『神様は中学生』

第三話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

初号機との意思の交流をしていた僕は、初号機に怒られてそう謝っていた。

初号機って番号っぽいから、別の名前を付けてあげようか?

なんて言ってみたところ、初号機に怒られてしまったのだ。

どうやら彼?はエヴァンゲリオン初号機であることに誇りを持っている様子だった。

自分に付けられた『エヴァンゲリオン初号機』という名前は来るべき使徒を迎撃せんと名付けられたものであり、

使徒の脅威に対抗せんとする全ての人達による祈りすら込められているモノであって、

だからこそ、『エヴァンゲリオン初号機』という名前を軽々しく否定しないで欲しい。

そんな風に強い意志と怒りの感情を僕に向けてくる初号機。

全くもってその言わんとする事は正しくて、僕は自分自身の見識の狭さが恥ずかしくなって、

アスカじゃないけど、やっぱり僕はバカシンジなんだって自覚した。

僕は僕自身が変わってしまったと思っていたけれど、変わってない部分もやっぱり在った事には少し安堵した。

例えそれが自分がやっぱり馬鹿なんだなという自覚だとしても。

それはともかくとして、初号機から色々と聞いたところによると、

やっぱり僕は普通の人ではなく、結構凄い存在になっているらしかった。

数値的に比較してみると今の初号機の力が100なら、僕は5000ぐらい。

初号機によると、力といっても純粋な腕力とは違うもので、

存在によって持ちうる力?みたいなモノの比較ではそうなるらしい。

それがどんな力なのかを、初号機は懸命に伝えようとしてくれたけど、

頭のあまりよろしくない僕には、いまいち理解できなかった。

ちなみに普通の人間、というか母さんは5ぐらいだったらしい。

初号機の見立てによれば母さんは大きい方で、個人差というものが結構あるっぽいそうだ。

実際には取り込んでみないと正確な事はわからないらしいので、僕もそこを深く追求する事は止めておいた。

初号機によれば消えてないらしいけど、今の所明確な母さんの気配も無いし、比較のしようもないし…。

で、今の初号機の力は100だけれど、ほんの一時間前の初号機は力は30だったそうだ。

正確には100分の30。

使徒のコピーである初号機は、全体の7割が虚ろで構成されていて、

その虚ろな部分に、母さんだとかチルドレンだとかで満たして動く仕組みだったらしい。

満たす、つまりシンクロしている状況下においては、100分の30の初号機よりも、

(5分の5の母+3分の3ぐらいのチルドレン)の組み合わせの方が上位を占め、

だからこそ初号機本体でなく、チルドレンによってエヴァ本体のコントロールが出来るという事らしい。

けれどそれは少し前の初号機の状態で、今は僕から削り取ったもので虚ろを満たし、

今現在の初号機は、100分の100の状態にあるとのことだった。

先ほど僕が感じていた不快感は、僕の力?を初号機がガリガリと削っていた事によるものらしい。

まあ、僕としては全く痛くなかったし、もう気にしてないけど。

それで、100分の100の状態になった初号機は、自分の意思を持つようになりというか自我に目覚め、

こうして僕にコンタクトしてきたと言う次第だった。

しかも、僕を削り取り込んだ所為で、随分と人間よりの思考とかをすることになったらしい。

僕の力を70程度削った事を怒っているんじゃないかと、随分とビクついていた初号機だったけれど、

気にしていないと僕が告げると、安心し僕に尊敬の念を伝えてくる。

正直照れくさかったけれど、僕はそんなに悪い気はしなかった。

これからも一緒に戦っていくパートナーだから、と改めて告げ、

初号機からは感動と歓喜、そして再びの尊敬の念が伝えられてきた。

そこで僕は調子に乗ってしまい、初号機に名前を付けてあげるなんて言ってしまい、

結果、初号機に怒られたのだ。

素直に謝ったら、初号機は直ぐに許してくれたので、僕はほっとした。

それから、外が騒がしいですよ?的なニュアンスの初号機の指摘があり、

僕は自分の意識をシンクロからプラグ内へと向ける。

 

「シンジ君!シンジ君!」

 

そう僕に呼びかけているのは、発令所にいるリツコさんだった。

ただ、その声は随分と切羽詰っているように僕には聞こえた。

何をそんなに焦っているんだろう?

