TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.03  消せない絆

昨日、『導師イオン』が亡くなった。

正確にはオリジナルイオンが、だけど。

エベノス様が亡くなったその日、イオンは導師の地位についた。

それと同時に俺の護衛任務も解かれた。

導師の護衛につく、導師護衛役は女のみで構成されているからだ。

アリエッタはというと、そのまま導師護衛役の任に就く事になった。

あれから三年。

オリジナルイオンは、誰に見取られる事なく永遠の眠りに着いた。

そしてその事を知っているのは一部の上層部の人間だけ。

俺は、死の直前、特別に面会を許された人間だった。

イオンは俺に、アリエッタの事をよろしく頼みます、と言った。

護衛役についたときから、アリエッタはイオンに懐いた。

恋、とは多分別の物だったと思う。

大体性別が同じだ。

友達、親友、そんな感じだった。

仲の良い姉妹の様だった。

俺には断る理由など無かった。

何せ、アリエッタは妹なのだ。

そして、こうも言った。

アリエッタには、この事を言わないで、と。

俺は頷いた。

イオンはその後、穏やかな笑みを浮かべて逝った。

次の日、レプリカの中でも一番力が近かった、七番目のレプリカが『イオン』になった。

他のレプリカの行方は知らない。

―――そこで、俺は思い出した。

『出来損ない』のレプリカは、ザレッホ火山の火口に捨てられた、と言う事を。

慌ててリグレットの所に行き、他のレプリカ達の事を聞いた。

「――それなら確か、
団員が連れて行くのを見たが?」

状況は思ったよりも進んでいるみたいだった。

慌てるようにして部屋を出ようとすると、リグレットが制して来た。

「どうした? 何かあったのか?」

慌てながらもその子達が『廃棄』される事を伝えると、リグレットは形の良い眉を顰めた。

リグレットは今や俺達の『母』や『姉』の様なものだった。

無茶な事以外なら、大抵のお願いは聞いてくれた。

俺の記憶についても、掻い摘んで喋っているぐらいだ。

「そう、か。では私も行こう」

そう言って微笑む彼女に、俺は心底感謝した。

「急がなきゃ」

そう呟きながら、俺は走り出していた。




ザレッホ火山に着いた時には、既に四人ものレプリカが火 口に投げ飛ばされた後だった。

「お前達、何をしている!」

リグレットが一喝した。

団員達はそれで萎縮してしまい、あたふたと言い訳を並べる。

生まれて来た以上、其処にあるのは確かな『命』だというのに。

使えないから、劣化してるから、レプリカだから、と言うだけで命を奪われるのはおかしい。

「…この二人は、俺が預かる」

異を唱えさせない声で、はっきりと言った。

団員達はぺこぺこ頭を下げつつ去っていった。

隣に居るリグレットは不機嫌そうだ。

「……どうして僕達を助けた」

僕達は出来損ないなのに、と今は名も無き少女は言った。

「…俺も、レプリカだから、じゃ理由にならないかな?」

本当は違ったけど、無難なところをついてそう答えた。

「ねぇ、一緒に来ない?」

そう言って手を差し伸べる。

偽善だ、と罵られても良い。

確かにこの子も『あの時』では犠牲者の一人だったのだ。

「…その手をとって、僕達は『自由』になれるのか?」

俺はゆっくりと首を横にふった。

「『自由』は誰かに貰うものじゃない。自分でつかむものだ」

そういった時、二人の少女はキョトン、と首をかしげた。

こういった仕草も似ていると思った。

「んー、と、その前に名前」

名前を聞いてなかった事を今更ながらに思い出した。

「…僕達に名前は無い」

だって、廃棄される筈だったから。

少女は呟いた。

「じゃ、俺とリグレットでつけてあげる」

良いよね? と隣にいる女性に聞く。

「あぁ、構わない」

んー、んー、と考えるふり。

少女の片割れの名前は決まっていた。

「じゃ、君がシンク」

あーでもない、こーでもないと相談し、結局は『5』の意味を表す言葉になった。

俺は元からこの名前をあげるつもりだったけど。

「…捻りも何も無いね」

ふっ、と鼻で笑われた。

つんつん、と突っ突かれて横を見てみれば、もう一人の少女が不満そうに見つめていた。

「大丈夫だよ、フローリアン」

「ふろーりあん?」

「うん、君の名前はフローリアン」

俺がそう言うと、フローリアンは自分の名前を何度も呟き、嬉しそうに笑った。

「で、この二人はどこにかくまう?」

リグレットが聞いて来た。

「一寸危険だけど、賭けにでようと思う」

シンクの方を向いて、俺は言った。

「シンク、神託の盾騎士団に入らないか?」

「……は?」

イオンのレプリカ、最後の生き残りだと言うことをチラつかせれば、ヴァン師匠は飛びついて来る筈だ。

上手い具合に利用出来るかもしれない、と。

あわよくば予備として使おうと目論むだろう。

それを掻い摘んで説明し、フローリアンに関してはファブレ家所有のコーラル城の地下に匿う事にした。

