物怪草子
巻ノ伍
東条が居なくなりホテルの部屋の中は微妙な雰囲気が漂っていた。九鬼は無言のまま彼の武器であるシルバーの拳銃をガチャガチャと弄っており、そこから微 妙な距離を開けて座りながら功刀はぼんやりと窓の外を眺めている。
そんな複雑な空気の中、先に口を開いたのは九鬼の方だった。
「なあ」
「……何だ」
「ひとつ気になったんだが、お前は何時、どうやって魔術師の存在を知ったんだ?先ほどの口ぶりから推測するに色々と詳しく知っているようだったが」
九鬼の疑問は当然だった。確かに功刀は妖怪退治をしているので「裏」の世界に詳しい魔術師は社会から巧妙に隠匿する存在。顔見知りで無い存在と接触する のはあまり望まない者も多い。しかしこの男は魔術師について相当詳しく知っている様子だった。その点に不信感を覚えるのは当然だろう。
「……」
「じゃあ質問を変えよう。お前にあの短刀、雷光を渡したのは誰だ。あくまで俺の推測だが、雷光をお前に渡したのはお前に魔術師に関する知識を与えた人物と 同一人物じゃあないのか?」
ここでもし今ではなく一昔前ならば九鬼は「俺の推測だが」とは付け加えなかっただろう。しかし今はインターネットという虚構の中に実在する情報網があ る。これを巧い具合に使えば「雷光」のような施術道具をお互い一切顔を合わせることなく手に入れることも不可能ではない。
「まあいい。ところでどうだ、俺のおごりで昼飯なんぞ。少しばかり時間は過ぎちまったがな」
暫くの間睨めっこを続けた後、観念したのか九鬼はすっと立ち上がりながらそう功刀に尋ねた。言われて功刀は目を覚ましてから初めて自分の腕時計を 見ると、時刻はもう既に午後2時近くになっていた。確かに昼食を摂るには少しばかり遅いだろう。財布の中身は少しばかり少ないし、九鬼が執拗なほどに誘っ てくるので功刀は奢って貰う事にした。
「どうだ、旨いか」
「ああ……悪くは無い」
二人は九鬼の案内で近くのうどん屋に来ていた。功刀はカレー饂飩、九鬼は狐饂飩である。雰囲気からするにこの店は九鬼の行きつけらしく、店に入っ たとき店長は九鬼に親しげに笑っていた。ついでに言えば客はそこそこいて味もそれなりなのだが店の雰囲気がどこか何処か胡散臭い。 何処かに妖怪でも潜んでいるのだろうか、と功刀は疑ったのだが彼の感覚を総動員した結果では妖怪の雰囲気をつかむことは出来なかった。
「ところで功刀、ヒデ……いや、東条の奴から何か貰ったか」
それとなく周囲を見回すと声のトーンを落とし功刀に顔を寄せると九鬼は小さな声で功刀に聞いた。
「……霊力ナントカ銃のことか?」
「ん、霊力収束銃だな。口径はいくつだ?」
「口径?……45、とか何とか言っていたような記憶がある」
「
ズルズルと饂飩をすすると九鬼はふっと天井を見上げ、指で顎をなでると自分の愛銃の名前を挙げる。
「さ、さあ。キンバーのカスタム何とかって言っていたのは覚えているが……」
「なら
「へ?」
それまでカレー饂飩を食べながら話していた功刀は自分の箸を止めると「何でそうなるんだ」といった表情で九鬼の顔をまじまじと見る。
「簡単な話だ。あいつの装備は大抵H&KのUSPもしくはCz75の9mm口径にH&KのG36ライフル、弾丸の種類が違うからマ ガジンにガバとの互換性は無い。 でもってオレはハイキャパとノーマルのガバメントをそれぞれ一挺づつにこれまた.45口径のイングラム。お前に渡したガバメントがどのモデルかは知らない が、あいつの事だからP14かキンバーのどっちかとの互換性はおそらくあるんだろう」
「?」
「えっと……要するにあいつが渡した拳銃はオレの拳銃としかマガジンが共用できないって事だ。で、戦闘中に手持ちのマガジンが全部弾切れになったとき、相 方にはまだ余りがあってそのマガジンを自分の拳銃にも使えるならどうする?」
「あ……そういうことか」
流石にここまで言えば功刀も九鬼の言いたいことを理解する。
「そう。相方からマガジンを拝借すれば戦闘を続行できるが、互換性が利かなければジ・エンドという訳だ」
そう言うとズズズズ……と音を立てて九鬼は饂飩の汁を啜った。
