Op.Bagration
17.
南米、ジャブロー。
地下深くの全没構造にあって陽の光とは無縁の世界だが、環境に配慮して、純軍事施設を除く生活空間に対しては、官舎を含め太陽光と寸分変わらない照明が降り注いでいる。
勿論照明は時間に応じて変化する。星空も映し出す。
今は、その部屋にも窓から、西日に似た光が差し込んでいた。
将官に与えられるものとして広過ぎもせず、適度に十分な空間。
部屋の調度は質素ではあるが、冷たい感じはしない。執務卓の上には洒落たデスクスタンドがあり、また、脇にはなかなかに作り込まれた、帆船のオブジェがあるのが目に付く。
ビクトリア号。人類初、地球一周の偉業を成し遂げた、僅か4隻で出港したマゼラン艦隊唯一の、生残艦である。
最後に座乗指揮した艦、マゼラン級の艦名がそれだった。退艦の際、クルーから寄贈されたものだ。今もホコリ一つなく、大事に扱っている。
ア・バオア・クーで中破しながらなんとか生き延びたその艦も結局、コンペイトウ沖に沈んだらしい。
今はまだ部屋の主であるジョン・コーウェンは手を止め、ふとその帆船を見た。
よく出来ている。
そう彼も誉めていた。今もスペインに停泊している現物を単純にスケール・ダウンしたのでなく、僅かなデフォルメが生きている、と。
『ジオンに兵無し』
コーウェンは独り、苦い微笑を浮かべる。
それは、ルウム戦の、その”大敗”について開催された公聴会での席上だった。
彼は総てを受け容れ、一切、弁明の言葉を発しなかった。
今後の彼我の趨勢について、貴官に意見があれば伺いたい。
半ば弾劾裁判、言論を用いての公開処刑と化したその一幕の最後に発せられたのが歴史的な、運命的なその質問だった。
彼は静かに語った。
私はこの眼で、ジオンというものを見て来ました、否、見せられて来ました。彼らは私に、自らの強大さ、精強さを伝えたかったようです。しかし、私には別のものが見えました。敢えて申しましょう、ジオンに将無し、また兵無しと。皆様御存じの通り、軍というものは一日にして、或いは高性能な兵器によって成るものでもありません。彼らは余りにも若い。その若さは強さでもあり、それを頼んでの、今回の事態でもまたあるのでしょう。しかしながら、私たち同様、いやそれ以上に彼らも疲れ果てているのです。現在の彼らにこの地球への、侵攻の意思も、また制圧の能力もありません。彼らの、ザビ家の犯した数々の暴虐については、私も言葉がありません。それを咎めるも、正しく正義の道でありましょう。さりながら、既に我々同様彼らもまた、これ以上の戦いを望んではいないことについて、身命に賭して、確信しているところでもあるのです。
『公国は現在、攻勢限界にある。そして彼らの戦略に地球侵攻は存在しない。名誉と理性の講和か、それとも苦難と無慈悲な継戦か。その決定に従う』
『ジオンに兵無し』
穏やかに確言する、であるが故、見る者に安堵と自信を与える彼の姿は、瞬く間に地球を席巻し、埋め尽くした。
熱狂の中選択されたのは暴虐のザビ家独裁体制を討つ、粉う方なき正義であった。
シビリアン・コントロールの回答がなされた後の彼は、闘将そのものだった。
主戦派の神輿に自ら喜んで乗り込み、そのまま驀進した。MS戦力整備の先鞭を付け、艦隊の再編成にも目処が付くと、オデッサ奪還では自ら陣頭に立った。
その時彼は既に地球の、救世の英雄だった。
何故ですか。何故この上、貴方が前線に立つ必要があるのです。貴方こそが南米に在って、いまこそ大局を見据える座に就くべきではないのですか。
あの日この場で、コーウェンは烈しく詰め寄った。
胸中には期するものがあった。
誰にでも解ける算数の結果は、今揺ぎ無い形で実現化している。
我が方には既に、戦後を睨んでの構想を画く余力さえある。
戦後体制、それは。
彼を。
もう一段高く担ぎ上げ、そして一気に……。
