物怪草子

巻ノ弐

Presented by INAZUMA



 翌朝、ホテルの一室とおぼしき部屋の椅子に座っている東条秀行は極力冷静さを維持しながら自分の愛銃を―但し昨夜持っていたライフルではなく拳銃―の整備にいそしんでいた。が、彼にしては珍しく銃を掃除する手元がどこか乱暴だったりと、 普段の彼にしては珍しい行動が多いので本当はかなり精神的に動揺しているようだ。

「ん、総一か」

 突然、バタンと音がして部屋のドアが荒々しく開かれたかと東条が思うと、ゴン、と何か固いもの同士がぶつかる音がして東条はにやりと笑いながらそう言った。続いて2メートル近い身長 で和服姿の男性が部屋の中に入ってくる。その額がうっすらと赤くなっているので先ほどの音はおそらく彼が額をぶつけた音なのだろう。

「……」

 総一、と呼ばれた片手に日本刀を二本持った男は額をさすりながら何も言わずに部屋の中に入り、ポイ、とその長さから推測して合わせて少なくとも5キロはあるであろう二振りの刀を空のベッドに放り投げた。 普段ならばそこそこの美男子として通りそうなその顔は、表現できる限りの怒りに歪んでいた。

「…良くお前は平気でいられるな」

 刀を放り投げたベッドの端に着流し姿の男は座って暫く黙っていたあと、自分のひざに肘を付き両手を組みいくらか表情を和らげながら組んだ手の親指と人差し指で顎を支えて東条に尋ねた。 その台詞を聞いて東条はおいおい、と謙遜するように言葉を返す。

「俺はそんなに鷹揚な人間じゃあないぞ。ただ結局のところこれしかやる事が無いから気まぐれに仕方なくやっているだけだ」

「いいねえ、お前はそんな風に打ち込めることがあって。かつての俺もそんな風に出来たら…変わっていたかもな」

 どこか寂しさを感じさせる顔でそう言うと長身の男というはぼんやりと天井を眺めた。かつてのあの日。もう過ぎ去ったあの日。そして…血と鋼の香りに満ちたあの日々。

「はっ、まさか。お前のような境遇に置かれたら俺だってもお前と同じ状態になるのがオチだ」

 機械油に汚れた布で拳銃を拭きながら東条はそんなに買い被らないでくれ、と続けた。そして銃を腰のホルスターに入れると整備工具の脇に置かれた一振りの短刀を手に取る。もう片方のベッドで伸び切っている男の物で「雷光」なる銘らしい。刀身を鞘から抜くとパチパチと静電気のようなスパークが走った。

「ほう、ソレか。この男の施術武器とかいうのは」

 放電音を聞いて顔を東条のほうに向けた男はまず東条が持っている小刀を見て、次に東条が昨夜拾ってきた男を見ながら小刀に興味を見せる。刀剣とかそういうもの―つまり刃物の類が好きなタチなのだ。

「ああ、ただし最も短刀自体はただの短刀だ。重要なのはこれ―紅葉によると黄水晶とかいう宝石の球体だ。ここに電撃の術式と霊力を強制的に吸引する術式が組み込まれている。消費魔力に対する出力は…まあ普通だな」

 東条は説明をしながらパチパチと音を立てて電撃を出して見せる。今は力に加減をしているからこの程度の電撃しか出ないが自分がもし本気になってこの短刀に込められた術を使ったら一体どのくらいの威力が出るのだろう、と東条は思っている。

「―が、俺が解析したところではこいつの能力はそれだけではない。ただ残念なことにこの男では…現時点においてそれを活かし切れる事は出来ないな。そういう場合は五行輪で周囲の魔力を利用して起動させることを推奨するんだが、しかしアレは…」

