今、ボクタチはこの世界を生きている。
この、儚くも美しい世界を。
「…功だ。……レ……カは、……通りに伯……へと…………く」
―――声を、聞いた。
誰の声かは解らない。
薄っすらと目を開けると、其処にはたくさんの人が居た。
白、しろ、シロ。
皆真っ白の服を着ている。
その真っ白の中に、一人だけ違う服を着ている人が居た。
さっきのはその人の声みたいだった。
ぼんやりとした頭で、薄っすらと。
―――声を、聞いた。
誰の声かなど、解る筈も無い。
此処は一体何処だろう?
そして――――ボクハイッタイダレナンダロウ?
少年は襲い来る睡魔に、再び目を閉じた。
その日、『聖なる焔の光』のレプリカたる少年は誕生した。
TALES OF THE ABYSS
―AshToAsh―
ACT.01 間違えた歯車
『……聞こえるか?』
誰かの声がした。
薄っすらと目を開けると、其処は一面真っ白な所だった。
さっきまで居た場所とも違う、どこか不思議な所。
『…聞こえるか?』
また、声がした。
姿は何処にも無い。
「…ぁい」
何とか声を振り絞ったけど、そんな言葉しかでなかった。
『…そっか、まだ喋れないのか』
こくん、と頷く。
『考える事は出来てるみたいだし……ぱられるわーるど、ってやつかな?』
声は何かよく解らない事を言っていた。
良く解らなかったから、首を傾げた。
『あぁ、解らなくても良いんだ。今から、ゆっくり理解していけば良い』
声はそう言った。
『んっと、結構無理して此処に居るから、あんまり時間が無いんだ』
声がそういった時、頭の中に何かが響いた。
『…ゴメンな?』
瞬間、膨大な量の『知識』いや、記憶がなだれ込んできた。
あまりの量に、顔を顰める。
そして、唐突に理解した。
この声は『此処ではない何処か』に居た自分の声だと。
その記憶が教えてくれる。
『…正直さ、俺は死にたくない』
だから、僕の体を使うの?
『違うよ』
穏やかな声だった。
『違う。そんな事をしたら、お前が死んじゃうから』
だから、そんな事はしない。
声はそう言った。
『だから、俺とお前は一つになるんだ』
そうすれば『俺』であり『僕』である新しいオレになれるから、と。
『虫の良い話だ、ってのは理解してるけど』
困ったような声だった。
「……ぃよ?」
声の記憶では、一つの町が滅んでいた。
他でもない、声自身のせいで。
そんなのは嫌だった。
でも、このままだときっと同じだ。
『二人』なら出来る。
『……ありがとう』
あたりを、閃光が覆い尽くした。
こうして『俺』は生まれた。
「急げ!」
―――騒々しい。
誰かがボクを抱えている。
誰だろう?
「くそっ! このタイミングで…」
後ろの方も騒がしい。
「リグレット様!」
「騒々しいな。何があった?」
「盗賊、それもかなりの人数です」
ボクを抱えた人は何か言っているみたいだった。
―――リグレット。
あぁ、思い出した。
六神将の一人のリグレットって言う女の人だ。
「その子は私が連れて行く。お前達は出来るだけ足止めをしておけ」
「ハッ!」
軽く敬礼して、ボクを渡す。
おきてる事が気付かれないように目を緩く瞑り、寝ているふりをした。
「頃合いを見て引き上げるように」
リグレットさんはそう言うと、ボクを抱きかかえたまま走り出した。
暫くすると、海岸に止めてあった船に着いた。
引き上げて来た兵士を確認して、船はそのまま発進した。
◆ ◆ ◆
次に気が付いた時には、ダアトに着いていた。
どうやら寝ている間に薬か何かを投与されたらしい。
まわりをキョロキョロ見回してみたけど、此処にはボク一人しか居ないようだった。
どうしてボクが此処に居るのだろうか?
Side.ヴァン
「ルークの様子は?」
部屋にある椅子に腰掛けていた青年がリグレットに聞いた。
「先程部屋を見たときは寝ていましたが―――閣下、その事で少し話しが」
「どうした?」
リグレットは軽くため息をついた後、男―ヴァン・グランツ―に切り出した。
「どうやら、彼はレプリカのようです」
「何!?」
ヴァンは思わず声を張り上げた。
「盗賊に襲撃された時、焦って間違えたのでしょう。髪の色素が僅かに違いました」
―――確かに。
ヴァン自身は連れて来た子供を確認していないが、レプリカの髪の先端部分の色素が薄かったのは記憶していた。
「如何いたしますか?」
「…致し方あるまい。レプリカといえど、使えんという訳では無いだろう」
部屋に案内しろ。
ヴァンはそう言うとリグレットを引き連れて部屋を後にした。
side.レプリカルーク
ガチャ、という音と共にリグレットさんと男の人―あれは、きっとヴァンさんだ―が入って来た。
「…これがレプリカか」
ヴァンさんはそう言うとボクの方に近づいて来た。
「……ねぇ、どうしてボクを此処に連れて来たの?」
思わずそう聞いた時、ボクははっとして口を塞いだ。
「…自分がレプリカだという事に気が付いているのか?」
ありえない、とリグレットさんは呟いた。
そう、ありえない。
だって、本当は喋る事も出来ない筈だもの。
しまった、と思うも後の祭り。
「これは……思わぬ拾い物をしたかも知れぬ」
ヴァンさんはそう言うと、ニヤッと笑った。
「お前は今日から『アッシュ』と名乗れ」
ボクはとりあえず―――コクンと頷いておいた。
隣でリグレットさんが上を向いたけど、どうしたんだろう?
萌えって呟いていたけど、萌えってなぁに?
「剣術は私が教えるとして、世話は誰に任せるか……」
「閣下、私に任せて頂けませんか?」
ヴァンさんが呟くと、リグレットさんがすかさず言った。
「…ふむ、よかろう。時間が無い時は他の者に任せるように」
「ハッ!」
ヴァンさんは満足そうに頷くと、一人で部屋を出て行った。
「さぁアッシュ。先ずは着替えよう」
リグレットさんの笑顔が、ちょっぴり怖かった。
next.......
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