機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト
第十三話 『秘密』は一つじゃない 外伝
〜七夕の空に『血の雨』を〜
七月七日━━━
世間では言わずと知れた七夕であり、ナデシコクルーにとってはルリルリの誕生日。
去年はボソンジャンプ中だったため祝えなかったナデシコクルーは、これでもか、と言うほどに気合を入れていた。
かくいう私もその一人なんだけど。
その私はと言うと……。
「こんな感じでどうかしら?」
「ふ〜ん……。うん、いいんじゃないかい? 見事なもんだよ」
ここ、厨房でホウメイさんの監修の元、ルリルリのバースデーケーキを作っている。
初めてのバースデーパーティーなんだから最高のパーティーにしたいしね〜。
「すっげ〜。ミナトさんプロになれそうですよ、これなら」
一緒にルリルリのパーティー用の料理を作りながらこちらを覗き込んでいたアキト君が感心した声を出す。
「なに言ってんだい! アンタだってこのぐらいにならなきゃいけないんだよ!」
「あた!」
そんなアキト君をホウメイさんが小突く。
「そうね〜。アキト君もコックさんなんだから……来年は一人でルリルリに作ってあげなさい。きっと喜ぶわよ〜」
「は、はぁ……。でも上手くいくっスかね?」
自信なさそうに話すアキト君の背中をホウメイさんが叩く。
「練習するっきゃないだろ! 今度からお菓子作りもやってもらうよ。いいね!?」
「は、はい!」
それを見ながら私はケーキのデコレーションを続けていった……。
そして全ての準備が終わり……参加者全員に飲み物が行き渡った。
会場中央にはクス玉、あちこちに紙花や横断幕。
これらがすべて一人の女の子のために用意されたもの。
あの娘がいかに愛されているかの証明とも言える。
「え〜……では僭越ながら私、プロスペクターが音頭を執らせていただきます。皆さん、飲み物はよろしいですか?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は〜い!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
プロスさんの声に参加者全員がグラスを掲げる。
それを確認したプロスさんは咳払いを一つして……。
「では……。ハッピーバースデートゥーユ〜♪」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ハッピーバースデートゥーユ〜♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
プロスさんの声に合わせて全員が高らかに歌う。
ナデシコクルーの大合唱。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ハッピーバースデートゥーユ〜〜♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
歌いきった直後に会場から拍手が沸き起こる。
「ルリさん、お誕生日おめでとうございます!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お誕生日おめでとう、ルリルリ〜!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
プロスさんの声に促され、みんなのお祝いの言葉と共に弾けるクラッカーとグラスの音、そしてクス玉が割れる音と栓が開けられるシャンパンの音が格納庫に響く。
ナデシコクルー総員(キノコは除く)によるルリルリのバースデーパーティーが始まりを告げたのだった。
結局、参加希望者が多すぎて食堂では入りきらず、格納庫での開催となった。
一段高い位置に座るルリルリの前には大きなテーブルが置かれている。
まるでアイドルのサイン会のような様子ではあるが一応これはプレゼントを渡すための列だったりする。
そしてそこに皆からのプレゼントが並んでいった。
私からはケーキ、アキト君とホウメイさんは料理、ヒカルちゃんからはヒカルちゃんの描いた同人誌(ジュン×アキト)、リョーコちゃんが木刀(汗)、メグちゃんがナチュラルライチの全巻セット、艦長が化粧道具、エリナは自作のゴスロリ服、ラピスとキラちゃんとオモイカネは三人で作ったアキト君の隠し撮り写真集(ヌード有り(汗))、ホウメイガールズからはアクセサリー類、プロスさんは筆記用具、アクアちゃんは痺れ薬(どうしろと……)、カグヤちゃんはパーティードレス、アカツキ君は……下着(それもベッドの中で使うような股間が開いているもの!)……。
基本的にルリルリの事を考えているプレゼントだからいいけど……。あ、アカツキ君は後でお仕置き♪
そうして山と積まれていくプレゼントたち。
次に来たのはウリピーだった。
「ルリルリ、誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございますウリバタケさん」
ウリピーの言葉に頭を下げるルリルリ。なんとなく小動物っぽくて可愛い♪
ルリルリのその表情に赤くなったウリピーは持っていた大きな段ボール箱を開封する。
「うむ! そして俺からのプレゼントは最新型『リリーちゃん28號』をプレゼント……」
「「「「「せんでいい!!」」」」」
私・アキト君・エリナ・リョーコちゃん・メグちゃんからの拳によるツッコミでウリピーは即時沈黙。
そして『リリーちゃん』についてはイネスさんに分解してもらう事になった。
「え〜と……とりあえずアレはほっといて……ケーキ食べよ! ケーキ!」