「使用者自身を道具そのものへと引き込みかねない施術道具、だったけか?」

 男は記憶を探りながら答えた。

「ああ。あれは下手に素人が使うと十中八九同化されちまう。しかも俺の作ったアレは…」

「ううん…もし仮にソレを使う事になったら…とんでもない因縁を感じざるを得ないな」

「ああ。さしずめお釈迦様の掌だな」

 小刀を油でよく手入れをして鞘に戻し、そしてそれをもとあった場所に置く。

「ほう、それは言いえて妙だな。ジャミに因縁を持つ三人の男がここに集い、そしてその結末は如何に…か。ん、そうだ。油借りるぞ」

 そう言うと男も黒塗りの鞘に入った自分の刀を手元に取り、慎重な顔つきで刀を磨き始めた。そして懐から一枚の紙を取り出し、左手でそれを投げると口を閉じたまま一気に刀を振った。音も無く紙が真っ二つになる。

「因縁?この男はともかく俺とお前がどういう因縁をジャミに持っていたっけ?」

 唾が飛ぶから、と怒られるので東条は男が刀を鞘に納めるのを待ってかららそう尋ねた。

「おいおい惚けるなよ。お前は奴の瘴気を浴びたせいで髪の毛が金髪になり、俺は…あー…」

 男は東条に言い返そうとしたが、先ほどの台詞か単にノリで言っていたのか自分で言っておきながら彼は自分とジャミに関する因縁について説明しようとして言葉を詰まらせた。

「ま、俺はこの髪の色に関してはまんざらでもないし、お前はそんな因縁だなんて物自体抱いちゃいないんだからそんないちいち仰々しいことは言うなって」

 東条はそう言って自分のやや長めの金髪を弄った。今から七、八年ほど前―高校卒業直後の春休み、簡単な仕事だからと総一とともに二つ返事で請け負った仕事。それがジャミの討伐任務だったのだが、結局ジャミを取り逃がした上にジャミの吐き出した超高濃度の瘴気の直撃を受け意識を失い、さらには瘴気の副作用によって東条の髪はあたかも染めたかのような金色の髪になってしまった。両親をはじめとする事情を知る人間はしばしばそのことを不憫にも思っている様子だが東条自身はこれっぽっちも気にしてはいない。むしろ彼は気に入っているほうであり大学の入学と同時に少し髪を伸ばしたぐらいだ。

 最後に髪を手櫛でさっと撫で付けると東条は立ち上がって背後に立てかけてあるマガジンの抜かれたライフルを手に取る。

 HK社のG36SturmGewhereシュツルムゲヴェーア。現ドイツ国防軍制式採用ライフルであり、昨夜彼が持っていた銃もこれである。

「ところで、なんで昨夜はわざわざ擲弾発射器グレネードランチャーだなんてライフルに付けてったんだ? 安定性が低くなるにも関わらずわざわざバーティカルフォアグリップを外して」

 東条の銃を見た男は彼に疑問を投げかけた。普段の彼は持ち易さを重視して同じ場所―ハンドガードと呼ばれるバレルのカバー下―に垂直に下ろした柄を取り付けている。が、簡単な掃除を行っただけでそこに置かれていた東条のG36は珍しくグレネードランチャー、つまり手榴弾を発射する装置を同じ場所に取り付けていた。

「いつもの直感だ。ただなんとなくそう思ったってわけで、まあその直感は見事に当たったわけだが」

 そう言うと東条は慣れた手つきでグレネードランチャーを取り外した。H&K社製G36用擲弾発射器AG36が取り付けられていた部分から一定の間隔で横溝が刻まれた無骨な、いやむしろ無表情な20mm幅のマウントレイルが露出する。





「誠兄さん!」

 それは、いつか見た光景。

「誠〜」

 平穏というものがいつまでも続くと思っていたときの光景。

「…やめろ…」

 俺はまだ何にも知らない餓鬼で、化け物の存在なんか信じてもいなかった。

「兄、さん」

 けれども、ある日その平穏は破られた。

「助け、て…」

 理由だなんて知らない。

「それ以上は…っ!」

 解っているのは両親が化け物にぶち殺されていて、姉貴もぐちゃぐちゃにされていて、そして……

「やめろ。思い出させせるな!…あれは、あの光景は…!」

 かつての俺を目の当たりにさせられて、「傍観者」の俺は夢の中で絶叫していた。





 気が付けば、二人の男の―たぶん男性で間違いないだろう―の深刻そうな話し声が聞こえた。次に、彼は自分が布団か何かの上に寝かされている事が判った。そして男はゆっくりと目を開けた。

