「ようこそ、楯 祐一君!」
あれから男子寮にたどり着いた祐一は、先輩であり隣室の住人である武田 将士の洗礼を受けていた。
先輩と言うからには勿論祐一よりも年上なのだが、やけにフレンドリーな様子で祐一の肩を叩く。
出会って間もないが、祐一はこういったフレンドリーさは将士の良い所だと判断した。
「お、これは竹刀袋?」
将士はそう言って傍に立て掛けてあったボロボロの竹刀袋を手に取る。
「あ、それは………」
「へぇ、君も剣道してたんだ」
祐一が静止する間も無く将士は袋から竹刀(……)を取り出す。
「………」
竹刀と思われた其れ(…)は鞘に収まっていた。
思わず抜いてみる将士。
鞘からは見事な刀身が姿を現す。
「えーっと、これ、贋物だよな?」
「そりゃそうですよ。本物なんて持ってたら銃刀法違反ですって」
にこやかに答える祐一。
対する将士は顔面に冷や汗がだらだらと。
祐一は将士の手から模造刀(……)を受け取ると、刀身を鞘に収め、其れを竹刀袋にしまう。
「先輩、部屋までの案内お願いします」
「あ、あぁ」
その後模造刀については触れる事は無く、寮の案内は終わった。
自室に入った祐一は人知れず溜息をついた。
「………爺様、やっぱ無茶だって」
額に手を当て嘆息。
視線は竹刀袋に注がれている。
―――何を隠そう、この中に入っているのは正真正銘の真剣なのだ。
舞-HiME
―姫を守護する者―
第一章 鍵
翌日。
将士に何でも聞いてくれと言われた割には伝えられなかった為に、祐一は遅刻しそうになっていた。
「初日から遅刻なんて冗談じゃねーぞ!」
軽い荷物と竹刀袋を持った祐一は校舎を目指して走る。
人より身体能力が高い祐一だから、さほど苦ではないとは言え初日からこれでは先が思いやられる。
校舎の前にある広場を突っ切ろうとした瞬間、第六感が警鐘を鳴らす。
一瞬で止まり慌てて飛びのく。
直後、着弾。
「……は?」
煙が晴れた後に祐一の目に入って来たのは、二人の少女の姿だった。
―――ただし、片方は両手両足に腕輪をつけ宙に浮かび、もう片方は銃を持っていたが。
「全くこれから授業だってのに、所構わずしつこいんだから!」
「私はお前のそういった―――飄々とした物言いも! 態度も!! 全てが気に入らない!!!」
会話の間にも攻防は続く。
「お前に『HiME』たる資格は無い!!」
その台詞と共に発砲。
対して腕輪を付けた少女は腕輪から炎を噴出、回転する事によってそれを防ぐ。
そんな中、安全圏に退避していた祐一は銃を持った少女の言葉を反芻していた。
(HiME――姫、戦姫か!)
祐一は二人ばかり同じような事が出来る少女を知っていた。
その為にHiMEと戦姫をイコールで結びつける事が出来たのだ。
「……しかし、中々やるな」
どちらも荒削りだが戦い方が上手い。
祐一は思わず感心した。
「頑張って下さーい、玖我さーん!」
と、その時、校舎の方から声が聞こえた。
「舞衣〜! 負けるなよ―――!!」
「玖我さ〜ん!」
連続して聞こえてくる歓声。
(な!? 下界の学校ってのはこれが日常なのか!?)
そしてザ・勘違い。
その間にも戦闘は続く。
(ん? あの子は……)
と、そんな時、祐一は腕輪をしている少女が昨日あった泣いていた少女だという事に気がついた。
その事に気付いたその一瞬、気を緩めてしまった祐一は物音を立ててしまう。
直後、二人の少女が祐一に気付く。
腕輪をしている少女は驚愕を露にし、銃を持った少女は祐一に向かってくる。
そのまま額に銃を向ける。
ほんの一瞬、祐一の目が細まった。
手は無意識の内に竹刀袋に伸びる。
―――が。
(ッ! 俺の敵は戦姫じゃない!!)
