無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之



第四話


 いいかい、あいつらは「肉食獣」なんだ。
 惑星「ポポス」。
 スカイフックの基部にある各「パーチ」の支所は、バー・カクンターの様式で一般客も呼び寄せ、金を落とさせる。メインディッシュは酒と肴、では無く、渡りの合間でそこに翼を休めるバード達とその囀りだが。
「トラやライオンがシマウマなんかより増えちまったサバンナは、どうなると思う」
 トスカはカウンターに水滴でつ、と円を描いて、ユーリを観る。
「サバンナだったら、ええと、食べ尽くして……共食い?」
 謹厳な教師の試問にたどたどしく応えるユーリ。
 だろ。
 トスカは大きくバッテンを上書き。
 エルメッツァ星間国家連合・ラッツィオ星域。
 広域海賊・スカーバレルのウワサも聞いてはいたものの。今まで避けて通っていたのが、聞くと見るとで大違い。
 海賊艦三隻を喰う間に遭遇した民航船は僅か1隻。
「でも、共食いってカンジでがっついてる、でもなかったよな」
 幼年学校崩れの火器管制担当、トーロ・アダが口を挟む。
 歳が近いせいか最近、よくユーリにくっついて来る。仲がいいのか悪いのか。
「ユルみきってる。へたくそ」
 練度の低さも多少、気にはなる、が。
 トスカは別のことを考えていた。
 ウラ経済が肥大化することはある。
 しかし。オモテを越えることは決して、無い。
 つまり。
 スカーバレルの連中は、ここでどうやって「食べて」いるのか。
 単純に、食い尽くす気でいるのか。
 エルメッツァの思惑もよく判らないが。
「んーまぁまだ情報不足かね」
 でもこの先、少し気をつけた方がいいよ。
 ユーリに一言、声を掛けるつもりで眼を向け。
 彼が手元でもてあそぶ何か。
 そのトスカの視線に、にこりと微笑み。
「これ、判ります?」
 掲げてみせた。
 黒い、球体。
「泥団子……いや」
 そんな単純なもんじゃ。
 光沢があるような、ないような。質感があるような、ないような。
 掌の、そこ、まるでブラックホールの様な、ある種凄まじい存在感と同時に。
 そこにも何も“ない”かの、淡い非、実在でも。
 まさか。
「エピ……タフ……?」
 秘め事みたいに声を潜め、答える。
「凄い!トスカさんさすがです」
 ぱっ、とユーリは顔を輝かせる。
「えっ、ホントに」
 渡されたのを、あわてて取り落としそうになる。
 両手の中にある黒体をしっかり握り直し、視線を落とす。
 これが。
 現代に遺る、数少ないこの世界の、神秘。
 へえ、これ、が。
 宇宙に出たかった、もう一つの理由なんです。
 隣でユーリが語る。
「ロウズに居たら、たぶん一生何も判らかっただろう、ですから」
 これ、あんたのその、お父さん、が。
 形見、って訳でもありませんが。
 ふーん。
 トスカはユーリの横顔を、じっと見つめる。
 いつにない表情が、そこにはある。
 このこもこれで。人生背負ってるんだねえ。
「少しでも、近づいてみたいですね」
 くるくるとそれを指先で廻しながら、少年は漢の顔で呟く。
「いいよ。いいね」
 トスカは隣で頷く。
 ユーリは再びこちらを見ると。
 にこりとわらう。少年の顔で。



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