 

「はい、何ですか?」

 

状況が掴めなかったので、僕はとりあえず返事だけをしてみた。

同時に発令所からは、ほっとため息のようなものが聞こえた気がした。

 

「シンジ君、無事なのね?」


「はい、何ともありませんけど…。何か在ったんですか?」

 

あからさまに安心した様子のリツコさんに、無事であることをアピールしつつ、僕は問い返す。

リツコさんは迷っていたのか、しばらく沈黙したけれど、やがて意を決したのかゆっくりと語りだした。

 

「こちらで計測していたシンクロ率…つまり、シンジ君とエヴァとのつながりを表す数字が急上昇したの。

 本来ならありえなような、危険な領域までにね。

 そしてシンジ君もこちらの呼びかけに答えなくて、誰かに何か呟いている様子で…。

 想定外の事が起こったのではないかと、私達はは考えたのよ。

 今は随分と落ち着いているけれど、そこで何があったのか教えてもらえるかしら?」

 

個人としてかE計画の責任者としてか、リツコさんは少し心配そうな声色で僕にそう問いかけてくる。

僕はあまり悩まずに、リツコさんの問いかけに素直に答える事にした。

色々と都合を合わせるにも、前回の事はもうよく覚えてないし、

それに関る言い訳や嘘を考えるのが面倒くさかったのだ。

 

「何かというか、母さんにお別れを言って、初号機と顔合わせをしてたんです。

 母さんは何処かに行っちゃいましたけど、初号機は結構気の良い人だったんで安心しました」

 

そう答えた僕の言葉に、真っ先に反応したのは父さんだった。

 

「如何いう事だ、シンジ!答えろ!」

 

前も含めて聞いた事の無いぐらいに、焦りと怒気を孕んだ父さんの声。

珍しいなと思いながらも、言葉の通りだよ、と僕は少しいぢわるな答えを返す。

一瞬あっけに取られた父さんが再び声を荒げる前に、僕は逆に質問をぶつけていた。

 

「母さんなんかの事よりも、使徒はどうしたの?

 ココは使徒を倒す為だけに組織されたトコロなんだってね。

 初号機からはそう教えてもらったし、初号機も随分とやる気になってるよ。

 父さんはココの責任者なんだから、今はプライベートよりも仕事を優先しなよ。

 まったく、ちゃんとしないと僕が恥ずかしいじゃないか」

 

初号機に聞いたとかの辺りは嘘交じりなのだが、そう続けた僕の言葉に乗ってきたのはミサトさんだった。

 

「司令、今は使徒の撃退が最優先事項です。

 ご家族のお話は後ほどにしていただけますか?」

 

そうミサトさんに咎められたと言うか、諌められた父さんは、むうと唸って黙り込む。

使徒がココに向かっているのは事実だし、非常事態であることには多分間違いは無いはず。

父さんとしては物凄く不本意だろうけれど、今は使徒の迎撃を優先するのが当然なんだろう。

 

「リツコ、初号機はいけるの?」

 

どこかで入りっぱなしになっているマイクが、そんなミサトさんの声を拾ってくる。

声が少し遠い事からすると、父さんのマイクなのかもしれない。

 

「シンクロ率の低さを除けば、オールグリーンよ。

 逆に、この低シンクロ率で起動している事の方が驚きね。

 こちらの想定していた最低限のシンクロ率の半分にも満たないのに」

 

ミサトさん問いかけに嘆息を交えた声で答えるリツコさん。

その言葉を聴いた僕は首を捻ったが、初号機から注釈がはいった。

どうやら、今のシンクロ率は初号機がコントロールしているらしく、

僕とこうして意思の疎通を図れる程度に、落としているそうだ。

というか、虚ろを満たされた初号機に、シンクロは不要なんじゃないかな?

