side.ルーク

タルタロス内部。

兵士達に連行されたルークとティア(+ミュウ)はその一室に居た。

外には見張りの兵士が何人か居るだろうが、中にはジェイドの他にはイオンとその護衛役のアニスの姿しかなかった。

頃合を見計らって、ジェイドが詰問を始めた。

「第七音素の超振動はキムラスカ・ランバルディア王国王都方面から発生、マルクト帝国領土タタル渓谷付近にて収束しました」

其処で一旦区切り、ルークとティアを見る。

「超振動の発生源があなた方なら、不正に国境を越えて侵入して来た事になりますね」

さて、とジェイドは続けた。

「ティアが神託の盾騎士団だと言う事は解りました。ではルーク、貴方のフルネームは?」

此処で本名を明かしても良いか判断はつかなかったが、黙ったままで状況を悪化させるよりはましだ、と言う事でルークは名乗りをあげる事にした。

「ルーク・フォン・ファブレ。貴様らマルクト軍が誘拐し損ねたファブレ家の長子だ」

とはいえ、やられっ放しと云うのは性分に合わなかった為、挑発じみた事を付け加えて言ったのだが。

「これはこれは……。キムラスカ王室と姻戚関係にあるファブレ公爵のご子息、と云う訳ですか」

「公爵――――素敵かも」

言葉に反して、大して驚いた様子も無いジェイドに一瞬目を輝かせたアニス。

「しかし何故マルクト帝国へ? それに誘拐などと―――穏やかではありませんね」

「誘拐の事は兎も角、今回の件は私の第七音素と彼の、ルークの第七音素が超振動を引き起こした為に起こった、いわば事故です。ファブレ公爵家によるマルク トへの敵対行動ではありません」

それに、とティアは続けた。

「ルークは私に巻き込まれただけです。彼個人にも帝国に対する敵意はありません」

ティアがそう言うと、それに便乗する形でイオンが続けた。

「大佐、ティアの言う通りでしょう。彼に敵意は感じられません」

ジェイドは今一度ルークをじっと見て、そして徐に言った。

「……まぁ、そのようですね。温室育ちのようですから世界情勢いは疎そうですし」

不躾なジェイドの物言いに、ルークは思わず睨み付ける。

声を出さなかっただけましだと言えるだろう。

「此処は彼らにも協力をお願いしませんか?」

イオンがジェイドに提案する。

「―――協力?」

ルークが聞き返すが、ジェイドは顎に手をやり考え込むだけで、答えを返す事はしなかった。

そのまま暫く同じ格好をしていたジェイドは、口を開いた。

「我々はマルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下の勅命によって、極秘にキムラスカ王国へと向かっています」