意思の力で静止、なんとも奇妙な格好で止まる事に。
「―――お前、誰の鍵だ?」
「鍵?」
「とぼけるな! 言え、誰の鍵だ?」
「いや、今日編入してきたばかりで何のことかさっぱりなんだけど……」
銃口を前にしても至って冷静に答える祐一。
それがどれ程異質か、此処にいる誰もがその事実に気付かなかった。
「なら尚更だ。この時期に編入など普通はありえん!」
銃口を更に近づける少女。
「言わねば―――殺すッ!」
瞬間、祐一の目が細まる。
その直後、祐一の額に銃口が触れ、祐一と少女の間に紋様が浮かび上がったかと思うと異質な波動を感じられた。
「これは―――ッ!」
「何してるの! 逃げるわよ!!」
少女が何かに気付いた瞬間、腕輪をしたもう一人の少女が祐一を掴んでその場を離脱した。
直後、祐一と銃を持った少女―――玖我 なつきが感じていた異質な波動も消えた。
「ふ、ふふふ」
祐一達が向かった方向を見ていたなつきは、急に笑い出した。
あの異質な波動が何を意味するか、理解出来たからだ。
「そうか、消えたのは<領域>から外れた為か……」
その口元には笑みが浮かんでいる。
「―――面白い!」
一方、なつきから逃れて来た祐一と少女――鴇羽 舞衣はある程度離れた木の下で休んでいた。
息は乱れてないが、今までの事をある程度整理したかった祐一にはありがたかった。
「血が出てる!」
隣で息を整えていた舞衣が祐一の左手に気付いて声を上げる。
「あ? あぁ、この程度ならどおってことねぇよ」
事実、鍛錬の時にこの程度の怪我はよくしていた。
「ダメだよちゃんと手当てしないと」
「いや、この程度の怪我は慣れてるから、さ。別に平気。それよか自分の心配しろよ」
そう言って横目で舞衣を見る。
「そ、その。色々とさ」
閉鎖された空間で生活していた祐一には色々と刺激が強いのだ。
その視線に気付いたのか舞衣も若干恥ずかしそうに胸元を隠す。
「―――で、聞くけどさ。さっきの腕輪やら銃やらがあっちの女が言ってたHiMEってやつなのか?」
「……良く聞いてたわね」
一瞬ぽかん、としながら舞衣が答えた。
「HiMEってのは、それを出す力やそれを使う私達の事。これとか……さっきの銃みたいなのはエレメントって言うの」
そう言って腕輪を具現化してみせる。
「へぇー。じゃあさ、さっきの戦闘みたいなのは何処の学校でもやってるものなのか?」
「………?」
祐一が言ってることの意味がわからないのか、首を傾げる舞衣。
「いや、さ。俺って学校っての初めてなんだわ」
「―――はい〜?」
思わずそう言ってしまう舞衣。
「俺の住んでた所って山奥でさ。学校なんて上等なモンは無かったんだよ。だから、学校に通うのはこれがはじめて」
「へぇー、今時そんな人が居るんだ」
「そ。で、どうなんだ?」
「さっきみたいなのがあるのはうちの学校だけよ」
「成る程……で、さっきからそこで俺らのことを見ている君達はなんだ?」
そう言って祐一がジト目で見る先には、スケッチブックを持った子供達の姿があった。
「ひゃ!」
気付いてなかった舞衣は素っ頓狂な声をあげる。
子供達の話を聞くと、今日は写生の為に外に出て来てたのだとか。
「もう授業も始まってるし、急ぎましょ!」
子供達を送った舞衣が戻ってくるなり言う。
直後―――祐一と舞衣の間に銃弾が炸裂。
祐一の目の前になつきが着地する。
「この男を何処に連れて行くつもりだ? 舞衣」
「なつき! その人は関係ないでしょ!!」
なつきの口が弧を描く。
「関係無い? ―――ならばその目で確かめろ!」
エレメントである銃を祐一に接触させる。
その瞬間、なつきの後ろに氷の柱が出現。
「これが私の『チャイルド』……デュラン!!」
直後、氷の中から狼のような異形の物体が出現。
アオーンなどと吠えているそれを見た祐一は―――
「……お手」
―――とりあえずそう言ってみた。
「………」
がしょん。
祐一と差し出された手を見比べてたデュランがお手をした。
((えぇぇえええぇぇえ!?))
舞衣、なつき共に絶句。
こういった所だけは妙に気のあう二人である。
「おぉ〜、偉い偉い」
撫でり撫でり。
デュランも心なしか甘えているようで、顔をするつけてくる。
「かあいーなぁ」
その姿はさながらムツゴ○ウのようだった―――と、後に舞衣は語る。
「そ、そうだろう! 何と言ったって私とお前の子だからな!!」
なつき、再起動。
「‘私とお前の子’?」
「ふふ、そうだ。―――そして私から二度と離れるな! 今日からお前は奴隷クンだ!!」
(こ、告白されたー!?)
