side.アッシュ

「……どうだ?」

目の前にある機械を弄くっているディストに聞く。

「七年前に使ったのが最後ですからね……。ちょっと整備してやれば使えるようになりますよ」

ディストは機械とかを弄くっている時、何時もより幾ばくかマシな受け答えをする。

丁度今がその状態だ。

「そうか…」

会話が途切れる。

「シンク、音譜盤(フォンディスク)は?」

沈黙に耐えられない俺はディストの隣に居るシンクに話しかける。

「未使用のやつを持って来てるよ」

ちゃんとね、と付け加えてシンクは答えた。

会話が途切れる。


「………だぁーッ!」

沈黙に耐えられなくなり、しかも話す事も無くなった俺は、思いっきり頭を掻き毟った。

「アリエッタの所に行って来る」

結局その場を後にして、屋上に居るアリエッタの所に向かう事にした。



TALES OF THE ABYSS
  ―AshToAsh―

ACT.11  VSアリエッタT


「……兄様」

屋上に上がると、直ぐにアリエッタが駆け寄って来た。

捕らえた整備長は、既に拘束をといて楽にして貰っている。

何時までもグリフィンにぶら下げてたままじゃ危険だからだ。

此方に殺す意思が無い以上危険は避けるべきだからな。

今は何故かお茶会の様な感じになってしまっている。

ちなみにお茶はアリエッタ持参だ。

整備長には妻と一人の息子が居る、らしい。

嬉しそうに語る整備長の顔を見て、アリエッタも笑顔を浮かべる。

丁度アリエッタ位の歳だと言ってたけど――――十中八九アリエッタの年齢を外見上でとらえてるだろうなぁ。

さっきチラッと下を見たら、ルーク達が城の中に入るのが見えた。

後三十分もすれば此処まで来るだろう。

屋敷の仕掛けはそれ程難しく無く、どれも短時間で解ける物ばかりだからだ。

「アリエッタ、そろそろ準備だ」

「…はい、です」

談笑している内に時間が迫って来た。

そろそろ来るだろう。

「じゃ、わりぃけど…」

そう断って整備長をもう一度グリフィンの足に掴ませる。

一匹のライガが階段から上がって来た。

囮に出していたライガだ。

と云う事はもう、来る筈。

「アリエッタ!」

先頭を切って走ってきたのはアニスと……ルークだった。

全く、ルークにはこらえ性が無いのだろうか?