少し遅めの昼食を食べ終え、微妙な距離を保ちつつ二人は歩いてホテルの部屋へと戻っていった。すると部屋の前では東条が立っていた。二人を待っていたの だろうか。
「ん、どうしたヒデ」
「ひとつ言い忘れたことがあった。というかついさっき決まったことがある。もし戦闘訓練をするのならここに行け。やっと許可と術式の展開が終わったそう だ」
そう言って東条は手首のスナップを使って九鬼に一枚の二つに折られたメモを投げて渡した。手裏剣のようにくるくると回って軽く掲げた九鬼の手の中、いや 指の間に吸い込まれてゆく。
「サンキュ」
「いや、元々単なる俺のミスだ。じゃ」
そう答えるとヒュウ、と口笛を吹いて東条は自分の部屋へと戻ってゆく。
「んで、その訓練用の場所とやらは一体何処なんだ」
「ん……ちょっと待て」
九鬼はメモを開いてその中身を見る。そこには東条が用意したという場所の住所と簡単な地図が書かれていた。しばらく思考をめぐらせて九鬼はその場所を推 測する。
「俺の記憶が正しければ確か結構デカい神社だな。三方神明社って名前だったかな?」
「ふうん」
「で、どうする?今からココに行くか、それとも何か別の行動を起こすか 。今行ったら人目につく可能性が高いから後で行ったほうが良いとは俺は思うが。ま、人払いの術と幻想関連の術を使えば誰にも介入されないけどな」
「とりあえず部屋に入らせてくれ。銃を置きっ放しにしてあるんだ」
「銃……?あ、あのガバメントか。ルガーの.22口径が一緒にあったからてっきりヒデが置き忘れていったのかと思っていたんだが。あの男が.45口径でし かも何の変哲も無いガバをなんで引っ張り出してきたのかと思ったが、あれをお前に渡したのか」
九鬼は功刀の反応に静かに応えながらドアの鍵を開ける。キイ、と蝶番が軋む音がした。
「ん、これだろ。やっぱりキンバーか、ガバメントなら他にもメーカーはあるだろうにあの男は何でこうも拘るんだか。まあ……何だかんだ言いつつも俺も愛用 しているわけだがな。ん、グリップは普通のグリップなのか。 俺だったらレーザー内臓グリップを薦めるんだが。……あー、それとも何だ?まさか俺の持っているインサイトをこいつに貸せとかいうのか、秀行?お前とは 違ってバッテリーも本体も俺はそう沢山は持っちゃいないんだぞ」
部屋の奥へとスタスタと九鬼は歩いて行き、そして机の上に放り出されたガバメントを手に取ると何やらぶつぶつと呟き始めた。ただし銃器用語の羅列ともい えるその内容の半分以上は功刀の頭には理解不能なものばかりだったのだが。
「で、どうする?さっさと銃の訓練をするかそれとも部屋ですこしばかりくつろぐか。ああ、ちなみにマグは俺の持ってる奴とで互換が利くから撃ち放題だ」
とりあえず、とベッドの上に座りながら九鬼は功刀に聞く。今すぐ行くんだったら予備のマグを準備しなきゃいけないんだが、と続けて九鬼はゴロンと ベッドの上に上半身を横たわらせる。功刀はどうするべきか、と真面目に悩み始めたがすぐに自分も隣のベッドに横になった。そして少し頭を整理させてくれ、 と言って目を閉ざす。
「――まだ疲れてるか。そりゃまあ当然だな」
それからほんの数分で寝息を立て始めた功刀をねっころがったままでチラリと見て、九鬼も目を閉じたが昨夜は十分な睡眠をとっているからか暫くして仕方な さそうな表情でひょいっと立ち上がった。
「ま、とりあえず出かけるときの準備でもしておくかね。予備のマグをチャージしておかなきゃいけないし」
自分に言い聞かせるかのように呟きながら九鬼は自分の鞄の中身から銃器のオプションや予備のパーツを探って取り出す。形状や厚さの異なる数種類の マガジン、スコープやダットサイトにレーザーポインター付きのフラッシュライト、脱落防止のランヤード、ストライク・プレートとも呼ばれる棘とマウントレ イル付きマズルガードなどなど…… ちなみにライトなどは東条の酔狂が遺憾なく発揮された結果、全てバッテリーではなく霊力によって駆動する魔術師専用オプションと化している。
それらの中で点検が必要なもの――すなわち消耗品を利用するものを九鬼はテキパキと手にとってはチェックしてゆく。東条の酔狂の副産物である常識 外れな効率の良さによるものかそれともただあまり使ってはいないことによるものかは定かではないが、どれもこれもちゃんと起動する。
