Op.Bagration
0.
ピョートル・バグラチオン
帝政ロシアの軍人。ナポレオンによるロシア侵攻時にロシア帝国の将軍として第2軍を率いこれに対した。
ホラブルムの戦いでは5倍の敵軍と戦い麾下の半数を失いながらも、本営の退却を援護し敵軍を退けることに成功する。アウステルリッツの戦いで、バグラチオンはミュラとランヌによって率いられたフランス軍左翼と対峙した。アウステルリッツの敗北後も、アイラウの戦い、同年のフリートラントの戦いなどに転戦し勇猛果敢に戦闘を指揮した。
バグラチオン作戦
第二次世界大戦中、ベラルーシ(白ロシア)で開始されたソ連赤軍のドイツ軍に対する最大の反撃作戦である。長期戦により兵力を消耗していたドイツ軍は、膨大な物資を元に損害を度外視した赤軍流の電撃戦に敗走を重ね、同年7月末までには独ソ戦開始時の国境付近まで押し戻されることとなった。この作戦名は帝政ロシア時代におけるナポレオンとの祖国戦争で活躍した将軍、ピョートル・イヴァノヴィチ・バグラチオンに由来する。
この作戦以降終戦に至るまで遂に、東部戦線に於いてドイツ軍が戦いの主導権を奪回する機会は訪れなかった。
ドム乗りたいんスよね、ド・ム。
とまた、ジャルガ上等兵の”独り語り”が始まった。
苦痛というほどのものではない。レシーバの雑音だとでも思って聞き流してもよい。
なのだが、放っておくと際限ないから困る。
同意を求めるでなし、ただ自らのモビル・スーツ、MSへの思いを勝手につらつら延々呟き続ける。
私語厳禁、訓告対象とする降格するぞようやく上等兵になったのまた2等兵はいやだろが。
いろいろ試してみたがまず、効き目がない。少しの間おとなしくなるがそれだけだ。
「いや、ザクもそりゃ正統ってかもちろんスタンダード……」
MS−06、ザク。1年戦争でジオン軍の中核戦力を勤めた、彼の言葉通りMSの代名詞である。
「いまどき、ドムでもないだろう」
仕方なし、ゴイ曹長は合いの手を入れる。結局そうするのが一番マシだった。
「いやそりゃもちろん!ドムトロ乗りたいスよ」
ジャルガは眼を輝かせ声を高める。
地上用重MSの名機、ドム。ドム・トローペンはその改良発展型、最新鋭機だ。
が。
「判ってますよ、もしシートに空きが出来てもオレ以外の誰かが乗るっしょ。それぐらいは」
一気にトーンが落ちた。ぶつぶつぶつ。
「だから。ドムでいいですから、ジャンクで。自分でメンテして乗りますから」
「それもないな。お前に出来るなら誰かが整備して動かしてる。それに、ザクでもまだ働いとる、ドムならなおさらだ。」
イビるでなし、淡々とゴイは現実を言葉にする。
「いまどきドムでもないって……」
言葉のアヤだ。ゴイ曹長はすました声で流しながら。
「MSに乗りたいなら連邦軍に入ればいい。給料もちゃんと出るしな」
ジャルガは深い落胆のため息で応える。
「曹長どの、またですか。自分はただMSに乗りたいんじゃなくって、ジオンの為に戦いたいんスよ、オレも!」
そして。
「それに、アレ、ジムは好きになれないッスね。何というか、ホントウにただの戦争の道具じゃないスかアレ。えーとホラなんていうんですか、美学?、そう美学が無いんスよ美学が」
ジム。ザクに対抗すべく連邦で開発され1年戦争勝利の原動力となった連邦の主力機で、現在もなおその系列が現役にある。
「美学で戦争に勝てれば苦労はせん」
ゴイの言葉にはふだんにない固いものが含まれていた。
ジャルガは愚鈍な青年ではない。むしろ頭の回転は速い方だろう。特に経験もなく、ゼロから始めて短期間でいっぱしの整備兵の顔が出来ている。仕事でも、同じヘマを2度はやらない。
だからおそらく、自分が今どこで何をしているのか、見掛け以上に冷静に自覚しているはずだとゴイは思う。
そして、悪いヤツでもない。
なればこそ。
