機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト
第九話 奇跡の交渉『愛撫か?』 -その壱-
アキトが医務室に運ばれた後の格納庫では……。
「おお〜! なんだなんだこのフレームは〜!? 新型かよ、おい!?」
駆け寄ってきたウリバタケがアキト機を連れてきたエステを見て声を上げる。
「顔が違う!」
まあ確かに。
「バックパックもコンパクト〜!」
新型だからな。
「おまけにお肌もスベスベ〜! …………ん?」
足に頬擦りって……。
「「「一生やってろ」」」
そう言う気持ちはよく判る(笑)。
「しっかし、いつの間に新型なんて作ってたんだよ?」
「アタシらのエステちゃんが最新型だって聞いてたのにズルイよね〜。ぷんぷん!」
蒼いエステを眺めて愚痴るリョーコとヒカル。
「それは誤解さ」
「え?」
男の声と共に蒼いエステのハッチが開く。
そこから出てきたのはポーズを決めたロン毛の男だった。
好みなのか素材として面白そうなのか、ロン毛の男を見たイズミとヒカルの頬が赤くなっていた。
「君たちナデシコが火星に消えて八ヶ月。地球は新たな力を手に入れたってことさ」
気障に答えるロン毛の男。
格好いいと思っているのだろうか?
「お前は誰だ!?」
ウリバタケが誰何する。
「僕の名前はアカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ」
無意味に歯がきらめくロン毛の男、アカツキであった。
名乗ったアカツキにウリバタケが質問する。
「コスモス……? まあいい! なんなんだ、この塗装は!? 今までの塗料とは全く違うようだが!?」
流石にウリバタケは男には興味が無いらしい。
「ああ、それ? ソフトフィールド塗装っていうんだ。装甲表面の塗料に極小の衝撃吸収剤の粒を混ぜ込んで特殊なスポンジ状にして実弾系の攻撃の衝撃を吸
収・ダメージを抑える、っていう塗装だよ。でも触っただけでよく判ったね〜」
ウリバタケの質問に答えながら呆れるアカツキ。
「フン! こちとら機械いじってン十年よ! 朝飯前だぜ! それより衝撃吸収……ってことはリアクティブアーマーみたいなもんか?」
「の、軽量・ローコスト版ってとこ。実験では被弾時のダメージを十五パーセントほど減らしていたそうだけど?」
アカツキの言葉に驚くウリバタケ。
「すっげぇ〜! よし! その塗料、すぐに手配するぞ! 手前ら! 届いたらいつでも動けるようにしておけ!!」
「「「「「「「「「「おーす!」」」」」」」」」」
流石に整備屋、そういったことへの反応は早い。
「しっかし、こんな塗装誰が考えたんだ?」
ウリバタケの言葉に肩をすくめて答えるアカツキ。
「原案というかアイデアというかは、この艦にいるハルカ・ミナトって女性らしいけど?」
実はミナトはナデシコがサツキミドリに停泊した際に、サツキミドリで降りたイツキに持たせたデータの中にこのアイデアを入れていたのだった。
「またミナトさんか……。マジにこりゃあ足を向けて寝られんな」
ウリバタケの言葉に頷く整備班たちは真剣な表情だった。
余談だが、この後ウリバタケたちがミナトの部屋に足を向けないように自室のベッド(戦艦のベッドであるため固定されている)の向きを変えたことがプロスに
バレてしまい、ひと悶着あったと言う。
……勝手に構造を変えるのはまずいと思うぞ……。
コスモスとのドッキング後のナデシコブリッジ━━━━
「チューリップを通り抜けると瞬間移動する、とは限らないようね。少なくとも火星での戦いから、地球時間で八ヶ月は経過しているのは事実。ちなみに……」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「八ヶ月〜!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
