BLUE AND BLUE

 第11話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私が市長が居ると言うシェルターを訪れたのは、

ユートピアコロニーにチューリップが落ちてから5日経った後のことだった。

情けないことなのだが、ルリに支えられて歩く私を、

市長らシェルターを実質的に仕切っている幾人かは、丁重に出迎える。

恐らく、恐怖心からくる対応だろうが、

自らの命を握っているとおぼしき相手に対応するのものとしては、

至極当然のものだと言えるだろう。

今はもう死んでいるアレを連れた私と市長は幾度と無く会っている。

それに同席する老執事の姿を市長は何度も見たことがあるし、

今、シェルターが敵の兵器による侵攻を受けていない理由を、

青いバッタから映し出される老執事に見い出していても不思議ではない。

私の知る限りでは在るけれど、市長に選ばれたこの男は、

そういった洞察が出来る程度には優秀だったはずだ。

代表であろう市長は恐る恐るながらも、私がここに何をしに来たのかを訊ねてくる。

木連いや、木星トカゲの来襲から5日は過ぎている。

シェルター間でもネットワークが構成され、落ち着いてきているし、

何をするにしても確かに今更という感が無いでもない。

もっとも、向こうがそれよりも気にしているのは、どうやら私の負傷の方だったが。

市長からの問いかけに私は完結に言葉を並べていく。

今回攻めてきた敵は連合軍で木星トカゲと称される存在であること。

このシェルターがトゥリアの操作する青いバッタによって、

木星トカゲの兵器による侵攻から守られていること。

一部で独立を気取るシェルターには早急に対処するつもりであること。

アレが敵の兵器の攻撃により屋敷にて死亡し、私が代理でなく代表になったこと。

それらを伝えると、市長はアレの死にこそ驚いていたが、

それ以外のことは納得というか受け入れたようだった。

特に独立を宣言しているシェルター群には市長も頭を痛めていたようで、

是非に何とかして欲しいという申し出があった。

少し話を聞いてみたところ、彼らは独立を宣言しているだけでなく、

市長らの形成するコミュニティに対しても、その支配下に入れと要求を しているとのことだった。

改めて、彼ら危険な存在だということを認識する私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らへの対応を即座に行うことにした私。

