Op.Bagration


 18.

 ピケット外郭のさらに外、の戦況はよく判らない。
「ルナ2からの威力偵察だった模様です。アクシズの部隊により迎撃、撃退に成功した模様。」
「戦果、確認撃墜2。被害、被撃墜4、サルベージ中」
「カーン総帥より直接入電です。お廻してして宜しいでしょうか?」
 デラーズは一つ頷く。
「喜んでお受けしよう」
 いいながらデラーズは席を立つ。現れたハマーンに向け直立不動で見事な敬礼を捧げる。
「総帥直々の御親征、恐悦至極にあります!」
 少女総帥は柔らかい笑みを浮かべた。
「よい経験だった。ハマーン・カーンもこれで武と勇の有るを示した。貸し借りは無しだ、よいな、エギーユ」
「仰せのままに」
「それではまた、後に」
 通信、終了。
 席に着き直しながらデラーズは密かに感心する。初実戦を微塵も感じさせぬあの悠揚。これが器か。

 胆力の限界だった。
 直後。
 堪えきれず、彼女は激しく嘔吐していた。
 同時に慟哭していた。
 撃墜の直後、敵機ライダーの思念が彼女に雪崩れ込んで来た。
 妻が、息子が、生まれたばかりの娘が、その帰りを待っていた。
 苦痛、無念、恐怖。
 周囲のライダーがそれを増幅した。
 敵、味方。
 その1戦力単位それぞれの背後にある、膨大な関係。
 理屈では判っていた。
 判っていた、はずだ。
 兵というものは。
 戦争というものは。
「たすけて……あなたならそれができる……」
 
「次!本隊が来るぞ。着艦収容急がせろ!」
 防空統制官が声を張る。
「準備出来次第直援に上げろ。こちらから叩く機会はない。全機全機種全力迎撃だ!」
「ガトー少佐より前進配備の申請」
「許可する。突出に注意」
「来た、来ました!反応多数!」
「ガトー隊、交戦突入!」
「直援急げ!」

 まばらな06に交じる強い、反応。
 コイツが”コロニー殺し”か。確かに厄介そうだが、この数なら。
「各機。06は無視して構わん、エスコートはMAに集中。アタッカーの突入を支援する」
 第一派を率いる連邦エリア・リーダーは断を下すが。
 相手が悪過ぎた。

「敵第一派、撃退に成功した模様」
「ガトー機全弾射耗。少佐、帰還します」
「直援展開開始します」

 デラーズが口を開く。
「ガトーを休ませよ」
 作戦に初めて、総指揮官が指示を出した。
「別の者を出すように」

「続いて来ます!第二派です!」
「ヴァル・ヴァロ、出撃準備完了」
「投入を許可する」
「ノイエ、準備よし」
「出せ。但しゴールキーパーだ」

 デラーズ・フリートの対宙防御戦闘は成功していた。突入に成功した機はレズナー搭乗のノイエ・ジールが確実に撃破していく。
 しかし、DFの全力防御に対する連邦の断続打撃は、確実な損耗を与えていく。獲物はヒートホーク一振りという機が居れば、現地調達、鹵獲ビームライフルを撃ちまくっている者もある。
 その破断限界は誰の目にも明らかだが。
 それでも、進むしかない。

 既に深夜だが、手元のスタンド一つで済ませていた。
 作業は終わった。作文は得意な方だ。
 流石に少し疲れを覚え、コーウェンは軽く眉間を揉んだ。
 自決の気概がない彼では無かった。
 例え無駄でも、自己満足であろうと、最後まで部下を護る舌だけは残したい。
 いや。
 天井を、その先に続く遥かな戦場を見ながらコーウェンは詫びた。
「すまん。私もすぐに行く」

 目を閉じ、息さえ止め。
 無音潜行の如く静かに。巡航ミサイルの如く確実に。
 そのものは忍び寄った。
「全軍全速!!突撃!!」
 相対速度で身を包んだMCを突き破り、戦場に浮上する。

「ソロモン方面だと?!」
「ばかな今更。敗残か?」
「違います!あれは、あれはガラハウ中佐から報告があった……!!」

 唯一度。用いられた秘話交信でコーウェンは次げた。
 グワデンと刺し違えてもよい。デラーズの首を獲れ。
 彼は一言、応じた。
 Sir,yes,sir。
 コロニーは所詮巨大なデブリだ。作戦目標はあくまでDF。
 そしてその指揮官、作戦頭脳たるエギーユ・デラーズ。
 デラーズの排除に成功すれば。この戦いは終わる。
 グラナダとの連携も最後まで考えた。
 だが、今度こそ察知されるわけには、サイドローブを拾われる危険を冒すことは出来なかった。
 最後までその存在を秘匿し、可能な限りまで距離を詰め。
 艦隊特攻。
 無論。特攻であることを知るのはシナプスのみ。

