〜きーよーしーこーのーよーるー
聖歌流れる街角で、
ホームレスと見紛う薄汚れた外観の男が、ぼそぼそと唱えている。
神の愛を。
しかし、立ち止まる者も、目を留める者も居ない。
良く見ると年若く、しかもイケメンである。
ちゃんとした格好で愛を説けば幾らでもゲッツ出来そうなのに、ざんねんな青年だ。
此の国には既に愛が溢れている。
或いは生きる事だけに忙し過ぎる。
どちらにも、彼の言葉は届かない。
「おい、あんちゃん」
恰幅のいい、上品な身なりの壮年男性が足を止め、声を掛ける。
人生の風雪を刻みつけた古木にも似たその顔つきは柔和だが、眼光は鋭い。
「ええか、人間ちゅうもんはだ」
口を開き、続ける。
「“馬を、水場まで曳いていくのは誰にでも出来る”でもな、水を飲むかどうかはその馬次第なんじゃ、判っか」
男の言葉に、青年はにこやかに微笑む。
「有り難う。一杯、どうですか」
ふところから取り出し、500mmペットボトルを差し出した。
「おう、ごっそさん。ま、頑張り」
男は躊躇なくその半分ほどを一気に呑み下すと、そのままぶらぶらと歩き去った。
だが、受け取った青年の手の中で、ペットボトルはもう元通り満杯になっていた。
「どこでもワイン」
今は、大気中の水分子からそれを精製出来る。
西暦、2013年。彼は未だ、人類には早すぎるようだ。
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