その対応に市長達も立ち会え、ということで市長の代理を連れ、

その彼らが中心としているシェルターに向かうことにした。

市長代理の2人を連れ、一旦はユーチャリスへと戻る。

私とルリはコックピット、代理の2人はエステバリスの手の中。

エステバリスの操縦は、右手のIFSで行うので、

左手を欠いた私にも以前と同じ感覚で動かすことが出来る。

元から戦闘機動は上手くないが、

足代わりにエステバリスを使う程度は何ら問題なく出来るのだ。

もっとも、エステバリスの手の中の2人は、生きた心地がしなかっただろうけど。

エステバリスの手の中でぐったりとした二人を格納庫で一旦降ろし、

私はユーチャリスを発進させることにした。

とはいえ今は移動をするだけなので、

エステバリスのコックピットからトゥリアに指示を出すだけだ。

同じユートピアコロニーに設置されたシェルターということもあり、

五分もかからずに目的地の上空に到着する。

形状的にも接地が難しいユーチャリスをその場に待機させ、

市長代理の二人をエステバリスの手に再び収めると、

格納庫を出て地上へとエステバリスを向かわせる。

ゆっくりとした機動で地上に降るエステバリス。

そしてそれを半円を描くように囲う、

コロニー守備隊の戦闘服を身に着けた兵士達。

随分と熱烈な歓迎をしてくれるようだ。

先に下ろした市長代理の2人が両の手を上げる中、

私はゆっくりとエステバリスを跪かせる。

そして先ほど市長達のシェルターを訪れた時と同様に、

ルリに支えられながら自らの足で地上へと降り立った。

それに合わせトゥリアの操作する青いバッタが二機、

降り立った私達をガードするように配置される。

守備隊の兵士達の間には、動揺ともとれる波紋が広がっていく。

それはユートピアコロニーが襲撃されていた当時に、

私がエステバリス駆り、青いバッタのフォローを受けて戦っていたの を、

見ていた者が、この守備隊の中にも幾人かはいるからなのだろう。

そんな中、私は連れてきた市長代理の二人を促した。

両手を上げて固まっていた彼らだが、おずおずと両手を下ろし、

自身の仕事である守備隊の兵士達の説得を始める。

市長と話した結果、一度話し合いを持ちかけてからという事になったからだ。

私が、時間が惜しいから力押ししかしない、

と言ったのもこうなった原因ではあろうが。

しばらく二人に任せて話をしても埒が明かず、強行突破を考え始めた頃。

半円を作っていた守備隊の一部がその包囲を一部解き、さっと列を成した。

並び立った兵士達の間を、堂々と歩いてくる一人の男とそれに付き添う2人の侍従の若い兵士。

周りの守備隊と同じに戦闘服にみを包み、

大柄でがっしりした体躯を生かして大股に歩き、

いかにも軍人らしく短く刈り込まれた髪の毛をしている大男。

他の兵士達の態度から、この大男が彼らの中心に近い人物だと推測する。

だが彼のつけている階級章は尉官のものですら無かった。

何故このような階級の低い男が?

との疑問も頭をよぎったが、彼らの階級章を良く見ることでその疑問は解消できた。

ここにいる兵士のほとんどが連合軍の階級章を着けていたのだ。

私も良くは理解していないが、コロニー守備隊には、

元からコロニー側が登用した兵士と連合軍から派遣された兵士がいて、

おおよそ4:6の割合で構成されていたそうだ。

同じ任務に2系統の軍が当たれば、当然色々と軋轢が生じるのだが、

してそれを止めようとはしなかったらしい。

政治的配慮と言うものなのだろう。

そしてここにいる連合軍の彼らは、

つまるところ、撤退する連合軍に見捨てられた部隊に他ならない。

士官クラスがいないのは下士官以下を残し、早急に脱出を計ったからだろう。

そして同胞に見捨てられた彼らは、

同胞が見捨てたこの火星で、

一国一城の主を夢見て奮起した。

あくまで私の推測に過ぎないが、ありえない流れではないだろう。

それ故に賛同者も多く、今に至っているのだと思う。

彼らが夢を見るのは彼らの勝手だが、

その所為でこちらの計画に支障をきたす事は、私には認められない事だ。

だからこそ、ここらで彼らが見ている夢から目を覚まさせ、

現実を直視させてやるべきだろう。

私がそんなことを考えている間にも、

市長代理の二人は当初の予定通りに自らの任務を完遂しうようとする。

その大男と市長の会談の場を設ける為の交渉を進めていく。

そしてその会談を通じて彼らを説得し、自分達の方へと組み込もうという算段だろう。

何とも回りくどいやり方ではあるが、それも確かに一つの方法だ。

文官らしいやり方だとも言えるだろう。

だが問題は、今が平時ではなく非常時だという事で、

そして私達には時間が無いということだ。

そして私は大男と市長代理の会話に割り込むことにした

」一応は市長代理にも話はさせたし、彼の顔も立っただろう。

そもそも、その大男はルリに支えられて立つ私の方を見ていて、二人の話をまるで聞いて無い。

ひょっとしたら向こうもそれを望んでいるのかもしれない。

 

「私の要求は一つよ。

 下らない独立ごっこは止めて、

 ユートピアコロニー市民らしく、市長の統制下に入りなさい。

 お遊びをしている場合じゃないのは、わかっているのでしょう?」

 

市長代理の二人はぎょっとした表情で、大男は少しだけ唇を歪め、私の方へと視線を向ける。

 

「ちょ、ちょっと、何を言い出すんですか!?」

 

等と慌てふためいたのは市長代理の二人。

彼らが何処まで市長に聞いているのか知らないが、

私がそう言い出すのは完全に予想外だったようだ。

ひょっとしたら、私達を協力的な市民とでも思ってたのかもしれない。

むろん、為すべきことを為すつもりの私は、協力的な市民であるつもりは毛頭ない。

 

「ほう、それは如何いうことかな、お嬢さん?

