BLUE AND BLUE
第0話
作者 くま
「ラピス、今まで済まなかった。そして、ありがとう。
俺の最後の願いだ。お前は、お前だけは人として生き、幸せになれ」
私の目の前で
そしてもう二度とその目を開くことはないだろう。
そしてもう二度と、回復の方向にそのベクトルが向かないことを。
他人とは違い遺伝子レヴェルで強化されたナノマシンとの適合性と、
幾種類もの自分の中に打ち込まれたナノマシンをフル活動させながら。
急速に蓄積される
目の前が暗くなりそうなぐらいの頭痛が私を襲っても、
私はただひたすらにそれをし続けた。
そして何時しか、
そして私は何かに突き動かされるように泣いた。
与えられる痛みによってでもなく、
その痛みに対する恐怖によってでもなく、
ただ、
己の内からこぼれ出る『それ』に流されるがままに、
わんわんと声を上げ、
ただ、
ただ、
泣いた。
私の内からあふれ出たその何かが、
『悲しみ』と呼ばれる感情であることは、随分と後で知った。
事の起こりはボソンジャンプだった。
何時ものようにユーチャリスの前に現れたナデシコ。
何時ものように出てきた機動兵器の相手をする為に、
何時ものようにユーチャリスから出撃する
何時ものように
何時ものように
何時ものように私はユーチャリスを後退させる為に、
何時ものポゾンジャンプのシークエンスに入る。
何時もと違ったのはその時からだった。
突如現れたもう一機の機動兵器が、
私は即座に反応し、ジャンプシークエンスを強制解除。
ユーチャリスを最大防御状態へとシフトさせる。
ディストーションフィールドを多重展開した防御壁も、
コンマ何秒の遅れで間に合わず 、
機動兵器の一撃がユーチャリスの本体を穿つ。
同時に展開しているディストーションブロックのおかげで、
ユーチャリスが受けたダメージは,
操船に影響するほど大きなものにはならなかった。
ただその一撃を受けた場所が
ユーチャリスにとっては、タイミング的に最悪の場所だった。
そこはジャンプ用の制御装置が組み込まれている場所だったからだ。
ユーチャリスには当然予備のそれもあるし、
普段なら被弾したところで何ら影響を受けることがないそこは、
直前までジャンプシークエンスを進め、
その為のエネルギーを貯めていた直後の今は、
最も被害を受けてはいけな場所だった。
ユーチャリスのオペレーションシステムAIのオモイカネ『トゥリア』が、
ジャンプ用のフィールードが展開され、
強制ジャンプの危険性が高まっていることを警告してくる。
他の全てをトゥリアに任せ、
私はボソンジャンプの制御に自分の全てを割り振った。
どこをどう破壊されたのか、
まるで定まらないジャンプ先の座標とジャンプ突入のタイミングを、
力任せに何とかねじ伏せ、ぎりぎりの所で抑えることに成功する。
これで後はジャンプの解除シークエンスを実行し、
内部に溜め込んだエネルギーを開放すれば、何の問題もないはずだった。
「ラピス!」
突如、ブリッジのオペレーターシートに座る私の前に、単身で跳んで来た
台詞と共に私の身体を己の懐へと抱き寄せた。
そして襲いくる激しい振動。
巨人がユーチャリスを掴み、シェイクしているのではと疑うほどだった。
私はいきなりの衝撃の原因を突き止めるべく、
トゥリアに呼びかけるも、返ってくるのは沈黙ばかり。
まさか、あの短時間でオトされた!?
「ナデシコの体当たりだ。まったく無茶をする」
トゥリアに代わり私に答えるのは
苦笑を浮かべるその顔に、私の内にある何かが軋む。
そしてトゥリアを通さないけたたましい警告音がブリッジに響く。
衝突の衝撃でジャンプ制御装置が再び暴走状態に入った所為だった。
「クソッ、最悪だな。
俺が直接制御するしかないのか…。
ラピス、フォローを頼む」
本当は嫌だと言いたかった。
ジャンプの制御は
ましてや暴走をしているものを、
無理やり制御してみせる負担は、その大きさが計り知れない。
「うん」
けど、私はそれに異を挟めなかった。
私は
それが私の全てで、私は
そして使用者の思うとおりに使えない道具に、存在価値などない。
情報交換量を最大までに拡大、
そして同時に私の中の何かもまた大きく軋んだ。
「ジャンプ」
何時もはただの合図として使っているその言葉で、
そして気が付いた時には全てが手遅れだった。
どこかの荒野の上空に出現することとなったユーチャリスを、
姿勢制御用のスラスターをいくつか潰しながらも地上に降ろし、
二人してユーチャリスごと墜落死することだけは、何とか防ぐことは出 来た。
けれど、地上に着いたその時には、
暴走するジャンプ制御装置を押さえ込んだ負担は、
ただでさえ生き辛い
身体の全ての機能がレッドゾーンに突入したままで、
回復の兆しを一切見せない。
私にはその根本的な原因を解消する術が何も無かった。
そして、
私はその亡骸のにしがみつき、
しばらく間、わんわんと泣き続けた。
もちろんその時の私には、
本当の意味での回りの状況など、見えてはいなかった。
続く
あとがき
というわけで、ナデシコの続きものを書き始めてしまいました。
ジャンルとしては、よくある逆行ものに当たるかと思います。
テンプレ的なよくあるストーリーですので、どこかで読んだことのあるようなもの、
になるやも知れませんが、今後も読んでいただければ幸いです。
ではまた。