実際にこのようなカップリングになるかどうかはまったくの未知数。加えて良い終わり方になるかどうかも決まってません。
あくまで短編!! あくまでifの世界!! そのことを了承してくださってからお読みください。
ついでにネタバレも激しくいっぱいありますので。
Summon Night
-The Tutelary of Darkness-
IFカップリング
パターン2 サレナ
私が初めてマスターを見たのはまだユーチャリスの中にいた頃。
あの頃の私はまだ感情もなく初めから教えられた知識しかなかったただのAI、言うなれば生まれたての子供でしょうか?
そのため、私はマスターを見ていても何ら感慨が沸くこともなく、ただ命じられたことだけを行っていました。
その私がここまで人間の感情に近いものを持てたのは、私を育ててくれたラピスのおかげです。
ラピス・ラズリ
マスターの復讐の道具として生きたIFS強化体質の人間。私がそうなる前までマスターの五感をサポートしていた人。
そして――私と同様にあの方を慕う人の一人。
ラピスが私に教えてくれたことはたくさんありました。戦い方、作戦の立て方、ハッキングの仕方……こうしてるとほとんど戦闘に関するものばかりで す。
でもそのおかげで島では苦労しませんでしたけど。
あ、その島というのが私とマスターの運命を大きく狂わせ……というは変ですよね……変えてくれたところです。
思えばあれもまた遺跡によって予定されていたことだったのでしょうか……今では気にしていませんけど。
あ、話がそれましたね。宿縁の仇敵であった北辰を倒し、ユリカさんを助け出してからは火星の後継者の残党狩りを始めました。
それは自分の死に場所を求めているようで、けれども救ってほしいと叫んでいるようで……
この時からですね。マスターがラピスとのリンクを切り、彼女の代わりに私がマスターの五感をサポートし始めたのは。
その時になって私はマスターの心を知りました。
後悔、慟哭、悲哀、憐憫、侮蔑、恐怖、言葉では言い切れないほどの昏い負の感情が渦巻いていたのです。
それも、その全てが他人ではなく自分を責めるもの。
まだ機械でしかなかった私ですらそれがどれだけ辛いことなのか理解出来るほど……
火星の後継者を殺していく中で、マスターは変わっていきました。
何と言えばいいのでしょうか……蝋燭の炎が最後に消える瞬間の一際輝くような、儚くて脆くて、誰かが守っていないと今にも消えてしまいそうで……だ から私はマスターの全てとなると誓いました。
とはいえ私に出来ることといえば戦闘補助、五感のサポートぐらい。
自分の体でマスターに直接触れたり、自分の声で喋ってマスターと会話したり、そういった"人間”であるなら当たり前の事が出来なくて……この時ほど 自分が機械であることを恨めしく思ったことはありません。
ですからこの世界に喚ばれ、自分の体や声を持てた時の感動といったら……いけません、思い出したらまた涙が。あ、涙といっても歓喜ですよ?