イネスの言葉に驚くクルーたち。
「オモイカネによると確かに現在はナデシコがチューリップに突入してから八ヶ月ほど進んでいます」
ルリがイネスの言葉を肯定する。
「そんな……。それじゃあ……それじゃあ……」
何かにショックを受けるメグミ。
「ま、なんでそんな事になったかは知らないけど……」
ショックを受けたメグミに声をかけるアカツキ。しかし……。
「まだバレンタインのお返し、アキトさんから貰ってないのにホワイトデーが過ぎちゃったっていうの〜!?」<サイズ変更+2>
アカツキの言葉は無視され、メグミの悲痛な叫びが艦内に響き渡る。
「へ?」
事態についていけないアカツキを置いてけぼりにして、メグミの叫びと同時にあちこちでその事に対する怒りが爆発する。
『ええ〜っ!? リョーコお姉様にお返しのキスを貰ってないのに〜!!』
いきなりどアップの顔が表示される。
ミカコであった。
「じゃあ、ヤマダさんからもバレンタインのお返しを貰えなくなっちゃったの〜!?」
艦長、それにミカコもちょっと待て。
ちなみに主要クルー以外はコミュニケによる艦内放送で聞いていたのであった。
「待て! ってことは何か!? 二月の終わりから八ヶ月ってことは今十月……。ルリルリの誕生日も過ぎちまったってことか!?」
『それはまずいですよ、班長! 折角皆でルリちゃんのプレゼントを考えていたのに!!』
ブリッジで騒ぐウリバタケの言葉に反応する整備班がコミュニケをウリバタケに繋ぐ。
それより、いつルリの誕生日を知ったんだ、ウリバタケ以下整備班。
『そうっすよ! ルリちゃんに似合う巫女服とかスクール水着とか男性誘惑用の勝負下着とか、みんなで作ってたって言うのに!!』
だからいつルリのパーソナルデータを知ったんだ、お前ら。
っていうか何をプレゼントしようと言うんだ!?
「そっか。ルリルリの誕生日、七月七日だったっけ」
ぽん、と手を打つミナトに驚くアキト。
「え!? そうだったの、ルリちゃん?」
「はい、そうですが何か?」
皆が驚く理由が判らずきょとんとするルリ。
「参ったな……全然用意なんてしてなかった……。地球に下りたらすぐにパーティーとかの準備しなきゃ!」
頭をかきながらぼやくアキト。
「あの、私は別に……」
大変な事になりそうな気がしたルリは慌てて止めようとする。しかし……。
「何言ってんの! ルリルリ、よーく聞きなさい!」
そう言ってミナトはしゃがんでルリに視線を合わせる。
「……『誕生日』って言うのはね、皆が貴女に出会えた事に感謝する日なの。貴女が生まれてくれたから私たちは貴女に会えた。貴女に会えた事が嬉しいから、
だから皆は貴女のお誕生日をお祝いしたいんだから。ね?」
『生まれてきてくれて嬉しい』
初めてかけられた言葉に戸惑うルリ。
「え……。で、でも……」
「ミナトさんの言う通りだよ、ルリちゃん」
戸惑うルリにアキトがミナトの言葉を肯定する。
「そうそう! ルリちゃんがまた一つ大人になった証明なんだから! 皆でお祝いしなきゃ!」
艦長も同意する。
「ルリルリ! もちろん俺たちだってお祝いさせてもらうぜ!」
『『『『『『『そうそう!』』』』』』』
コミュニケを繋いでいた整備班の面々。
『アキトさ〜ん! 食堂ならいつでもOKだってホウメイさんが言ってましたよ〜!』
「ありがとう!」
食堂から繋がったサユリのコミュニケに礼を言うアキト。
ミナトの言葉に次々に賛同する面々。
その言葉を聞いて、どうしたらいいか判らないけど嬉しくなってしまうルリは、皆に頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……」
ちょっと潤んだ瞳のルリに礼を言われて照れる一同。しかし……。