早いうち、今のうちに”まともな”道に戻してやりたいものなんだが、と父親のような感情で思うゴイだが、ジャルガには見てくれ以上にどうして意固地な面もある。
正面きって、抜けろ辞めろと説得をしたことはない。多分、ムダだろうし。その代わりとでもいうか、上官が部下を、ではなく教師が生徒をそれとなく諭す様な会話が、彼とジャルガの間では少なくない。
だが今、知らずゴイ曹長は半ば本音の、かつての鬱屈を吐き出していた。
「勘違いしてるなら教えてやるが、MSは戦争の道具以外の何者でもないぞ。そういう意味ではさっきのはジムと連邦軍への最大限の賛辞だな。戦争の美学が何だか知っているか」
「”戦争の”美学、スか?」
「最大効率。これが真に戦争”から”求められる”美学”だ。だからジオンは戦争に負けた。判るか」
ジャルガは軽い不満を浮かべた。
「連邦の、物量じゃないんスか」
「連邦の量に質で対抗しようとした。艦隊戦力をMSで叩き潰した。そこまではいい。ザクを倒す為に連邦はジムを投入して来たな。だが当時、我が軍の主力は既にドムに移行しつつあった。連邦はドムの対抗機を開発したか」
一息おく。ジャルガは不承不承首を振る。
「構わずジムを量産し続けたな。ジム・コマンドなんて上位機も出して来たがまあジムだ。対してジオンはどうしたか。ギャンだゲルググだモビルアーマだ水陸両用だとただでさえ乏しい国力を細切れにして自滅していった。ザクの発展型とドムだけ作っていられればもう少しマシな戦になったろうにな。ま、ブリティッシュがコケて長期消耗戦になった時点で勝ち目は消えてたんだが」
「曹長殿、それ、連邦軍の教本ですか」
ゴイは苦笑いを浮かべ。
「だからお前、冗談でも軽々しく”ジオン再興”なんて口にするなよ。特に古参の前ではな」
ゴイの言葉はジャルガをひどく惑わせた。それじゃ自分らは何の為に。ジャルガは小さく口の中で呟く。
「お前も整備屋の端くれなら現実的なモノの見方が出来るようになれ。意地や妄執じゃMSは動かんからな」
ジャルガはふと、辺りを見回しながら。
「これもその”現実的”な一環でありますか」
ゴイもプラットホームを減速させつつ周辺に視線を投げた。
「整備屋の仕事は規律に殉じて機体を腐らすことじゃない。規律をすり抜けて機体を動かすこと、だ。ああ、少し行き過ぎたかな」
プラットホームを完全に止めて辺りを見回す。物資の森で完全に迷子になったらしい。
しばらく途方にくれ上下左右を眺め回していた二人だったが、まず、ジャルガが動きを止めた。
動きを止めた。まるで凍りついたように完全に静止している。
「……曹長殿、あれ、なんでしょう」
ジャルガに軽く肩を叩かれゴイもそれを見た。
ジャルガの視線の先に自らのそれを重ねる。
視界に現れた物にゴイも動きを止めた。
コンテナだった。旧、ジオン軍の正規の規格のものだ。
だが、二人の視線はコンテナそのものではなく、昨日ステンシルされたかの様に鮮やかな発色の、真紅のジオン国章に吸い付けられていた。
何かの予感が、あった。
男はいつものように定時の5分前に姿を見せると、課員と短い挨拶を交わしただけで、席についた。
操作端末にIDとPASSを入力し、彼はすぐに作業を開始する。
そこは一見、どこにでもあるありふれたオフィスの光景に見える。
が、少し注意すれば、室内の何箇所か、中空にモノが置かれていることに気づく。
自由落下状態。外に広がるのは高真空、宇宙空間だ。
暗礁宙域。かつてコロニー群サイド5が存在したこの宙域は現在、その残骸及び、戦争により新たに発生した宇宙ゴミ、大は破壊され放棄された戦闘艦から小は戦闘時に排出されたカラ薬莢まで、様々なデブリがラグランジェ点に引き寄せられ集積された、非常に危険な一画となっている。
茨の園。
ジオン残党を一軍として糾合統率し、現在もなお地球連邦政府に対し頑強な抵抗を継続してる。