そんな疑問は頭に浮かんだけれど、実際に言葉にすと問題がありそうなので僕は口を噤んでいた。

 

「でも、いけるのね?」


「ええ、恐らく」

 

ミサトさんの再びの問い掛けに、ごく短く答えるリツコさん

 

「シンジ君、聞こえる?」

 

そしてミサトさんは僕に話を振って来た。

 

「聞こえる、というよりも聞こえてましたよ。

 父さんのマイク、入りっぱなしじゃないですか?

 あ、それと、僕と初号機なら大丈夫です、初号機も任せろって言ってますし」

 

初号機から伝わってくる自信を言葉に換えて、僕はミサトさんに説明する。

まあ、初号機が言ってる云々は信じてもらえないかもしれない、とは思っていたけど。

 

「ありがとう、心強い言葉ね。

 正直、そう言ってもらえると、私も少しは気が楽になるわ。

 司令、よろしいですね」

 

ミサトさんは僕に愛想良く答え、そして父さんに確認をする。

言葉数も少なく、父さんに向けて多くは語ってないけれど、

初号機を出して良いかの最終確認の手順なんだろうと、僕は何となく思っていた。

父さんの所のマイクは切られてるのか、その言葉は何も聞こえなかった。

けれど、とにかく承諾の言葉を口にしたんだと思う。

 

「エヴァンゲリオン、発進!」

 

続けて聞こえてきたのが、ミサトさんのそんな掛け声で、

そのまま初号機が地上へと打ち上げられていったから。

僕の推測は当たったんだ、と心の中でガッツポーズを取る僕。

ただ、パイロットの僕に確認ぐらいした方が良いんじゃないの?と僕は思っていた。

上昇によるGに耐えていたから、実際には何も言えなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァンゲリオン、リフトオフ!」

 

地上に打ち上げられた僕と初号機は、そんな掛け声と供に最終拘束を解除される。

その目の前には使徒が居て…なんて事は無く、

迎撃シフトとは言え、比較的穏やかな午後の日差しの第三東京都市が広がっていた。

前回とは違い、使徒の侵攻は随分と慎重に行われているらしい。

 

「今の速度で行けば、あと1時間後ぐらいに第三東京の郊外に到着するわね」

 

とはリツコさんの弁。

で、その到着までの間に、エヴァの操縦の訓練をする為に地上へと打ち上げられたとの事だった。

何でも使徒は此処へ向かうルートを突如変えて、随分と遠回りのルートで此方へ向かっているという話だった。

 

「だから、戦自が折角設置したN2地雷とかは、無駄になったのよね」

 

と、ミサトさんが何故だか嬉しそうに語っていたのは印象に残った。

何で使徒がルートを変えたのか?と首を捻っていると、その答えは意外なところから聞こえてきた。

初号機が自分の記録から推測を伝えてきたのだ。

何でも、しばらく前にとんでもない大きさの存在の気配が現れて、直ぐに消えるということがあったらしい。

使徒はその気配を恐れ、その地点を大きく迂回する形で此方へ向かっているとのこと。

使徒のコピーである初号機だからこそ解ること、なのだそうだ。

その存在の気配の大きさは僕の数万倍で、

僕が5000だとすると、その存在の気配は兆の単位の大きさらしい。

で、初号機がそれを感じた気配の方向を、僕は教えてもらう事にした。

初号機が指し示したのは、やり直しの僕が再びこの第3東京に降り立った駅がある方向だった。

僕に思い当たる事は一つしかなくて、それはもちろん、あのゆりえ先輩の事だった。

僕の目からしてもキラキラ輝いていたゆりえ先輩は、きっと物凄い神様だったのかもしれない。

人(神?)は見かけによらないとは、正にこの事を言うんだろうなと僕は思った。

それはともかく、僕と初号機は来るべき使徒に備えその巨体を動かし始める。

静的なストレッチから入り、その身体の動きを徐々に大きくしていく初号機。

 

「信じられない!この低シンクロ率で何故あの動きが!?」

 