「ここらへんは何とかなるか。で……と」
先にオプションパーツ類の点検を終えると九鬼は自分の指を前歯で噛む。プツリ、と指先に血の球が出来る。そのまま親指を弾倉の模擬弾丸に当て、そして血 液が指先から弾倉へと流れてゆくイメージを思い浮かべる。 自分の体の中に宿る膨大な霊力のほんの一部が弾倉へと満ちてゆくのを感じると、全く同じ要領で他の弾倉の中身も満たして行き、そしてすぐに手持ちのマガジ ンが満タンになった。
「これでよしっと」
弾倉がいっぱいになった事を確認し、東条はそれを机の脇に置く。後で持って行くのははっきりしてはいるがそれはまだ今ではないからだ。普段東条は 戦闘時には自分の腰の帯にこれでもか、というぐらいの数のマガジンを挟んでいる。とはいっても流石に戦場に征くまではポーチか何かに入れているが。
「はてさて……あとはどうするかな?」
椅子に座りながら九鬼はそう呟き、そして少しの間悩んだ末に今日のノルマはもう午前中に済ませたが、まあやり過ぎなければそう問題はないだろう、と考え て床に転がると静かに腹筋を始めた。
同じ頃、百々目鬼は自分のねぐらで昨夜東条につけられた傷をじっくりと癒していた。もしも彼女が特別な才能を一切持たない一般人ならばこの傷はほぼ間違
いなく致命傷になっていただろうが、彼女とて伊達に
クソ……。彼女は怒りに燃える瞳で薄暗い闇の中を睨みながら呟く。出来るだけ自分の損害を小さくして戦う彼女にとって、東条の取った零距離での手 榴弾発射という攻撃手段は彼女の想像を超える策だった。 ましてや証拠隠滅と爆発のエネルギーを最大限に生かすべく彼女と自分自身、そしてあの男を取り囲むように結界を張り、さらに自分達の体を守るために障壁を 展開するなどという事は彼女の目には暴挙にしか見えなかった。 何故ならばいくら魔術師とはいえども、たかが人間の霊力で結界を展開したところで神仏や強力な妖怪の力を借りず、しかも即席のそれに大した防御、或いは封 印能力など存在しないからだ。そしてそんなその場凌ぎの魔術など彼女はいとも簡単に破壊できる自信があった。 しかしその直後に突然爆発が巻き起こり、爆発で発生した結界の破れ目を利用して何とかその場から立ち去ることは出来たものの結界や障壁に反響した様々な爆 発のエネルギーは彼女に浅からぬ傷を負わせた。そしてその結果がこれ――つまり致命傷ではないがかなり深く治療に時間のかかるいくつもの傷、だ。
「ドウダ、キズノホウハ」
痛みに耐えながらどんな夜よりも黒い瞳に恨みの色を浮かばせていると、突然彼女以外には誰もいないはずの暗闇の中で彼女のものではない声がした。その声 に聞き覚えのある彼女ははっと顔を上げると、そこには何者かの『気配』が存在した。
「はい、邪魅様。とりあえずもう動けないことはありません。しかし……」
「セントウニハデラレソウニモナイ、カ。ワカッタ、ココログルシイガコヨイハオマエヌキデケッコウシヨウ」
「今宵も……ですか?」
「ソウダ。アノオトコガデテキタイジョウイチニチモカカスコトハモハヤデキナイ」
「ですが、私が抜けた穴はどうなさるのですか?流石に木霊を統率する者がおらねば悪戯に此方が消耗するだけですが」
「キニスルナ。ワレニカンガエガアル」
「……そうですか」
百々目鬼は不満そうな口調でそう言った。もし、その「考え」とやらがその場凌ぎのものではなかったら自分は今の自分の地位――即ち邪魅の腹心としての地 位から転げ落ちるのではないかと思ったからだ。 妖怪がそんなくだらない事に拘る事もなかろう、と九鬼が彼女の味方であれば言うだろうが、人間と殆ど同様の思考回路を持つ彼女はまたそういったことに拘る 存在だ。故に自分のボスである邪魅に尋ねる事こそしなかったが彼女の胸中は穏やかなものとは程遠かった。
「デハ、ジックリヤスンデキズヲイヤセ。イチニチモハヤイオマエノフッキヲワレモノゾンデイルカラナ」
「はっ!」