「まさか、宣戦布告?」

ジェイドの言葉をいち早く理解したティアは、呆然と呟いた。

「……いや、違うな」

ティアの考えを少し間を空けて否定するルーク。

「本当の所、目的は何だ?」

ルークが問いただそうとするが、ジェイドは肩を竦めて見せるだけで何も言わない。

「その逆ですよぅ、ルーク様ぁ」

アニスが言った。

猫なで声なのが非常に気になったが、ルークは話を聞く事にした。

「戦争を止める為に私達が動いてるんです」

「それで極秘だと言う訳か……」

「アニース。不用意に喋ってはいけませんねぇ」

ジェイドの眼鏡が光る。

「はぅあ!」

その光にビビッたのか、アニスは奇妙な声を上げると首を竦めてしまった。

しかしそれに納得いかなかったのがルークだ。

「おい。協力を頼みたいのならきちんと説明するべきだろうが」

その問いに、ジェイドは冷笑を持って答えた。

「説明してなお、ご協力頂けない場合はあなた方を軟禁しなければなりませんから」

ジェイドは冷たく言い放つ。

「では、あなた方を解放します」

唐突にジェイドが言った。

先程の冷徹な眼差しが嘘のように消えていた。

「軍事機密に関わる場所以外は立ち入りを許可します。自分の目で見て、そして決めて下さい」

「詳しい話は貴方の協力を取り付けてからになるでしょう。待っています」

「ルーク様。私ルーク様と一緒に旅がしたいです」

三人はそれぞれそう言うと、アニスを残して退室して行った。


TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh― 

ACT.07  強襲! タルタロス




自分の足元をうろちょろしているミュウを鬱陶しく思いつつ、ルークはこれからの事について考えていた。

実はルーク自身は、この話を受けても良いと考えていた。

幼少の頃幼馴染と約束した事を実現する為には、避けては通れぬ道だと考えたからだ。

しかしそれではティアが納得しないだろう。

ティアのルークに対する認識を考えれば予想はついた。

だからルークは暫く艦内を見て周り、いかにも考えた風に装って答えようと考えたのだ。

「ルーク様」

と、ドアの傍に控えていたアニスがルークを呼んだ。

「私が艦内案内しましょうかぁ?」

このまま当ても無く回るよりはましだと考え、ルークはその申し出を受ける事にした。

色々と艦内を見て回った後、アニスの案内で甲板に出る事になった。

其処にはイオンの姿があった。

「とんだ事に巻き込んでしまって、すみません」

ルーク達に気が付いたイオンは、そう言ってすまなそうにした。

「済んだ事だ。今更何を言っても仕方あるまい」

少々不機嫌に言うルーク。

丁度その時、後ろからジェイドがやってくるのが見えた。

「両手に花ですね、ルーク」

「やーん、大佐ったらぁ♪」

ジェイドの言葉に身悶えるアニス。

「大佐ッ! 私と彼は別にその様な関係では―――」

其れに対してティアはキッパリと否定した。

「其れは兎も角―――先程の誘拐とは何なのですか?」

ルークの方に向き直ったジェイドが聞く。

「理由は知らんがマルクトの奴等が俺を誘拐した」

「少なくとも私は知りませんねぇ……。先帝時代の事でしょうか?」

ルークの回答に、思案顔になるジェイド。

「知るかッ! そのお陰で事件当時の記憶がすっぽり抜けてるんだ」

当時の事を思い出したルークは声を荒げた。

話を其処で打ち切り、最初に連れて行かれた部屋に戻る事にした。

途中で会った兵士に話を聞く事を伝えると、ルークはドッかと椅子に座った。





暫くして話を聞き終えたルーク達は思ったよりも大きくなりそうな今回の話に、少々眩暈を感じていた。

ピオニー九世陛下から和平の親書を預かって、中立の立場としてそれをキムラスカに持っていく。

其れが極秘任務の内容だった。

国家機密に相当する為、護衛に連れて来た兵士の数も少ないとの事だった。

ルークの仕事はキムラスカ・ランバルディア王国の王であり、ルークにとっては伯父でもあるインゴベルト六世に取次ぎをする事だった。

その方が安全かつ迅速に事が進められるから、と云うのが理由だった。

話が終わるとジェイドは仕事がある、と言って部屋を後にした。

涼んできます、と言ってイオンはジェイドの後を追う様にして退室した。

それからは特にすることも無く、ルークは椅子に座って今後の事を考えていた。

と、その時艦内警報がけたたましく鳴り出した。

その音に慌てて外にでるルーク達。

部屋を出てすぐ隣にある通信機を使って、ブリッジと連絡を取り合うジェイドの姿が目に入る。

「どうかしたんですか? 大佐」

険しい表情のジェイドを見て、ティアが聞いた。

「何者かによる襲撃を受けました」

外は危険だから様子を見るべきだ、とジェイドは言った。

「この場に居ても埒があかん!」

しかしルークはその警告を無視し、外に行こうとする。

廊下を少し歩くと、其処には一人の大柄な男が居た。

「クッ!」

一瞬でその男が敵だと言う事を看破したジェイドは、躊躇する事無く譜術を放った。

「私はイオン様を!」

そう言って走り出すアニス。

ガギィィンッ!

譜術は男が持つ大鎌によって弾き飛ばされた。

その直ぐ傍をアニスが走り抜けるが、譜術に対応していた事によって男は其れを止める事は出来なかった。

しかし気にする事無くそのままの勢いで一番近くに居たルークに迫り、その首筋に鎌を当てる。

「ルーク!」

ティアがルークを呼ぶが、肝心のルークは濃密な死のニオイに怯んでいた。

覚悟はしていたつもりだった。

が、しょせんはつもりだ。

実際には覚悟が足りなかったか。

心の何処か冷めた部分でルークは考えていた。

男がジェイドに向かって何事かを言っていたが、直ぐ傍にある『死』にすっかり硬直してまったルークの耳には入ってこなかった。

ただ、ジェイドの言った『黒獅子ラルゴ』と云う名前だけが聞こえて来た。

男が何か箱の様な物を天井に向かい投げつける。

一瞬、青白い閃光が奔ったかと思うと三角柱の形をした結界の様な物を形成するとジェイドを包み込んだ。
          アンチ・フォンスロット
「これは―――封印術!?」

