『神様は中学生』

第８話

作者　くま

輸送船の上で構えたエヴァンゲリオン弐号機が投げつけたＡＴフィールドは、

海を割り、そして同時に海中を突き進んでいた使徒をも断ち切った。

その３秒後。

ドォンという轟音と供に、輸送船の後方で大きな水柱が二つ上がる。

それは、ＡＴフィールドで真っ二つにされた使徒の最後の咆哮にも僕には思えた。

１分３２秒。

旧ネルフドイツ第３支部から派遣された弐号機が、

第五使徒ガギエル発見から撃破に要した時間だった。

とまあ、そんな感じに詳細な映像が届けられてしまうぐらいに、

新組織は旧ネルフ本部が持っていた権限を早急に取り戻しつつあった。

正式に旧ネルフ本部を受け継ぐ事が決まったのが、立場の向上に良かったみたいだ。

国連配下のその新組織の名前は、Peace Operations　to　Counter Attack　Terrorism　of　Angels。

真ん中を取っての略称、「ＣＡＴ」と呼ばれるその組織は、

セカンドインパクトの再来という最悪のテロを阻止する為、

これからも現れるであろう使徒の迎撃をのみを目的に、

国連配下の他組織からは、完全に独立して組織されたものらしい。

その新組織は、ネルフの技術部長だったリツコさんを中心に、

先ずは旧ネルフの技術畑の人たちを主軸に、人員が集められていった。

使徒に対抗するにはエヴァが必要だ、って事は先の３回の戦いで十分に証明されたんだろうね。

で、勿論その人員の中には、チルドレンである僕や綾波も含まれている。

実は先のラミエル戦は新組織へ移行途中に行われていたんだよね。

そんな風に組織が不完全な状態ながらも、

第五使徒の使徒、ラミエルを斃せた事はいささかマイナス要因らしいのだけどね。

ＣＡＴ代表であるリツコさんに言わせれば丁度いいハンデとの事。

そう言い切るリツコさんが誰と戦っているのかは全くの不明なんだよね。

組織の最終的な規模までは教えてもらってないけど、

旧ネルフよりも縮小はされるとの事。

実質的にはネルフの抱えていた支部を潰し、ＣＡＴの本部一本に併合するって事なので、

此処の規模は人員的にも予算的にも大きくなるらしいけど。

ちなみに、ネルフを倒産させてしまった司令である父さんや当時の副司令をやっていた冬月さんなんかは、

旧ネルフの色々な権限を持つ事になるＣＡＴには、戻ってこれる可能性がほとんど無いとのこと。

それと、作戦部長だった葛城さんは、頑張れば復帰の可能性もあるやもって感じなんだって。

あ、もちろん新組織に移行して、組織を象徴するマークも変わったよ。

ネルフのはイチヂクの葉だったけど、ＣＡＴでは何の捻りもなくネコの顔のシルエット。

つい最近決まったばかりなんだ。

初号機に言わせると、何そのキャッツカードｗｗｗ、だって。

僕にはそのキャッツカードっていうのが良く解らなかったけどね。

後日、俗称キャッツカードって呼ばれる事になったCATの命令書が、

元ネタ以上に恐れられる事になるとは、この時の僕は全く思ってなかったけどね。

あ、初号機が色々と物知りなのは、ＭＡＧＩを通じて電脳の世界に普段から入り浸っているからだよ。

なんでもそこには、小説とか漫画とかエロゲとか色々と落ちてるらしい。

セカンドインパクト以前のモノから最新のモノまで、全世界を探せば殆どのモノが見つかるとの事。

著作権とか大丈夫なのか心配したけど、

旧ネルフもＣＡＴも超法規的な組織であるので、ある程度は免責されるだそうだ。

使徒に対抗する為の資料として集めた（キリッ、とか言えば良いらしい。

まあ、あくまで初号機の話ではだけど。

で、そうした電脳の世界でも落ちてないようなのが、

先に僕が見せられた弐号機の戦闘記録だったりする訳で。

何で急にそんな映像を見せられてたかって言うと、

弐号機とそのパイロットがつい先ほど本部に到着したから。

リツコさん達から事前に全く話を聞いてなかったので、

今しがた発令所で弐号機関連の映像を見せられたとこだったりする。

ちなみにリツコさんの解説つきという贅沢な状況だ。