「コホン……。続けていいかしら?」
『説明』を中断され、殺気のこもったイネスの視線に、ぶんぶんと首を縦に振る一同でもあった……。
「……では! その間にネルガルと連合軍はナデシコ出航時に起きたいざこざを解消し、新しい戦艦を作って月面を奪還! で、私の見解では……」
「まあまあ。それはまたの話で……。で、ネルガル本社は連合軍と共同戦線を取る事になっておりまして……。ねぇ、艦長」
プロスさん……、あんた大物だよ。イネスの『説明』を遮るなんて……。ほら、向こうで睨んでる……。
「は、はい……。それに伴いナデシコは地球連合海軍、極東方面に編入されます……」
イネスの視線が怖いのか、いつもの覇気、というか脳天気がない艦長。
「「「「「「ええ〜っ!?」」」」」」
それを聞いて驚くクルー。
しかし、その中で一人驚かなかったのはその事を知っているミナト。
「……私たちに軍人になれって言うの?」
「そうじゃないよ。ただ一時的に協力するだけさ」
ミナトの脇で訂正するロン毛。
「誰? 貴方?」
知っていても、そう尋ねないとまずいので名前を尋ねるミナト。
「アカツキ・ナガレ。助っ人さ」
気障に笑って歯を光らせるが、ミナトにはそんなもの通用しなかった(笑)。
「ま、さしずめ自由の旗の下に集った、宇宙を流離う海賊のようなものかな……」
何処から引用したんだか判らない例えを言うロン毛。
ナデシコについて言うなら、海賊と言うより愚連隊といったほうが正しい気がする(笑)。
「ホント、君のような女性には無骨な軍隊は似合わないんだけどねぇ」
そう言ってミナトの手をとるアカツキ。
しかしその手をつまんで振り払い、プロスに尋ねるミナト。
「火星は?」
「そうだよ……。火星は? 火星は諦めるんスか!?」
ミナトの言葉を聞いて、アキトがプロスに噛み付く。
「もう一度乗り込んで勝てます? 勝てなくても何度でもぶつかる、などという事に何の価値もありませんし、当社としてもそのような損害は負いかねます!」
プロスの宣言に反論しようとしたアキトは、機先を制され口をパクパクさせるしかなく、隣にいるメグミとルリがアキトの顔を心配そうに見る。
「戦略的に見れば連合軍と手を組むのは妥当かもしれない……。でも!」
一歩引いた視点から見ているジュンの意見は妥当だろう。
「俺たちゃ戦争屋、ってかぁ?」
しかし、全員がそれを正しいと思うわけではないことをウリバタケは皮肉る。
「それが嫌なら降りればいいんじゃないの? 給料貰ってさ」
アカツキの言葉に黙るしかないアキトだった。
「……それにテンカワさん、一つ忘れていませんか?」
「え?」
さっきの宣言とうって変わって優しい声になるプロス。
「確かにこうして逃げ帰ってきたとはいえ、我々は火星の避難民を百八名救出してきました。ユートピアコロニーも今まで開かれていなかった食料庫をこじ開け
てきたおかげでしばらくは生存できるでしょう。つまり最低限の時間は稼げていると言うことです」
「あ……」
プロスの言葉で、その事に気づくアキト。
他のクルーもその事に気づく。
「ならば、稼いだ時間をどう使って戦況を変えていくかを考えなければならない時なのです。避難民の方々を地球に降ろした後、地球のチューリップをすべて破
壊し、地球圏の生産力を取り戻してナデシコ級の戦艦を量産し、火星に向かうのが一番早く火星の解放に繋がるのです」
確かに正論だろう。この場において最も早く火星を解放するための手段の一つをすでに提示していたプロスに一同声も出ない。
「……ま、それはともかく、ナデシコの避難民を地球に降ろして差し上げねば……。ねぇ、艦長?」
「は、はい! そういうわけでナデシコは一旦佐世保のドックに向かいます。そこで補給と同時に今後もナデシコに乗るのかを決めていただきます。下船したク