ティアの驚愕の声。

「ミュウ! 天井に向かって炎を吐いて下さいッ!!」

ジェイドの指示。

「は、はいですの!」

ティアの隣に控えていたミュウが、天井にある箱に向かって炎を吐く。

箱に炎が直撃すると、辺りを閃光が包み込んだ。

「グッ!」

閃光に目が眩むラルゴ。

しかしその体は既に取るべき行動に移っていた。

ザシュッ!

「―――ヌウッ」

閃光が収まると、何時手にしたのか槍を構えるジェイドの姿があった。

その先端はラルゴのわき腹に刺さっている。

ジェイドが槍を引き抜くと、ラルゴは膝をついた。

床を赤い血が染めていく。

ジェイドはそのままバックステップで距離をとる―その際おまけの様にルークを引っ張って来た―と、ティアの隣まで下がった。

「……流石ですね。あのタイミングでポイントをずらされました」

外したとはいえ致命傷には変わらない。

そう簡単に起き上がってくるとも思えなかった。

しかし油断はせず、槍を構えつつティアに後退する様支指示を出す。

そして自分は通信機に向かって一言告げる。

作戦名・骸狩り、始動せよ、と。

そしてラルゴが倒れるのとルーク達が走り出すのは、ほぼ同時だった。



side.ラルゴ

倒れながらしかし、ラルゴは思った。

無様だな、と。

事前に教えられていたにも関わらず、自分はこうして倒れている。

侮れぬは『死霊使い』ジェイド。

刺さるポイントをずらしたのに、ジェイドも僅かな時間で更にポイントをずらしてきた。

本来なら傷一つ負う筈では無かったというのに、だ。

そうこう考えてるうちに、ラルゴの意識は急速に霞んで行った。

意識が途切れる寸前、ラルゴが見たのは此方に走り寄って来る少女の姿だった。



side.アッシュ

艦内に居たマルクトの兵士を軽くあしらいつつ、俺は艦橋へと移動していた。

すると行き成り隣からアリエッタの使役するライガが飛び出てくると、一声鳴き背中に乗れと言わんばかりに屈み込んだ。

何かあったのか、と思い、俺はライガの背にまたがった。

ライガが進むままにすると、前方にアリエッタの姿が見えた。

そしてその隣には―――血塗れのラルゴが倒れていた。

「―――ッ!」

急いでライガの背から飛び降りると、俺は一目散にラルゴの元へと走った。

「兄様、パパが…」

目を真っ赤に腫らしたアリエッタ。

その瞳からは未だに涙が流れ落ちている。

「―――泣くな、アリエッタ」

そう言って涙を拭いてやりつつ、ラルゴの治療に取り掛かる。

其れ程時間が経ってなかったのが幸いして、ラルゴの意識は直ぐに目覚めた。

「ラルゴ、大丈夫?」

額を手で押さえるとラルゴは立ち上がった。

「すまん、アッシュ。油断した」

その大きな掌でアリエッタの頭を撫でつつ、ラルゴは言った。

「やっぱり『死霊使い』ジェイドに?」

「あぁ」

頷いたラルゴに、俺は暫くは休むように言った。

「艦橋へは俺一人で行くから、アリエッタはラルゴと一緒に一度戻って?」

「…解った、です」

アリエッタはコクンと頷くと、ライガを呼び寄せ背に跨った。

「兄様」

艦橋へ行こうとした所でアリエッタに呼び止められた。

そのままアリエッタの方に向くと、アリエッタは心配そうな顔をしながら言った。

「……気を付けて、です」

にっこり笑う事でそれに答えると、顔を覆う為の仮面を着けながら、今度こそ艦橋へと走り出した。

途中、ティアの歌う譜歌が聞こえて来たが、この体に第七音素を使った術は効き難い。

特に気にする事無く走り続ける。

暫く走り続けると、漸く艦橋の様子が視認出来る位置まで来る事が出来た。

この場所は上に位置する為、自然と見下ろす形になるのだが、其処では何故かルークと神託の盾騎士団の団員が戦闘をしているのが見えた。

割って入ることも考えたが、一瞬躊躇して―――結局割って入った。

ガギィィンッ!

