ルーク坊ちゃんが睨んで来るのを眺めながら、俺はコイツをどうやって説得しようかと考えていた。
……んだけど、なんかもーメンドイ。
と云う訳で力ずくで納得させる事にしちゃいました!
あっちとこっちの戦力差は歴然だし、手っ取り早くするには其れが一番。
それに腕っ節で負ければ少なくとも文句は言わない筈だ。
………多分。
「んじゃ、軽く決闘でもしますか」
「何!?」
「納得、出来ないんだろ? 俺が何言ったってさ」
呆れたように呟く。
六神将である俺が信用できないのだろう。
俺が逆の位置に居たとしたら同じ事を言うに違いない。
自分で言っててなんだけど、滅茶苦茶怪しいし。
まぁこういった所は流石オリジナルと言うか……俺とそっくりだ。
「あぁ、貴様の言う事は信用出来ない。俺は敵対してた奴を直ぐに信じれる程気楽な人間じゃ無いんでな」
「だから決闘って訳。なんだったら俺が勝ったら俺を信じろ、負けたら俺がお前の前から消えてやるつー条件付でどう?」
「―――その言葉、忘れるな!」
瞬間、ルークが抜刀した。
ふむ、反応は良い。
経験から来るほぼ反射的な動きでそれをガードすると、バックステップで距離をとる。
流石、と言うべきか。
実戦経験が少ないとは言え此処に来るまで様々な戦闘をこなして来たであろうルークが、圧倒的に自分より強い敵に勝とうとすれば、これしかない。
とはいえ、其れを喰らってやる義理もない。
すぐに戦闘態勢を整える。
流石にこの場所で大技を使った戦闘は出来ないので、比較的軽い技を中心に戦術を立てる。
ルークの連続攻撃をかわしつつ反撃を加えていくが、そこはそれ。
ある程度実践を積んだ相手なのでギリギリで避けられるなり受けられるなり。
少し手加減していたので受けられたのには別に問題は無い。
正直、この程度の攻撃を受けられなければ、この先の戦闘をこなす事は出来ないだろう。
全くもって面倒な事だ。
TALES OF THE ABYSS
―AshToAsh―
ACT.16 外殻大地へ
幾たびも剣をぶつけ合う。
もうどれ位こうしているだろうか?
恐らく、十分と経ってない筈だ。
だけど差は出てきた。
そう、体力の差だ。
こっちは現役の兵士、それも戦闘を中心にこなす部隊――特務師団は特に戦闘に駆り出される事が多いのだ――に所属する人間。
あっちは実戦経験が少なく、鍛錬をしているだけの人間。
それも今は激昂しているせいで攻撃が激しく、そして大振りになっている。
これだけ大振りだと避けるのも容易い。
必然的にルークは沢山の体力を消費する。
現に今目の前に居るルークの息は既に上がっているのに対し、俺の息は上がってない。
正直此処まで差があるとは思って居なかった。
自分を過小評価していたのか、はたまたルークを過大評価し過ぎていたのかは解らないけど。
「これで終わりか?」
正直拍子抜けした感が否めない。
「まだ、だぁ!」
もうちょっと体力配分を考え、戦法を考えればもっと良い勝負が出来た筈なのに。
何でルークはこんなに激昂しているのだろうか。
考えても解るわけは無い。
俺は俺であってルークでは無いのだから。
とはいえ、だ。
流石にこれ以上の時間は使えない。
と、云う訳で早々に終わらせる事にした。
此処らへんでついでに格の差を見せ付けてやる事にする。
今後動きやすくする為にも、ルークとの衝突は避けたい。
その為にはルーク自身が納得する必要がある。
まぁ言って見ればこの決闘はそのルーク自身を納得させる為の『材料』ってところか。
少なくとも自分より力の立つやつにだったら、文句は言いつつも従ってくれる。
「魔神剣ッ!」
振り下ろし型の魔神剣を放ち、そのままダッシュで距離をつめる。
その間に剣を鞘に収める。
俺の目的はルークに力の差を見せる事であって、殺す事や傷付ける事ではないからだ。
勿論、だからといって侮ってる訳ではない。
「グ―――ッ!」
辛くも剣で衝撃波を弾いたルークだが、その間に既に俺は懐に潜り込んでいる。
「フッ!」
軽い呼気と共に両手で掌底を繰り出す。
「があっ!」
そのまま右回し蹴り。
「チッ!」
流石に頭への攻撃はガードされたが、ダメージは大きい。
掌底を受けて尚ガード出来たのは流石と云うべきか。
ついでと言わんばかりに剣を蹴り飛ばしてやる。
ルークの手から離れた剣は見当違いの方向に飛んでいく。
次いで踵落し。
両手を交差した状態で受け止められるが、其れを利用する形でバック転、一旦距離をとる。
そして遠のいた俺にルークが一瞬だけ気を抜いたその瞬間―――!
「疾ッ!」
脚力を一気に爆発させて再び懐に飛び込む。
今のルークはノーガードに等しい。
「飛燕連脚ッ!!」
飛び込んだ勢いをそのままに蹴りの三連撃を浴びせる。
衝撃で浮かんだルークの体が目の前に来る。
これで―――トドメだ!