と発令所ではリツコさんが驚きの声を漏らしていた。

 

「良いじゃない、動くに越した事は無いんでしょ」

 

と、リツコさんの心配を一笑に付すのはミサトさんで。

割と反対な二人だけど、結構バランスが取れてるなと僕はそんなことを思っていた。

一通りの動作が終わったところで、発令所のミサトさんから指示が出て、

使徒を迎え撃つために、僕らは第三東京の郊外へと移動する事になった。

何でも都市中心部の兵装ビルとかの未完成の度合いが高く、上手く初号機を援護できないからだそうだ。

前の時とか、あんまり助けれた記憶は無いし、如何でも良いとは思ったけど、

とりあえず指示通りに僕らは歩き出すことにした。

5回ほどケーブルを付け替えて、指定されたポイントに辿りついた僕達。

とは言え、初号機が全部やってくれたので、僕はパイロットシートに座っていただけだった。

発令所では僕が動かしているんだと認識されている筈だけど、その辺を訂正するのは止めておいた。

理解されると思わないし、何より面倒くさかったからなんだけどね。

お疲れー、と一仕事終えた初号機に僕が声をかけていると、発令所のミサトさんから通信が入る。

一方のリツコさんが黙ったままのは、僕には少し不気味に思えた。

何となくだけれど、後が怖い気もする。

この後、人体実験なんてされない事を、今は祈ろうと思った。

 

「…シンジ君。

 そろそろ使徒が目視できる距離まで近づいてきたわ。

 準備は良い?」

 

そんな僕の心情などお構い無しに、ミサトさんは僕に告げてきた。

声に従い目をこらして見ると、プラグの内部に映るモニターの中に小さな使徒の姿を見つけた。

その通信の声は初号機にも聞こえていて、初号機からはやる気満々の答えが伝わって来た。

 

「葛城さん、大丈夫ですよ。

 初号機も行けるって言ってますから」

 

普通に考えればおかしい筈の僕の発言も、ミサトさんにはあまり気にしていない様子で、

ただ頑張って頂戴とだけ返してきた。

そんな風に発令所とのやりとりをしている間にも、使徒が歩みを進めだんだんとこちらへ近づいて来る。

ある程度の大きさで視認出来るようになったところで、

初号機が倒しに行って良いか?と問い掛けをぶつけてくる。

 

「うん、行こうか初号機」

 

僕も初号機の伝えてくる高揚感に流されて、初号機に同意した。

グオオオオ!!

初号機は歓喜の感情と供に咆哮を上げる。

初号機の中の僕はそのやる気に感動したけど、発令所の人たちは随分と驚いた様子だった。

 

「何勝手な…」

 

言いかけたミサトさんの言葉はそこで途絶え、発令所からの声は何も聞こえなくなった。

故障?とも思ったけれど、初号機から感じられる集中力に、

きっとそれは初号機がやった事なのだと僕は理解した。

そして初号機の咆哮に驚いたのは、人だけではなかった。

何故かこちら向かってきている使徒までが、その動きを止めていた。

チャーンス!とばかりに笑みを浮かべたかどうかは知らないけれど、

初号機は使徒へ向け、一気に突進を開始した。

わずか5歩で最高速までギアを上げ、一気に間合いを詰めにかかる初号機。

ガギィィン!

そして大きな衝撃がエントリープラグ内に走る。

シートから投げ出されはしなかったけれど、その揺れが収まる頃には上下が逆転していた。

初号機から伝わってきたのは痛みとかではなくて、恥ずかしいという感情。

プラグ内に表示されている活動可能時間のカウンター減っていくのを見て、僕は何が起こったのか理解した。

ケーブルの限界を考えずに突っ込んだ初号機は、

そのケーブルの限界によってバランスを崩し、勢い余って派手に転んだのだった。

 

「ドンマイ」

 

少し凹み気味の初号機に声をかける僕。

初号機は気を取り直して立ち上がり、再び使徒と対峙する。

僕たちの正面に立ち塞がる使徒の姿と初号機のやる気に触発された僕の意識は、

自然と、目の前の使徒へと向かう事になる。

 

「さあ、今度こそ行くよ、初号機」

 

そう静かに初号機に語りかけ、僕は前にもしていたように僕の方から初号機とのシンクロを開始していた。

初号機からは驚愕と歓喜、そして湧き上がる興奮が伝わってくる。

ガァァァァァアアア!!