百々目鬼がそう言って頭を下げていると邪魅の持つ毒々しい空気が消える。ゆっくりと頭を上げて邪魅がその場から居なくなったことを確認すると、彼 女はゆっくりと肺から息を吐いた。絶対逆らうことの出来ない存在とはいえ面と向かってあのお方と会話をするのは正直言って疲れる。そう思いながら彼女は再 び自分の怪我の治療に専念し始める。
「しかし覚えていろよ、復讐者に金髪の狩人。それもこれも全てあいつ等のせいだ……もしこの身が無事な内に再び逢ったならば、ありったけの呪詛と共に体も 魂も八つ裂きにしてくれる」
それと同時に彼女は低い声で功刀と東条にむけて憎しみの込められた言葉を吐いていた。彼女の瞳は不気味に緑色の光を放っていた。
強烈な眠気に襲われたためかはたまた最近野宿続きでベッドが恋しかったのかはともかく、いつの間にやら眠っていた功刀が目を覚ますと部屋の中には褌一丁 の九鬼がタオルで頭をごしごしと擦っていた。
「ん、ああ。ちょいと筋トレをやってたら汗かいちまってな。シャワー浴びてたんだ」
功刀が目を覚ましたのに気付いた九鬼は隣のベッドに脱ぎ散らかしていた和服を着直しながら説明するようにそう言った。最も功刀の脳内は拳銃使いの褌とい う珍妙なギャップに混乱していたが。
「じゃ、神社に行こうか。お前のキンバーは俺の銃と一緒にしてある」
神社全体に九鬼が人払いと幻想の結界を展開し、彼曰く「よほど強力な魔術師ではない限りまず誰もやって来ない」状態にして二人の射撃訓練は始まっ た。本当はもっと広い場所が欲しかったらしいのだが、土地の所有者への根回しなどのいわゆる「大人の都合」で訓練に使えるスペースは中途半端に狭かった。 一丁の拳銃――キンバーではなくスタームルガーからスコープを取り外したもの――と薄く色のついたサングラスを渡すと九鬼は被弾しそうな場所に強化の魔術 をかけたりターゲットを設置したりといった作業を入念に行い、数分経った後に功刀の経っている場所へ戻ってきた。二人の脇には神社から借りたのだという会 議用の折りたたみテーブルが据え置かれている。
設営が終わると功刀は早速銃を撃たせてくれるものだと期待していたが、九鬼は功刀が銃の撃ち方を誰からも教わったことが無い――まあ功刀は日本人 なのだから当然なのだが――と知るとそれからのおよそ十分ほどの時間は銃の持ち方や撃つ時の体勢など、基本的なことに費やされた。 功刀は一刻も早く自分の新たなる対妖怪の武器を試したかったのだが、九鬼に持ち方を誤ると銃が正常に動かなかったり体を痛めたりする、と言われてしぶしぶ 九鬼の説明を受けていた。
「じゃ、早速撃ってみようか。そのルガーは口径が小さいから威力も小さいが、その分初心者向きでもある銃だ。もしその程度の反動でビビるようだったら覚悟 が必要だぞ」
最後のほうの台詞はハハハ、と笑い声を交えながら九鬼は言う。そんな自分を小ばかにしたような言い方にサングラスをかけていた功刀はむっとしたが、とり あえず今は狙いの真ん中に銃を撃つことに集中した。
腰に力を入れて背を伸ばし、頭も引かずに目の高さに構えて引き金を引く。そう念じながら功刀が引き金を引くと、鋭い反動と共に銃身が上へと跳ね上がる。 同時に白い光の弾丸が銃口から吐き出され、ターゲットの端のほうに黒い焦げ目の付いた穴が開く。
「ちっ……」
「次!」
狙ったとおりに当たらなかったので功刀は構えていた銃を下ろして舌を打ったが、九鬼の怒鳴り声を聞いて再び銃を構えると先程の言葉を頭の中で繰り 返しながら再び引き金を引いた。銃口から吐き出された光の弾丸は今度はターゲットの反対側の端に着弾する。やはり狙い通りにはいかなかった。 その後マガジンの中身が空になるまで功刀はルガーを撃ち続けた――最後の方はもうやけになってバンバン乱射するといった感じだったが――が、ターゲットに 付いた十個の焦げ目はすべて端のほうばかりで真ん中に着いたものは一つもなかった。
「くそっ!」
「いや、まあ初心者にしては上出来だ。うむ……今夜あたりは東条に頼んでレミントンかベネリあたりのショットガンをメインにしたほうが良いかもな」
そんな結果を見て功刀は憎らしそうな声を上げたが九鬼はそれを冷静にたしなめる。それと同時に彼は自分の戦闘スタイルとは合わない「面」の制圧を功刀に 任せようかと思っていた。