 お遊び如何こうの冗談は聞き流しておくが、

 お嬢さんの言葉は、碌な力も持たない市長の軍門に下れと聞こえるが?」

 

にこりともせずに、それでも確固たる口調で私に語りかける大男。

挑発も込めて随分な言い方をしたのだが、落ち着いているようだ。

なるほど、その階級で中心に近しくなるだけのことはあると、素直に私は感心した。

感心したからと言って、私の目的が変わるわけではない。

その大男に向けてさらなる言葉を投げかける。

 

「その通りよ。

 率直に言ってあなた達は守れない。

 あなた達自身も、その後ろにいるシェルターの中の市民もね。

 木星トカゲの兵器に蹂躙される前に、市長の保護下に入るべきよ」

 

続けられた言葉に大男は何を言い返す訳でもなく、ただ視線を強めるこ とで応えてくる。

私はただ、その視線を包帯の巻かれていない片方の目で受け止める。

 

「我々には敵機と交戦し、シェルターを守った実績がある」

 

しばらく視線をぶつけ合い、先に口を開いたのは大男の方だった。

彼の周りにいる兵士達も、『隊長の言うとおりだ』と盛んに頷き大男の言葉を後押ししている。

の兵士達の声は無視するが、この男が隊長という役を任されている事 は理解した。

 

「確かに実績はあるわね。

 敗走し、敵の無人兵器に見逃してもらったと言う実績が」

 

半眼で睨み返し、挑発を含め、それでも事実に近しい言葉だ。

その言葉に即座に反応したのは、隊長であろう大男に侍従する若い兵士だった。

 

「貴様、我等を愚弄する気か!」


「お前ごときに何が解る!」

 

等と言い始め、口々に私を罵り始める。

むろんその様な戯言に付き合うつもりは無い私は、それらを無視し、

ただ大男へと視線を向けていた。

私が注視する大男は、何も言わずただ苦笑をするだけだった。

その周りとのギャップに、私は違和感を感じ得ない。

だから、私はその大男に一つの話を持ちかけた。

大男は興味深そうに表情を崩し、私からの提案を予想通りに受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が提案したのは、ここは一つ賭けをしないか?という事だ。

シュルターを守ったという守備隊から10人選び、

トゥリアの操るバッタと勝負をするというもの。

10:1と言うレシオに加え、勿論守備隊はどのような兵装を使おうと自由。

こちらから示した条件は、10分後に戦闘を開始するという1点のみ。

 

「尻尾を巻いて、逃げますか?」

 

そう訊ねる私に、

大男ではなく周りの兵士達の方が先に応えてきたのは、ご愛嬌といったところか。

結果、大男も私からの提案を受け、

ココから1キロ離れた地点を戦闘空域に指定し、

青いバッタと守備隊との戦闘が行われることになった。

ただ、何を考えているのか解らないが、

大男の取り巻きの一人が、準備時間が10分では短過ぎる、と言って来た。

 

「あら、あなた方の敵は、待ってくれと言えば待ってくれるのね。

 随分とおめでたい敵と戦ってきたのね」

 

そう返した私の言葉にその兵士は顔を真っ赤にして黙り込み、大男はただため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥリアに命じて念の為に周りの索敵をさせ、

敵機が半径200キロ以内に存在しないことを確認した。

多少派手な戦闘になろうとも、これなら大丈夫だろう。

まあ、守備隊の方は索敵など関係無しに、やる気になっている様子だが。

そして10分後、戦闘は開始した。

先に攻勢をかけたのは守備隊の方だった。

ある程度の間隔をもって配置に付いた彼らは、

手にした銃器を青いバッタに向けてトリガを引き絞る。

アサルトライフルから吐き出された高速弾。

トゥリアが操る改良バッタは、

四本ある脚の先に取り付けられたローラーを、高速回転させることにより回避する。

そのまま、大きく回りこむように動き、散開している守備隊の一角へと迫る。

まず、トゥリアが目指したのは、

対峙する守備隊の最高威力をもつバズーカ砲を装備する兵士だった。

小刻みに進路を変え、走行速度すらも変化を付けて進む改良バッタ。

ジグザグに、そして回り込むように、だか確実に距離を詰めて行く。

バズーカ砲をかまえた兵士は慌てふためき、

迫るバッタに向けてバズーカのトリガを引く。

半ばパニックに陥った兵士の行動は、トゥリアの狙い通りの行動だった。

ボォンという意鈍い音を響かせ発射されたバズーカ弾を、

これまで以上の速度で直進することで回避する改良バッタ。

そして、そのままの勢いで兵士に迫り、持ち上げた前肢が兵士の頭部を捕らえる。

ドン

瞬間、兵士の身体は打ち倒され、数メートルを転がると、

放置されたままになっている瓦礫に突っ込んだ。

ガラガラと瓦礫が崩れ、兵士の身体が砕けたコンクリートの塊に押しつぶされ飲み込まれる。

その瓦礫の下からは赤いしみが広がっていった。

 