「お、気が付いたか」

 彼が目を開けると何処かで聞いたことのある声がした。確か東条とかいう名前の男の声だったかな。普段のように働かない頭が答えを出すのよりも早く、椅子に座った金髪の男の顔が彼の視界に入った。傍にある据え付けの机の上には昨夜彼が使っていたライフルが置かれ―プラスチックを多用しているからか明るい場所で改めて見ると 彼の目にはやけに安っぽく見えた―、別の椅子には着流しを着た背の高そうな男が座っていた。失礼なのは百も承知だがついつい目が黒い眼帯の方に行ってしまう。

「…別にそう気にするな。初対面の人間十人に会えば十人とも同じように俺の顔を、いや、眼帯を気にするからもう慣れた」

 と、突然眼帯男が口を開いた。最初彼は自分の目を「気にするな」と言っているのかと男は思ったが、どうやらそうではなく自分の視線が彼の眼帯の方に向きがちなことを気にかけている様子に関してそう言ったようだった。

「まあ…とりあえずお互いに簡単な自己紹介でもしようじゃないか」

 その後隻眼の男は何も言わず、男もまた何を話すべきか、と思って黙っているとその場の沈黙に耐えられなくなったのか東条が口を開いた。

「ま、じゃ、俺からな。東条秀行、ミリタリー好きの25歳。戦闘時は主に後方からの雑魚掃討を担当。使っているのはこの…」

 そこまで言うと彼は机の上のライフルを少し重そうに手に取った。

H&Kヘッケラー・ウント・コッホG36SturmGewhereゲー・ドライシグセクス・シュツルムゲヴェーア…いや、アサルトライフルと言うべきか」

「おいおい…そんな物使っていて警察沙汰にはならないのか?」

「まあ、表向きには単なるモデルガンだからな。それにそれを言ったらお前の小刀だって怪しいもんだぞ 。勝手に調べさせてもらったのは誤るが、あれは魔術師が本気になって使えばザコ妖怪なんぞは瞬く間に一掃できるだけの出力があるぞ」

「うっ…」

 少し功刀を茶化すような感じで言いながら東条は銃に取り付けられた光学式オプティカルサイトを覗き込んでG36を構えると引き金に指をかけた。勿論 銃にはセイフティが掛かっているのでライフルはウンともスンとも言わない。

「ああそうそう、あと魔術を使うのよりも施術道具―つまり魔術関連の道具を作る方が得意…と言うかむしろ好きだな」

「はあ…」

 男はそれを聞いて意外だな、と思った。金髪でやや痩せ型の東条はどちらかと言えばアウトドア―といっても野球やサッカーの類ではなくキャンプや登山など―が似合いそうだが、本人曰くむしろインドア系らしい。一応こんなことをしょっちゅうやっているのでそれなりに体は鍛えているらしい とのことだが。

「さ、次はお前だぞ」

「…九鬼総一、同じく25。秀幸とは高校時代からの腐れ縁。戦闘時には前衛担当。主に使う武器は野太刀か拳銃だ」

 東条に促されてしぶしぶ自己紹介を始めた九鬼は、懐から鈍く銀色に光る二丁の大型拳銃を取り出した。それには銀のような高貴さも清浄さも無く、ステンレスを想起させる鈍くそしてただただ冷徹な輝き。その片方にはアルファベットでPara−Ordnanceパラ・オーディナンスと刻まれており、もう片方にはKimberキンバーと刻まれている。どちらも商品名か何かだろうか。

「あとは…ま、じきに解るだろう」

 そう言って九鬼は自己紹介を終わらせたが、何故か東条はにやにやと笑っていた。

「いや?別に深い意味はないさ」

 九鬼の視線を感じた東条は弁解するようにそう言った。深い意味、とはどういう意味なのだろうか?九鬼をからかっている様にも見える東条の顔を見ながら男はそう思った。

「で、最後は俺か。功刀誠、年齢は19。戦闘には……」

「あ、ほら。こいつだろ」

 男―功刀が自分のポケットを探り出すとその理由を察した東条が小刀を何処からか―おそらく机の功刀にとっての死角から―取り出して功刀に見せる。確かにそれは彼の「雷光」だった。

