田中芳樹作・銀河英雄伝説
前南北朝史伝 常勝と不屈と
−偽書銀英伝−

作者:出之



 0話

 章前

『『この、「銀河戦史」は表題の通りに、人類文明が恒星間世界に進出して以降の歴史を、主にその軍事的な側面から見つめていきます。今回は最初期に当たる、前南北朝期における両政府、「銀河帝国」と「自由惑星同盟」の戦いを主軸に、史学上からの経緯を踏まえると共に、考察を加えていきます。

 それではまず、銀河帝国の発祥と、自由惑星同盟への分裂から整理していきましょう。

 人類初の恒星間政体、「銀河連邦」の発足は西暦三千年後半、800年頃とされています。この連邦成立と共に、宇宙暦元年と改元されました。
 同時に人類の生活圏は爆発的な拡大を開始しますが、約200年で拡大は限界を見せはじめます。銀河連邦文明は精神的に疲弊し、停滞と閉塞に蝕まれます。
 そうした中、傑出した人物が登場し、民心を掌握しつつ必要な法手続きを踏みながら皇帝にまで昇り詰め、人類文明の政体は、”民主”銀河連邦から”専制”銀河帝国に切り替わります。

 この初代皇帝こそが、「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム」です。銀河帝国、ゴールデンバウム、黄金樹王朝が開かれました。改元もされ、帝国暦元年となります。
 一方、これをよしとしない勢力も、当然存在しました。彼らは政治犯として弾圧され、最終的には銀河帝国の版図よりさらに未開拓の深宇宙に向け逃亡を続け、遥かな遠地に新政府を樹立します。これが革命民主政権、「自由惑星同盟」の母胎です。

 さて、帝国の宇宙探査がやがて同盟の生活圏に接触、帝国は同盟の存在を感知します。当然の如く、帝国は討伐軍を送りますが、地の利に勝る同盟は逆撃に成功し、これを潰滅させます。

 ”叛乱軍”の容易ならざるを手痛い敗北で思い知った帝国は、本格的な討伐準備を始め、同盟もまた、これを迎え討つべく戦力増強に努めます。

 帝国はあくまで叛乱鎮圧、同盟もまた、”民主革命”の成就という大儀を掲げた両者の争いは、全く妥協の余地なくここから始まったのです。』』



 1話 アスターテの会戦

 銀河帝国軍大佐、ジークフリード・キルヒアイスは艦橋に足を踏み入れ、思わず失笑しそうになる顔を引き締めた。
 長身痩躯の体を規則正しく動かし、艦橋中央に位置する指揮官席へと移動する。
「星を見ておいでですか、閣下」
 席の主に、意識して柔らかく尋ねる。
「ああ、星はいい」
 情報表示面に、データの変わりに艦外映像を映させていた。
 討伐軍総司令、上級大将、ローエングラム伯ライハルトは陶然とした響きを発する。
 ありきたりを承知の上で尚、”ギリシャの彫刻のような”、とでも表現するしかない調和と均整の取れた造詣。アフロディテの美とマルスの強靭を併せ持つ、軍神。
「それで、何だ」
 親友としてくだけた態度で副官に接するラインハルトだが、キルヒアイスは総司令との謁見の姿勢を崩さない。
 将官と佐官。二人ともまだ驚く程に、若い。
「はい、叛乱軍の最新情報です」
 席に付属の制御端末に手を伸ばしながら続ける。
 作戦情報画面に青い矢尻が1。取り囲む赤い矢尻が3。
「正面より近接するのが敵第4艦隊、総数約1200の規模。軌道、現速維持で前進の場合、約21600秒、+−500秒にて両軍が交戦可能圏に位置します。」
 左の矢尻には2、1500。右の矢尻には6、1300の表示。
「面白いことをしてくれる」
 ラインハルトは興が乗らない、退屈そうな声を出す。
「はい、各個撃破の好餌そのものです」
 キルヒアイスも軽く肩をすくめて応える。

 所詮、叛乱軍。
 討伐軍には必勝の空気が横溢している。

 それを知らない同盟軍では無かった。



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