「なっ!?」

 

と私の隣で驚きの声を上げるのは市長代理の二人。

まさかとは思うが、死人が出ることを想像していなかったのだろうか?

が、ちらりちらちと、私の表情を伺っていることからすると、そのまさかなのだろう。

少なくとも今の火星において、決して平時とは言えないのだ。

その辺の認識は、まだまだ足りないようだ。

そしてトゥリアの操る改良バッタは、一人を倒したところで止まるはずは無かった。

5mほど先にいた次の兵士に突進して行く。

錯乱気味に放たれる弾丸をその装甲ではじき、兵士の腹部へとその前肢を突き刺した。

地面に突き立てる為に鋭くなっている前肢の爪は、やすやすと兵士の腹を貫通したのだ。

ゴフッと血液を口から逆流させ動かなく兵士。

消えていく命の灯火に構わず、

改良バッタは次の獲物を目指し、脚の先のローラーを軋ませる。

突き刺したままの兵士を掲げるように、次の獲物へと直進する改良バッタ。

標的とされた兵士は、まだ息のあるそれでも助からない同胞に気を取られ、

構えたアサルトライフルのトリガーを引くのを躊躇ってしまった。

それはただ自分の命のタイマーを早回しする事に他ならない。

獲物に迫るバッタはその標的の手前でローラーを軋ませ、急ターンをみせる。

さらに兵士を突き刺したままの前肢を微妙に調整し、

腹部を貫通していたそれを標的である兵士に向けて打ち出した。

改良バッタの爪から開放された兵士の身体は慣性の法則に従い、

まっすぐ飛んで立ち尽くす同胞へと直撃した。

ゴッ

鈍い音を残し、二人の兵士が一つの固まりとなり、2、3回バウンドして転がり停止する。

改良バッタは再びターンし、その塊となった兵士達へと接近した。

ピクリとも動かない塊の上を、四本の脚を器用に動かして往復し始める。

幾度も、幾度も、

血と肉の絨毯が出来上がるまで、何度でも。

2人の人間が、ただの肉塊となっていくその様に、

市長の代理はおろか私を支えるルリですら、顔色を失っていた。

戦場から1キロ離れた地点で、トゥリアの映し出す映像で戦況を確認しているのだが、

どうやらこの三人には刺激が強かったらしい。

私はちらりと大男を見てみるが、場慣れているのか大男の表情はピクリとも動かなかった。

やはり彼は本物なのだろう。

 

「トゥリア、そろそろ遊びは止めなさい」

 

そして私は次の指示とも取れる言葉を口にする。

トゥリアの操る改良バッタは機体の機動性のみにで戦っており、全く本気を出していないのだ。

ディストションフィールドを展開していないのもそうだし、

多いとはいえないが改良バッタに搭載した兵装を、

まるで使っていないことからもその事が伺える。

どのような思考でそういう行動を取っているかは不明だが、

トゥリアが遊び半分で戦っているのは確かなことだ。

 

「御意」

 

私の前に何時もの老執事の姿を映し出したトゥリアが、

何時ものように仰々しく一礼してみせる。

そしてそれを境に改良バッタの動きが変わった。

後ろ脚の爪を地に付き立て、先ほどまでの大胆な動きではなく、細々とした動きを見せるようになる。

それは改良型バッタの兵装の中で、最大威力を誇るレールガンの、砲撃モードの動きだった。

搭載されたレールガンは、有効射程距離こそ長くはないものの、

フィールドを張った同型のバッタを、一撃で仕留める事が可能な様に設計されているものだ。

圧縮酸素を同梱した炸薬と、電磁式の加速器をを併用し、

同口径、同砲身長のマテリアルライフルを、大きく上回る破壊力を持たせている。

欠点は改良バッタの胴体に砲身が埋め込まれていて、

取り回しが難しいことと、装弾数が大して多くないことだ。

が、それらの欠点は、今回の戦闘に何ら影響を及ぼすものではなかった。

それから7回レールガンが火を噴き、それだけで戦闘は終了したからだ。

7度の砲撃は、7人の守備隊に対し、7つの死をもたらした。

後に残されたのは、血と肉に彩られた、7つの真っ赤な華。

 