ルークの姿を確認した俺は直ぐにルークの前方に移動。

「グッ!?」

腹に強烈な一撃を入れ、気絶させる。

うむ、我ながらキレイに決まったな。

「ルーク!」

後から入って来たガイが叫ぶ。

「アリエッタ、後は任せる」

そんな中、俺はバックステップで下がりながら端ギリギリまで下がり、躊躇無く此処から飛び降りた。

一階下にある窓から中に入り、階段を下りて行く。

レプリカ施設のある部屋まで下がると、中央にある装置にルークの身柄を置く。

「ディスト、宜しく」

そう言って俺も別の装置に入る。

ついでに俺自身の同調フォンスロットも開く為だ。

俺に関しては本当はルーク達が此処に来る前にする予定だったのだが、思いの他整備に時間がかかってしまっていた。

整備が終わったのもルーク達が此処に入ってくる直前だったらしい。

部屋に入って来た時は冷や汗物だった、とシンクが言っていた。

同じ部屋に居たけど下を見に来なかったお陰で見付からなかった、とも。

「これは……完全な同位体ですね」

画面を見ていたディストが言う。

「早くしないと奴の仲間が来るよ」

音譜盤をセットした後はずっとモニターを見ていたシンクが言う。

今はモニターから目を離し、腕を組んで其処にただずんで居る。

女ってのを忘れそうなぐらい様になってる。

「ディスト、データはとれた?」

「えぇ、もう十分です」

俺が聞くとディストが終わった事を伝え、俺は装置から出た。

「私はこのデータを研究しますから先に戻ります」

楽しみですよ! と不気味な笑い声を発しつつ、ディストはこの場を後にした。

「……体の調子は?」

ディストが去った後、傍に寄って来たシンクが聞いてきた。

「ん? 平気。ちょっとくらくらするけど」

少しぼーっとする頭をかかえつつ、俺は答えた。

「そろそろルークを奪還しに来ると思うから、資料の方は任せる」

「OK」

此処で使うのは少々勿体無いけど、超振動でアリエッタの居る屋上まで跳ぶ事にした。

途中でルークを奪還しに来た奴らと鉢合わせにならない様にする為だ。

音素が集結する感触がして、次の瞬間には俺の体は『此処』から跳んだ。





side.ティア

「…兄、様」

第七音素が集結してる事を感じ取ったアリエッタは、目の前に敵が居るのにも関わらず無防備な姿をさらしていた。

ルーク奪還に行ったのはガイとジェイド後はおまけのミュウ。

この場には女性だけが残った事になる。

アニスはそんな無防備な姿をさらしているアリエッタに、攻撃をする素振りをみせなかった。

絶好の好機だというのにどうしたのだろうか? とティアは首を傾げる。

ティアはアニスの様子に戸惑っているようだった。

イオンは相変わらずニコニコし、グリフィンにつかまれたままの整備長は何処となくションボリしているように見えた。

勿論ティアやアニス、イオンにも集結する第七音素を感じ取る事が出来た。

其れが意味する事を理解できたのはアリエッタ以外にはイオンとアニスだけだったけれど。

収束する第七音素が眩い光を放った。

思わず顔をしかめるティアだったが、次の瞬間に現れた人影に驚愕した。

「ふぅ…」

現れたのはアッシュだった。

「やっほー、アッシュ」

「お久しぶりですね、アッシュ」

アッシュの姿を確認したアニスとイオンは、気さくに挨拶をした。

突然の事に驚いたのはティアだ。

「え、えぇ!?」

確かにティアとアッシュに面識はあるが、アッシュがアニスとイオンに面識があるとは知らなかった為にでた驚きだった。

「ん。久しぶりアニス、イオン、それとティア」

今度はアニスが驚いた。

ぽかんとしている。

口が半開きになっている為、間抜け面になっているのに気が付いていない。

顔に出してはいなかったが、イオンも驚いてるようだった。

「あれー? アッシュってばティアと知り合い?」

「あぁ、リグレットが紹介してくれた」

な? とアッシュが聞いて来たので、ティアはコクコクと頷いた。

突然の出来事に脳がついてこなかったのだ。

「ふーん」

アニスは成る程、といった具合に頷いた。

「……兄様」

アリエッタが階段の方を警戒する。

「積もる話もあるだろうけど、ルーク達が戻って来たみたいだから」

アリエッタが警戒する方向から足音が聞こえてきている。

ルーク達が上ってきている証拠だ。

「アリエッタ」

アッシュが横に居るアリエッタを一瞥して指示をだす。

その指示を受けたアリエッタはグリフィンに指示を出す。

飛び込んで来たルーク目掛けてグリフィンが飛ぶ。

斬ッ!

「そう何度も同じ手を喰らうかッ!!」

一喝してグリフィンに斬りかかるルーク。

おまけにもう一方の手で掴んだミュウを向ける。

ミュウが炎を吐く。

威嚇にしかならないが、それで十分だ。

上空に逃げたグリフィンが、今一度ルークを狙う。

「アリエッタ、行くよ」

「はい……です」

アッシュが駆け出す。

アリエッタが譜術の詠唱に入ると同時にライガが先頭を切って攻撃をしかける。

「グォォォォンッ!」

雷光が迸る。

狙いは前衛に居るガイ。

「うぉっ!」

持ち前のスピードでそれを避けるガイ。

「覇ッ!」

追撃でアッシュが攻撃を仕掛けてくる。

「させるか――ッ!」

ガイとアッシュの間にルークが滑り込み、剣でアッシュの攻撃を防ぐ。

ギィン!

剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。

アッシュはすぐさまバックステップをする。

当然、鍔迫り合いをしていたルークは突然の事にバランスを崩す。

其処に狙った様に、否、其処を狙ってアッシュが攻撃を加える。

上・下段の二連撃だ。

まともに喰らえば大怪我を負うその一撃は、しかし意図的に手加減を加えられていたものだった。

勿論それに気付くルークでは無いが、感覚的に手加減をされている事を感じ取った。

その事実に憤慨しながらも、急所を外すようにギリギリで避ける。

「―――癒しの力よ、ファーストエイド」

アッシュの斬撃を受けた直後、詠唱を終えたティアがルークに癒しの譜術をかける。

ダメージを負ってからタイムラグ無しで回復出来たのは
アッシュの攻撃を受ける事を想定していた為に出来た 事だった。

「荒れ狂う流れよ、スプラッシュ!」

ジェイドが譜術を唱える。

狙いは上空に居るグリフィンとその下に居るライガだ。

上空から水の連撃を受けたグリフィンは地面に激突する。

ライガはギリギリで回避したが、そのせいでアリエッタの護りががら空きになってしまった。

ガイがアッシュを押さえ、その隙にルークが走る。

狙いはアリエッタだ。

譜術を脅威に思っての判断だった。

しかしその為には前方に居るライガをどうにかしなければいけない。

ジェイドの譜術で発生したFOFに飛び込むと、近くに居るライガに向けて烈破掌の要領で攻撃を放つ。

掌に水の音素が集結する。

「砕け散れッ! 絶破、烈氷撃!!」

水のFOFによって増幅された水の音素が炸裂する。

「グォォォォォォンッ!?」

直撃を受けたライガは後方まで吹っ飛ぶ。

血を流すとライガは動かなくなった。

絶命したのだ。

「…歪められし扉よ、開け! ネガティブゲイト!!」

ライガの亡骸を見て顔を歪めたアリエッタは、ルークに向かって譜術を解き放った。

「がぁぁぁっ!」

範囲が広い攻撃を受けた為、範囲外に出るのが遅れたルークはアリエッタの譜術をまともに受けてしまう。

「くそ、ルークッ!」

アッシュの相手をしていたガイはルークを呼ぶが、ルークは片膝を地面につき、剣を支えにしている状態でとても戦闘続行は不可能な状態だった。

アニスはイオンの護衛の為に戦闘に参加していない。

ルークへの援護は期待できそうにも無かった。

かといってティアの譜術にも詠唱に時間がかかる。

どちらにしろピンチなのには変わらなかった。

「炸裂する力よ、エナジーブラストッ!!」

ジェイドが牽制で譜術を放つ。

対象はアッシュだ。

「―――チッ!」

エネルギー弾による攻撃を受けたアッシュは防御せざるを得ない。

その隙をついたガイはルークの救援に向かう。

直後、気絶から目を覚ましたグリフィンがルークに猛然と襲い掛かる。

「がぁ!?」

体力が底に尽き掛けてるルークは成す術も無く攻撃を受け後ろに飛ばされる。

「癒しの力よ、ファーストエイド!」

詠唱が完了し癒しの譜術がかけられるが、怪我の度合いの大きさのせいで完全に回復することは出来なかった。

ガイがグリフィンを攻撃範囲に収め、

「弧月閃!」

斬撃を見舞う。

胸の辺りを一閃されたグリフィンは絶命する。

「―――ッ! 許さないんだから!!」

自分の『友達』を殺されたアリエッタは怒りの眼差しでガイを見る。

やはり憎いものは憎いのだ。

当然と言えよう。

不可視の音素がアリエッタを中心に集結する。

今までとは桁外れな量に、アッシュは眉を顰めた。

次の攻撃に何が来るのかが解った為だ。

一応手加減はされるだろうが、此処に居ては自分も攻撃を受けてしまう。

「魔神剣!」

ジェイドに向かって牽制で魔神剣を放ち、自分は直ぐに後退する。

大技が来る事を察知したアニスがイオンを後ろに下げ、自分も後退する。

勿論アニス自身が後ろにイオンを庇う形になっている。

直後、

「始まりの時を再び刻め………倒れて! ビックバン!!」

アリエッタに集結した音素が爆発的に増加し、音素が爆発を引き起こす。

ズガァァァァァァァンッ!!!