ルーがいた場合は、補充のクルーを募り、慣熟訓練の後、出航となります。各自今後の身の振り方を考えておいてください」
艦長の言葉で締めくくられたミーティングの結果はすぐに艦内に通達され、あちこちで今後を話し合うクルーがいた。
「さてと……。じゃあお美しい人。貴女のお名前を教えていただけますか?」
そう言ってまたミナトの手をとるロン毛。
「……ハルカ・ミナトよ。貴方は『タマツキ・ナガレ』でよかったんだっけ?」
怒っているのか、ワザと間違うミナト。
その名前を聞いてか、それとも間違われた事についてか、ピクリと小さく反応するアカツキ。
「え? 『タマナシ・ナガレ』さんじゃなかったでしたっけ?」
本気なのかどうなのか、さらに間違った名前で聞き返すメグミ。
「違う!! 『アカツキ・ナガレ』だよ!!」
いきなりそういう態度が返ってくると思っていなかったアカツキが声を荒げた。
「じゃあ、とりあえず『アカツキ・ロン毛』でクルー登録しておきますね」
どうやらルリも先程のアカツキの物言いに怒りを感じていたらしい。
「だから違うって!!」
子供に言われるとは思っていなかったらしく、本気で慌てるアカツキ。
「……ま、そう気を落とすなよ。俺だって魂の名前を呼んでもらえなくて仮の名前なんだからさ」
そう言ってアカツキの肩をたたくヤマダ・ジロウ。
いや、アカツキの場合は本名を呼んでもらいたいのに呼んでもらえないんだが(大笑)。
お前と一緒にするのは問題があるだろう(爆笑)。
「君と一緒にしないでくれ!!」
流石にヤマダと同類にされるのは嫌なようだ。
会長なだけにナデシコのメンバーの特徴は一通り頭には言っているのだろう。
全力でヤマダから離れようとするアカツキに周囲から追い討ちが入る。
「え〜!? ロン毛さんってヤマダさんの同類なんですか〜?」
メグミの鋭い刃物のような一言に仰け反るアカツキ。
「まあ、エステも同じ青だし、同類なんだろうな」
ウリバタケの言葉に殴られたようによろめくアカツキ。
「え〜? ヤマダさんはあんなに恥ずかしくないですよ〜!」
艦長の一言にボディブローを食らったように身を折るアカツキ。
……ヤマダは十二分に恥ずかしいと思うぞ……。
「むやみに歯を光らせちゃってカッコいいと思ってるのかしら?」
ミナトのセリフがアカツキのプライドを破壊する一撃になる。
「あのロン毛、いつの流行だろうね〜?」
ヒカルの言葉に完全に打ちのめされ、床に両手を着くアカツキ。そして……
「人の話聞けぇぇぇぇっ!!」
アカツキの叫びがブリッジに木霊するのだった……。
結局、ブリッジのアキト・プロス・ゴートを除く全員にやり込められたアカツキは隅っこの方でいじけていた(笑)。
所変わって格納庫━━━━
「ウリピ〜。ちょっといいかしら〜?」
先程のミーティングの後、整備班に指示を飛ばすウリバタケを呼ぶミナト。
「おう、ミナトさんか。ちょっと待ってくれ……。てめぇら! ちょっと外すが整備の手ぇ抜くんじゃねえぞ!!」
「「「「「「「「「ううっす!!」」」」」」」」」」
すでに一通りの指示は済ませておいたのか、檄を飛ばすとミナトのほうにやってきた。
「……待たせたな。で、ミナトさんよ。今度は何だい? また改造のアイデアでもあるのかい?」
「ええ、そうなんだけど……。忙しかったかしら?」
戦場のようになっている格納庫━━━━確かにここは整備班にとっての『戦場』だろう━━━━を見渡してウリバタケに尋ねるミナト。
「とんでもねぇさ! アンタのアイデアはいつだって俺たちを助けてくれるんだから大歓迎さ!」
しかしウリバタケは気にしていないようだった。
むしろ、待ち望んでいるらしい。格納庫に隣接する整備班の控え室に入っていった。
「コーヒー飲むかい?」
「ありがと。頂くわ」
コーヒーを一口飲んで話し出すミナト。
