−オリジナル−
この剣が朽ちる前に
作者:出之



 瞑い部屋だった。

 ノルテ・グンターラントの、ここは総司令部である。

「戦況を報告してくれた給え、元帥」

「概ね、順調です」

 エルリッシュ・ベリク・マインシュヴァインは応えた。

 枕辞の様なものだ。

「極めて、絶望的ではありますが」

 ひくり、と総司令官のこめかみが動いた。
「何故だ」

 今は、退くべきです。

 機動防御……。

 言葉が喉元まで迫り上がる。

 ぐ、と堪え。

 地図を指し示す。

「包囲の危機にあります」

 陣地は騒然となっていた。

 守護天使が舞い降りて来た!
 この戦争、まだまだやれるぞ!
 ヂークハイヌ!!

 参ったなあ。

 ブルツは彼女の前で頭を掻く。

 殆ど家屋が倒壊したこの町で、まだ残っていた農家。

 彼女は実の少ないスープをすすっている。
「ぷは」

“それで、ここは何処なの”

 念話か。
「最前線だよ」

 彼女は首を振る。
 読み取ることは出来ないらしい。

 参ったなー。

 ブルツは肩を竦める。

 参っているのは彼女も同じだった。

 ここ、何処。
 私、誰。

 言葉も通じない。

 必死に心で語り掛けている。

 相手は微苦笑。

 ぽん、と手を叩き。

 手帳を取り出し、書き付けた。

『読める』

 大陸汎語だ。

『うん』

 ふー、と相手は息を吐き出す。

『ブルツィェフ・ザクレブ、◆兵だ。ブルツでいい』
『私』
『わからない』

 相手はいぶかしげ。

『君は』
『わからないの』

 しばし首を傾げ

『天使、じゃないよね』

 顔を見合わせ

 吹き出す。



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