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時は西暦2115年。

世界各地を襲った大災害である‘大異変’より、既に100年の時が経過していた。

しかし世界各地では二次災害とも言えるべきモノ―――即ちヒトと魔物、魔族と神族がそれぞれ小競り合いを続けている。

硬直状態は続き、その均衡を破るようにヒトの中から、打算によって魔物や魔族側につく者達が出始めた。

俗に魔に属する者達(ガイスト)と呼ばれる組織の出現である。

更に同年より、ガイストの協力を得た魔物達は拠点を作り始める。

ガイストは知能の低い魔物の参謀的位置に納まり、更には魔族と共闘して人類に対し攻勢に出た。

遂に均衡は崩れ、この年以降人類は劣勢を強いられる事となる。

ヒトは街を中心に守りを固め、魔物の脅威にただ耐えるだけの日々が続く。

―――時は流れて西暦2130年。

この年遂に星の意思・世界の意思などと呼ばれる存在により、魔に属するモノに対するカウンター(世界の救世主)が誕生する。

それと同時に、人知れずしてソレの対極に位置する者が生を受ける。

それは奇しくも115年前世界を襲った大災害が起きた日と同じ、八月十日の出来事であった。




救世主物語(仮)

第一節  近衛学園T




能力者育成学校。

その名の通り能力者を育成する為の機関である。

ここで能力について簡単に説明しよう。

能力とは以下の三つに分類される超常的な力の事を指す。

自然に存在する要素、つまり火や水・風そのものを操る『TYPE-A』

尚、原則として『TYPE-A』の能力は一つの要素のみを扱う事しか出来ない。

火だけ、水だけ、風だけ、という具合にだ。

次に一般に超能力と呼ばれる『TYPE-B』

最後に、前述した二つに属さない『TYPE-S』

これらの力を有する者が総じて能力者と呼ばれるのだ。

そういった能力者達を教育するのが近衛学園のような能力者育成学校と云う訳だ。

この能力者は必ず能力者育成学校に通う事を義務付けられている。

ハンターにならないにしてもその特質上ガイストに狙われやすい為、どうしても自衛の手段が必要になるからである。

尚、育成学校卒業時、ハンターになりたい者は『卒業試験』と称して育成学校用のハンター試験を受ける事が出来る。

無論実力(知識・戦闘力)に見合ったランクを受け取る事が出来る。

ランクにはSS・S・A・B・C・Eの六種類が存在し、S・A・Bの三つに関しては更に+と−の二段階に分かれる。

Cに近いBならB−、逆にAに近いBならB+となる。

更には前述した六種以外にも規格外・未知数を現すXも存在する。

尚Eランクに関してだが、これはハンター学校を卒業した者に与えられるランクでありそれ以外ではまず取る事のないランクでもある。

ちなみにハンター学校とは前述した能力者育成学校とは違い、一般人がハンターになる為に戦闘法を学ぶ学校の事を指す。

話を戻そう。

能力者は一部の例外を除き、生まれたその瞬間にその能力を発現させる。

発現とはその子供が能力者である事を示す‘サイン’の事を指す。

大抵は他人の第六感に働きかけ、生まれた子が能力者である事を周りに知らせる事を言うが、稀に身体的な特徴として現れる場合もある。

そして能力者の子供は大抵十歳を過ぎると能力に覚醒する。

尚、現在まで能力を暴走させた、という報告は上がってきていない。

子供達は感覚的に能力を操ってみせるからだ。

能力をきちんと制御出来るようになったから覚醒した、とも言えるのである。






◆     ◇     ◆     ◇






―――西暦2145年四月三日。

この日、日本唯一の能力者育成学校である近衛学園では新たな能力者(新入生)達を迎えていた。

玖藤 零(くとう れい)もそんな新入生の一人である。

入学式、と言っても幼小中高の大学を除く全てがエスカレーター式になっているので周りには知人しかいなかったりする。

近衛学園は世界初の集中育成学校だ。

前述した通り、能力者は生まれた時に『自分は能力を持っている』という事を示す。

そうして日本で生まれた能力者は近衛学園に入学する事を義務付けられる。

近衛学園が集中育成学校と呼ばれる所以は、通常中学から能力の制御法を学ぶのに対し、幼少時から能力について学ぶからだ。

幼少時、と言っても実際に能力について学ぶのは小学校中学年の頃からである。

能力に覚醒するのは小学校の高学年時ではあるが、それまでに能力の事についてのあれこれを学んでいるのといないのとでは随分と差が出る。

また、その頃より能力の使い方を学ぶ事によって、基礎の部分で若干の差が出てくる。

日本人の中に世界有数の魔を狩る者(ハンター)が多く居るのはその為である。


閑話休題。


今現在、零は周りから視線を向けられている事に気付きながらも、待ち合わせをしている友人達の元へと向かっていた。

元より自分が注目される理由は解っている。

(そりゃ、日本人の癖してこの容姿じゃな……)