だが、彼が発した余りにも当然の言葉が、コーウェンの決意を溶かし去ってしまった。
軍命だからな。
全く感情を含まない、乾ききった一言だった。
すんでのところで、コーウェンは救われたと思う。そして言った。
貴方はまるで、サイゴーの様だ。
サイゴー、と繰り返し、ああと漏らすと混ぜっ返してきた。
私は悲劇の英雄は嫌いだ。ロジェストヴェンスキーももう懲り懲りだ。同じジャップならそうだな、今度はトーゴーでも演らせてくれないか。
笑った、実に楽しげに。
それにこれは。
向き直り、柔らかい目で見つめながら。
私の戦争なんだよ、ジョン。
ぽつり、と加えた。
月方面軍第5艦隊所属第58任務部隊。
司令座乗艦、マゼラン級「カリスト」。
プレ・ビンソンでも前期型に類別される、所謂”ジュピター・シスターズ”の希少な現役艦である。
貴重、ではない。艦歴も名誉や栄光とは程遠い。
整備不良でルナ2に留まり、ルウムの惨禍を免れたはよいが続く逼塞、閉塞の日々。遂に現れた開囲軍に合流、グラナダまで共に攻め上がったが戦働きらしき戦果はこれが唯一。後輩たちに押し退けられ、終戦復員軍縮の煽りもあり優先度は常に最底辺。改装の順番を夢見つつ、新兵を乗せてみたりにわかアグレッサーを演じたりしながら艦籍簿とモスボールの間を彷徨うような、寄る辺無い航宙を続けながら今日という日を迎えている。
旗艦に選定された理由は、まずルナ2退避中、ヒマに飽かせて増強された対宙火力が以外に優秀であること、そして、戦訓を反映しつつも、工程短縮を含め簡略化の方向で再設計されているビンソン型に比べ、前時代的な意味でのそれだが、フェイル・セーフの冗長余力やダメコン等を評価すれば幾分、より堅牢であること。最後に些細だがジオンのドクトリンに照らして、露天繋止以外MS運用能力が確認出来ない当艦に対し、評価の低減、及び攻撃優先を下位に設定されるであろう可能性を期待し得ること、となる。
要約すれば陣形の中央にあって、あらゆる材料を用いて生残することを目的としている。
怯懦ではない。旗艦とはそうした性質のものだ。永年、最強艦をその座に据えて来たIJNも最後はそれを理解し、通信機能を充実させた軽巡を選んだ。前時代、世界最強を誇ったUSN第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」に至っては、群立するアンテナと情報を操作する大量のスタッフ、C4Iをそのままに体現する存在まで適応進化を遂げている。
万年准将として冷遇されていたのを今回コーウェンにより特進され、司令に据えられたブレックス・フォーラ中将も、決して猛将の類ではないが戦意に欠ける将ではない。
しかしながら、艦隊に司令の持つ闘志が横溢しているかといえば、難しい。
旗艦がそうなら他も似たモノ同士で、錬度に深刻な不安を抱える艦に”持病”持ち。PoWばりに整備員を乗艦させている艦があれば、カラ船に錬度は信頼出来るが艦隊勤務は未経験の基地部隊を搭載した臨編母艦も居る。勿論、全艦で作戦行動を取るのはこれが初めて。
もっともらしくフリートナンバーを付与されているが内実は斯くの如し。どこからも引き取り手が無かった”戦力外”を掻き集めて何とかそれらしく見せている、見せたい見て貰いたい。これこそ正に、DF情報参謀の評価による稼動全力の全容だった。
艦がそうなら搭載機も推して知るべし。上はジム改(ジムカス完売)から下はザニーまで、バラエティに富むというか控えめに評して、否応なし、力いっぱい間違った方向に”コンバインド・アームズ”している。まあ史実でも正面戦力として複葉機と単葉機とジェットを同時代で同時並行運用した軍隊も存在するがそれはそれ。
レイテオザワかラスカンか。哀愁漂うが零落すれば大抵何でも誰でもこうなる。
