side.ルーク
「……行ったか」
剣を鞘に収めながらヴァンが呟いた。
その表情は険しいままだ。
「ルーク、私は国境へ戻れと指示した筈だが……?」
しかしすぐに表情をおさめると、ルークに向き直ってそう質問した。
内容に反してさほど怒った風には見えなかった。
何処か苦笑している感じだ。
「国境の方へ連絡を入れてみれば、お前達がまだ来ていないと聞いてな。急いで此方に向かって来たのだ」
暫くルークの方を見ていたヴァンだったが、視線を外し、整備班長の方を向く。
「まぁ良い」
更にイオンに視線を移す。
「イオン様、馬車を用意させました。整備班長と共にその馬車で軍港へ向かって下さい」
「ヴァンはどうするのです?」
「……少々用事があるので」
ヴァンはそれだけ答えると、口を噤んだ。
「………解りました。皆さん、それで良いですか?」
イオンは後ろを振り返ると、ルーク達に意見を求めた。
全員が承諾し、一行は馬車を利用してカイツールの軍港に戻る事となった。
一人残ったヴァンは空を見上げた。
「―――そろそろ、頃合か」
暗き瞳をかかえたヴァンは、一体何を思うか。
TALES OF THE ABYSS
―AshToAsh―
ACT.12 離反
カイツールの軍港に戻った一行は、すぐにケセドニアに出発する事になる。
ルーク達が使う一隻だけの修理だったので、修理は直ぐに終わったのだ。
無論それは整備主任が帰ってくるまでにある程度修復しておいた整備員達の努力の賜物であるのだが。
「ご苦労」
そんな彼らを、ルークは労った。
そして―――ヴァンは結局戻って来なかった。
ルークが少し渋ったが、ヴァンを待つという意見は時間の関係上却下され、一行はヴァンを欠いたまま出発する事になった。
兎にも角にもルーク達はケセドニアに到着する事が出来たのだった。
旅に必要なものを揃え、そして領事館にて到着を報告した後各々が自由行動をとることになった。
出発までは時間があったからだ。
そこで提案でガイがコーラル城でシンクから入手していた音素盤の解析を行う為に、解析機を持つというアスターと云う名の商人の屋敷に向かう事になった。
途中漆黒の翼に出会うなど、色々とハプニングもあったがルーク達は無事にアスターの屋敷に入る事が出来た。
アスターの奇妙な笑い声(?)を聞きつつ解析は無事終わり、ルーク達は妨害を受ける事無く(……)ケセドニアを出発した。
襲撃を受けたのは出発してから間も無く、ジェイドが解析が終わった資料を皆の前で軽く読み上げた直後だった。
「襲撃か!?」
ルークがそう言って立ち上がるのと、報告に来たのか兵士が部屋に入ってくるのは同時だった。
「大変です! ケセドニア方面から正体不明の譜業反応が……ッ」
兵士が全ての報告を終える前に、大音量で人の雄たけびが聞こえて来た。
―――オラクル兵士である。
かなり近いようだった。
直後、バンッ! という音と共にドアが開く。
入ってきたのは襲撃して来たオラクル兵の一人だった。
「いけないっ!」
ティアがナイフを構える。
「―――チッ!」
ジェイドがコンタミネーションを利用し、槍を取り出す。
アニスが譜術の詠唱に入る―この狭い部屋でトクナガを巨大化させるのは自殺行為だからだ―
そのどれよりも早く―――ルークの斬撃がその兵士に決まった。
「―――」
血を流し倒れて行く兵士を一瞥するルーク。
『殺し』や『死のニオイ』になれてないとはいえ、信念を持ってる彼はこの程度の事では立ち止まら無い、否、立ち止れないのだ。
直後、更に侵入して来た敵は瞬く間にジェイド達によって殲滅された。
下を見下ろすも一瞬。
ルークは直ぐに顔を上げる。
その視線の先には顎に手を添えているジェイドの姿があった。
「それにしてもこの襲撃………敵は余程イオン様の身柄と親書をキムラスカに届けたく無いのでしょうね」
「侵入して来たって事は水没させる事はなかろう」
ルークが補足のように言った。
「船を乗っ取るつもり、って事かなー?」
アニスが首を傾げる。
そうなれば狙われるのは勿論艦橋だ。
ルーク達はすぐにその場を後にし、艦橋へと向かうのだった。
時間の関係上戦闘をなるべく避け、走る・走る・走る。
艦橋を開放した後、今度は甲板へ向かう。
途中奇妙なロボットを見つけて相手をするが、さほど時間のロスにはならなかった。
更に走る・走る・走る。
甲板に出て、ルーク達はソイツを見た。
ソイツは煌びやかな―ごちゃごちゃした、とも云う―服に身を纏い、何故か椅子に座って空中に居た。
いかにも待機していました、と云う感じでソイツは居た。
「ハーッハッハッハッハッハッハッ!!」
其処に、変態が居た。
変態としか良い様が無かった。
「………」
思わずサッと視線を逸らすティアに、ぽかーんとして居るアニス。
