完全に封じ込めるだろう、再び氷結した心の中に。
けれどファリエルの出した答え、それは肯定だった。
「私が愛するのはたった一人です。『テンカワ・アキト』という人を愛します、いつまでも、これからも」
顔を真っ赤にしながらもそう言ったファリエルをアキトは二度と離さないようにきつく、けれど壊れないように優しく抱きしめた。
あの時の想いは二度としたくない、力足らずに目の前で奪われるのはもういやだ、そんな想いが溢れ出る。
この島に喚ばれて初めて見せる涙。それは歓喜か、あるいは悔恨だったのか、それはファリエルにすらわからない。
ただ、彼女は黙って彼を受け入れた。周囲の祝福と羨望の視線を感じながらも。
最終決戦の終結を祝うはずの宴会は、新しく島に出来た一組の恋人達を祝う場へと早変わりしたのは言うまでもないだろう。
「……それにしてもあれから二十年以上が過ぎたのか」
「はい。この島じゃ外より時の流れが遅いですけどそれぐらいは」
「俺達が出会ってからそれだけ過ぎたということか。……あの時は色々とあったな」
アキトは目を閉じて思い出す。彼の傍らに立って腕を組むファリエルとの出会いを。
彼らの出会いは本当に偶然だった。自らの死を大切な人達に曝さないために次元を越えようとしたアキトは、彼女の兄が召喚しようとする力に引き寄せら れて異世界へと現れた。
それは天文学的な確率を遥かに超える、あまりに数奇な出会いだった。
「あの頃の俺は生きていることが罪に思っていたんだっけ」
「自分のことを亡霊だ、なんて言ってましたしね。それに今では慣れたけどその格好……変態!? なんて思ってしまって」
多少はましになったとはいえアキトの服装は今でも大概が黒なのだ。それを見ては変態だと言われても仕方ないことはアキト自身よーく知っている。とい うよりも初めて会う人全部にそんな目で見られては否応なく気付いてしまう。
「それに貴方は強かった。誰よりも」
「それでも守りきれなかったんだ。あいつを」
悲しげに俯く二人。彼らが言っているのはこの島を守るために核識”となったハイネル・コープスのこと。
ハイネルが核識となったその時からしばらくの間、ファリエルはいつもアキトに当たっていた。
どうして助けてくれなかったのか、どうして見殺しにしたのかと。
「守るって約束したはずだったからな、それを責められても仕方なかったんだ」
「いいえ。私だって本当はただの八つ当たりなんだってことはわかっていたんです。でも誰かに当たっていないと私が壊れそうで……それを黙って受け止 めてくれた貴方がいたから、今の私がいるんです」
頬を朱に染めてファリエルはアキトに寄り掛かり、アキトはファリエルの肩を抱き留めるように引き寄せる。
何者には邪魔されることはなく、誰の視線も気にすることのない二人だけの世界。
他人から見れば思わず赤面してしまうような、絶対に他人に侵入されることのない絶対領域。
人それ、ラブラブ空間という。
「それからの貴方は人との関わりを全て絶って狭間の領域の奥深くへと行ってしまって……本当は辛かったんですよ? もっと貴方のことを知りたいと 思っていた矢先のことでしたから」
「それはすまなかった。守れなかったことに対する後悔と自責が強すぎたこともあったんだよ」
「もういいんです。今はこうやって貴方のことを誰よりも知ることが出来ますから」
ファリエルは軽く足を右側へと流すような体勢で座り、さあどうぞと自分のふとももをぽんぽんと叩く。
それは頭を乗せろという二人だけに共通する合図。
始めこそ抵抗はしたものの、涙目で下から見上げて
「私のこと、嫌いなったんですか?」
と泣きそうな声で言われてはさすがのアキトもお手上げだった。
それにアキトは草の生い茂る原っぱに寝転がり、頭はファリエルの膝の上においてゆっくりと眠ることが今では何よりも好きなのだ。
見上げる空は映ることはない果てしなき蒼、肌を撫でる風は感じることのない穏やかな緑、耳に届くのは聞こえることのない小鳥のさえずり。