「我々の戦いが尋常ならざる事は諸君も既に知る処であると思う。今、勝利は必要とされていない。1秒でもよい、敵から時間を奪え。1発でも多くの射撃を誘発し、疲労を与えよ。唯の一艦、1機をも喪われることを私は許可しない。生き延びよ、その努力を尽くし責務を遵守せよ。各員に一層の奮励を期待する」
敵機襲来の交戦開始前、発せられた訓辞は悲壮を越え、苛烈に響いた。
規模は約1コ大隊。現在確認されているDFの陣容から推計すれば、これはほぼ総攻撃と評価してよい。
しかしフォーラは内心安堵の思いがあった。
何とか喰いついかせた。この上は……。
戦況表示に潜む違和感にフォーラの思索は止まった。何だ、この敵は。
戦爆連合では、ない、だと。
「いかん!、ここは」
退け、エリアディフェンスと連携し深く守れ。
言葉を呑み込む。間に合う訳がない。
見切られた。智将は独り、自身の過誤を噛み締める。
当然、艦隊を守るべく前進布陣した直援群は思わぬ異変に見舞われていた。
敵は突破の素振りも見せず全力で殴り掛かって来た。
どういうつもりだ、こいつら本当にジオンなのか。
当惑の中、直援各機は全力迎撃で応じる。
だが、質量共に圧倒され、一方的に蹴散らされた。敵はアタッカーを含まず、編成全機をインターセプターで固めていた。質でもそうだ。ジム改は何とか互角にやれているが、敵は14改。ましてジムコマ、ジムではひとたまりもない。おまけにMA、さんざんウワサに聞いていたビグロ改まで参加していた。
時間すら無駄にしなかった。スコアも追わずに整然と後退する敵を尻目に戦闘が終わる。交戦時間は5分を切った。
フォーラは予見した結果を苦渋と共に追認していた。
被撃墜こそ免れたものの、部隊は深刻な損害を被っていた。
ほぼ総ての機体が例外無く損傷を受けていた。軽微なものもある。しかし現時点で過半が要整備状態にあった。
コーウェンから受けた命令は、遅滞だ。
可能な限り現有戦力の維持に努め、かつ脅威として敵に急迫せよ。
矛盾だらけの内容だが現状を認識しているフォーラは、その意味する処の意義を理解すると共に、遂行に向け精励している。
艦隊特攻に擬した遅滞防御作戦。だが。
ファイター・スイープとは。ぬかった。
ジオンという軍隊の性質を硬直的に捉え過ぎていた。否。
フォーラは痛恨の思いで自身の錯誤を突き付けられる。
あれはジオンではない。ジオンの敗戦を受けて戦い続けている、デラーズ・フリートだ。
フォーラは非情の作戦頭脳を巡らせる。
戦力維持には既に失敗した。
だが。撤収が許される状況ではない。
可能な限り、戦力回復を継続しつつこのまま距離を詰め。
敵が我が方を殲滅に掛かる機会を捉え、逆檄を加えるしかない。
しかし、とフォーラは当然の疑問を思う。
ルナ2はどう動くつもりでいるのか。
現在、作戦局面に於いて、連邦軍最大戦力を掌握する、ルナ2。
そのルナ2もまた、既に南米の指揮下には無かった。
コンペイトウを支配下に置いたジャミトフ・ハイマンは次いで、自身の右腕であるバスク・オムを大将に叙した上でルナ2の指揮を命じた。
当然南米はこの人事を不当とし、完全に黙殺したのだが事後、ルナ2は一切の呼び掛けに応じず、南米に対し音信不通となった。
事態にあって不気味な沈黙を続けるルナ2が、バスク・オムの統制化にあることは明白だった。ここでもまた、クーデターは準備されていたのだ。
そして、デラーズ・フリートによるコロニー略取に際し、初めて自ら意志を表明した。
『これよりルナ2の戦力を展開し、デラーズ・フリートを捕捉殲滅する』
それは一方的な宣言だった。
作戦及び投入戦力についての、コーウェン及び南米の情報要求について、
『我らが全力を以って、迎撃する』
との回答のみで、内容については明かさず、再び沈黙に戻った。
暫くして、ルナ2より大規模な赤外反応が観測され、解析の結果、全力出撃に近いその戦力規模が確認された。
コーウェンの役目も、終わった。
少しの物思いに日が暮れ、スタンドが灯っていた。
コーウェンは書類棚に目を移した。
