公国かくたたかえり



 極地にて両者は対峙し、決裂した。
 一将の発言などどうでも良かった。
 かつて連邦こそが掲げた「宇宙入植」及び「地球再生」の貫徹という原則論を譲らない公国。
 あくまで政治的妥結点模索の場という認識しか持てない連邦。
 両者は完全な平行線だった。決裂は自然な帰結でしか無かった。
 戦争の継続が確認されただけであった。その地を冠した、戦いについての諸則が取り決められたのみであった。
 両者共に既定であったとも言える。特に連邦は侵攻対処への貴重な時間を稼いでいた。
 そして公国は……戦争を断念した。
 戦争継続。「地球侵攻」には何の勝算も無かった。もし例え「ジャブロー」を攻略せしめたとて、それが勝利を意味する保証はどこにもない。一時的に彼我の国力を縮める方策とは足り得るやもしれない、しかし。
 もはや、「戦争」により事態を打開する術は無かった。
 公国の艦隊は地球軌道に占位したまま不気味な沈黙を保っていた。
 程なくして連邦はその意味を理解した。
 南米、「ジャブロー」。連邦軍の本営に向け、軌道上からの間断ない打撃が不意に開始された。
 連邦代表部は直ちに公国に向け断固たる非難声明を発した。これは明白な条約違反では無いのか。
 公国の回答は簡潔なものだった。遺憾ながら、我が国は条約の遵守に意味を認めない、と。

 法とは執行者の強制力により初めて機能する。

 連邦と公国。そして公国は「戦争」を放棄した。

 無法国家結構、テロノイド大いに宜しい。
 勝てば、よいのだ。

 連邦軍は遂に、宇宙に残る最後の戦力、要塞「ルナ2」に残存する艦隊を動員するしか無かった。そしてそれは、短い交戦の後、ほぼ一方的に撃破された。

 小競り合いを制した公国艦隊は、月面基地「グラナダ」がマスドライバにより地球軌道に投げ降ろしてくる軌道爆撃の弾体を微調整するだけの退屈な任務に戻った。
 1週間ほどで南米は月面とあまり変わらない光景と成り果てていた。
 既に「ジャブロー」はその大小クレーターの一つでしかなかった。
 大気には大規模な火山噴火に相当する大量の粉塵が巻き上げられ、「核の冬」現象の危機が叫ばれていた。

 一ヶ月後、遂に連邦政府は公国に対し講和の可能性について自ら発議して来た。

 公国が交渉の地に指定したのは、もう一方の極であった。


 おしまい



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.