先ほどよりも大きな、そして身体全体を痺れさせる様な咆哮を響かせる初号機。

その咆哮を受け正面に対峙していた使徒が怯み、

進めていた歩みを止めたどころか、その巨体が一歩引いた。

それを見逃さずに、初号機は再びの突進をかける。

ケーブルはさっきの転倒で外れているし、今の初号機の動きを制限するものは何もなかった。

3歩で最高速に達し、力強く踏み切った初号機は、大きくジャンプして空中から使徒へと襲いかかる。

自重を乗せた掌低を使徒へと打ち下ろす初号機。

もちろん使徒だって、ただ為されるがままになってなど居ない。

己のATフィールドをはっきりと目視できるほどに強く展開して、初号機の攻撃を防ごうとする。

けど、初号機の掌低は使徒のATフィールドをあっさりと突き破り、

その仮面っぽい頭部とおぼしき場所へと叩きつけられた。

パシャン

実際にはそんな軽い音ではないのだろうけれど、

ともかく使徒は初号機の掌低を打ち付けられた次の瞬間、その体組織の全てを赤い水に変えた。

その展開には攻撃をしかけて初号機にも予想外だったらしく、僕に驚愕の感情を伝えてくる。

もちろん、僕だってそんな風になるとは思っていなくって、何で?という大きな疑問が頭に浮かんだ。

何か仕掛けが在るのかな?と初号機と供に、使徒にたたきつけた初号機の右手を見てみる。

そこに浮かぶのは、僕の右手に浮かぶのと同じスタンプで押された『不合格』の文字。

何で?と僕が更に首を傾げ、初号機とのシンクロから意識を逸らすにつれて、

その文字は徐々に薄くなり、やがては消えてしまう。

僕と初号機は内部電源が残り一分を切るまで、文字の消えた右の掌をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、あの時に高シンクロしたのが原因ってこと?」

 

僕と初号機はネルフ本部へと向かうエレベーターで地下へ下降しながら、

先ほど行われた使徒との戦いを検討していた。

 

(多分そうっすね)

 

そんな意思を、先に呟いた僕に初号機は返してくる。

僕はただ座っていただけだし、実際に戦った初号機がそう言うんなら、そんなもんなんだろうなと僕は思った。

諺で言えば、下手な考え休むにニタリ?

んー、何か違う気もするけど、まあいいや。

ちなみに僕と初号機の検討会なので、発令所からの通信は遮断してある。

じゃなくて、初号機に遮断して貰ってる。

 

(うるさいんすよね、いちいち)

 

通信を遮断してそう伝えてくる初号機に、僕も大きく頷くところがあったのは事実だし。

 

(それにしても、スゴイっすね、シンジさん。)

 

と、戦闘時の興奮を思い返したのか、高揚し息も荒く(僕にはそう感じる)意思を伝えてくる初号機。

 

「何のこと?」

 

何がすごいのかまるで解らなかった僕は、初号機にシンプルに聞き返す。

 

(さっきのアレは自分、つまり初号機の力じゃないっす。

 高シンクロによって、自分がシンジさんの力を借りてあんな風に出来たっす。

 だから、シンジさんスゴイって事っす)

 

そんな風なベタ褒めの思考と尊敬の感情を僕に伝えてくる初号機。

初号機にそんな風に言われるのは正直照れくさかったし、

それどころか、僕は僕自身をスゴイとはこれっぽっちも思ってなかった。

現に、僕の両方の手の平には不合格と不可の文字が浮かんで居るわけだし…。

といってもこの文字は普通の人には見えないっぽい。

少なくともネルフのスタッフの人たちには指摘されなかったので、とりあえずは安心している。

文字が浮かんで居るのは僕の所為なので良いんだけど、

消せと言われたら消し方を知らない僕はとても困ると思うし。

それはともかく、僕を物凄く尊敬してくれている初号機の誤解を解く事にした。

後で失望させるよりも、先に僕がダメなヤツだとしっかりと認識してもらった方が良いと思うから。

 