厳重に封印を施し、何人たりとも近づけない強固な『壁』を使って、フローリアンは其処で生活する事になった。

往復するのに時間がかかり、あまりあってやる事は出来ないが、暫くは其処に居てもらう事にした。

勿論、休みの日には必ず顔を出しに行く。

……結果を言うと、シンクは見事六神将になり、フローリアンの存在も隠す事に成功した。

でも、問題はもう一つ増える事になったのだ。




アリエッタが、導師護衛役の任を解かれた。

部屋に戻ると一目散に走り寄って来て、キュッと抱き付いて来た。

そのアリエッタの姿を見ると、とても痛々しく感じた。

「…兄様、兄様」

にいさま、と呼びつつ涙を流す少女にかける言葉が、見つからなかった。

そっと頭を撫でる。

―――ゴメン、イオン。

どうしてもこの泣いている少女を泣き止ませたくて、俺はイオンとの約束を破った。

後で解るよりはましだろう、と言う考えもあった。

オリジナルのイオンが死んだ事、今のイオンは『レプリカ』だと言う事。

レプリカは以前の記憶を持たない事。

「―――イオンはきっと、アリエッタを悲しませたく無かったんだ」

「…イオン様が?」

涙目で見上げてくる少女に頷く。

「アリエッタを嫌った訳じゃ無いんだよ? だから泣かないで」

そう言ってゆっくりと涙を拭う。

「……解った、です」

ぐしぐしと目をこするアリエッタ。

「それにね」

「…?」

キョトン、と見返すアリエッタに続けて言う。

「切れた絆は、もう一度結び直せば良い。もう一度、やり直せば良い」

くしゃ、と頭を撫でつつ続ける。

「だからさ、もう一度お友達になって下さい、って言えば良いんだよ」

そう言うと少女は花が咲いたように微笑んだ。

「はい、です」

この日から、新しく導師護衛役になった少女と、導師の少女、そしてアリエッタの三人が遊ぶ姿が度々目撃される事になる。

また、これ以降アッシュはアリエッタに一層懐かれる事になるのだが、其れは全くの余談。
                                                                                                          next......




























後書き

今回の話は割りと短めでした。

次回からはいよいよ本編に入って行きます。

やっとこさルークの出番になる訳です。

さて、前回語らなかった部分について少し語ろうと思います。

前回の話でルークの年齢が、十四歳、と書きましたが、これはオリジナルの設定です。

実際はもう少し若いです。

公式設定の年齢が十七になっているので、その話では十二、と言う事になります。

年齢が変わっている事に深い意味はありません。

ただ、アリエッタの年齢が不詳になっていたので、念の為に少し年齢の底上げ(?)をしただけです。

しいていえば、其れが理由ですね。

以下、少々ネタばれ。

ちなみにヴァンですが、計画は諦めていません。

ですが部下の六神将(主にリグレットやラルゴ)はその計画に反対し てます。

つまり、アッシュの仲間ですね。

記憶の事はある程度聞かせています。

が、リグレット何かはアッシュやアリエッタにメロメロ(笑)ですか ら、そんな事を聞かなくても手伝ったでしょう。

ヴァンに抱いていた恋心は何時の間にやら綺麗さっぱり消えていま す。

ヴァン、かわいそうに…。

ちなみに、リグレットはアリエッタに姉様と呼ばれてます(ぉ

ラルゴは二人の事を自分の子供の様に思っています。

シンクは自分を助けてくれたアッシュに感謝してるので、勿論アッ シュ側に。

ディストは中立の位置に居ますが、時たま魅せられる(誤字にあたわ ず)アッシュの萌えっぷりにやられてます。

まぁ、つまるところ六神将は全員ヴァンの敵に回る、と言う事です。

ディストについては場合によってはヴァンにつく可能性もあります が。

次回からはルーク視点の話も増えてきますので、お楽しみに。

では、この辺で。



2006.4.17  神威


感想

逆行アビスですね〜

ルークが逆行してアッシュと立場逆転ですか。

なるほどね〜

アビスはネタになりそうな部分の多いお話でしたから、

キャラもいろいろ個性豊かですしね。

何よりアリエッタやアニスといった可愛い系のキャラが強い(爆)

というか、イラストが可愛いですよね♪

そしてイオン導師にシンクにフローリアンですか〜

まあ、声は女性でしたからね、女性キャラにしたいというのは分らなくもないです(爆)

しかし、ココまで来るとアキト並にモテモテっすね〜ルークは。

アニスやティアも神託の盾ですから、この先どうなることやら(爆)

私としてもモテモテ主人公は嫌いじゃないので、頑張って欲しい所です。

さて、私も少しは続きを書かねばな(汗)




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