「…済まない」

「困った時はお互い様、さ」

 そう言って東条は少し微笑んだ。その時、功刀は夜の戦闘のときに自分が相手に奪われたはずのこの短刀をいつの間にかこの男が持っていたことを思い出した。そのことを問いただそうと思ったが、それを聞く前に先に九鬼が口を開いた。

「で、他に追加することはあるか」

 他者とは打ち解けやすそうな雰囲気の東条とは対照的な口調の九鬼に功刀は少し反感を抱いたが、彼もまた味方である以上素直に、しかしどこか不気味な気配を孕ませて短く言った。

「いや、無い」

「…そうか。ならお前が邪魅を追いかけている理由を教えてくれ。魔術師ではないお前がな。ま、大方家族の復讐か何かなんだろうがな」

「…つっ…!?」

 自分は魔術師ではない―功刀にとってそれは否定する事が出来ない事実。そしてその事、いや、自分には力が無いというかつての事実を誰かの口から面と向かって言われることは、彼の心の中の傷―自分自身の弱さが生んだ傷に触れる事だった。

「…そうだ。俺の目的はジャミに殺された家族の復讐だ。だが…それがどうした」

 椅子から立ち上がりながら静かな声で功刀が九鬼に返答したとき、功刀の顔を見ていた東条の顔がさっと青くなった。まずい、そう思って彼は二人をなだめようとしたが、その前に椅子から立ち上がった九鬼がやはり淡々と口を開いた。

「決まっているだろ。魔術師でもない人間がこの世界に足を踏み入れている理由など二つしか考えられんからだ。そいつが手の施しようの無いほど気が狂っているか、あるいは自分が今何処にいるのか理解していない大馬鹿者か…まあ、最もお前の場合はその両方らしいがな」

 あまりにも無神経過ぎる九鬼の言葉を聞いて、いくら親友とは言えども東条は大声を上げようとした。しかしそれよりも早く、功刀はベッドから起きあがるとあたかも彼を挑発するが如くわざわざ彼の傍まで歩いていた九鬼に殴りかかろうとした。

「何だとっ…!」

 ヒュンと音を立てて拳が虚空を走る。

「…自分が喧嘩を売っている相手の実力を理解せず、また理解しようともしない。だからお前は馬鹿だ。」

 しかし怒りのこもった功刀の拳は九鬼の左手に受け止められ、逆に相変わらず淡々と呟きながら九鬼が放った一撃が功刀の腹部に命中した。カッ、と音にならない音と空気が功刀の肺から漏れる。

「いいか、今お前が戦おうとしている相手の実力なら、お前はもうこの瞬間に死んでいる。お前の気はすまないんだろうが、ここは諦めろ。今のお前ではどう足掻いても奴には勝てん」

「……」

 功刀はそう呟いた九鬼の顔をじっと睨み付ける。しかし九鬼はそれを見ても何も言わず、ただじっとその場に立っていた。感情というものが宿っていないかのような目で。

「…出来るわけ、無いだろそんなこと!」

 そのまま二人が無言のにらみ合いをしばし続けた後、先に功刀が口を開いた。彼の胸中ではこの男は自分の受けた責め苦を知らないからこんな無責任な事が言えるのだ、と思ってどんどん怒りがこみ上げていた。

「いや、しろ。さもなくば貴様はそのまま修羅道に落ちる。そしてそこで地獄以上の苦しみを知り、そして無限の後悔に身を焼かれながら死ぬ」

「ゴタゴタ小難しい事言ってんじゃねえ!」

 再び功刀は九鬼に殴りかかろうとした。しかしその拳を九鬼は再び避ける。それによってさらに怒りがこみ上げてきた功刀はさらに二度、三度と殴りつける。

「…そうか。もし俺を殴って気が済むのならいくらでも殴れ。それならば俺も避けん」

 功刀の心中を自分なりに察した九鬼は彼のコブシを避けるのをやめた。ごすっ、ごすっ、という音が部屋に響いて九鬼の頬が赤くなってゆく。がしかし九鬼の表情は少しも変わらない。それを見て功刀の怒りはどんどん増し、指の痛みも気にせずに拳の力はどんどん強くなっていった。