あの戦いが終わってしばらくしてから、アキトは自身の体といっても差し支えのなかったバイザーを捨てた。
過去に対する決別、命を賭して救った人との決別、新しき道を進む覚悟、そして――新しい家族をいつまでも守る覚悟。そう誓いを立てるために。
バイザーを捨てたアキトが何かを見たり聞いたりすることは出来ない。
だがアルディラが作った骨伝導によって音を通達する、一種の補聴器によって音が伝わるようになった。
そして目の代わりとなったのが、
「……あら? 寝てしまったんですね」
ファリエル・コープス。長く昔を振り返りすぎたのか、いつの間にか彼女の膝元で眠るアキトの伸びた髪を優しく撫でる。
初めはあまり馴染まなかった、ほぼ完全に機械と融合してしまった硬質の髪も、今ではいつも手入れしている自分の髪と変わらないほど手に馴染んでい る。
戦っている時ほどではなくともアキトの体は、ゆっくりとナノマシンによって蝕まれていた。
アルディラやクノンの見立てではもって後五年。最悪、明日にでもテンカワ・アキトという人間はいなくなってしまうかもしれない。
でもファリエルにはその事に対する恐怖は微塵もない。
既に彼が生きた証は立った。そして――
「パパ〜ママ〜」
「お父さ〜ん、お母さ〜ん」
とてとてと二人に駆け寄ってくり、ファリエルに抱きつく二人の子供。
一人はファリエルと同じ銀色の髪を肩口で揃え、海を思わせる鮮やかで利発そうな瞳。
体を動かすことが大好きなのかあちこちに見える擦り傷、服装も要所だけを隠す実に簡潔なもの。
一人はアキトと同じ少し黒みがかった茶髪を三つ編みにして、慈母のように穏やかな黒い瞳。
少し大きめなメガネが勉強好きであることを示し、服装は全身をすっぽりと覆ってしまうどこか神父調の服。
「どうしたんです? キリエ、キール」
この二人こそがアキトとファリエルの愛の証、テンカワ・キリエとテンカワ・キール。
活発そうなのがキリエ、ちなみに女の子。理知的なのがキール、ちなみに男の子。
「あのね、アルディラのおばちゃんがパパの定期検診の時間だから早く来いって」
「ちょ、キリエ! おばちゃんはよくないよ。アルディラさんはまだまだ若いんだからお姉さんだって」
「え〜だってボクから見たらおばちゃんじゃん」
「それはそうだけど……でもおばちゃんはだめ」
「ぶ〜〜」
実はこの二人、二卵性の双子であるためどっちが上でどっちが下なのか区別がない。
なのでしっかりとしているキールが兄に見えてしまうのだ。もっとも二人はまったく気にしてないが。
キールに口で負かされるのはいつものことなので、キリエはすぐに何かなにかと周りを見渡す。
「んに? パパってば寝ちゃってるの?」
「そうですよ。だから二人とも静かに、ね?」
「「はーい」」
ファリエルに言われ小声で答える二人の頭をいい子いい子と撫でるファリエル。誰がどう見ても立派な母親の姿である。
二人は気持ちよさそうに目を細め、キリエはアキトのお腹の上に寝転がり、キールはファリエルのすぐ横に座る。
そこは一枚の絵画に収まってもおかしくない穏やかな光景。題は『平和な家族』といったところか。
「うにゅ〜パパァ〜〜」
暖かな日差しを浴びてるうちにキリエはいつの間にか寝てしまい、
「ふぅあ〜〜、僕も寝ます。お休みなさい、お母さん」
「お休み、キール」
それにつられるようにキールも体をファリエルに預けて寝てしまった。
どちらもまだまだ幼い子供、こんな陽気な日差しの下では眠ってしまうのも無理はない。
「……寝たみたいだな」
「起きてたんですか?」
ついさっきと笑ってアキトはキリエを起こさないよう、細心の注意を払いながら体を起こす。
少し身じろぎして、キリエは起き上がったアキトの膝を枕にして気持ちよさげに惰眠を貪る。
「二人とも大きくなったよな」
「ええ。もう十歳になりましたからね」
「そっか、十歳か……本当に早いもんだ」