爆風によって発生した煙が辺りを覆う。

「か、はっ」

煙が晴れると、範囲外に退避する事に成功したアニスとイオン以外の面々のほぼ全員が、戦闘不能に近い怪我を負って倒れているのが見えてきた。

封印術によって譜術を封じられたジェイドもその中に居る。

「…不覚、ですね」

とてもじゃないが戦闘を続けられる状態では無かった。

死んでいないのが不思議な位だ。

(意図的に手加減されていた―――?)

ジェイドが威力を換算して憶測を立てる。

が、正直今はそんな事を考えている場合では無かった。

「其処までだ、アリエッタ! アッシュ!!」

このまま止めを刺されるか、と云う時にヴァンが飛び込んで来た。

「……何のつもりだ、アッシュ」

剣を構えつつアッシュに問いかけるヴァン。

アンタの『操り人形』になる気は更々無い、って事だ

ヴァンだけに聞こえるよう静かに呟いたアッシュは、ライガとグリフィンの亡骸に手を添えつつ、アリエッタを抱える。

「…」

無言で今日使える跳躍法の最後の一回を使用するアッシュ。

音素が集う感覚。

次ぎ合う時は、敵かもな?

これまたヴァンだけに聞こえる様に何事かを呟いたアッシュ達は、音素の閃光に包まれてこの場から消えた。

「………」

無言で剣を鞘に収めつつ、アッシュの居た場所を見るヴァンは何を思うか―――。
next.....
































後書き

実に久しぶりに更新です。

ACT.11お送りしましたがいかがでしたでしょうか?

今回はほぼ原作と違う展開になりました。

家のアッシュはここら辺から漸く表立って行動する様になります。

今まで色々と裏でやってた訳ですが、ヴァンもアッシュも牽制しあってお互い手詰まりの状況でした。

それを打開する為にアッシュが遂に行動を起こす訳です。

次回からは殆どアッシュ達に視点を当てようかと思います。

ルーク達は大体原作と同じ行動をとるので、重要な部分(例えば親書を渡す場面)など以外は極力省くつもりです。

ただオリジナルとレプリカの差異がありますから、そこら辺も考慮して比率を決めたいと思います。

とりあえず次回はケセドニアですね。

拍手のレス返しの方は時間短縮の為、一括とさせて頂きます、ご了承下さい。

拍手をくれた皆さん、ありがとうございました。

それではまた次回に、お会いしましょう。

※早速編集しました。
  拍手にてご指摘下さった方、ありがとうございます。
  後、追加で言うとグリフィンはアリエッタの友達その一です。
  フレスベルグもちゃんと居ますよー?
  今回は移動の際に連れていたグリフィンがそのまま戦闘に参加しただけです。


椎名さんへの代理感想は現在依頼中です。



グリフォン殺しちゃマズいでしょ。


……はっ、つい大文字でやってしまいました…………。

ども、代理感想を頼まれました通りすがりの椎名です。椎名@新人ともいう。


さて、今回はコーラル城のお話ですね。
結局調べさせた(フォンスロットを開かせた)んですねぇ……ビック・バン現象のきっかけその一ですのに。
アレをどうやって回避するのか……かなりドキワクですよ?
結局バッドエンドとかだったら焦りますが。


バッドエンドといえば。
グリフォン殺しちゃダメですよ(ソコカ
いや、後々も何度も出てきますし。
っつーかグリフォンじゃなくてフレスベルグですし。


アリエッタ好きなら! そこは押さえとかなくては!!


はっ、つい熱くなってしまった……深呼吸深呼吸……ヒッ、ヒッ、フー……。


次はケセドニア関連とのこと。
カースロットをどーするのか期待しています。

それでは。

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