機動戦
艦ナデシコ ナデシコ童話劇場
「灰かぶり姫」はまかせとけ?
むかしむかしあるところに、たいそうかわいいがむひょうじょうなこどもがおったそうな。
「私、子供じゃありません。少女です。それに平仮名ばっかりは読みづらいので、ちゃんと漢字も併用してくださいと前にも言ったはずです」
失礼……。無表情な少女がおったそうな。
って、君と会うのは今が初めてのはずだけど?
「そんなことはどうでもいいです。話を続けてください」
いや、どうでもいいって……。
「早く話を続けてください」
……判ったから、そのトゲトゲした鉄球のついた鎖を構えないで……。
……少女は捨て子であったが、彼女を『ルリ』と名づけた優しい養父母に育てられ、無表情だが可愛く賢い少女に育っていった。
しかしルリが十歳になった日、養母が貴族の馬車に轢かれて死んでしまった。
嘆くルリのために半年後、養父は再婚した。
当初はかいがいしくルリの面倒を見ていた後妻と連れ子の三姉妹だったが、毒を盛られた養父が徐々に衰弱していき半年後に死んでしまった。
誰も病死を疑わなかったが、その日からルリの生活は一変した。
養父が死んだ途端、態度を豹変させた後妻と三姉妹はルリをまるで召使のようにこき使い始めたのだった。
今までの服からボロを着せられ、炊事・洗濯・掃除・買い物と休む暇も無く働かされ、思い出の品は全て壊されるか売られるか実験に利用されてしまった。
そうして一年が過ぎたころ━━━━
その少女・ルリはいつもかまどの灰にまみれていたので後妻や三姉妹から『灰被り』と呼ばれるようになっておった。
それからさらに年月の過ぎたある日の事。
町の広場に高札が掲げられた。
その高札には━━━━
『一週間後、国王の城にて王子のお妃を選ぶためのダンスパーティーを開く』
との旨が書かれていた。
しかもそれは貴族・平民を問わないとあったため、玉の輿を狙う女性たちはこぞってドレスや宝石などを買いあさり、己の価値を上げて王子に見初められよう
としていた。
それはルリの家でも変わる事はなかった。
「いい!? なんとしても王子に見初められるのよ! そうすれば……そうすれば…………、いくらでも実験し放題なんだから! もちろん国民に説明だって
し放題! 絶対にこの中の誰かが玉の輿に乗るのよ!」
「ええ! 勿論ですわお母様! 私が行けばきっと私の王子様が……(はぁと)」
「まずは対立しそうな候補に、元気になるのに一週間ぐらいかかるようなお薬をあげなければいけませんね! 『灰被り』ちゃん、今から言う物買ってきて!
えーと、ドクダミ、サンショウ、しいたけ、ごぼう、れんこん、すっぽんとまむしの生き血、牛の肝、市販の各種栄養ドリンク。間違えないでよ!」
「へっ、グダグダいうヤツは路地裏にでも引き込んで叩きのめしゃぁいいんだよ!」
四者四様の手段と未来を考え、どうやって王子を手に入れやすくなるか考える後妻と三姉妹。
かなり問題発言が飛び出している後妻にトリップしている一番上の義姉、なにやら策謀を練っている二番目の義姉、力技を提唱している三番目の義姉だった。
いや、そんなおっかない人間たちを嫁にもらう男っているのか?
そんな状況を尻目にルリは今日も家事に勤しんでいた。
なにせこの家の後妻と三姉妹は家事能力が全くゼロ、いやマイナスと言っていいほどのものしかなかったからだ。
自分で食べるものを作れないという事は、即・死に繋がるこの環境では嫌でも家事に勤しむしかないのだ。
そんな訳でルリは今日も今日とて町に買出しに来ていた。
十二歳にしては小柄な体でたくさんの荷物を抱え、多少よろめきながら歩いていく。
とその時、向こう側から歩いてくる男性にぶつかってしまう。
「きゃっ?」
「おっと」
よろけて倒れそうになったルリをとっさに支える男性。
「大丈夫?」
「は、はい……。すいません」
ルリが顔を上げると、そこには決して美青年というわけではないが、どこか人好きのする顔をした青年がちょっと困ったような、慌てたような、驚いたような
顔をしてルリを支えていた。
それはルリの養父に通じる何かだったのか。
「怪我はないかい?」
そう尋ねる青年の顔に見とれていたルリは、ハッと正気に返る。
「だ、大丈夫です!」
少し声が裏返りぎみな程、緊張していたルリは慌てて返事する。
「ごめんね、よく前を見てなくて。ああ、拾うの手伝うよ」
そう言って青年は散らばった荷物を拾い出す。
「あ、あの! 大丈夫です! 拾えますから!」
慌てて自分も拾い出すルリ。
二人がかりで散らばった荷物を拾った後、青年はお詫びと言ってルリにお菓子をご馳走していた。
「アキトさん……、と仰るんですか……」
「うん。そっちはルリちゃんでいいかな?」
「は、はい」
そんなこんなで話が進む二人であった……。
ルリにとって久しぶりの楽しい時間は瞬く間に過ぎ、そろそろ帰らなければならない時間になる。