「……畜生…畜生…畜生っ!…そうだよ、俺にはねえんだよ…お前達が持っている力が…」

 いつの間にか気付けば功刀の手には力がなく、そして彼の頬を目から流れ出したナニカが静かに伝っていた。

「…で、あの短刀を手に入れたのか?たとえお前の持つ全てを失う危険性があっても己が復讐を遂げる力を手に入れるために」

「そうだ。あれがあれば妖怪を殺すことが出来るからな。それに…」

「ほう、そうか?妖怪というものは概してヒトのソレを超えた身体能力を持つ。妖怪同様の人外の存在バケモノである魔術師オレ達は魔術を使って肉体を強化したり 、あるいは魔術そのものを攻撃手段とすることでソレに対抗する。が…お前に魔術は使えない。とりあえずあの短刀で雷撃の魔術を強引に使えるようにしているようだが、あれはいつまで使えるかどうか」

 功刀は何かを言いかけたがその言葉は九鬼によって遮られた。それに九鬼はこの男が言いかけた言葉が大方「自分にはもう失う物などない」といったニュアンスの物なのだろうと見当をつけていた。

「……」

 いつまで使えるかどうか。その言葉を聞いて功刀は反射的に顔をこわばらせる。 あれ―雷光は彼にとって時限爆弾を抱えた武器。しかしその時限爆弾がいつ爆発するのか、それは今の彼には一切解らない。ただ、その爆発までの時間は彼が雷光に施された術を使えば使うほど早くなってゆく―それだけは確かなことだった。

「で、お前はこれからどうする。このまま復讐を続けるのか」

「……」

「もし、一時的にバケモノマホウツカイになる方法がある、と言ったらどうする?」

「……!?」

 功刀は一瞬九鬼が何を言っているのかが解らなかった。今この男は何と言った?このオレが魔法使い―魔術師にだと?オレが魔術師にはなれないのは彼らにも解るのではないか?次の瞬間にはそんな疑問が功刀の頭の中で疑問が疑問を生む無限ループを生み出してた。

「確かに人が魔術師になるにはその命が生み出す霊力―超科学的なチカラの量によって決まる。そして霊力というものは普通生きている限り半永久的に発散され、魔術などで加工―もしくは消費しない限り発散されるのと同時に大気中に霧散する。つまり、だ。この大気中にはありとあらゆる生命が発散した霊力が満ちていて、もしもそれを強引に吸収する方法があるとしたらどうなる?」

「あ、あるのかそんな方法が!?」

「ああ。例えばオレやお前が追っかけているジャミなんぞその典型だ。奴は意思を持った霊力の集合体であり、霊力を吸う事によってより強くなるモノだ。他にもこのテのバケモノは少なくはない。但し 、だ」

「確かに人間も自然の一部だが、妖怪と比べて人間は自然から『遠い』存在だ。その『自然』たる霊力を吸い続けると一体どうなるか、は解るな」

 九鬼は功刀の顔を見ながら言葉を選ぶ。九鬼という男は決して元から無神経な男ではない。ただ「他人」というものとの付き合いが少しばかり下手なのだ。特に心を閉ざしていたりする人間には。

「…もしもお前にその覚悟があるのならば…俺達も考えよう」 

 ふふん、と笑うと与えられた大量の情報の整理に手間取っている功刀を置いて九鬼は部屋から出て行った。

「ったくいつもいつも厄介なことばっかり俺に押し付けやがって」

 いつの間にやら軍事関連の雑誌を読んでいた東条は雑誌をテーブルの上に伏せておくとそう呟いた。この調子じゃあ「五行輪」をあの男に渡さなきゃいけないじゃあないか、と彼は苦々しく思っている。復讐に燃えて第三者にとっての「正常な思考」が出来ないあの男はおそらく自分が後々どうなろうがきっと五行輪を使って戦うことを望むだろう。しかしその末路は…?