そこには数ミリの厚さに達する、公文書の束があった。
その1枚1枚に対して逐一、理由と経緯と結果を説明した上で、情理を尽くして侘びの言葉を探さなければいけない。
何回銃殺されれば始末がつくのかも見当が付かない、軍規違反の山、その証拠が目の前にあった。
今日まで傷一つ付けずに来た経歴が、僅か数分で墨より黒く汚れてしまった。全く、慣れないことはするもんじゃないがしかし、我ながらよく仕出かしたものだとコーウェンは
奇妙に感心する。
彼が生きていれば、何かが変わったのだろうか、と思うときもあった。
政治の責任を、軍人が取ることは正しく必要なのかと。
彼は黙って従った。
結局俺もそうすれば良かった。少し騒いでこの有様だ。
だがこれも悪くはない、とコーウェンは思う。
勝報に接し、少し明るい空気がある。
グワデンCIC、作戦情報室。
作戦が成功し、参加将兵全員に勝利を贈る。
営業が成績を出すように、それは職責として求められる結果ではあるのだが。
単純にやはり、嬉しい。参謀冥利に尽きる、至福の時間である。
「さて、どうするかな」
「素直に退いて貰いたいもんだ。これ以上苛めても仕方ない。勇気ある決断を望むね」
「ムリだな。敵はまだ一度も殴っていない。距離を詰めるしかあるまい」
「第二次攻撃ノ要アリト認ム、ね」
「もう一押しで潰せるって?まあそうしたからな」
「母艦はともかく、迎撃機はあまり質が良くなかったようですね。N型は使い切っているようです」
全力出撃に近い攻撃で敵に痛打を与え、部隊は損害皆無、全機全速発揮で帰還途上にある。
現在、艦隊はほぼ丸裸だが、現在の情報からも、その延長線上にも脅威の存在は認められない。
彼らはもう少し慎重であるべきだった。
敵もまた勝利を渇望し、それに向け努力を積み重ねていることに対して。
宇宙という戦場において、その戦力投射範囲は意味を持たない。それは無限遠を有する。
勿論、様々な条件によりこれは実質的な制限を受ける。
一つは交戦可能時間能力。
一つは軌道の選定による往還能力。
上記2要素を無視出来れば、初期の命題が成立する。
これは可能か。誰にでも判る様に不可能だ。勝敗に関わらず作戦の度に常に一定戦力を確実に損耗する事を条件付けられた軍隊など存続出来ない。無制限の損耗により崩壊するしかない。
では、この制限要素はどれだけ緩和可能であるか。
示唆するものは以外な場所にあった。
地球戦線で公国が示した奇抜な戦力運用がそれだ。
本来は爆撃機であるドダイ。その積載余力を利して、あろうことかその上にMSを搭載して見せたのだ。なかなかの効果であり、地球圏では何かと阻害要因の多い公国側MS戦力の機動範囲を大きく向上させると共に、限定的ながら航空作戦能力をも獲得していた。
連邦軍は考えた。我が軍でもこれが出来ないだろうか。
地上で必要とされたものではない。ロジスティクスは始終彼らのものであり、部隊の移動や展開で解決すべき課題は特に発生しなかった。
やはり宇宙だ。
MSは、母艦の存在によりその運用を拘束されざるを得ない。
その制限を脱した、MS単独による高速打撃軍が構想され、実現に向け動き出していた。
「ふん、グラナダが少しは働いてくれたらしいな」
チーム・アルファを率いる部隊指揮官は一言で状況を要約する。
「よし、1隻でも多く喰って帰るぞ。全機突入」
チーム・アルファはジムカスのセンシング向上機、ジム・クゥエルにより編成されている。ブラヴォはジムキャノン2。
各機はプラットホームに搭乗していた。宇宙砲台、「バストライナー」として開発されたものから砲を撤去した、推進部を原型としている。
僅か2コ中隊、18機だが部隊は最精鋭だった。
連邦宇宙軍特別武装警務隊。
通称、「ティターンズ」
デラーズからの要請を待たず直ちに全機全艦が全力迎撃に移行する。
そして彼女自身も即断していた。「私が出る」