ジェイドはあきれた様に額に手をやった。
「野蛮なサル共、とくと聞くがいい、美しき我が名を! 我こそは神託の盾六神将、薔薇の―――」
「おや、鼻垂れディストじゃないですか」
「薔薇です、バ・ラ! 薔薇のディストです!!」
「………死神ディストでしょ」
ボソッとアニスが呟いた。
「だまらっしゃい! そんな二つ名、認めるか!! 薔薇だ、薔薇ぁ!!!」
蛸の様に顔を真っ赤に染めたディストが叫ぶ。
「……カルシウムが足りてないわ」
その様子を見たティアが呟いた。
心なしか顔が赤く肩も震えてる気がするが―――気のせいだろう。
「知り合いか?」
びみょーに嫌な顔をしつつルークが訊ねた。
その表情には『こんな変態に関わりたくない』と云うのがありありと浮かんでいた。
全くである。
「私は同じ神託の盾騎士団ですから……。でも、大佐は?」
「そこの陰険ジェイドは、この天才ディスト様の嘗ての友」
アニスの疑問には変態―ディスト―が答えた。
「どこのジェイドですか? そんな物好きは」
やれやれ、といった具合に肩を竦めるジェイド。
「何ですって!?」
「ほらほら、怒るとまた鼻水が出ますよ?」
哀れディストは全く相手にされていない。
「………」
呆れて物も言えないルークだった。
「こういうのを置いてけぼりって言うんだな……」
誰にともなく呟くガイ。
「まぁいいでしょう」
自己完結をしたディストが言う。
「さぁ! 音素盤のデータを渡しなさい!!」
「これの事ですか?」
そういってヒラヒラと紙の束を見せるジェイド。
「ハハハッ! 油断しましたね、ジェイド!!」
高らかに笑い声を上げつつその紙束を奪うディスト。
しかし紙束を取られた筈のジェイドには焦りは見えなかった。
それもその筈―――
「差し上げますよ。その書類の内容は全て暗記しましたから」
しれっと言うジェイド。
策士である。
「ムキーッ! サルが私を馬鹿にして!!」
地団太を踏みかねない勢いだ。
「この私のスーパーウルトラゴージャスな技を喰らって後悔するが良い!!」
―――行きなさい、カイザーディストR!!
その声を合図に、一体の巨大なロボットが姿を現す。
今まで何処に隠れていたのか不思議な程にその大きさは巨大だ。
「………可愛くない」
そういう問題でもないだろうが、ティアが呟く。
「炸裂する力よ! エナジーブラストッ!!」
行き成りジェイドの譜術が発動した。
「ハハハハハッ! その程度の譜術ではかすり傷一つ負わせる事は出来ませんよッ!!」
ディストの笑い声が響く。
確かにカイザーディストには傷一つついていなかった。
「ルーク、ガイ!」
前衛二人に声をかけるジェイド。
「魔神剣ッ!」
ガイによる牽制の一撃。
「覇ッ!!」
ルークによる連撃。
その間にもアニスとジェイドが譜術の詠唱を進める。
アニスは今回は後ろにイオンを庇っているので前衛に参加できないのだ。
完全な回復役―後衛―に回っているティアに動きは無い。
何時でも回復が出来る様に詠唱待機している。
「歪められし扉、今開かれん。―――ネガティブゲイト!!」
アニスの譜術が炸裂し、
「狂乱せし地霊の宴よ、ロックブレイクッ!!」
ジェイドの譜術が追撃する。
その間にも攻撃を加えていたルークが剣に音素を集める。
「轟雷喰らいやがれ! 襲爪雷斬ッ!!」
雷を纏った一撃が直撃する。
やはり機械である以上、連続攻撃の後に来た電撃に弱かったのか、カイザーディストの動きが一瞬鈍る。
「やはり機械である以上電撃には弱いようですね……」
ジェイドが呟く。
「ルーク! 今の一撃を私の放つ譜術の後に叩きこみなさい!!」
そして直ぐに詠唱に入るジェイド。
ルークは舌打ちを一つすると、タイミングを計る為にカイザーディストの周りを走り始めた。
ガイが牽制を加え、アニスが譜術で援護射撃。
偶にティアが回復する。
暫くそうしていると、ジェイドの譜術が完成した。
「荒れ狂う流れよ、スプラッシュ!!」
水の一撃。
直後―――
「襲爪、雷斬ッ!!」
雷を纏ったルークの一撃が炸裂した。
「んなぁぁぁぁっ!?」
その一撃を受けたカイザーディストは爆発。
恐らくそれ以前のダメージも蓄積されてたせいだろう。
爆風に煽られて吹き飛ぶディスト。
その衝撃のまま、そして椅子ごとディストは海へと落ちた。
「……変態は死なんというが、アレも大丈夫だろうな?」
嫌な顔はそのまま、ルークが聞いた。
心の底から死んでてくれ、とでも言わんばかりの勢いだった。
「殺して死ぬような男ではありませんよ。生命力だけはゴキブリ並みですから」
しれっとジェイドが言った。
その言葉に多分に毒が含まれているのは気のせいだろう。
「では、怪我人が居ないか確認しましょう」
アニスに庇われ、今まで陰に隠れていたイオンがひょっこり顔を出して提案して来た。