「……ケーキに入る乳の刀……ケーキ乳刀……ケーキ入刀……クックック……」
血まみれになっているウリピーを無視するようにケーキを切ろうとケーキナイフを持つヒカルちゃんと寒いギャグを言うイズミちゃん。
そんな二人に戸惑い顔のルリルリが尋ねる。
「あの……一つお聞きしたいんですけど?」
「な〜に〜?」
ケーキナイフを持ったままのヒカルちゃんが小首をかしげる。
「何で皆さん集まってくれてるんですか?」
「誕生日だからに決まってるじゃな〜い!」
ケーキナイフで『ビシッ』とポーズを決めるヒカルちゃんが簡潔に答える。
「誕生日なんて年齢が一つ増えるだけでしょう?」
本気でそう思っているルリルリに私は答える。
「それは違うわよ、ルリルリ! 『誕生日が来る』っていうのは確かに歳を取ることかもしれないけど『誕生日を祝う』っていうのは貴女が生まれてきてくれたからこうして出会えたことを喜ぶことなんだから!」
「『出会えた事を喜ぶ』……」
だいぶ一般の生活に慣れてきたとはいえ、未だにそういうところが疎いルリルリたちにこういうことをしっかりと教えたいからきちんと教える。
「そう! だから『生まれてきてくれてありがとう』、『生きていてくれてありがとう』、そして『貴女と出会えてよかった』。この事に感謝するために誕生日を皆で祝うの」
「『生まれてきてくれてありがとう』……」
戸惑いの表情から笑顔に、そして泣き顔になっていくルリルリ。
「うぇっ……ひくっ……」
「ど、どうしたルリルリ!?」
ルリルリの涙を見た途端、沈黙していたウリピーが立ち上がる。
「私……私……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーんっ!!」
いきなり泣き出したルリルリに戸惑う私たち。だけど全員がやることは一つだけだった。
「ルリルリ……」
私がルリルリの頭をきゅっ、と抱きしめる。アキト君がルリルリの手を握る。みんなも馬鹿騒ぎをやめてルリルリを見守る。
落ち着いてきたルリルリが話し始める。
「私……、私、皆さんにこんなに祝ってもらったのに皆さんの誕生日を祝ったことありません……。こんなんじゃ私、お祝いしてもらう資格なんて……」
「ふっ……」
そう微笑んでルリルリの頭にポン、と手を置くウリピー。
「ルリルリ……気にしなくていいぜ……。俺たちゃやりたくてやってるだけだ。見返りも何も考えてやってるわけじゃない。ただ俺たちが『ルリルリの誕生日を祝いたい』からやってるんだ……」
そう言って優しくルリルリの頭をなでるウリピー。
……さすがナデシコ内で数少ない妻子持ちだけあってそういう仕草はさまになるけど……もしかして奥さんもそれで堕としたのかしら……?
年の功(『俺はまだ若い!』)と言うか……ウリピーの言葉とアキト君の『テンカワスマイル』により落ち着いたルリルリを中心としてパーティーは進んでいく。
賑やかに進行していくパーティー。今はかくし芸の時間である。
そんな折、ルリルリが隣にいるアキト君に尋ねた。
「そういえばアキトさんの誕生日っていつでしたっけ?」
「俺? 二月二十六日だよ」
こともなげに言うアキト君だが、聞いたルリルリは顔が青ざめていく。
「二月……って過ぎてるじゃないですか!? 去年も今年も!」
そういえば去年はボソンジャンプ中、今年はナデシコで転戦中だったもんね〜。お姉さん、すっかり忘れてたわ(汗)。
「ど、どうしましょう!? 今からじゃ三ヶ月以上前ですし……!?」
「もうしようがないから来年の誕生日に三年分祝っちゃいましょう。それでいいでしょ、アキト君?」
慌てるルリルリに私は提案し、アキト君に確認を取る。
「俺は別に構わないっスよ。両親死んでからロクに祝ったことないし」
幼い頃に両親が殺されているアキト君は施設で育ってきた。だからそういうことをされた経験が無いんだろう。それはルリルリにも通じるものだった。
だからなのだろう。『未来の記憶』でルリルリがアキト君に惹かれていったのは……。
「いっぱいお祝いするからね、アキト!」
「ラピスの言うとおりだよ、お兄ちゃん!」
最年少の二人は空気も読まずにやる気満々である。
しかし、今はこんな勢いが有難かった。
……結果としてアキト君は凄いモノをルリルリから貰う事になるんだけど……、それは別のお話(笑)。
そんなこんなで無事に終了したパーティーの後片付けをして参加したメンバーが三々五々と部屋に帰る。
ルリルリは両手に持ち切れないほどのプレゼントを持ってニコニコしており、それを見た私たちも心が温まるのだった……。
少し後に行われたラピスとキラの誕生パーティーも同様に賑やかになるのだが……ここでは割愛♪
翌日……アカツキ君が普段人が来ないブロックでボロボロになっているのが発見されたけど……誰にやられたのかは判らずじまいだったのは言うまでも無いでしょう♪
ちなみに発見場所の周辺は血の雨が降ったようになっていたと言う……。
あとがき
ども、喜竹です。
というわけでルリルリ誕生日記念作品逝きます(笑)。
ルリルリが初めて自分の誕生日を大勢に祝ってもらえること。その戸惑いを書いてみました。
皆の娘あるいは妹であることが如実に現れた結果でしょう。
ちなみにアキトの誕生日は、過ぎた後に尋ねられ、結局来年以降と言う事になっています。
ミナトの誕生日については、誕生日が不明のため書けないんです(涙)。
ラピスの誕生日話も書きたいんですけど……こちらも誕生日が不明なんですよね〜。
とりあえず適当設定にするつもりですが。
どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら教えてくださると幸いです。