どうやら連絡は前から来てたらしいけど、リツコさん達も忙しくて僕に伝達するのを忘れていたとの事。

そのお詫びも兼ねて忙しいはずのリツコさん自らが解説してくれているのだ。

まあ、新組織に移行して色々と大変なのは、回りの皆の様子から状況がつかめてない僕にもよく解る。

ただ、どのネコのマークにするか？を決めるのに、三日もかけて会議する必要な無いと思うよ。

まあ、逆に言うと、ＣＡＴ代表であるリツコさんの趣味に、そこまで力を割り振れる余裕が出てきたって事だろうけどね。

そ、そういう事だよね？

きっと。んで、映像を見終わった後、僕は今後一緒に戦っていく事になる弐号機のパイロットとの顔合わせをする事に。

ちなみに綾波は、僕が映像を見ている間に別の部屋で顔合わせ済みらしい。

そうなんだ。

まだ綾波への接触禁止令は解かれて無いんだよね。

実質的にはうやむやになってたけど、正式には解除されてないからね。

ＣＡＴの本部内とかでも、一切接触がないような状態なんだ。

遠目に顔を会わせる事がたまに在るぐらい。

僕が綾波に触れても何事も起きない保証が無いから、仕方は無いんだけどね。

そうこうしているウチに発令所のドアが音を立てて開いた。

真新しい警備隊の制服を着た屈強な男の人に促され、私服姿の彼女が発令所に入って来る。

そのブルーの瞳と一瞬だけ目が合ったその時の、

彼女が動かした唇の動きを僕は理解できてしまった。

彼女は聞こえない声で確かにこう呟いたのだ。

「久しぶりね、バカシンジ」

アスカとの衝撃的な再会を果たした僕は、

なかば呆然としたまま自宅（公園ではなくとあるマンションのワンフロア）に戻った。

此処最近は帰宅後の習慣になっている通りに端末を立ち上げ、

初号機から教えられて知ったいつもの場所へ。

初号機によるとマギが直に管轄しているらしい巨大掲示板だ。

そして僕は突き動かされるような衝動のままに、

こんなスレッドを立てていた。

【片腕片目に】同僚が中２病【包帯巻き巻き】

1 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
今日、久しぶりに同僚に会ったんだが……。
事もあろうに、中２病を発症していた。
どうして、こーなった？

2 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
≫１
クソスレ乙

3 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
≫１
kwsk

4 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
３ゲットロボ水産！

5 名前： １ 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
≫３
おｋ、ちょっと語る
最近ウチの職場に出向して来た顔見知りの同僚のことなんだ
頭は左目を隠す感じで、右腕は全体に包帯を巻いていた。
ウチの上司に話を聞いたが、特に怪我を負ってる訳じゃ無いとの事
同僚が前に居たトコからの報告だと、
ある日を境に、突然包帯を巻き始めて、それ以降言っても聞かないらしい
おっかなびっくりで包帯巻いてる理由を直に同僚に聞いたら、
『ヤツラにやられた左目が疼くから』という答が返って来た
どうしたら良いと思う？

6 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
どうもこうも無いだろｗｗ
慎んでお断りするだろ、常考

7 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
なにその楽しそうな職場ｗ
俺と変わってくれｗｗｗｗ
１時間だけｗ

8 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
真面目に答えるけど、生温かい目で見守ってやれよ
そのうち、正気に戻るだろうからさ
自分の行いに悶える日がきっと来るけどな