デラーズ・フリート。その本拠地がここに設営されている。
港湾部の整備区画に隣接して設置された補給区画。そこが彼の現在の”戦場”だった。
設置された……端から見る限りでは何の秩序も見出せないような、バラ撒かれたように雑然と物資、カーゴ、コンテナの類が、廃艦処分を受け現在はターミナル機能としてのみ運用、係留され余生を過ごしているパプア級輸送艦を中心に、その周辺を取り巻くように配置されている。
戦闘艦たちが集う勇壮美麗な港湾部の景観と見事に対照的な、それは惨めなくらいにみすぼらしくまた見苦しいありさまだがしかし、武器弾薬、整備消耗品から機体、兵士の為の糧食までデラーズフリートの作戦行動能力はつまりは総てこの一画に掛かっている。なればこそ常に全力稼動しており、美観にまで気遣うような余力は、ない。
それらをデータベースに情報として吸い上げ、自身を含め5人の課員で掌握、管理、運営している彼、ナンディ・ガレス課長、大尉の、管理職としての、そして部隊指揮官としての手腕は、まずまず評価されてよいだろう。
未読のメールをチェックする。見慣れないものが一通あった。
最重要、に更に至急、のフラグが付されたメール。
あまり例がない。ふだん使われるのはせいぜい注意、くらいで重要、も数えるほどの記憶しかない。
至急についてはさらに縁がない。内部の人間であれば無意味なことを知っている。全ての処理はまず例外なくシーケンシャルに扱われている。大尉がそれを徹底させている。ことにより、求められる最低限の秩序が生まれるのだ。
つまり外信か。
と、いうようなことを頭の片隅にひらめかせながら送信元に目を走らせる。
わずかに顔をゆがめた。
「整備部が?」
本隊付、A整備中隊、第二整備小隊、第一整備班、班長、ウェン・ゴイ曹長。
本文は短かった。
ID:SPTO−783−N−001167について至急確認されたし。
現在位置についてはビーコンを設置してきたので別添ファイルを参照されたし。
SPTO、だと。
ガレスは目を疑った。
ベルモントくん、と課員の一人に声を掛ける。
「はい、なんでしょう、課長」
マイカ・ベルモント軍曹。お世辞にも決して美人の仲間ではなく、といって可愛い、というのでもなく、しかし妙に愛嬌がある。有能なデスクワーカでごりごりとデータ処理をこなしている……然るべき組織に属すれば相応の給与が保障されるだろうに。大いに助けられているのでそれはそれで有難くはあるのだがしかしやはりなんでこんなところで働いているのか不思議な一人で、つまりは彼女も連邦が嫌いなのだろう。
「きみ、先週、公国関連の書類を一括処理してたと思うけど」
「はい、イメージ取り込みして原本はしまっちゃいました。何れも緊急性が低いもので。一部まだ未整理なのでローカルで持ってるんですが。至急ですか?」
「うん、直ぐに欲しい」
「了解です、5分下さい」
SPTO関連の文書ファイルは直ぐに見つかった。手際よく、文書のヘッダがファイル名にリネーム済みだった。
それは僅か数行のリストだった。しかもそれ以外の行が黒く塗りつぶされ、実質は1行の。
状態があまりよくない。原本ではなく、何度も複写を経たハードコピーだった。
ズームし、リタッチして判読出来た。ID:SPTO−783−N−001167。
そこまでだった。IDをIDとして、確かに管理物の一つなのだと確認出来ただけだ。結局、実際に現物のコンテナを開いてみなければ未だ内容は不明だ。
だが。
SPTO。南極条約関連物件。
その情報だけで十分だろう。コンテナの中身は。
どういう経緯だったのだろうか。査察から抜け落ち、秘蔵され。公国が崩壊する混乱の中、他の多くと共にこの地に流れ着き。
そして。
そう、そして。
彼は初めて気づいた。この情報が未だ自分の手の中にあることに。
ありきたりだが、「パンドラの函」という言葉が脳裏に浮かんだ。