「引き止めちゃって悪かったね」
「いえ……。あの……、また、会えますか……?」
「多分ね。しばらくはこの町に居るつもりだから」
「そうですか……。あの、じゃあ失礼します」
「またね、ルリちゃん」
そう言って二人は別れた。
荷物を持って歩くルリの前に一人の少年が現れる。
街で雑貨店を営む店主の息子、ハーリーだった。
「あっ、ルリさん! ちょうど良かった。実はですね……」
「ハーリー君、うるさい」
一言残してガン無視されるハーリー。
通り過ぎて行ったルリに対して上げかけた手は中途半端な位置で止まったまま、ハーリーの顔は涙で濡れていた……。
「どうして、こんなに愛しているのにルリさんはボクを見てくれないんだ!? 何故だ!?」
「フッ……。坊やだからさ」
ルリに見向きもされないハーリーの叫びを聞きながら兄貴分の遊び人三郎太がからかっていた。
アキトに買い物を手伝ってもらい、その日の準備を追えたルリ。
「アキトさん……、かぁ……」
アキトの顔を思い出すと胸が熱くなるルリであった。
その後も何度かアキトと会っては色々な話をした。
家への不満。
優しかった養父母。
酷い継母と義姉たち。
『ルリ』という人の心を癒す事の出来る宝石の名前をもらえた事を誇りに思っている事。
その一つ一つに頷き、答え、話すアキトにルリはますます惹かれていくのだった……。
そんな日が続いて……一週間後。
とうとうパーティーの日が来る。
殆どの女性は城に向かう中、ルリは一人家に居た。
理由は当然、継母や義姉たちのいじめである。
「そんなみっともないなりでお城に行こうなんて考えるんじゃないわよ!」
そのため、家に残って家事をしていたのだった。
一方、城のホールは着飾った女性たちでいっぱいであった。
「いや〜。綺麗どこがいっぱいだねぇ」
「ルリさん! ルリさんは!?」
……なんでこの二人もいるかな……。
「さぁ、娘たち! 王子のハートをゲットするのよ! このイネス特製惚れ薬を使えば……」
「どこ!? どこにいるの!? 私の王子様!」
「あそこかな〜? それともこっちかな〜?」
「おい、ウェイター! 王子は何処だ!?」
……いや、あんたらもそれは不味かろう。
結局、王子はその日、現れる事は無かった……。
ダンスパーティーにいけなかったルリが、いつものように買い物をしていると町の広場でアキトに出会った。
「あれ? ルリちゃん?」
「アキトさん……」
「今日はダンスパーティーに行かなかったのかい?」
「行けませんよ……。私、こんななりですし……。ドレスもありません」
その台詞を聞いて、一瞬悲しそうな顔をした後、表情を戻してルリに話しかけるアキト。
「ルリちゃん……。じゃあさ、ここで俺と踊ろうか?」
「え?」
驚いているルリを尻目に、近くに居たアコーディオン弾きの親父のところに行くアキト。
「親父さん、悪いんだけどワルツを弾いてくれないか?」
「あ、ああ。判った」
アキトの差し出した銀貨を受け取って準備を始める親父。
「アキトさん、何を……?」
「踊ろう、ルリちゃん。お城じゃなくたって、ここで俺たちのダンスパーティーをしよう」
「で、でも……」
戸惑うルリに優しく微笑むアキト。
「大丈夫。俺の動きに合わせて……」
唐突に始まったダンスに町の人々は何事かと好奇の視線を向ける。
しかし、アキトの見事なステップはルリを見事にリードし、一枚の絵画のような光景を作り出す。
それを見ていた周りの人々もダンスを始める。
城では王子不在で始められないダンスがここで始まっていた……。
十二時の鐘が鳴る。
それは二人の幸せな時間が終わる合図。
明日に備えて皆家路に着き、三々五々といなくなっていく。
一番最後になったルリとアキトは二人っきりになった広場でキスをしていた……。
「アキトさん……。また、会えますよね……?」
「ああ、きっとね……」
そう言って二人は別れたのだった。
……しかし翌日からルリはアキトに会う事は出来なかった……。
ダンスパーティーから一週間後、ルリを尋ねてくる者があった。
ルリの家の扉をノックするちょび髭メガネの男が居た。
扉を開けて、ルリが応対する。
「何の御用でしょうか?」
「申し訳ありません、こちらにルリさんと仰る方がおられると思うのですが……」
「私がルリですが……、どちら様でしょう?」
「申し遅れました。私、こういう者です」
そう言って差し出した名刺には、『ピースランド王国 王宮護衛・管理・経理担当官 プロスペクター』とあった。
「プロスペクター……。本名ですか?」
「いえいえ、ペンネームみたいなものですよ。では詳細をお話しをしてもよろしいでしょうか?」
いや、マテ。仮にも国王の使いがペンネームはまずいだろ。
話の信用度がガタ落ちだ。
ルリの目がいきなりジト目になる。
「まあ、それはさておいて。ルリさん、貴女に大切なお話があるのです」
ルリのジト目に慌てて話をそらすプロスペクター。