思わず嘆息して自分の髪をつかんで眼前に持ってくる。

其処に見えるのは三つ編みの髪―――ただし、その色は見事な銀だ。

鏡を見れば向こう側には金色の瞳が見える事だろう。

そう、零は日本人には凡そありえない容姿をしていたのだ。

生まれた瞬間は黒い髪に黒い瞳だったのだが、産声を上げた時には既にこの色に変わってたのである。

無論零自身には解らぬ事なので後から親に聞いた話ではあるが。

―――そしてこれこそが、零が能力者である事を示す証であった。

「………はぁ」

思わず溜息が零れる。

能力者が出現しはじめてから、容姿に関する陰湿ないじめは無くなったが、零的には他人とどこか違う容姿にコンプレックスを持っていた。

というのも、彼には一人の妹がいるからである。

彼と妹は間違いなく血縁関係にあるのだが、前述した理由で容姿が全く異なるのだ。

「はぁ」

またしても溜息。

「零様」

陰鬱な気分に浸っていた零に声がかかる。

何時の間にか立ち止まっていた零が顔を上げると、其処には若干短めの黒髪をポニーテールにしている少女の姿があった。

「……鈴?」

鈴音。それが少女の名前だった。

鈴、とは鈴音が零だけに許可した鈴音の愛称である。

当の鈴音は零の傍に寄ってくるとまるで従者のように其処に構えた。

実際、彼女は幼い頃から従者の真似事のような事をしている。

「皆様お待ちの筈です。急ぎましょう」

そう言って控えめに手を握って来る。

零はそういったあれこれに頓着しないのだが、鈴音は頑なにその態度を改めない。

その態度とは、つまり従者が主人にするような態度の事だ。

鈴音と零の付き合いはそれこそ生まれた時からだ。

驚異的な事に、鈴音は幼少時の頃からこの調子であった。

気がついた時には既にこうだった、とも言える。

ここまで来るのにも随分と時間がかかったものだ。

実際の所、鈴音がここまでする理由は何もない。

ただそれ以外にも鈴音に関して、不思議な点は幾つかある。

例えば最大の謎。鈴音の両親が存在しない(……)点。

鈴音が生まれている以上、両親は居てしかるべきだ。

しかし。現在に至るまでその存在は確認されていない。

出産された子供の数は資料で残っているのだが、明らかに数が合わないのである。

突然出現したとしか思えない怪奇。

それ故に、病院内で鈴音は何かと気味悪がられていたのだ。

たまたま(…)零の両親が引き取らなければどうなっていた事か。

しかし、それが従者になる理由になるか、と聞かれればまだ弱いだろう。

今までの事を思い出しつつ、零は鈴音の様子に苦笑を浮かべた。

「慎司がうるさそうだ」

零はキュッとその手を握り返して歩き出すのであった。






一方その頃零の友人達はというと、零が来るのが遅い為に暇を持て余していた。

「あのバカ、道に迷ってんじゃねーだろうな」

そう呟くのは唯一の男である近衛 慎司(このえ しんじ)である。

その苗字から予測はつくであろうが、近衛学園の理事の孫である。

どこをどう間違えて育ったのか、その髪を金色に染め上げている。ちなみに元は茶髪だった。

ちなみに、祖父である理事はこの慎司の行動を黙認している。

好きなようにやるがよい、だそうだ。

「……慎司じゃないんだからそれは無いと思う。それに、思ってもいない事は言わない」