なにか想像を超える揉め事の予感に、ガレスは衝動的にメールを消去しようとした。
辛うじてそれを思い留まらせたのは。
未だ抜き難い、ジオン軍人としての矜持。では、無かった。
そんなものはもう持ち合わせがない。乗機もろともソロモンで灼かれてしまった。
間近で太陽が爆散したような凄まじいまでの光だった。
連邦軍の戦略兵器、太陽光熱光学砲撃、ソーラ・システムによる照射攻撃が開始されたそのとき、彼の乗機、高機動改修型ザク2は配置転換の命令に従い戦闘ブロック間を移動中だった。
移動軌道上、二隻のムサイ級巡洋艦と反航で行き違っていたときに、それは起こった。
モニタが瞬間的にホワイトアウトし、次いでブラックダウンした。
何が起きたのか判らなかった。メインカメラが突然、死んだか不調になったのは判ったが、切り替わったサブカメラもただ白い光の映像しか送ってきていない。
いや、一方向からの映像はやや暗い。ムサイが影になっている。
影、だと。
判断以前の挙動だった。手足が自動で動き機体に制動を掛ける。ガレスの高機動ザクは”影”に留まった。
この刹那の機体制御が生死を分けた。
二隻のムサイが相次いで爆沈した。
そして一瞬、ガレスのザクも光の奔騰の中に飲み込まれる。
全てのカメラが瞬時に灼き切れ、機体表面及び外部の温度が爆発的に上昇するそれを伝えるセンサもあっさりダウンする。
が。
光は去った。ゆっくりとソロモンの地表を薙ぎ払ってゆく。
外部の状況を知る手段は無かった。ガレスはそれを、未だ自分が生きていること、機体が爆発していないこと、として確認した。
機体も何とか無事。では無かった。
まずプロペラントタンクが危険なまでの温度上昇を警告してきた。緊急冷却。反応無し。推進剤緊急投棄。結局、推進剤残量の半分以上をリリースして何とか収まる。機体温度も幾らか下がったようだ。
だがアラートはそれ一つでは終わらなかった。機体各部の動作部、腕部や脚部のアクチュエータも駆動系制御系共々次々と悲鳴を上げて来た。機体背部の、命の綱、最も重要な推進用メインモータの様子も怪しい。手の付けようがないアラートの連鎖であっという間にきらきらと”クリスマスツリー”が輝き始める。
まずいな。背筋が冷えるような予感と共にそれは来た。突然発生した加速の感覚。
メインモータの暴走。
それは1分を切るほどの短い突発事故だったが、現在位置も方位も確認出来ない状況では致命的だった。もはや完全な宇宙の孤児だ。
戦闘行動など思いもよらなかった。何とか生き延びたがこのままでは漂流した挙句の酸欠死が待っている。
たぶんムダ、とは思いながらエマージェンシーシークエンスを機械的に実行。何も解決しない、が、予想通りなのでとくに落胆もない。煩わしいだけのでアラートを全てカット。少し、落ち着いた。
とりあえず外部の視界を確保しないことには仕方がない。広大な宇宙空間で唯一のセンサが己のアイボールのみというのはかなり厳しい状況だが。
機内のエアを生命維持系に吸引し、ハッチを開放する。
それでようやく、機体がゆるやかに回転していることに気づいた。熱循環にもなるのでそのまま放置する。
ソロモンが、視界に現れては、消える。
無数の光条が虚空を切り刻み、ソロモンに突き立つ。連邦軍のビーム兵装による射撃、砲撃。
また光か。くそ。
開戦劈頭、ザク1で参加した戦闘で、セイバーフィッシュを3機喰った。
南極条約の締結という小休止の後、戦争の継続と地球本土への侵攻が決定すると、当然、彼も地球方面軍への配属を希望したが、ガレスに与えられたのは宇宙専用新型機への機種転換任務だった。
一月ほどの訓練の後、新型機を受領し前線に戻った彼を待っていたのは、磐石となった公国の制宙権の掌握。封じ込めた宇宙唯一の連邦側拠点、宇宙要塞「ルナ・ツー」封鎖の任に配備された艦隊での、退屈な哨戒任務だった。