頭を冷静にさせるために少し休憩を挟むと九鬼はおもむろに手本を見せてやる、と言うとルガーに新しいマガジンを込め、そして功刀と同様に両手で持って視 えるほうの目で狙いをつけると引き金を引く。 軽快に放たれた光の弾丸はターゲットへとまっすぐに向かっていき、そして同心円の中央に着弾した。
「すげえ……」
妬みだの僻みだのそういった野暮な感情は一切忘れ、功刀は九鬼の片目というハンデを感じさせない銃の腕にただ純粋に驚いた。
「まあ、訓練を重ねれば魔術のフォロー無しでもこんな曲芸じみたことを出来る。が、今のは忘れてくれ。俺としてはお前にはここまで行ってほしくは無い」
ふっ、と銃口を吹く仕草をして九鬼はそう言う。せりふの前半を聞いている間は功刀は呆気に取られているようだったが、九鬼の言葉の後半を聞くと功刀はな んともいえない表情をした。
「ここでのことは――そうだな、シェイクスピアじゃないが『夏の夜の夢』のようなものだと思ってくれ。お前のような前途多望な人間を
「いいか、科学の領域の外に存在する
複雑な顔をしている功刀の表情を横目で見ながら九鬼は続ける。
「いいな。これはほんの数日間だけ見た『あいとゆうきのおとぎばなし』だ。
九鬼が最後に言った言葉の迫力に押され、功刀は反射的に首を縦に振った。それを確認すると九鬼はそれで良い、と呟き功刀の手に再び
「さて、少し説教が過ぎたな。日暮れまではまだ時間はある。とりあえずもう何通りかそいつを撃って、最後にガバメントの慣らしうちといこうか」
そう言って九鬼は硬くなっていた顔の筋肉を緩ませる。するとそれまでピン、と張り詰めていた空気も元に戻ったような気が功刀にはした。
其れは邪悪なるもの。
其れは存在そのものが禍たるもの。
其れはヒトの
其れは自然の宿す邪悪が顕現したとモノだといわれるもの。
其れはこの世に生まれ落ちてから、己の存在理由を問い続けた。しかし答えるものはいない。
そして其れはやがて闘争を求めるようになった。その理由は……
「ハヤク……ハヤク……セネバナラン。コノママデハ……」
其れは焦っていた。「あの男」が現れた以上其れにはもう時間が無かった。少しばかり悠長にし過ぎていたか、そう思いながら其れは己の内側から己を蝕むも のにじっと耐えていた。
後書き
えー、どうも、INAZUMAです。
なんとかがんばって第伍話のロールアウトに成功しました。
で、えーと、すいません!何か相変わらず趣味丸出しな内容が半分近く占めていて……
次回以降は何とかなるように努力するのでどうか皆さん温かい目で見守ってください。あとついでに拍手からでいいですから感想もくださーい!
ではまた。
おまけ:銃器解説
第二回:Colt M1911(Government)
「ガバメント」の商品名で知られるアメリカ製大型自動拳銃。天才銃工として有名なジョン・M・ブローニングが開発したモデルをベースにコルト社が 各種改良を施したもの。
当時アメリカの植民地であったフィリピンで先住民族との衝突の経験から対人殺傷能力の高い.45ACP弾を使用する拳銃として開発され、 1911年に採用されたのがこのM1911である。その後第一次世界大戦での評価や指摘などを元に1927年からはモデルM1911A1に移行(現在市販 されているモデルはこれか もしくはさらに改良を加えたもの)。第二次世界大戦中にはコルト以外の銃器メーカーから果てはタイプ会社で製造されたという。
1985年にベレッタのM92Fが新たに採用されるまでアメリカ軍の正式採用拳銃であり続け、その後も現在に至るまで民間での護身用や競技用に警 察、さらには海兵隊等の 軍の一部の部隊で使い続けられている。またコルト社の保有していたパテントが失効した1986年以降はさまざまなメーカーが独自のアレンジを施したモデル を販売し、劇中に登場するキンバーやパラ・オーディナンスのものもそうしたモデルの一つであ る。近年ではコルト社のライバルメーカー、S&W(SW1911)に“SIG SAUER”ブランドで知られるザウアー社のアメリカ法人(代理店)、シグ アームズ社 (SIG GSR)もM1911A1の独自モデルを製造している。