「そいつはお前が最も嫌っていた物じゃあないのか?なあ、総一」

 東条はいつもの調子で何処かへとふらふらと出て行った親友にそう聞いた。

 

「なに。誰かが弄ってこうなったのかは知らんがいかにも意図的なものを感じさせる『運命』とやらに少しばかり踊らされるのも面白くは無いか?」

 ホテルの廊下を歩いていると、不意に親友の小言が聞こえたような気がした九鬼はエレベーターを待ちながら壁に寄りかかってそう呟いた。

「それにこの安っぽい運命を造り出したのがジャミだったら…奴の尻尾をつかめるかもしれんしな。最も本当のジャミに尻尾は無いが」


あとがき

 えー、どうも、INAZUMAです。何とか物怪草紙の第二話を前回よりもテンポも分量も多めにして完成しました(テンポの点は要改善かもしれませんね(苦笑))。
 今回は会話およびキャラクターの解説がメインの話です。キャラが勝手に動いた結果、予定では出すはずの無かったエピソードや伏線がいつの間にやら追加されていたりします(笑)。
 しかし今回、予定を変更して始めたおまけの銃器解説(今回は東条が使っていたG36ライフル)がやけに長い…
 ではまた。


おまけ:銃器解説

第一回:H&K G36(HK50)
 ドイツの大手銃器メーカー、Heckler&Koch(ヘッケラー・ウント・コッホ)社が開発した軍用アサルトライフル。使用する弾薬は現在のNATO規格弾の5.56mm×45弾で装弾数は30発(ドラムマガジンを使うと100発)。
 かつて旧西ドイツでは、名銃として名高い同社のG3(7.62mm×51弾を使用)の後継として開発中のG11(4.7mm×33ケースレス弾を使用) を採用する予定だった。ところが独創的過ぎたG11は軍用銃としてはかなり使い勝手が悪く、さらに東西ドイツの再合併による軍縮のあおりも受けてG11は採用計画自体がキャンセルされる。
 しかしそれ以降も使われたG3の老朽化や他国と共同作戦時での弾薬の互換性の無さ(ベトナム戦争以降、NATOは正式採用弾を7.62mm×51弾から5.56mm×45弾に切り替えた)などからドイツ国防軍はG3の後継を早急に要求。その結果革新的・冒険的な技術を極力抑えて信頼性の高い既存技術のみを使ってH&K社が開発したのが「HK50」、ドイツ国防軍での正式採用名「G36」である。

 前述の通り時間的制約などから実験的、あるいは斬新な技術は極力抑えられているが、マガジンを半透明にすることで残りの弾数を一目で解るようにし、またグラスファイバーとプラスチックとの複合素材を多用して軽量化にも努めている。なおかつ軽く土に埋めたり10分程度水に漬けたりしても動作不良は少なく(有名なAR15―M16の特に初期型は水や埃に弱くてクリーニングをきっちりしないと動作不良が多く、ベトナム戦争時には問題となりいろいろ改良が施された)、生産性も良い。
 現在ではドイツ国防軍や国境警備隊に採用されている他、スペイン軍やフランス国家警察の一部やイギリス警察などで正式採用されている。また一部のSWATでは突入用の武装としても正式採用されているとか。
 バリエーションは小型化モデルのG36K(Kurz)、さらに小型化したG36C(Compact)、アメリカの法規格に合わせた民生用モデルのSL−8などなどいくつか存在する。

参考サイト:
フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/
「MEDIAGUNDATABASE」(古今東西様々なメディアに露出した銃火器の紹介をおこなっているWikiサイト。メジャーな銃からマニアックな代物までいろいろと揃っている)
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/
“Heckler&Koch”(メーカー公式サイト。ドイツ語と英語)
http://www.heckler-koch.de/

注:前回までに紹介したサイトは割愛させていただきます。




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