そう答えるのは茶髪のショートをツインテールに纏める少女―――近衛 薫(このえ かおる)だ。

表情は読めないが、その顔はどことなく慎司に似ているといえる。

何を隠そうこの二人は双子なのだ。

ちなみに薫は密かにブラコン娘でもある。

本人はさりげなく隠しているので、親友である遥しか知らない事だが。

「どちらにしろ鈴音さんが迎えに行くでしょうから、いずれ来るかと」

そう答えるのは、零の妹兼薫の親友である大和撫子風の少女、玖藤 遥(くとう はるか)だ。

彼女の外見からは想像がつかないが、根っからのお兄ちゃんっ子である。

彼女に関して言えば、早くに亡くなった両親に代わって零が彼女を育てた事も多分に影響しているのだろうが。

そしてこの場に居る零と鈴音を含めた五人と、ここには居ないもう一人を加えた計六人は所謂幼馴染と云うやつで、幼少時からの付き合いなのだ。

今日、年下の遥と昔転校した幼馴染の二人をのぞいた四人が近衛学園に入学を果たした。

そこで入学祝をかねて、以前からこの日にパーッと遊ぼうと計画していたのである。

「全く、企画立案者が遅れてどうするんだか」

そうぼやく慎司の目には、こちらに向かって走って来る零と鈴音の姿が見えた。

「―――悪ぃ! 遅れた!!」

「すみません、遅くなりました」

そんな二人の様子を見た慎司達は思わず口元に笑みを浮かべた。

「………? 何だ、急に笑って」

「遥の言った通りになったな、って」

口元に笑みを浮かべたまま遥が言う。

「鈴音は何時も兄様の傍にいますから」

「全くだ」

キョトンとした顔をしている零を見ながらクスクス笑う三人。

鈴音はその様子を見て合点がいったようだ。

「私は零様の従者ですから」

そしてそう一言呟いたのだった。それはあまりにも小さな呟きだった為、誰かに聞き取られる事は無かった。






◆     ◇     ◆     ◇






「っはぁ〜! 遊んだ遊んだ」

「いくらなんでもはっちゃけ過ぎたな」

時刻は深夜二時をまわった所。

明日は休日になっているので、今日は羽目を外して遊んだ。

軽いウインドウショッピングに始まり映画やボウリングにカラオケ、果てはバッティングセンターなどなど。

学園圏内には学生の為の娯楽施設があるので、遊ぶ場所には困らない。

そして寮生ではなく自宅から通学している零達に門限はない。

零や慎司はお互いの両親と理事の協定により、幼少時よりこの一大都市とも言える学園圏内に家を構え、そこで生活しているのである。

しかも学校校舎に比較的近い位置にあるという徹底振り。

ビバ☆職権乱用。

尚、普通の自宅通学生はバス通学か電車通学になる程度に校舎から距離が離れている事を追記しておく。

しかし、自宅通学とは言え流石にこれはやりすぎだろう。

零は一人溜息を吐き、鈴音はそんな零に苦笑する。

校則に緩い為、基本的に次の日が休日であれば自宅通学生に限り深夜徘徊を認められている。

寮生はそもそも門限があるので却下である。若干、門限が緩くなる事はあるが。

こっくりこっくりと船を漕ぐ遥を支え、もう一度溜息を吐く零であった。
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