機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト
第十一話 気がつけば『お友達』? エイプリルフール外伝
〜四月の『愚か者(フール)』〜
「ミナトさん、『エイプリル・フール』って何ですか?」
四月一日の朝、ブリッジでルリがミナトに聞いてきた。
「あら、ルリルリの事だからもう調べたんじゃないの?」
「ええ。一応調べたんですが……。『嘘をついていい日』という以外にいまいちよく判らなくて……」
ミナトに聞き返されたルリは一応調べたもののよく判らなかった事を伝える。
「まあ、今の時代ではそれしか伝わってないわよね。確かに『嘘をついていい日』だけど、どんな嘘でもいいっていうわけじゃなくて、笑って許されるものや、誰かに被害を与えないものならいい、っていう風になっているわね」
「笑って許されるもの?」
ミナトは、自分の言葉に首を傾げるラピスに微笑んで答える。
「そう。それとすぐに『嘘』っていう事を伝えないとダメね。例えば……」
「おっはよーございまーすっ!!」
「おはようございます」
その時、ミナトの言葉を遮るように挨拶の声がブリッジに響く。
ブリッジにユリカとジュンの二人がやってきた。
「あら、艦長にジュン君。おはよう」
「おはようございます」
「おはよ〜!」
ミナトと一緒にルリとラピスも挨拶した。
その瞬間、何かを思いついたようなミナトがおもむろにジュンに話しかける。
「ジュン君」
「何ですか、ミナトさん?」
「ズボンのチャック、開いてるわよ」
「えええ!?」
慌てて社会の窓に手をやるジュン。
しかし、開いてはいなかった社会の窓に「あれ?」という表情になる。
「う・そ(はぁと)。と、まあこんな風にやるのよ」
「なるほど……」
「ミナト上手〜!」
「え? え?」
三人の態度の理由が判らずジュンと三人を交互に見るユリカであった……。
「なるほど、エイプリル・フールですか……。そういえばそうでしたね」
すっかり騙されたジュンが苦笑しながら嘘の理由を聞いたのだった。
「こういう風にやればいいんですね」
「まあね。でもあまり酷いのはダメよ?」
「うん、判った!」
ミナトの言葉に元気よく返事をするラピス。
「まあ、実際の由来としては、その昔、ヨーロッパでは三月二十五日を新年として四月一日までの一週間に春のお祭りを開催していたの。ところが一五六四年にフランスのシャルル九世が一月一日を新年とする暦を採用したの。これが今の暦の元になっているのよね。そしてこれに反発した人々が、四月一日を『嘘の新年』とし、馬鹿騒ぎをはじめたのよ」
「それがエイプリル・フールの始まりですか」
感心したようにルリが言う。
「ところがこのお話にはまだ続きがあってね。シャルル九世はこの事態に対して非常に憤慨し、町で『嘘の新年』を祝っていた人々を逮捕して処刑してしまったの。処刑された人々の中にはまだ十三歳だった少女までもが含まれていたそうよ。フランスの人々はこの事件に非常にショックを受け、フランス王への抗議とこの事件を忘れない為に、その後も毎年四月一日になると盛大に『嘘の新年』を祝うようになっていったのよ。これが世界に広まってエイプリル・フールとなったわけ」
「そんな悲しい事件があったんですね……」
ユリカの言葉に、話を聞いていたメンバーが沈んだ顔になる。
「ホラホラ、暗い顔しないの。だからこそ、今の私たちはその事を忘れずに、その時処刑された人たちに笑い声が届くようにしなきゃね」
つとめて明るく振舞おうとするミナトの言葉に、自分の両頬を叩いて気合を入れるユリカ。
「そうですね! じゃあ、今日も一日頑張りましょう!!」
「「「「おー!!」」」」
ブリッジにいた全員が唱和する。
ルリも最近こういうノリについてこられるようになってきたのだった。
「おはようございま〜す!」
そんなブリッジにメグミがやってきた。
なんというか『キラーン!』とかいう擬音をつけてラピスの目が光る。
「おはよー、メグミ」
「あ、ラピスちゃん。おはよう」
ラピスの含むところに気づかないのか、いつものように挨拶するメグミ。