「結構美味しいわね……。……話って言うのは、リョーコちゃんたちから聞いてると思うんだけど……、火星で地面に潜る木星蜥蜴がいたっていうことなんだけ
ど……」
「ああ、砲戦のプロトが壊された奴か……」
虎の子のプロトが壊されたときだけに良く覚えているらしい。
「そ。でね、思ったんだけど陸戦フレームと砲戦フレームって空は飛べないのよね?」
「何を今更……。陸戦はジャンプぐらいなら何とかなるが砲戦は無理だぞ。回収する時だってワイヤークローで吊り上げるんだからな」
「うん、知ってる。だからペイロードに余裕のある砲戦フレームに地中の観測が出来るレーダーみたいなのは付けられないのかな、って思ったんだけど……。移
動中に罠やら地雷やらに囲まれたら脱出できないもの」
「……ん〜……。まあ、付けられないことも無いんだが……」
ウリバタケは考え込んで……そう告げる。
「出来るの?」
「まあな。ただそれをやると足を止めて観測する事になる。狙い撃ちされる可能性もあるんだよな……。方法としちゃ潜水時に使うソナーみたいに地面に突き刺
したセンサーから振動をキャッチして敵の居場所や罠なんかを感知できるようにするんだが……」
ミナトのセリフに頷くウリバタケだが、的になる事を気にしているらしい。
「リョーコちゃんたちは不意打ちを喰らってやられたって言うからそれを回避できるようにはなるんじゃない? チームで動いているんなら一人が観測して残り
が防御と攻撃って形で」
「ま、そうだな。センサーを使えば罠や地雷くらいは回避できるようになるだろう。ちょっとやってみるか。じゃあ早速……」
「プロスさんに言ったほうがいいんじゃない? 勝手にやるとまた揉めるわよ?」
即座に動こうとするウリバタケを諌めるミナトに、ぼやくウリバタケ。
「ち、面倒だが仕方ないか……。プロスの旦那に相談するか」
ガシガシ、と頭をかいて面倒くさそうにするウリバタケにミナトが微笑む。
「地雷の探査が出来るようになったら、地雷原を作られた地域にレンタルしてマインローラーの代わりも出来るかもね〜」
「はっはっは! 違いねぇ! そっちのほうがこいつらも喜ぶかもな!」
戦争が終わった後のことで笑い合うウリバタケとミナトの声が格納庫の控え室に響いていた。
ミナトが控え室を出たところへヤマダがやってきた。
どうやら撃墜数を示すゲキガンシールを貼りにきたらしい。
その能天気ぶりを見て、ミナトはもう一度釘を刺す事にした。
「ヤマダく〜ん、ちょぉっといいかしら〜?」
「は、はい!? 何でしょう!?」
即座に控え室へと馳せ参じるヤマダ。
シミュレーションから実戦まで何度もミナトに落とされたりしていたためにすっかりミナトに服従しているヤマダであった(笑)。
「ねぇ、ヤマダ君? 貴方はどうしていちいち敵に突撃するの? 何度言っても直らなかったようだけど?」
「そ、それは勿論ヒーローは敵を接近戦で倒すべきであると……」
「……ねぇ、ヤマダ君? 確かに接近戦で敵を倒すのは格好いいかもしれないけど……貴方の言う『ヒーロー』っていちいち全力で戦闘するの?」
「ね、熱血には全力戦闘あるの……」
「手を抜けって言ってるんじゃないわよ。そうじゃなくて、なんで雑魚に『必殺技』なんて使うわけ?」
「い、いや、獅子はウサギを狩るのにも……」
「だからって適材適所に攻撃できない『ヒーロー』なんているわけ? ヤマダ君のやっていることって蚊を叩くのにわざわざ土木作業用の大きなハンマーを振り
回しているようなものよ? そんな文字通りの『雑魚』に必殺技を使う人が『ヒーロー』なんて言えるのかしら? それともそんな雑魚でも『必殺技』を使わな
きゃ勝てないほどヤマダ君は弱いの?」
ガァァァァァァァァァァァン!!
ヤマダはショックを受けた!
ヤマダは熱血を間違えていた事に気づいた!
ヤマダは『戦い方』を考えた!