自分の膝元で眠る姿を見る限り、とても十歳とは思えないほどキリエの容姿は幼い。双子のキールと比べてみるとその差は顕著である。
これは島の時間の流れが外の世界と違うことにも起因するが、アキトの体と一体化しているナノマシンの影響もかなり受けている。
新陳代謝にかかる栄養を抑えながらも効率は上昇させる、そんな特殊なナノマシンとなってキリエの体にそれは存在する。
またキールの方にも少なからず影響はある。
彼の場合は霊界と機界との相性が最高に良い。本来、人の相性が良いのは一つの世界だけだがこのように稀に二つの世界と相性が良いものいる。
だがキールの場合は少し異なり、霊界と機界の召喚獣ならサモナイト石無しで召喚することが出来る。
境界線『クリプス』と繋がったアキトの子だから成せる業なのだ。
「後悔、してるんですか?」
「いやそんなことはもうしない。この子達が生まれたのは運命、何より俺とファリエルの子供だ。
自分の子供を否定するような馬鹿な親はいない」
アキトの瞳に迷いはない。後悔はもう十分に済ませ、後は未来という希望を後世に残すことが彼の生涯の意味となる。
The pince of Darknessはとうの昔に死んだ。今は霊界サプレス・狭間の領域の長。
そして、愛すべき家族を共に支えあう一家の大黒柱。
「パパ〜ママ〜ボクねぇ妹がほしいよぉ〜」
唐突に、何の脈絡もなくキリエが寝言でそんなことを言った。
互いの顔を見合わせて、同時にファリエルは顔を真っ赤に、アキトは顔中にナノマシンの軌跡を浮かび上がらせる。
子供まで作っておきながらこの二人、この手の話題には未だ抗体がついていないのだ!!
「…………ど、どうする!?」
「どうすると言っても……作りましょうか?」
「いい!?」
「だ、だって……その……さ、最近ご無沙汰だから……それに私も子供 はもう一人欲しいなぁって……」(/// ///)
素っ頓狂な声を上げて固まるアキトと、恥ずかしそうに指を絡めるファリエル。
見ている方がこっ恥ずかしくなるような光景。事実、実はしっかりと起きている子供二人はやれやれといった感じで成り行きを見守っているのだった。
「そ、それじゃあ……今晩から頑張るか」
「え、あ…はい。よろしくお願いします」
とても初々しい純情カップルよろしく、互いに頭を下げあう二人。
二人の子供達はやったね! と心の中で喜び合っていた。寝たふりをしたり寝言を言ったりしたのは二人の策略だったのは言うまでもなく。
そしてその晩、島の一角に設けられた家からはお子様厳禁の事が起こっていたといないとか。
繋がれた手は永遠の絆。重なる心は永遠の絆。
二人の道が別たれることはない。二人の道が離れることはない。
これは長い戦いを終えた二人の物語の幕引き。戦いという舞台から降り、平穏という舞台裏に移った二人の――
兄さん、今とても幸せです。
こうやってずっと愛する人と一緒に過ごせるようになったのも、兄さんの言葉があったから。
だから兄さん、見守っていてください。私とアキトさん、キリエとキールを。いつまでも……
以上、ファリエル・コープス改め、テンカワ・ファリエルの日記より抜粋。
あとがき〜
と、いうことでファリエルと結ばれ二児の父となったアキト君でした。
初めて恋愛物――と呼べるか激しく不安ですが――を書いたのですがこれが難しいのなんのって……つくづく自分には合わないなぁと実感しました。
恋愛ものを書ける作家さんの偉大さをひしひしと感じますよ。
今回だけのオリキャラで二人の愛の結晶、テンカワ・キリエとテンカワ・キール。名前はアキトとファリエルからもじっただけと超簡単。
イメージとしてはキリエがサモンナイト2のモーリン。キールがサモンナイト3のウィル。服装もそれと似たようなもんだし(爆)
短編つーか、かんなり短い駄作ではありましたが最後まで読んでいただいてありがとうございます。
本編進めつつ次はサレナあたりでいこうと思ってますので、いずれまたその時に〜〜