そして爆弾が投下され始めた。
「ねぇ。メグミの胸って最近おっきくなってきてない?」
「え? そ、そうかな?」
何を言い出すのか、と思ったが……そう言われてうれしくない女性は少ないだろう。しかし……。
「うんそうだよ! スイカくらいにおっきくなってるよ!」
「へ?」
いくらなんでもそんなサイズでは……とメグミが思った瞬間、ペロッっとラピスが舌を出して、
「嘘だよ〜!」
そう言って逃げ出したのだった。
「え? え? え?」
混乱したメグミはラピスを追いかける事が出来ない。
苦笑したミナトは今日が四月一日であることを伝えて、ようやく納得するメグミだった。
「う〜、ラピスちゃんヒドイ〜!」
「まあまあ。あっさり引っかかるのも悪いわよ。そういう意味ではラピスのほうが一枚上手だったってことよね」
ミナトの言葉に唸るだけのメグミであった。
ブリッジから逃げ出したラピスは格納庫にやってきた。
「あ、セイヤだ!」
ウリバタケを発見したラピスが駆け寄っていく。
ラピスの接近に気づいたウリバタケも挨拶した。
「おう、ラピスちゃんか。おはようさん」
「おはよー、セイヤ」
「格納庫に遊びに来るのはいいが、気をつけてくれよ〜。怪我なんかされた日にゃ、ミナトさんに顔向けできねえからよ」
ミナトの影響力の大きい整備班では、ルリやラピスが自分たちの職場で怪我などされたらミナトに土下座程度では済まない事を知っていた。
もっとも、ラピスもそれを知っていて最大限利用しているのだが。
「うん! そういえばセイヤは恋人とかいないの?」
いきなりの話題転換に、つい本音を言うウリバタケ。
「いや〜、ここは美人が多いんだが、なかなかな〜」
お前、妻子持ちだろうが。
「私がなってあげよーか?」
「「「「「「なにぃぃぃっ!?」」」」」」
その言葉に周辺にいた整備班が目を剥いて大声を出す。
「う・そー! あはははー!!」
そう言ってラピスは逃げ出したのだった。
「おいこら走るな! 危ないぞ! ……って聞いてやがらねぇ……。しっかし、なんだっていきなり……」
そう呟いてカレンダーを見ると今日が四月一日である事に気づく。
「そっか、今日は四月一日(ワタヌキ)かよ……。一本取られたなこりゃ」
苦笑して格納庫を出て行くラピスを見送るのだった……。
「あー、面白かったー!」
そう言ってラピスがブリッジに帰ってくる。
どうやらあちこちで散々『嘘』をついてきたらしい。
「まったくもう……。ちゃんと言ってきた?」
「うん! ちゃんと『嘘』って言ってきたよ!」
ミナトの言葉にすがすがしいほどの笑顔で答えるラピスに皆で苦笑する。
そんな時、ブリッジのドアが開いてアカツキが入ってきた。
「やあやあ、エリナ君。今日も美人だねぇ」
「なーに、アカツキ君。急に気持ち悪いわよ?」
「ふっ……。いつも一人で書類仕事をして大変そうだから、少し手伝ってあげようかとッ!?」
『手伝う』という言葉を発した直後、エリナに口を塞がれるアカツキ。
そのエリナの目は、獲物を見つけた猛禽類の目であった。
「よく言ってくれたわ……。じゃあ、早速逝きましょうか?」
そう言ってアカツキの口を塞いだまま引き摺り始めるエリナ。
何かを言おうとして首を振るアカツキだが、完全にロックされているのか何も言えないままであった。
……ようはアカツキに『嘘』と言わせない事で書類仕事をやらせる腹積もりであったのだ(笑)。
エイプリル・フールにかこつけてエリナをからかうつもりだったのに墓穴を掘ったアカツキであった。
結局、エリナの部屋の中で一日中書類仕事をさせられ続けるアカツキがあったのである……。
教訓:『嘘』はほどほどに。
あとがき
え〜、すいません。前回投稿分で『次回は本編更新』と言っておきながら、突発で思いついたエイプリルフール外伝を投下します。orz
こんなんなりました〜。
エイプリル・フールの由来についてはWikiなどを参考にしています。
結構ヘビーな事実にびっくりです。
そして今回の愚か者はアカツキでした(笑)。
押
していただけると作家さんも喜びます♪
喜竹夏道さんへの感想は掲示板へ♪