side.アッシュ
ダアトを後にした俺達のグループは当初の予定通りシェリダンに向かっていた。
移動は時間短縮の為、アリエッタの『友達』に乗っての移動となった。
アルビオール対策に譜業に強い人間のみを連れて来たので人数はそんなに居ない。
所謂少数精鋭だ。
ダアトから空を移動してシェリダンに向かうので、時間はさほどかからない。
「そろそろシェリダンに着くから、各自着陸準備をするように!」
今回は相手の警戒を招くのを避ける為、町や港から距離をおいて着陸する。
行き成りアリエッタの友達、つまりは魔物が姿を現せば誰だってびっくりするだろう。
町に居る人全員が俺との間に交流がある訳でも無いから、仕方が無いといえば仕方が無い。
「……兄様」
アリエッタの声にそちらを向くと、全員が着陸を終えていた。
「良し、このままシェリダンに向かう! ……アリエッタ、皆には何処かで待機して貰っててくれ」
「…はい、です」
此処で言う皆とは、移動に使ったグリフィン達の事である。
グリフィン達が飛び去って行くのを確認すると、俺は当初の予定通りシェリダンに行く為に移動を開始させた。
さて、イエモンさん達は元気にしてるかな?
TALES OF THE ABYSS
―AshToAsh―
ACT.13 魔剣ネビリム
「おぉ、良く来たな! アッシュ!!」
そう言って少し嬉しそうに寄って来るイエモンさん。
その向こう側にはタマラさんやアストンさんの姿もある。
皆元気そうだった。
「イエモンさん、久しぶり」
「ん? そっちの嬢ちゃん達は……?」
イエモンさんがアリエッタ達の方を見て言った。
「あぁ、俺の部下とアリエッタ。聞いた事はあるだろう?」
「何と! ではこの嬢ちゃんが六神将の……?」
ふむふむ、驚いてるな。
後ろの方ではアストンさん達も声を上げて驚いてる。
「……兄様」
くいくい、と服の裾を引っ張られたので、アリエッタの方を向く。
「ん? ……あぁ、解ってるよ」
仕事、と言いたかったのだろう。
無論忘れてるつもりは無い。
「今日はちょっと頼みがあって来たんだけど………時間はあるか?」
「あるにはあるんじゃが……今はちょっと立て込んでおってのぉ」
「何かあったのか?」
俺が聞くと、皆は一様に唸り込んでしまった。
「いやの、アルビオール一号機がこないだの稼動実験の時に欠陥を発見しての」
「今手が離せない人が多くてね、人手が足りなくて修理が出来ない状態なの」
ふむ……成る程。
「それなら後ろに居るこいつらを使ってくれ。俺の部下の中でも譜業に強い奴らを連れて来てあるから、役には立つ筈だ」
「おぉ! 助かる!! ……で、おぬしの頼みとは何なのだ?」
「アルビオールを貸して欲しいんだ。稼動自体は成功しているんだろ?」
「……ふむ、修理が済めば貸しても良いぞ。ただし、その前にもう一度稼動実験を済ませてからじゃ」
「おっけー。それじゃ、俺とアリエッタは別の用があるから……お前達、後は頼んだぞ!」
最後の部分を部下に言って、俺はアリエッタを伴いその場を後にした。
「…兄様、別の用って……?」
「あぁ、この近くに『厄介な物』を持ったやつが居てな。先にそれを確保して置きたいんだ」
―――そう、ディストよりも先に。
「解った、です」
コクンと頷くアリエッタの頭を撫でつつ、『魔剣ネビリム』を持ったブレイドレックスが居るであろう渓谷に向かう。
「念の為にフレスベルグも連れて行くか……。アリエッタ、呼べるか?」
「……はいです」
アリエッタが笛の様な物を出してそれを吹く。
幼い頃を共にしたフレスベルグのみが解る周波の音を出すらしい。
案外近くに居たのか、直ぐに来たフレスベルグを見つつ、これからの事に思いを馳せる。
「さて、出発するぞ」
◆ ◆ ◆
「此処か……」
渓谷に辿り着いた俺達は、すぐにブレイドレックス探索に取り掛かった。
何としても魔剣を先に手に入れる必要があった。
必然的に焦りが出てくる。
「何処にいる?」
その直後、けたたましい叫び声が聞こえて来た。
「グォォォォン!」
「みーつけた」
其処にはブレイドレックスの姿があった。
「アリエッタ!」
直ぐにアリエッタに声をかけ、俺はブレイドレックスに向かって走り出した。
連続攻撃をしかけ、攻撃が当たった瞬間にはバックステップで距離をとる。
「―――いきます! シャープネス!!」