「お嬢様、つつがなく終了したしました。

 如何でございましょう」

 

その7つの現場を映し出していた映像を切り替え、

トゥリアの老執事が再び姿を見せる。

 

「及第点ね、ギリギリ合格と言ったところかしら」

 

軽いため息と共に、トゥリアに答える私。

 

「ははは、何時もながら手厳しいですな、お嬢様は」

 

といささか演技がかった口調でトゥリアが答えた時、

私を支えていたルリから緊張が伝わってきた。

何時の間にか、先ほどよりも多数の兵士が私達を取り囲み、

腰溜めに構えた突撃銃の銃口を、こちらへと向けていたからだ。

 

「どういうつもりかしら?」

 

大男の方を右目で睨みつつ、口を開く私。

が、この事態は大男にも想定外だったのか、苦々しげに表情を歪めている。

取り囲んだ兵士達の銃口は、大男の方にも向けられていたからだ。

 

「あなた方の保有する戦力を、我々に譲っていただきたい、つまりはそういう次第です」

 

と私達を取り囲む兵士達の後ろから、そんな言葉を口にする一人の男。

周辺の兵士達と同様に戦闘服に身を包んでいる。

その長身も相まってか、いささか細いという印象を受ける男だった。

私達と話していた大男が、同程度の身長でがっしりとした体格をしているので、

余計にそういった印象が強いのかもしれない。

 

「ヴァーミリヤ副隊長、これはどういうつもりだ?」

 

突き付けられた銃口をものともせず、明確な敵意を視線に込めて、

大男が副隊長らしいその男を問いただす。

 

「先に述べた言葉の通りの意味ですよ、ヴァーミリヤ隊長。

 そこのタナカ家のお嬢さんは、金持ちの道楽としては随分の戦力をお持ちのようですが、

 所詮、民間人であるあなた方の手には余る代物でしょう?

 ですから、その過ぎたる道楽で作られた戦力を、我々軍人が有効に活用して差し上げる。

 双方にとって有意義な事に違いありますまい」

 

薄ら笑いを浮かべ、やはり隊長であった大男にそう告げる副隊長。

私の目から見ても、その視線には侮蔑が含まれていて、

同じ名前の二人の間には、何か確執の様なものが在るのだと推測できた。

 

「我々は負けたのだよ、ヴァーミリヤ副隊長。

 それも徹底的にな。

 我々では如何にあがいてもお嬢さん方には勝てない。

 生き残る為にも、我々は彼女の軍門に下るべきなのだ」

 

隊長である大男は副隊長から視線を外さず、重く響く声でそう続ける。

 

「そうですな、負けましたな。

 私の部下10人を使って、貴方が負けたんです。

 だからこそ、貴方には責任を取って貰わないといけませんよね、ヴァーミリヤ元隊長?」

 

副隊長はそう言いながら隊長である大男に、

いや、男の言葉を信用するのなら元隊長である大男に、自らの手で銃を突きつける。

なるほど、彼らも一枚岩では無いといったところか。

 

「貴様!!」

 

副隊長のその行動に、今まで比較的冷静を貫いてきた元隊長が怒りの感情を露にした。

が、すぐさま駆け寄った兵士により取り押さえられ、装備していた銃器を取り上げられてしまう。

そのままに地に組み伏せられる大男を、薄ら笑いで見ていた副隊長が私の方を振り返った。

 

「まあ、多少お見苦しいところをお見せしましたが、

 こちらの要望は理解していただけたかと思います。

 では、あなた方の保有する兵器を、我々に明け渡していただけますね?」

 

先ほどと同じ、薄ら笑いを貼り付けた表情で、副隊長は私にそう告げてくる。

無論、私にはその様な戯言を聞き入れるつもりは毛頭ない。

が、この副隊長の歪み方にはデジャビュを覚える。

ああ、そうだ、市長からこの彼らの事を聞いた時に感じたのと同じ感覚だった。

率直に言うと、こういう一文になる。

お前ら馬鹿だろう?