 彼女は既に部隊を引き連れ発艦し、艦隊に同航していた。
 飛び交う平文を醒めたまま聞き流している。
 来たか、アルビオン。
 これでグワデンは沈む。デラーズも死ぬ。
 そしてジオンは再び、負ける。
 あたしはそれをここで眺めていればいい。
 最高の舞台だ。

 本当に、そうなのか。

 違う。
 デラーズは私がこの手で。
 違う。違う。
 違うんだ。
 本当にこれでいいのか。
 デラーズは死ぬ、ジオンは負ける、あたしは満足だ。
 満足。これで。
 冗談じゃない。
 これがあたしの運命だというなら。
 いまこそ、変えてみせる。
 決して忘れはしない。しかし。
 シーマ機は一瞬、背後を。
「グワデン」を、見る。
 勝たせてやるよ。
 命冥加なやつ。せいぜい苦労しな。
 隊内回線を開き、発する。
「さあ出番だよ、しゃんとしな!」続けて訓じる。
「征くよおまえたち!敵はあのガンダムだ!相手に不足はない、これで値も釣り上がるってもんさ!!」
 機体は新型。燃立つ真紅。
 GPの異母兄弟、ガーベラ・テトラ。
「あ、あの。化け物はどうしますか」
「化け物同士でやらせるがいいさ」

「ガラハウ中佐より入電。ワレゲイゲキス。以上」
 CICにどよめきと、それを圧する歓声が挙がる。
 そうか。
 デラーズは暫し、瞑目した。
「合戦準備!左砲戦!」
 艦長が対艦戦闘を呼号する。
 だが準備だ。「グワデン」は厚く護られているが故に、今は火力発揮の余地はない。

「キース!頑張りすぎるなよ!アデル、面倒を見てやれ。ライラは火消しを頼む。ベイトとモンシアはライラから離れるな」
 ここは艦隊戦の支援だとバニングは割り切る。
 敵は輪形、我は横隊。
 砲力で我が方が優る。
 これを支えきれば、押し切れる。
 直援が、来る。

 コウが受けた命令はシンプルだった。
 グワデンを喰え。それだけだ。
 誰もコウに向かって来ない。
 ただ、1機を除いて。
 発信は完全封止だったが傍受はしていた。
 ”コロニー殺し”この機が。

 GP−03の存在はDF側でも早期の段階で察知していた。
 作戦そのものを阻害し得る、重大要素として。
 機体そのものを抹殺する工作も行われたが、失敗した。
 ケリィ・レズナーもそれを知っている。

 この機は脅威に過ぎる。
 俺が当たらなければ。最悪、相討ちでも。
 コウは決意する。
 ** crossrange? **
 近接戦闘、ホント?。
 承認。

 コウはだめか。あれで十分だな。
 バニングは戦場を見渡す。
 正攻法か。このまま押し続ければ。
 また1機落ちた。
 バニングはそれを見た。識別不能。
 新型か。指揮官機か。
 赤いの。

 シーマもそれを見た。
 フルバーニアンか。
 それが全力か。
 おいで、ガンダム!。

 その艦は戦い続けて来た。
 ソロモンを、ア・バオア・クーを。ガトーと共に。
 そして今、軽巡の身でありながら戦艦を、「グワデン」を護り抜きその使命を終えた。
 立派な最期だった。
「 ペールギュント、轟沈!!」
 悲痛な報告に。
「陣形を崩すな」
 艦隊司令が冷厳に発する。
「回収急げ」
「それが……脱出の形跡がありません」
「再度、命じる。脱出を許可する。徹底せよ」
 デラーズが重い声を出す。
「復命、脱出を許可する。全艦に再度通達」
 全く臆することなく、穴を埋めるべくチベが退がって来る。
 だがそれは。

 ** 1st tag app : gwaden **

 撃てるよ?。機体が告げる。

 射線が通る。

 瞬間、コウはブレイク。
 全速後退。ノイエを突き放す。
 エイミング。

 背筋が冷え付く。
 気付いてしまった。
 アルビオンで200人。
 あれに、どれだけ乗ってるんだ。

 バニングもそれを見て取った。
「撃て!!ウラキ!!」
 自身、激戦の最中に怒鳴り付ける。
「どこ見てるのさ!!」
 左腕が。
「撃て、中尉!責任は私にある!!」
 シナプス自ら督戦。
 だがコウは既に決断していた。
 ボイス・コマンドで「グワジン」を呼び出しながらその構造を目標にオーバーライト。
 CICに向けエイミング。

 割り込みが掛かる。

 03何を!!怒声は凍て付き砕け散る。

 ** pri tag app:gp-02 **

 行っちゃうよ、いいの? と激しく明滅。


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