アリエッタの術式が完成し、俺に攻撃補助の術がかかる。
すぐに踏み込むと、軽く三連撃を浴びせて技に繋げる。
「崩襲脚ッ!」
そしてそのまま―――
「牙連崩襲顎ッ!!」
キツイ一撃をお見舞いする。
直後、追撃するようにフレスベルグが上空から攻撃をしかける。
ブレイドレックスが反撃しようにも、一瞬後には俺もフレスベルグも距離をとっている。
ヒット&アウェイだ。
後衛のアリエッタの近くに敵が来てないか――偶に後ろから小型のモンスターが出てくる事もあるからだ――を確認し、再びブレイドレックスに攻撃をしかけ
る。
「歪められし扉よ、開け! ネガティブゲイトッ!!」
アリエッタの術が完成する。
術に巻き込まれない様にすぐに退避をし、様子を見る。
「グォォォォォォンッ!?」
効いてる様だが、倒れる様子は無い。
……ふむ、仕方が無い。
時間も無限にある訳ではない。
そうそうに終わらせて貰うとするか。
「アリエッタ、少しだけ時間を稼いでくれ! ―――超振動でケリをつける!!」
「解った、です!」
直後、アリエッタの指示を受けたフレスベルグがブレイドレックスに攻撃を仕掛ける。
ブレイドレックスの注意はそっちに向いたようで、俺はその間に超振動を使う準備をする。
―――秘奥義、レイディアント・ハウル。
超振動を使った攻撃の一つだが、実戦で使った事は無い。
つまり、ぶっつけ本番って事だ。
深呼吸をして体に力を漲らせる。
ごちゃ混ぜになった音素が、目視出来るまで濃厚になる。
それは光の帯となって俺の体を包む。
これが所謂OVL(オーバーリミッツ)状態と呼ばれる、一種の火事場の馬鹿力を発揮したような状態だ。
集中して更に第七音素を集める。
「アリエッタ!」
アリエッタが頷き、フレスベルグを撤退させる。
今度は俺の番だ。
剣を構え、攻撃に移る。
お決まりの様に連撃を浴びせ、技に繋げる。
「崩襲脚!」
続けてもう一撃。
「通牙連破斬!」
そして、とどめの一撃。
「やってやるぜ!」
収束した音素を解き放つ。
「うぉぉおおおおッ!」
「これでも! 喰らえぇいッ!!」
―――レイディアント・ハウル!
「……ッ!?」
超振動の直撃を受けたブレイドレックスは、流石に持たなかったのか崩れ落ちる。
「………やった、か?」
轟音を響かせて倒れたブレイドレックスの巨体を目にして、俺は呟いた。
ピクリとも動かず、また動く様子も無かったので警戒しながら近づいてみる。
すると、その巨体の背中に一本の剣が刺さっているのが見えた。
魔剣ネビリムだ。
俺はその剣を拾い上げる。
ドクン、ドクン、と心臓の様に脈打つソイツを見て、改めて触媒武器の恐ろしさを思い知った。
その剣からは禍々しい程の音素が感じられたのだ。
暫くそうしてると何時の間にか隣に来ていたアリエッタに服の裾を握られた。
「兄様……戻る、です」
「ん、直ぐに戻ろう」
魔剣ネビリムを布にくるんで袋に詰め込む。
俺達はそのままこの場を離れ、シェリダンへと戻る事にした。
◆ ◆ ◆
「お久しぶりですっ!」
シェリダンの集会場に戻った時に俺達を迎えたのは、イエモンさん達でも俺の部下でも無く―――イエモンさんの孫であるノエルだった。
視界の隅にぴくぴくと痙攣するノエルの兄のギンジが見えたのは、気のせいだと思いたい。
「ノエル!?」
「………」
俺の声に無言でササッと前に出て来るアリエッタ。
その瞬間、ノエルとアリエッタの間で火花が散った様に見えた。
こう、バチバチッて。
この二人は仲が良いのか悪いのかさっぱりだ。
偶に仲が良かったと思えばこれだ。
「それにしても………ホントに久しぶりだなぁ」
「偶々此処に用事があって来たら、アッシュさんが来てるって聞いたので……」
迷惑でしたか? と上目遣いに聞いて来るノエル。
「……ちょ、アリエッタ。痛いって」
眉を顰めて下を向くと、傍目には解らないけど剥れたアリエッタが俺の足を踏んでいた。
「…兄様、デレデレしてるです」
「いや、デレデレって………」
何故かご立腹のアリエッタに首を捻りつつ、ノエルとの会話を再開させる。
「そう言えばイエモンさん達からは話、聞いてくれたのか?」
「はい。アルビオールの事ですよね? 操縦士に関しては私がする事になりました」
「そっかー。んじゃ、乗る時は宜しく頼むわ」
「はい!」