もちろんその言葉を、そのまま口にするような事を私はしなかった。

 

「茶番はそれなりに面白かったけど、寝言は寝てから言うべきよ?」

 

私は肩をすくめ、副隊長に対してそう応える。

 

「お嬢様、恐らく夢遊病を患っている方なのですよ。

 ココまではっきり発言できる症例は極めて稀ですよ。

 中々に貴重なデータを収集させていただけましたな」

 

と続けるのは老執事の姿のトゥリア。

作られたものとは言え、その表情は真剣そのものである辺りがトゥリアらしいと私は思った。

 

「お姉様、きっとこの方なりの冗談なんですよ。

 センスというものが、全く感じられませんけれど…」

 

と続けるのは私を支えているルリ。

トゥリアはともかく、ルリが話に乗ってくるのは、

私にとって完全に想定外だったが、

中々に辛らつな言葉を並べるものだ。

それはともかく、市長代理の2人を除き、

3者3様に続けられる言葉に副隊長は表情をゆがめた。

 

「そ、それは、どういう事ですかね?」

 

ヒクヒクとこめかみを引きつらせ、疑問を投げかけてくる副隊長。

何とかこらえているようだが、大男よりこの男の方が沸点は低そうだ。

底が浅いと言うヤツだろう。

 

「ヤレヤレね。

 頭のめぐりも悪いのかしら?

 つまり、死んでもお断りと言うことよ」


「じゃあ、死ね」

 

続けられた私の言葉に、怒鳴るように答えながら、副隊長は再び銃を抜き、

私にその照準を合わせると、躊躇わずにトリガーを引いた。

ガァン

という銃声と共に吐き出された弾丸が私に迫る。

が、1mほど手前で発生した障壁に阻まれ、あらぬ方向へ弾かれて消えていく。

その障壁は私達には馴染みのディストーションフィールドで、

ルリが肩から掛けているポーチに仕込んだ携帯型フィールド発生装置により作られたものだ。

片腕を失った教訓を、早々に忘れるほど私は馬鹿ではない。

ガァン!ガァン!ガァン!

更に続けて放たれる3発の弾丸。

無論それらは初弾と同じにフィールドに阻まれ、私達に届くことは無かった。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

唖然とし、そう呟く副隊長。

そして私は、彼に掛けるべき言葉を思いつき、口を開く。

 

「……金持ちを、舐めないことね」

 

片方の唇だけを持ち上げて笑い、視線で見下しながらの言葉。

 

「う、撃てー!!」

 

そして副隊長は、部下に命令を下すことで、私に答えた。

 

 

 

 

 

続く


あとがき

という訳で、今回も前回に引き続き、ラピスの側の話でした。

バッタ、大活躍してます。

その分、ラピスがかすんだり…。

更に義手と言うギミックも全く生かせてないし…。

ともあれ、今後も読んでやっていただければ、幸いに思います。

出来れば感想などもいただけると、かなり嬉しかったりします。

ではまた


人工天然さんに代理感想を依頼しました♪



資産家を人形にしてそのお金を使うっていうやり方からくる人間らしさが、良く出ていて、わくわくさせられるお話だなと感じました。

あとがきの方で、くまさんはラピスがかすんでいると仰られていますが、私個人としてはより一層悪女っぽさがでて良いのではないかなー…なんてこっそり思っ てみたり。

そしてなかなか読者に息をつかせてくれない展開につられて、気づけば自分もラピスに踊らされている/振り回されている気になってみたり。

このくらいの存在感をもってこその主人公ですよね。とっても魅力的だと思います。


ただ、酷いスラングが飛び交うようなガチガチの軍事モノではないようなので、トゥリアの皮肉の中で出てきたちょっとすると差別語になってしまうような危う い挑発に少し驚きました。

あ、でも、別段違和感を放っている訳ではないので、これはこれでアリだと思います。

何にしろ面白いので、早く続きが読みたいです。


執筆頑張ってください

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