「双打掌!!」
両の掌と氣を利用した一撃。
対ヴァン用に編み出した技の一つだ。
衝撃がプラスされ、ルークの体は吹き飛ぶ。
地面をいくらか滑った所でルークの体は止まった。
「勝負アリ、だな」
ピクリとも動かないルークを見て言う。
「……兄様」
とことことアリエッタが寄って来る。
アリエッタに剣を預け、俺はルークを担ぐ。
「ティア、部屋のベッド借りれるか?」
「え、えぇ」
呆然としていたティアが生返事を返す。
その様子を見たリグレットが、珍しい物を見たと言わんばかりに微笑んだ。
……俺にとってはリグレットが微笑む事の方が珍しいと思うんだけどな。
まぁ綺麗だから良いんだけどね。
眼福眼福。
「そこ、ぼーっと突っ立てないでついて来る!」
ルークを担いだまま未だに唖然としている面々に声をかけ、ずんずんと先に進む。
目指すはティアの部屋だ。
◆ ◆ ◆
ルークをひとまずベッドに寝かせ、俺達はルークの仲間を伴いテオドーロさんに会いに行く。
其処で話したのは、此処に居る全員で外殻に戻る為の方法の事だった。
「タルタロスにパッセージリングと同様の音素活性化装置を取り付けた。一度だけならアクゼリュスのセフィロトを刺激して、再びツリーを伸ばすことが出来る
だろう」
「お世話になります」
「いや、気にする必要は無い。―――ティアを、よろしく頼む」
そう言ったテオドーロさんに頷くと、出発する為、ルークを起こしに戻る。
ティアの部屋に戻ると、其処には相変わらず気絶したままのルークの姿があった。
まぁ手加減したとは言え、それなりに力を込めた訳で。
しょうがないと言えばしょうがない。
問答無用でルークを担ぐ。
「詳しい予定はタルタロスの中で説明する。先ずはタルタロスに行こう」
そうして俺達はタルタロスへと向かった。
◆ ◆ ◆
「―――さて、これからの予定を説明する」
そう言ったのは隣に居るリグレット。
ルークは別室で寝かせている。
あいつには後で説明すればいいだろう。
「まず総長、つまりヴァンが生きているという事を前提に話を進める、と云う事を念頭に置いておくように」
「第一に我々はベルケンドに向かう」
「ベルケンド、ですか?」
ティアが疑問の声を上げる。
まぁ、当然だろう。
「ヴァンはベルケンドの第一音機関研究所に頻繁に訪れているんだ。其処に情報があるのは間違い無い」
とはいえ、見当はついている。
「それも恐らく―――レプリカに関係する情報が」
ジェイドの目が一瞬陰りを見せた。
まぁ、生みの親でかつその技術を禁忌としているのだから仕方が無いだろう。
「レプリカで何をしようとしているのかまでは解らないけど、其れを使って何かをしようとしているのは間違い無い」
「話を続けるぞ」
リグレットが其処で話を戻す。
「第二にセントビナーに向かう」
「まぁ、こっちの理由は簡単で、崩壊の危険性があるのがセントビナーだから」
「アクゼリュスみたいになるっていうのか!?」
「そのアクゼリュスのパッセージリングが崩壊したからね」
肩を竦めて言う。
こればかりは仕方が無かったのだ。
「まぁ避難の為の準備は既に整っているから、心配する必要は無い」
「そして次に向かう先はシェリダンになる」
「で、その準備に関係するのがシェリダンって訳」
場所を告げるのがリグレット、それを補足するのが俺、と云う感じに話は進む。
「避難に必要な物を受け取りに行くのさ」
「ふーん」
アニスが呟く。
まぁ、此処まで詳しい事はアニス達にも話してなかったからな。
「第四にグランコクマに向かう」
「グランコクマですか?」
イオンが首を傾げる。
「これに関しては完全にこっちの用事なんだけどね。無視できない事でもあるから」
イオンの疑問にあいまいに答える。
「これに関しても死霊使い、お前の力を借りたい」
「私……ですか」
「そ、ピオニー陛下に謁見する為に手っ取り早いのはそれだから」
「仕方ありませんねぇ」
ジェイドが呟く。
「主な予定は今の四つだ。他は、臨機応変に行く」
そうリグレットがしめて終わり。
と、その時ルークにつけていたアリエッタがルークと共に入ってくる。
「兄様、ルークが目を覚ましたから、連れて来たです」
「そっか。ありがと、アリエッタ」
軽く髪を梳いてやると、目を細めて喜んだ。
「………約束は約束だ。素直に貴様の言う事に従ってやる」
「ん。詳しい事は後で説明するとして……とりあえず外殻大地に戻りますか!」
全員がそれぞれ配置につく。
「始めるぞ!」
こうして、俺達は外殻大地へと『飛び立った』
next.....
後書き
大分間が開きましたが、十六話完成です。
楽しみにして下さってた方には一ヶ月以上あけてしまって申し訳ないです。
拍手の方も毎日確認させて頂いてます。
皆さん、有難うございます。
では…また次回。
2006.10.11 神威
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