……いや、ドラクエ風にやらんでもいいか……。
「た、確かに……。バッタたちは言わば雑魚……。それにいちいち必殺技を使っていた俺は……。俺は……」
「別に近接戦闘を否定してるんじゃないの。ただ、雑魚の中に突入して数に押し切られて損耗するようじゃ、最後に出てくるボスキャラに簡単にやられちゃうん
じゃないの?」
「ぐはっ!?」
ミナトのセリフにヤマダは血を吐く。
「だから雑魚にはきちんとライフルでアウトレンジからの攻撃で自分の損耗を抑えて、本当に近接戦闘の必要な相手にだけ近接戦闘をするべきじゃない? そも
そも、格闘戦しか出来ないヒーローっているのかしら? ヒーローならどんな戦い方も出来て当たり前だと思うけど?」
「………………」
すでに血を吐きながら倒れ伏しているヤマダ。
「もし大技を雑魚に使わざるを得ない時があるって言ったら、せいぜい多すぎる敵を一遍に消し飛ばそう、とかそういう時ぐらいじゃない? そういう意味では
きちんとそういうことの出来るアキト君やリョーコちゃんの方が圧倒的にヒーローらしいわよ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
叫びながら起き上がるヤマダ。
そしてミナトの両手を握り、血涙を流す。
「ミナトさん、感謝する!! 俺は目が覚めた!! 確かに雑魚の一匹二匹に全力を出すヒーローなんてナンセンスだ! ならば必要十分な戦い方をするべきだ
と!」<サイズ変更+2>
「そう? ならいいけど……。もし判っていなかったら……」
「おう! その時は甘んじて全てを受けよう!! じゃあ、すまないがこれで失礼させてもらうぜ! ちょっと特訓してくる!!」
……腕は元々あったようで、ライフルやフェイントなどを使い始めた結果、いきなりヤマダのシミュレーションでの成績が上がりだしたのだった。
ちなみに急にマトモな戦い方になったヤマダに他のパイロットや整備班はミナトに相談するまで理由が判らず気味悪がっていた……。
あとがき
ども、喜竹夏道です。
長々とお待たせしてしまいました。
アカツキも一応顔が出ましたが、その扱いは読んでの通りです(笑)。
怪我はまだ治っていませんが、『逆行のミナト』をお送りします。
今回は前編・後編とはなっていませんが、これにはワケが……。
実は今回の一話分で今までの前中後編をはるかに上回りそうな文章量になりそうになったため、『その壱』『その弐』……と分けざるを得ませんでした。
と言うわけで第九話はまだ続きます。ご了承ください。
なお、前回の「よお……、カール……」の大元のネタは、気づいた人は結構多いようです。
ちょうど日本テレビ系列でもやってましたしね。
悔しいのはDVDレンタルした一週間後にTVでやったと言うことですが(笑)。
しか〜し! 『記憶が混乱してあのセリフを言った主人公を周りの人間が殴る』というシーンの元ネタは別のところにあったりします(笑)。
それが判った人がいなかったため、本当の意味での正解者は本作品投稿時点で0でした。
残念〜!!(ギター侍はもう古いか(笑))
もっとも、かなり古いマイナーギャグマンガなんで知っている人もかなり少ないとは思いますが。
いつごろの作品かといいますと、あ○ると同じくらいかもっと前ですか。確か小学館のコミックスだったと思います。
今回のネタ当てクイズ、実はプレゼントも考えています。
答えを書いた感想掲示板に同時にナデシコキャラをリクエストしてもらい、正解者先着一名様のみにそのキャラを主人公にした短編作品がプレゼントです。解答
の締め切りは次回の『逆行のミナト』発表前日まで。次回のあとがきで発表になりますので請うご期待。
プレゼント作品の発表はシルフェニアの短編になります。
あ、あと感想に名前などを入れていただくと『親愛なる○○さんゑ、クイズ正解者プレゼント』と言う具合にタイトルに入れることも出来ます。
ヒントは『予備校』です。
他にもWeb拍手のコメントで『助けたユートピアコロニーの避難民がジャンプ後の展望室にいても良かったんじゃ?』という質問もありましたが、あくまで助
けた避難民は『ユートピアコロニーに避難していた、火星にいた人間』であって『火星生まれの人間』とは限らない、と言うことです。移民一世や仕事で出張・
出向していた人間、ということですな。地球に家族や知己がいてあまり火星に未練が無いというのもそれが理由です。
火星生まれ、火星育ちの避難民もいるにはいたものの乗ることは拒否していたのです。
結果、ナデシコ内の火星生まれの人間はあの三人のみということになってます。
故にこそのアドバンテージであり、アキト達を今後のキーマンにするための理由ともなっています。
ま、後で劇中で出すつもりのネタだったんですが。このネタを出すとしたら横須賀辺りですかね〜?
さらに近況ですが前回交通事故で右手を怪我したことは書きましたが、痛みが引かないので確認したところ手首の軟骨に骨折が発覚。
軟骨のためレントゲンに写らず、MRIでようやく確認されました。
おかげで固定用サポーターをつけた生活となり、リアルの仕事も遅れがちに……。先月残業しない日なかったよ……。本気でつらい……。
そのため━━━出来るだけ早くしますが━━━次作も投稿が伸びそうです。
話数を小分けにしたため少しは早くなるかも知れませんので、またしばらくお待ちください。
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