当然の様に沸き上がり掛ける喧騒を一喝し、宣した。
「これでハマーン・カーンもアクシズの総帥だ。指揮官先頭はジオンの習い、愚昧なれど、私も一度立って見せねば兵も納まるまい。寧ろこれは好機なのだ。私は出る。続く者は続くがよい」
懸命に阻止線を張らんとしてあっさりと撃破されていく再生機らしきものや06、09改もものの数ではない。
アルファの突破に追随してブラヴォの中で先行していたその機は、イヤなものをセンシングしてしまう。強い反応。MAが1機、あもう1機。
1機は同定出来ない。コロニーはコイツにやられたのか。もう1機は。
同定した。
ありえない。ライダーは自身の知覚を疑った。なぜだ。というかこのデータ入れたバカはどこのどいつだ。
「出撃要請ですが」
操艦というより副官に近い位置にいるコッセルが告げる。定時連絡であるかに平静に。
「発艦準備中。そう伝えな」
強い調子で応えながらシーマは席を立つ。
「どちらへ」
「デッキに行く。発艦準備だよ」
急ぐ様子も見せず、シーマはCICを後にする。
しかし内心には烈しく立ち騒ぐものがあった。
歴史が……今あたしの手の中にあるのか。
「……トンガリボウシ」
空耳か?。
「誰だ!作戦中に私語をするな」
ばかやろう、あれが見えないのか。センシング・レンジの差異を忘れたライダーは絶叫する。
「居るんですよ!あそこに!あのエルメスが!!」
便利なものだ。想うだけで動く。
彼女は視る。それだけで判る。
ひときわ強く輝く、意思の存在。おまえがそうか。
墜ちろ、俗物。
エリアリーダー、撃破。
「NT!!」
警報が飛び交うが、無力だ。却って恐慌を掻き立てている。
「マジか、マジなのか?!」
「ずるいよずるいよ」
「ジオンめ!化け物め!!」
「待て、退るな!勝手に後退するな!」
NTの恐怖はアウトレンジの一言に尽きる。
もし、互いが交戦可能距離にいれば。つまり先にも上げたセンサが有する分解能の範囲であれば、その、敵機の姿勢情報から戦闘情報支援システムが脅威評価を助け、射撃準備を見つければ警報の一つもくれる。
だが、NT相手にはこれが全く通用しない。
1機のNTが戦場を支配する。
連邦が恐れ続けてきた悪夢が、再び現実化しようとしていた。
その機はブラヴォの後端にあって、真っ先に逃亡し掛けていた。
全力発揮の寸前でそれに気付き、我に返る。
友軍機?あんなところに。
一条の射線が戦場を縦貫した。
「外したのか」
意外そうに射手が呟く。
その機体は旧型の、しかも実験機だった。
元型機は一度、公国の工作活動により破壊されている。
しかし戦後その機は、その者の為に再び用意されていた。
RX−78NT−1。
ペットネーム、「アレックス」
ジオン残党、デラーズ・フリートに加えアクシズの参戦。
敵がNTを投入して来る可能性は低くない。
マゼラン1艦をブースター代わりに使い潰し、大量のタンカーと共に。
彼もまた、投じられた。
2射目を狙いながら。
NT−1は緊急回避。
「バカモン何をする味方だぞ!!」
激昂するサブ・リーダーはしかし、別の機に背中から沈黙させられる。
NT−1を狙い撃った機は仔細構わず回線を開く。
「聞こえているか。あれは私の女だ」
「誰だ、何を」
「ハマーンはやらせんよ、アムロ・レイ!」
「……シャア、なのか」
「ララァを殺して、まだ判らんというのか、アムロ!!」
その一言は、アムロを白熱する。
「おまえが、おまえが言うのか!!シャアァァ!!」
「退がれハマーン!この男は、我々を、我ら総てに仇為す魔物だ!!」
声ではない。しかしその意思は確かに、届いた。
「言わせておけば!!」
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やっちまった。
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