どういうわけか私に与えられた肉体というが女性の誰もが羨むようなものでして、これだけなら私も素直に喜ぶことが出来たでしょう。
融機人として肉体を得た私の目鼻立ち、少々の差異はありますが間違いなくマスターが唯一愛していた人の姿そのもの。
――激しい罪悪感が私を襲いました。
髪の色や瞳の色こそ遥かにかけ離れていますが、死という絶対的な別れを告げたはずの人と似たような人が――もっとも私は人ではありませんが――いる というのは非常に心苦しいものです。
事実、初めて私を見たマスターの心にはそういった負の感情が、天地を覆いつくす大蛇のごとく渦巻いていました。
だというのに私はマスターに会えた嬉しさで心が一杯になってしまい、抱きつき、胸の中で涙を流してしまいました。
私は……この時、初めて自分自身で覚えた感情を吐露したのです。
また会えてよかったと。マスターの心にある感情のことを考えずに。
それからの私は文字通りマスターの右腕として、無色の派閥から島に住む人たちを守るために、それ以上にこれ以上マスターの手を血で染めさせないため に一緒に戦いました。
けれど、この世界でもマスターは自らの心を痛める出来事があったのです。
ハイネル・コープスさんの死。人としての意思を失い、人の肉体も失ってまでも島にすむ人たちを守るために彼は『核識』という存在になったのです。
その力はまさに圧倒的。無色の派閥もこれならば去るだろうと思っていたのですが……彼らの執念、とでも言うべきでしょう。彼らはハイネルさんの力と 心を分断させたのです。
もちろん、これを見逃してあげるわけにはいきません。島にいた人たちの中で唯一戦えることの出来たマスターがハイネルさんを守るために、私はこれ以 上の新手を増やさせないために、死力を尽くして戦いました。
結果は皆さんの知ってる通り、限界を超えた肉体の酷使によるナノマシンの強制修復でマスターは動けず、目の前でハイネルさんは二つに分たれたので す。
マスターは自分を責めていました。本当は違うのに全てが自分の責任であるかのように。
それからのマスターは人との接触を極端に避け、狭間の領域のはるか奥深くにたった一人でこもってしまいました。
食事に関しては私やファリエルが届けているからまだ大丈夫だったのですが……それでも口にするのは最小限、火星の後継者を狩っていた頃のように死に 急いでいるようでした。
そんなマスターが変わったのがあの人たちが来てからです。
思えばあれもまた一つの運命なのでしょう。いえ、運命などはありません。暴走する自分を救ってくれと頼んだハイネルさんの意思、必然的なものだった のでしょうね。
あの人たちが来てからのマスターは、少しずつですが笑うようになりました。The prince of darknessと恐れられた人の笑みでなく、テンカワ・アキトという青年の笑み。
私は嬉しかった。マスターが笑ってくれたことが、閉じていた心を開いてくれたことが。
でも一抹の寂しさと悔しさもありました。私ではマスターの心を開かせなかったことが、私ではない違う誰かに笑うマスターを見るしか出来ないことが。
けれど私は自分に、私はマスターが幸せならそれでいい、マスターが笑ってくれるならそれでいい。そう言い聞かせていたんです。いつまでも。
そんな私の心につけこんだのがディエルゴ。
――お前はそれでいいのか、何故自分から行動をしない、本当に好いているのであれば……奪い取ってみせろ!!――
と言われたんですよ。
その時の私ったら思考能力が極端に低下していたのでしょうか、それとも感情というものを知ったせいなのでしょうか、あっさりとのせられてしまって。
それでディエルゴに操られてマスターやみんなと戦ってしまったのですよね。うう……今思い出しても恥ずかしい。
もちろん、今こうして話していますからディエルゴの呪縛から逃れることは出来ました。
え? どうやってディエルゴから逃れることが出来たのか……ですか?
そ、それは……その……ええっと……実は……ですね……や、やっぱりやめておきます! 思い出は思い出、きちんと私の中にメモリーされているからい いんです!!
ど、どうしも聞きたいというのですか!? ……なら教えます。いいですか!? 絶対に他言しないでください!!