もしかしたらこのまま戦争が終わるのか、と、今から思えば夢想じみた思いを抱きつつ日々を過ごす間、地上での戦況は次第に悪化していった。
そして、オデッサの失陥、続くジャブロー強襲の頓挫で、地上での、そしてこの戦争での公国の敗勢は明らかになった。
取り敢えず、地球軌道上での制宙権の奪還、確保に動く連邦と、地上からの撤収とそれを支援する公国で地球軌道での交戦が頻発する。
自軍の劣勢という不本意な局面ながら、それでも、ようやく公国の為に戦える、そう思っていたが。
ガレスの所属する部隊は、ソロモン防衛の為の戦力として早々に後送が決定された。
歯軋りしつつ、遂に今日という日を、ソロモン防衛戦のその時を迎え。
何をしているんだ。
人々の愚行に関わりなく、太古から天を照らす。巡る星空を、ただ眺めている。
機と共に、自分もあの光に灼き尽くされてしまっただろうか。
ソロモン放棄、の宣言も聞こえたような気がしたが、よく覚えていない。
『そこの高機動ザク!生きているのか死んでいるのか、生きているなら応答しろ!』
それからしばらくして、何度も呼び掛けられているのにようやく気づいた。
ソロモンから撤退する戦力の内の一隻。パプア級補給艦だった。軌道前方をまるで漂流するように航行している機体を発見、コールしてきたらしい。
どうやら偶然、公国の最終防衛線、要塞「ア・バオア・クー」に向かう軌道に乗っていたようだ。
一命を取り留めたとはいいながら或いは、そうして補給艦に拾われたのが”運のツキ”だったのかもしれない。
何とかパプアへ着艦は出来たものの、予想通り機体はどうにもならなかった。点検し、ざっと見積もってオーバーホール、パーツもあらかた換装しなければならないだろうことが直ぐに判った。パーツ取りにも使えない完全なジャンクだった。他に方法もなく、その場で投棄された。
そして、自機を失ったガレスに次のシートが回されてくることは無かった。
敗走と敗勢。元から脆弱だった公国の軍制は混乱から崩壊に向け突き進んでいた。ソロモンに派遣されていた戦力の一員が、装備を失い生還したといって、原隊に復帰させ再び装備を与え再編成する、等の、軍隊としての当然の機能が既に麻痺していた。
ガレスはそのままなし崩しに、拾われた補給艦で戦争に参加することとなった。後方部隊は正面以上に戦力不足でその補給艦も当然のように充足割れ状態で、ガレスでも出来る事がいくらでもあった。
「ア・バオア・クー」で戦われた激戦では、補給艦としてではなくMS母艦戦力の一翼として投入された。
よし出来た出せ、次!。MSと艇がほぼ切れ目無く発着艦し怒声と物資と人員が飛び交う、弾が飛んでこないだけでそこも間違いなく激戦の場。
そのさなか。
「ああ?ギレンザビが死んだぁ?!」
さすがにこんどこそこれで終わりだ。
そう思っていたら艦がMSと戦闘員に占拠された。
殆どの正規の補給要員が退去する中、なぜ艦に残ったのか。自分でもよく判らなかった。
だが結果として、自分もまた形を変え、徹底抗戦を続けている。
その自分が。
兵でもなく、職業人としてでもなく。
自らの内に一瞬兆した、小役人の自己保身にも似た薄汚れた心の動きに、嫌気が差した。
”貴重な情報提供に感謝する。可能な限り早急に然るべく対処する。”
彼は短く返信すると、それ以外の未処理のメール、案件に一通り目を通し、必要があれば返信し、また処理した。
30分程の作業の後、彼は席を立った。
「少し現場に出て来る。何もなければ1時間くらいで戻る」
もちろん、部下に作業を任せて事後報告を受けることも出来たが、自身で立ち会う気持ちが固まっていた。
もしそれが推定した通りのものであれば。
或いは。
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