剣と剣がぶつかりあう音。

「下がれッ!」

後ろで呆然としている兵士に声をかけると、剣を持つ手に力を込める。

「何が起きたの!?」

その時、艦橋へのドアが開いたかと思うと中からティアとジェイドが姿を現した。

迷わず其処に疾走すると、ティアに向かって小さくごめん、と呟きながらその意識を刈り取る。

そのまま隣に居るジェイドに向かって剣の切っ先を向け、告げる。

「大人しく投降しろ」

不利を悟ったか、ジェイドが両手を挙げる。

が、俺はジェイドがコンタミネーション現象を利用して槍の出し入れが出来る事を知っている。

油断無く切っ先を向けたまま後ろに下がらせていた兵士に声をかける。

「捕らえて何処かの船室にでも閉じ込めておいて」

兵士に連れて行かれるのを確認すると、俺は艦橋へと入って行った。

ルーク達が脱走した事を知ったのは、それから三十分後の事だった。




side.アリエッタ

「…イオン、様」

アリエッタが悲しそうにイオンを見た。

何をする為に其処居るのか、と云うことは知っていても大切な親友と離れ離れになる事は嫌だ、とアリエッタは思った。

現在、アリエッタ達は間に割って入った第三者―ガイ・セシル―の介入により敵側の指示に従わざるをえない状況に陥っていた。

リグレットは既にタルタロス艦内に戻っている。

そう、指示されたからだ。

「……アリエッタ」

同じく悲しそうに首を横に振るイオン。

そのままアリエッタはタルタロス内へと戻って行った。

その際に、アリエッタとイオンの間でアイ・コンタクトが行われた事をルーク達は知らない。
next.....




























後書き

何だか微妙な感が抜けないACT.07でした。

次回からはまた暫くルーク達の視点で話が進むので、アッシュ視点の話は少なくなると思います。

しかし……相変わらず地の文が難しい(汗)

以下、ネタばれです。

気になる方だけご覧下さい。

何故、未来の記憶を持ったアッシュが真っ先にヴァンを殺さなかった か。

この話を読むに当たって、気になってる方は居ると思います。

以前鳩さんにも聞かれました。

簡単に言ってしまえば、記憶に体がついて行かなかったから、です。

幾ら未来(別世界)の自分が強かったから、と言って行き成り自分が 強くなる訳ではありません。

あくまで、記憶を持つだけですから。

それを知った当初では、ヴァンの方が圧倒的に強いです。

ですが、記憶がある為にアッシュの成長は他よりは早いです。

物語が始まった現在、漸くヴァンと互角以上の戦いが出来るように なった訳ですね。

で、そのヴァンですが、彼はアクゼリュス崩壊の際に退場してもらう 予定です。

はい、完璧に死にます。

ラスボスは『レプリカネビリム』を想定しています。

現段階では、の話ですので若干の変更があるかもしれません。

では、次はレス返しを。

4/21
23:55 これからもがんばってください
>はい、これからも頑張ります!


4/22
0:16 続きが気になります。
>有難うございます。
  これからも応援よろしくお願いします!

1:19 面白かったです。続き期待しています。
>そう言って頂けると幸いです。
 

では、また次回。



2006.4.22  神威


感想

さて、今回はタルタロス襲撃ですか〜

ハイペースで作っておられますね。

二人のルークのそれぞれをフォローするお話にするのですね。

でも、基本よりも逆行主人公に頑張ってもらった方がいいと思いますが……

アッシュ事、レプリカルークはダウンロードを中途半端にしか成功させられなかったようですが、ラルゴが失敗する事は忘れていたのかな?

それとも、何か策があるのでしょうか?

しかし、神威さんも地の分をかなりつぎ込んでいますね〜

私と同じタイプのといいますか……私もサモナデ3で同じ方法を使っています。

実際それをすると早いんですが、欠点としてお話がかなり長く膨れ上がります。

しかも、オリジナル部分が挟み辛くなるという点もおこるので要注意ですね。

それをしない為には、オリジナルのキャラの話を必ず挟んでいくようにする事と、

微妙に話をずらして行って見せ場を作り出す事でしょうか。

お互い頑張りましょうね。



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