9 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
俺なら同僚の今の様子を撮っとくな
んで同僚のけこーん式とかで黒歴史を暴露
式場が苦笑いに包まれる事間違いなし！

10 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ごめん、そんな同僚が働いてる職場が想像できない
≫１は何やってる人？

11 名前： 1 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
特定されるのは困るんで詳しくはちょっと
ウチの職場、一応は国連の下位組織になるのかな？
ちなみに自分は一番下っ端だよｗｗ

12 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっｗｗｗ

13 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
嘘吐くなよｗｗｗ

14 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ねーよｗｗ

15 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
≫１の仕事場が斜め上過ぎて吹いたｗ
紅茶返せｗ

16 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
寝言は寝てから言え！

17 名前： 1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
うん、皆の気持ちは解るけど、ホントの事なんだよね
なんでこんな人が？って働いてる自分も疑問に思う人が上司だったりね
あ、もちろん優秀な人も沢山居るよ？
あくまで国連の下位組織だから、色々としがらみとかもあると思う
出来ない君で下っ端の自分には良く解らないけどね

18 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ちょ、出来ない君ってｗｗ

20 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
低能かよｗｗ

21 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
じゃあ聞くけどさ、
≫１はどうやってその職場に入ったんだよ？

22 名前： 1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
あーうん、今考えると完全にコネですｗｗ
在る日突然、離れて暮らしていた親父に呼び出されて、
なんだかんだ在ったあげく、今の職場に就職する事になってた
ちなみにその時の親父は今の職場のＴＯＰだった
けど、ここんとこの大不況でリストラされて、今は音信不通
書いてて親父がリストラされたの自業自得じゃねって思えてきたｗｗ

23 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
リストラされた親父には同情の余地なしだな
あとコネで入った≫１も辞めるべきだろJK
つーか俺に仕事をくれｗ

24 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
上級国際公務員だったのに
あっさり首を切られた俺から言わせて貰うぜ
シねばいいのに……

25 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
俺なんて掛け持ちしてた三つの職場全部から切られたんだぜ……

26 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
不況で解散した主要企業合同プロジェクトのリーダーだった俺が通りますよ

27 名前： 1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
あー不況の波は酷かったからねぇ、自分も一時期公園に住んでたよ
あと、ウチんトコって、急な呼び出しとかがあるんで、一応衣食住は保障されてるけど、
一番下っ端の給料は子供の小遣い並だよ？
正確には給料の額面とは別に、使う金額が制限されてる感じ
将来的には残りの溜め込んだ分は貰えるらしい
それって羨ましいの？

28 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっ、なんというブラック企業ｗｗ

29 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
どうみても詐欺にあってるなｗｗ
ホントに国連の下位組織なのか怪しいぞ

30 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
≫１の話がマジなら国連がこの不況で死にそうだって話は本当かもなｗ

31 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
一応の衣食住が保障されているのに公園に住む破目になった件について

32 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
む？確かにそれはおかしいな

33 名前：  1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
あーうん、それも不況の影響なんだ。
リストラと同時に福利厚生もバッサリって感じで
それまで住んでたトコから手荷物だけで追い出されたｗｗ
今は持ち直したのか前と同じくらいの部屋を割り振って貰ってるけど
というか、自分の事はおいといて、同僚にどう接したら良いのかな？
おしえてエライ人！

34 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
残念、ここにはエロイ人しか居ません

35 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
同僚のスペックは？男？女？

36 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
そんなことより、野球しようぜ！

37 名前：  1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
スペック？仕事は出来るかな？
ネコを被るのは上手いけど、人当たりは正直いまいちかも？
前に一緒だった時は、精神的にちょっと追い詰められたりしてたけど
全般的に、自分よりかなり優秀なのは間違いない

38 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
出来過ぎ君の憂鬱か……

39 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっちゃけ、≫１は同僚よりも自分の職を心配するべきだろ