「私、家事をしなければならないのでこれで失礼します」
危ない人と判断したのか、そそくさと扉を閉めようとするルリ。
「あああ、ま、待ってください! 本当に大事な話なのです! 貴女の今後に大きく関わってくる事なのです!」
ちょび髭メガネが少女の腰にすがり付いている。
憲兵に見つかったらいきなり牢獄行きのシーンだったが、幸い見ている者はいなかった……。
余りにしつこいので根負けして話を聞くことにしたルリ。
話を聞くだけのつもりなのでお茶すら出さない。
しかし、それを気にした風も無くちょび髭メガネの男、プロスペクターは話し出した。
「実は……、我が国に国交を持つとある国の王宮関係者が十年ほど前に亡くなられた王妃にそっくりな少女を見たと話があったのです。色々調べていただきま
したところ、生まれてすぐ賊に誘拐された王女様と同じ特徴と年齢、そして拾われた日時、全てが一致したのです」
「つまり私は……?」
「はい。我がピースランド国王の御息女、ルリ・ルナ・ピースランド様にございます」
「ルリ・ルナ・ピースランド……」
初めて知る自分の本当の名前に驚くルリ。
「はい。国王様御夫妻のおつけになられたお名前は『ルナ・ピースランド』でございます。しかし、貴女様を最初にお育て頂いた御夫妻は間違いなく貴女様に
愛情を注ぎ、かつしっかりとした教育を施してくださいました。その御礼と貴女様の『誇り』とおっしゃった事を鑑みた結果、『ルリ』をファーストネームと
し、最初につけられた『ルナ』をセカンドネームとして扱うことにした次第でございます」
「……あの……、私はこの話を余り多くの人にしていません。一体誰から……?」
「お会いになりますか? その方と」
「……はい」
小さな確信を持って頷くルリ。
「では、参りましょう」
そう言ってルリを馬車に案内するプロスペクターだった……。
先日パーティーの開かれた城に着いたルリを待っていたのは、……メイドさんたちだった。
即座に風呂に放り込まれ、全身を洗われた後、いつの間にか用意されていたドレスを着せられ、謁見の間に連れて行かれたルリは、半分確信していたものが真
実だった事を知る。
「よく来てくれたね……。ルリちゃん」
そこには王族の礼装に身を包んだアキトと、玉座に座ったこの国の国王、そしてもう一人。国王と同じくらいの豪華な服に身を包んだヒゲの親父がいたのだっ
た。
「……そなたがルリか……?」
感慨深げにルリを見るヒゲ親父。
「はい……。あの、貴方は……」
「私は……お前の父だ!」
そう言ったヒゲ親父『プレミア・ピースランド』はルリに抱きついた。
「よくぞ……、よくぞ無事で生きていてくれた!」
「貴方が……私の……本当の……父……?」
驚きながら確認するように呟くルリのアキトが近づく。
「そうだよ、ルリちゃん」
「アキトさん……」
驚きで混乱しているルリに、アキトは優しく微笑んだ。
「実はこの間のパーティーの時、やりたくないからすっぽかしてあの町に逃げ込んでいたんだ」
照れ笑いをしながら、話し始めるアキト。
「まったく……お主は王族の責務を何だと心得ておるか」
国王の叱責に頭をかいてごまかすアキト。
「ま、まぁ、その時偶然にルリちゃんに会ったんだけど……、ルリちゃんが王妃様に良く似ていたんでびっくりしたんだ。話を聞くうちにまさか……と思って
ね。ウチの近衛のアカツキたちに確認してもらったんだけど……。ビンゴだったんでね。ほんと、驚いたよ」
「じゃあ、私に優しくしてくれたのは……、私が王女だったからなんですね……」
真相を知って落ち込むルリ。
「そんな事は無い! 王女だって知ったのは、あのダンスした日の翌日だ! そんな事が無くたって、俺はルリちゃんを好きになっていたよ!!」
「アキトさん……」
アキトの台詞に喜びの表情を見せるルリ。
「ルリちゃん……、俺と結婚してくれるかい?」
「はい……。喜んで!」
それから数年後……。
アキトと結婚したルリは幸せに暮らしていた。
「アキトさん。こんなのはどうですか? みゃお(はぁと)」
「いいね。萌える!」
スク水に猫耳と猫尻尾をつけたり……
「これはどうですか? ……ちょっと食い込んで痛いですけど……」
ボンデージスーツ(局部丸出し)だった。しかも首輪付き。
「うぉぉぉおっ! もう我慢できん! ルリ! ベッドに行くぞっ!!」
「はい、ア・ナ・タ(はぁと)」
めでたしめでたし。
あとがき
童話シリーズ第二弾〜!
というわけで喜竹夏道です。
今回はエロスは無しです。(大嘘)
少し登場人物を増やしてみました。
ルリは幸せのようです。
次作ではガイを出そうかな〜?
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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