―――時同じくしてダアトでは、一つの事件が起こっていた。
◆ ◆ ◆
side.アッシュ
「アッシュ様、準備整いました」
俺の部下の一人が報告に上がる。
今俺の目の前に居る騎士団員、そしてアリエッタ・ラルゴ・リグレット・シンク。
此処に居る全員が俺の同士だ。
ディストについてはレプリカネビリムの情報によってヴァン側についたという情報が入っている。
触媒武器の幾つかはディストの手に渡っているようだった。
最悪、レプリカネビリムの復活も想定しなければいけない。
「良し! 有事の際の事を考えて、幾つかの班に分けて行動する」
騎士団の何人かはフローリアンの護衛の為に残す必要もあった。
結局、戦力を考えて四つのグループに分ける事になった。
シンクを代表としたグループ。
ラルゴを代表としたグループ。
リグレットを代表とした、フローリアン護衛のグループ。
そして俺を代表としたグループ。
アリエッタはその特性と本人の意思を尊重して俺のグループに。
グループを幾つかに分けたのには勿論理由がある。
シンクやラルゴには『アクゼリュス崩壊』時に動いてもらう予定だ。
俺は―――アクゼリュスを崩壊させるつもりだった。
セフィロトが限界に来ている、というのが理由の一つ。
いずれ崩壊するのなら、『前回』と―正確には平行世界だけど―同じタイミングで崩壊・降下させるのがベストだと考えたからだ。
勿論無駄な死人を出すつもりは無い。
その為の別働隊がシンクやラルゴが率いるグループだった。
俺のグループはそれまでにアルビオールを使用可能な状態に持っていくのが仕事だ。
アルビオール関係では、少しパイプを作ってある。
休みの間に何度かシェリダンを訪れていたのだ。
そしてアクゼリュス崩壊までには戻ってくる必要もある。
一応ヴァンに対する策もある。
その為にはどうしてもアクゼリュスに行く必要があるのだ。
「先ずはシンクをリーダーとした班」
元々シンクの部下だった者と、人数調整の為に何人か別の師団から加える。
「次にラルゴをリーダーとした班」
同じく元々ラルゴの部下だった者と、人数調整の為の別師団の人間。
「この二つの班は主にアクゼリュス崩壊直前に働いてもらう。具体的な事はシンク達に話してあるから、話はそっちで聞いておいてくれ」
「次に、リグレットをリーダーとした班」
この班は護衛の為とは言え大量に人数を裂くことは出来ないので、必要最低限の人数にとどめる。
「この班にはフローリアンの護衛を頼みたい」
「そして最後に俺をリーダーとした班。アリエッタも此処だ」
この班は少し特殊で、同士の中でも特に機械―譜業―関係に強い奴を集めた。
アルビオール対策である。
「基本的に連絡はディストの所からちょろまかして来たこの通信機を使用。万が一の時をのぞき、定時連絡は怠らない様に」
一気に其処まで言う。
「何か質問は?」
そう問うと、アリエッタが俺の服の裾を引っ張ってきた。
「兄様……、アニス達はどうする、ですか?」
「アニス達には隙を見て接触するつもりだけど……」
問題はその方法とタイミングだった。
「まぁそこ等辺は臨機応変かな?」
「解った、です」
必ずしもアニスに会えないという事が解った所為か、アリエッタは心なしかしょんぼりしている。
「大丈夫。直ぐに会えるよ」
慰めにしかならないが、そういって頭を撫でてやった。
「フローリアンを保護する場所はどうする?」
リグレットが聞いて来た。
「今の所移動させるつもりは無いけど……それに関してはリグレットに任せるよ」
「解った。移動した際には直ぐに連絡を入れる」
「さて―――それでは行きますか!」
ヴァンの『野望』を阻止する為に、今静かに行動を開始する。
覚悟しておけよ! ヴァン!!
......next
後書き
随分間が開きましたが、最新話完成です。
当初の予定を変更してお送りしてます。
本来ならこの話はケセドニアの話になる予定だったんですけどね……。
何時の間にかこんな話になっていました。
次回からは恐らくアッシュ達の、というかアッシュのグループの動きを中心に話は進むと思います。
ゲームレギュラー組みも登場する予定ですので、お楽しみに。
さて……拍手の方は毎日拝見させて頂いてます。
一言一言が凄く励みになるのでとてもありがたいです!
この場でお礼申し上げます。
次回の更新は何時になるか怪しいですが、長い目でみてやって頂けると幸いです。
では、また次回にお会いしましょう。
2006.7.11 神威
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神
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