「あのさ、初号機、さっきから僕の事を持ち上げてくれるけれど、

 僕は初号機から尊敬を受けられるような人間じゃないよ。

 色々あってこんな風だけれど、僕って本当にどうしようもないヤツなんだ。

 だからさ、そんな風に僕を持ち上げて考えるのは止した方が良いよ。

 どうせ後でろくでもないヤツだって解って失望するだけなんだしさ。

 それよりも尊敬すべきは初号機、君の方だよ。

 僕は君みたいに、自分の存在する意味とか目的とか、しっかりと見据える事なんてした事が無かった。

 ただ流されていた僕なんかとは違って、初号機の方が随分と立派だよ」

 

エントリープラグのシートに座ったまま僕は初号機にそう告げていた。

 

(正直、嬉しいっす。

 けど、所詮、自分は目的が先ずあって造られたモノっす。

 だから、モノには目的があるのは当然っす。

 残念ながら、望み望まれ生まれ出てきたシンジさん達とは違うっすよ)

 

卑下した様子で意思を伝えてくる初号機。

はっきり言って、いっている事の意味はよく解らなかったけど、

何となくというか、少なくとも初号機は落ち込む必要なんて何処にも無いのに、と僕には思えた。

 

「あのさ、初号機、僕は良く解らないど、違うとか違わないとか如何でも良いんじゃないかな?

 とにかく僕は此処に居て、君も此処に居る、そして、少なくとも僕は、それを嬉しく思ってるよ」

 

自分でも良く解らない言葉を僕の口は紡いでいた。

こういう時は、何て言えば良いんだろう?

そして、ふと頭を過ぎるのは一人の少年が僕に向けた言葉だった。

 

「初号機、君は好意に値するよ。つまりは、好きって事さ」

 

その台詞を真似て、僕は初号機に告げていた。

もちろん、そこに嘘偽りがある訳でもなく、それは本心からの言葉だった。

初号機からは先ほどとは少し違う歓喜と、そして改めて僕に対する尊敬の念が伝わってくる。

喜んでくれたのは何よりだったけれど、僕のダメさ加減が解って貰えなかったのは残念だった。

けど、初号機に考え方を強要するつもりなんて僕には無かったから、

それ以上のこの件に関しては何も言わない事にした。

今、口にした言葉よりも、言うべき言葉を思い出したという理由もあったけれど。

エヴァの降下用のエレベーターが降り切って止まった時、僕は再び初号機に話しかけていた。

 

「初号機、今日はどうもありがとう。

 そして、これからもよろしくね」

 

口にしたのは今日一番の活躍をした初号機へのお礼と挨拶。

危うく忘れかけてたけど、今ならまだセーフのはず。

 

(あ、その、いえ、自分こそありがとうでした。

 あと、これからもよろしくっす)

 

ややバツが悪いな、と思っていた事は流石に読み取れなかったのか、

初号機からはそんな感じの答えが返ってきた。

そんなやり取りを最後に、やり直しである僕の最初の使徒との戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

つづく


あとがき

ス、スタートダッシュは軽やかに…いけたら良いな。

ということで、比較的に短い感覚で更新することになりましたくまです。

前回のあとがきにもありましたとおり、今回はスーパーなシンジが活躍する話でした。

もちろん、この後もスーパーなシンジ君の話が続く予定です。

あ、ユイさんは退場したっぽいけど、一応ヘイトものにはしないつもりです。

まあ、現時点で既にヘイトじゃん、といわれたらどうしようも無いですが…。

それはさておき、自分の話を読んでいただいた方に感謝を。

そしてよろしければ、次の話も読んでやっていただければ幸いに思います。

あと、感想を頂けると嬉しかったりします。

それではまた。

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