ま、まずは深呼吸……すぅーはーすぅーはー……よし。それではお話します。
あの時の私は意識がはっきりとしているのに体が言う事を聞かず、ディエルゴに操られるがままなのは言いましたよね? 私が相手なのでみんなは戦うこ とも出来ず、ひたすら耐えているだけでした。
そんな中でもマスターだけは違ったのです。私の攻撃を避けながら間合いを詰めて、アルヴァの切っ先を真っ直ぐ私に向けていました。
戦いながらも冷静な部分のあった私は、マスターなら私を止めてくれる。このまま大切な人たちを殺してしまうぐらいなら殺された方がいい。その相手が マスターであるならもっと……そういった思いで自分の胸に吸い込まれるように突き出されたアルヴァを見ていました。
でも私が待ち望んでいたものは一向に来ませんでした。代わりに来たのは見た目からは想像出来ないほど力強くて、どこか安心させられる人の胸へと抱き かかえられていました。
「すまなかったなサレナ。お前のこと、少しはわかっていたはずなのに。いや、わかっていたつもりになっていたんだ。
お前がいればそれだけでよかった。他の誰でもない、お前だけがずっと俺の傍にいてくれた。だから俺は狂わなかったんだ。
いつしかそれが当たり前になって、お前のことを考えずに俺はいつしかお前を傷つけてしまった。すまない」
その言葉はどんなものよりも嬉しかったです。私を見てくれていないと思っていたマスターが、誰よりも私を見ていてくれたと知ることが出来たのですか ら。
「マ、ス、タ」
コロセコロセと、頭の中に響くディエルゴの声に必死に抵抗している私を、マスターはさらにきつく抱き寄せてくれました。
嬉しくて上を私は見ました。マスターは私よりも頭一つ分大きいため、自然と私が見上げる形になります。
そこにはバイザーをはずして泣きそうな顔をしているマスターの顔。
私の心に直接届く感情。何も――私は言えません。
「サレナ。俺にはお前が必要なんだ。だから」
その時、私は何をされたのか理解するのに少し――いえ、かなり時間がかかりました。
視界一杯に広がるマスターの顔。唇に感じる確かな感触。少し赤ら顔のマスター。
「もう……大切な人を失いたくはないんだ」
ようやく私は自分が何をされたのか気づきました。マスターが私にキ……………………キスをしてくれた んです。
呆然とマスターを見つめてると、マスターも顔を赤くしていました。あとでみんなからからかわれたりと大変でしたけど、それでも私はマスターの下に 帰ってこれて本当に嬉しかったです。
と、ともかく! ディエルゴの束縛から逃れた私はラトリクスには戻らず、サプレスへと行きました。理由は言うまでもないですよね?
もう迷わなくなった私。マスターの横で一緒にハイネルさんと別れの挨拶を済ました後も島に残っています。
アリーゼちゃんやベルフラウちゃん、アティさんからは一緒に帝都に来ないかと誘われても、カイルさんたちから一緒に海賊稼業をやらないかと誘われて も、私は丁寧に断って島に残りました。
別れ際に『お幸せに』と言われた時は柄にも無く真っ赤になっていたこと、今でも忘れません。
「……本当に色々とありました」
今、私がいるのは鬼妖界シルターンの集落、風雷の郷の一角に設けられた小さな小屋。
マスターが霊界の護人に前に住んでいたあの小屋です。人二人が暮らすにはちょうどいい大きさの小屋です。
何の気なしに私は横を振り返り、まだ寝ているあの人の寝顔を堪能させてもらいました。少々、大きめの布団でも人が二人も入ればちょっと小さく感じま す。
でも私は好きです。すぐ近くにマスターの体を、暖かさを、息づかいを感じることが出来るのですから。
「ん……早いな」
「あ、おはようございますマスター」
「おはようサレナ」
笑顔で私に挨拶を返してくれるマスター。
あれだけ恋い焦がれていたマスターの笑顔。
例え他の人に向けられてもいい。今は私のためだけにある世界にたった一つだけの、私の一番大切な宝物。
だから私も笑顔を返す。お互いが一番大切だという証も含めて、お互いを身近に感じられるこの瞬間、今この時のためを大事にするように。
好きです。大好きです。マイ・マスター、テンカワ・アキト。
融機人である私はマスターの子供を産むことは出来ません。けれど私はいつまでも貴方のお傍に……
あとがき〜
はい、というわけでカップリングシリーズ第二弾をお送りしましたが、どうでしたでしょうか?
今回は初の一人称。いやこれがなかなかどうして難しい。
これを毎回やっておられる黒い鳩さんには敬服いたします。
それに今回は激短。ちょっと女の子しているサレナに自分で悶えてたり(爆)
次回はついに登場! サモンナイト3の正統(たぶん)ヒロイン(ですよね?)アティ先生で す!!