これは後にイエモンさんから語られた事だけど、どうも本当はギンジがパイロットの予定だったらしい。
それを聞いたノエルが――――これ以上はちょっと俺の口からは語れない。
ただ、ギンジは全治一週間の怪我を負ったとだけ言っておこう。
……おんなって、時々怖い。
ノエルとの会話もそこそこにイエモンさんを探して周りを見渡すが、此処にはどうもノエルだけしか居ないようだった。
「ノエル、イエモンさん達はもう?」
「はい。既に仕事に取り掛かっています」
俺が連れて来た部下のお陰で、アルビオールの改良は三日程度で終わるらしい。
ふむ、少数精鋭とは言え譜業に強い奴だけを集めたのは正解だったようだ。
「そっか。それじゃ、俺達は宿を取りに行くからこれで」
「…♪」
俺がそう言うと、心なしか機嫌が良くなったアリエッタが手を握ってくる。
「それじゃ、また明日」
「また、です」
「はい。また明日」
挨拶を済ませ、集会所を後にする。
宿を取った後アリエッタは先に休ませ、俺はイエモンさん達の様子を見に行く。
暫く歩くと、アルビオールを整備する専用の整備所が見えてくる。
中に入ると慌しく改良を続けるイエモンさん達の姿があった。
「イエモンさん、うちの連中は使えてる?」
座って一服していたイエモンさんに近づき、俺はそう聞いた。
「ん? おぉ、十分働いてくれとるよ。流石は、アッシュが選んだ部下じゃな」
お世辞ともつかない台詞をいって、イエモンさんは朗らかに笑った。
「完成は三日後の予定だ、ってノエルに聞いたんでそれまでは近くの宿に居ますから。何かあったら遠慮なく呼んで下さい」
「それじゃ、今日は失礼します」
俺は一礼すると、その場を後にした。
そろそろ定時連絡の時間が近づいている。
宿に戻った俺は、寝ているアリエッタ――部屋数が少なかった事と、アリエッタの希望で同室になった――を見て、通信機を手に取った。
丁度良く通信が入る。
『第三班、定時報告だ』
第三班―――つまりリグレットのグループだ。
「ん、感度良好。どうぞ」
『こちらは今の所特に異常は無い。場所は当初の予定から変更無し。フローリアンも元気だ』
「おっけー。ご苦労様」
『……アッシュ、そちらはどうだ?』
「万事滞り無く。魔剣ネビリムの回収の方も成功した。ただ、アルビオールに関しては三日後。飛行実験をして成功したら貸してくれるって」
『そう、か。魔剣の保管には万全をきすのだぞ?』
「解ってるよ」
『では、また。以上で定時報告を終了する』
それで通信は終わった。
その直後に通信が来る。
そうこうして定時連絡―定時報告―を済ませると、俺も一眠りする事にしてベッドに横になるのだった。
next.....
後書き
ども、最新話お送りしましたがどうでしたか?
今回の最後にあった定時報告でシンクとラルゴの報告を出さなかったのは、ちょっとした意味があります。
決してないがしろにした訳ではありませんとも、えぇ。
今回の話で行き成り秘奥義でちゃってますが、気にしないで下さい。
多分これからも、敵味方問わずにバンバン技が出て来ると思います。
まぁあからさまに強力な譜術とかは出てきませんが、流石に。
さてさて拍手の話しになりますが、拍手を送ってくださった皆さん、ありがとうございます。
いや、ホントびっくりしました。
お礼を一つずつ書いていきたいのですが、流石に数が多いので一まとめでお礼申し上げます。
本当にありがとう。
その中でも一つ疑問があったようなので、それにお答えします。
はい、これです。
>いつレプリカネビリムにあったんだ!
これはレプリカルーク(あえてこう言います)に来た、別世界のレプリカルークの記憶の中にあったからです。
そう言うことにしておいて下さい(ぁ
お気づきの方も居ると思いますが、三番目に短編SSもどき、もといフェイスチャットになりきれなかったナニカがあります。
お暇な方が居たら見てやってください。
初めてな試みなので、凄く微妙な出来ですが。
んむ、長々と書きすぎな気がするので、今回はこれで。
それではまた次回にお会いしましょう。
2006.7.24 神威
代理感想は椎名さんにお願いする予定です。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
神
威さんへの感想はこちらの方に。
掲示板で
下さるのも大歓迎です♪