祐一絶句。
下界の子はこんなにはやいのか、と考えてしまった。
「いや、行き成り告白されても……」
「ち、違う! そういう意味でいったんじゃ……」
「じゃあどういう意味だよ」
「それは、そのぉー」
両手の指先をもじもじと。
なつきらしからぬ狼狽の仕方だ。
「え、えぇい! 兎に角そういうことだ!!」
ビシッと祐一を指差す。
ちなみに、舞衣は相変わらず絶句中だ。
「デュラン!」
なつきが鋭く叫ぶ。
その時になって漸く舞衣が復帰した。
「ロード! クローム=カートリッジ!! ――――てェ!!!」
「―――ッ!」
両手を前に出してブロックするが、威力が強すぎる。
さして効果を得られないまま舞衣は吹き飛ばされる。
「ツゥ……」
倒れた舞衣は起き上がれない。
「エレメントの力など、チャイルドの前には児戯に等しいな!」
「おい! これ以上はよせ!!」
攻撃に移ろうとしていたなつきに声をかける祐一。
「―――関係ないんだろ? 覚悟の無い奴が口をはさむなッ!!」
直後、祐一の顔から表情が消えた。
「……………ェな」
「何?」
「気にいらネェって言ったんだよ」
姫だとか、自分の使命だとかはごっそりと抜け落ちていた。
ただただ‘覚悟が無い’と言われた事に腹が立っていた。
―――当然だ。
知りもしないのに決め付けられる。
それは、祐一にとってとても不愉快な事であり、嫌いな事だった。
そのままなつきに背を向け、舞衣の方に歩き出す。
なつきが何かを言っていたが気にしない。
―――肩に担いでいた竹刀袋を右手に持つ。
舞衣の目の前に立ち、なつきの方に振り返る。
<領域>は途切れてないのか、デュランの姿はまだそこにあった。
―――竹刀袋から刀を取り出す。
なつきが目を見開くのが見える。
それが、どうした。
―――左手に刀を持ち、腰だめに構える。
後ろで舞衣が起き上がるのが気配でわかる。
こちらを見て息をのむのが解る。
「あんたのやり方は気にいらネェ。だから、俺はこうする」
―――覚悟など、とうの昔に出来ている。
なつきの顔がゆがむ。
どこか、迷子の子供のような感じがした。
「ッ、リロードカートリッジ! ――――てェ!!」
直後、後ろから子供の声がした。
先程あった初等部の子供達だ。
しかし、祐一は慌てない。
いかに自分が鍛錬を積んだ人間とは言え、通常なら恐怖を感じるだろうソレを前に、しかし祐一は恐怖を微塵にも感じなかった。
何故か、大丈夫だという確信があった。
「ダメぇ!!!」
舞衣が思わず手を伸ばす。
そして手を伸ばした先に――――エレメントである腕輪が、祐一に触れた。
轟音。
一瞬にしてデュランが発射した弾が蒸発する。
「な、何なんだ!? あの炎は……」
蒸発したデュランの砲弾を呆然とみるなつき。
其処には、一匹の竜が居た。
「まさかッ!?」
煙が晴れ、舞衣の姿が見えるようになる。
「これが、私のチャイルド……」
―――カグツチ。
其れを見た祐一はと云うと………
(うわ、本物の竜!?)
何やら感動していた。
文献でしか拝めない竜が其処に居るのだから当然か。
そして思わず―――
「……お手」
―――なんて言って見たり。
懲りない男である。
「ヴォフ」
律儀に答えるカグツチもカグツチだが。
ふ た り
思わずすてーん、と転ぶなつきに舞衣であった。
物の見事にその場の空気が一新した。
「どうやら無事に決着がついたようですね」
その声に立ち上がりつつ後ろを向く舞衣。
其処にはメイドさんに車椅子を支えてもらっている小学生位の少女の姿があった。
「理事長……?」
「私が理事長の風花 真白です。楯 祐一さん。ようこそ―――風華学園へ」
こうして、祐一の波乱万丈の学園生活は幕をあけたのであった……。
続
後書き
改定第一章、お送りしました。
もはや最初の頃の設定が影も形もありませんね。
祐一なんて祐一っぽくないしorz
半オリキャラ状態になってしまいましたo........rz
ともあれ、次回は改定第二章でお送りします。
であ、また次回に。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
神
威さんへの感
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