40 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
で、男？女？

41 名前：  1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
一応は同僚と同じに自分にも特殊スキルはあるんで、
二人とも早々簡単に首にはならないと思われる
まあ、住んでたトコは一度追い出されたけどｗ
あと、同僚は女だよ

42 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
……女、だと？！

43 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
メンヘラ女ｗｗｗ

44 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
じゃあ、≫１がやるべき事はきまってるじゃねえか！

45 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっかけｗｗｗ

46 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
確かに、ぶっかけしかないｗ

47 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっかけ、一拓でｗ

48 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
そんなことより、ぶっかけしようぜ！

49 名前： 名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
行け！ピカ●ュウ！ぶっかけだ！

50 名前：  1  投稿日： 15/XX/XX XX:XX ID:???
ぶっかけ……か
おｋ、チャーハン作ってくる！

そんな書き込みを最後にスレッドを閉じ、

本当にお腹が減ってきたので、チャーハンを作る事にした。

何時もよりも奮発してカニ缶を使ってみたカニチャーハンは、

我ながら良い出来だったので、ハフハフしながら全部平らげた。

もちろん、ぶっかけたりはしない。

勿体無いお化けが出て来ても困るしね、おもてなしの仕方が解らない的に。

まあ、白濁的な意味でのぶっかけなら、前の時のアスカにしちゃったんだよね。

いやー、あの頃は僕も若かった。

初号機的に言うと認めたくない若さゆえの過ちって事かな？

正直その時の事をアスカが覚えているんなら、すぐにでも半殺しぐらいにはされそうな予感が……。

再会しても睨まれたぐらいで取敢えず無事に済んだって事は、アスカは覚えてないんだろうな。

前の時は、アレから色々と在ったからねぇ。

まあ、僕にしたら覚えてない方が在り難いんだけどね。

だって、アスカの戦闘能力って、桁違いなんだよね、生身だと。

一応、こっちに戻ってからミサトさんやリツコさんの指導で鍛えてきた僕だけど、

そんなの全く比較にならない程に、アスカの身体って鍛えられてるんだよね。

逆にそれなりに鍛えたからこそ、二人の間にある差がありありと解ってしまう位だったり。

やっぱ鍛えてきた経験値が違うのは大きいよね。

まあ、エヴァに乗ればアスカにも負けないけどね？

僕はともかく、初号機が強いから。

あくまで他力本願なのが、僕らしいところだと自負してる

そんな事を考えながら、親が死んでも食休みーと横になっていて、気が付いたら朝だった。

何時の間にか寝ちゃったらしい。

アスカとの再会でそれなりに気疲れとかしたのだろうか？

と首を傾げながらも朝のシャワーを浴びる事にした僕だった。

日課の早朝トレーニングというかランニングを終え、

もう一度シャワーで汗だけ流して軽く朝食を食べた僕は、

軽くチェロの練習をした後、何時もの通りに重役出勤でネルフに向かう事になる。

当然だけど、ゆりえ先輩にもらった招き猫に今日の無事を祈るのも忘れない。

すごくご利益が在りそうなんだよね、僕の思い込みだろうけど。

そして今、心の片隅に少々引っかかっているのは、昨日再会したアスカの事だ。

昨晩、あんなスレを立ててしまった以上、何となく顔を会わせ辛い様なそんな気がしたからだ。

あと２，３日は顔を合わせずに居たいな、とか考えてたり。

ところが現実はそうも上手くは行かないわけで。

トレーニングルームでばったりアスカと出会ってしまったのだ。

午前中のシンクロテストが流れた所為で時間が空いたという事で、

身体を軽く動かそう思ったんだけど、それは向こうも同じだったらしい。

「おはよう、アスカ」

「あ、うん、おはよう、シンジ」

内心のドキバクを誤魔化しつつ、何気ないように挨拶をする僕に、

アスカは少し驚いたあと普通に挨拶を返して来た。

一応昨日の時点でごく簡単な挨拶は交わしたけれど、

ぶっちゃけで言うと、社交辞令の範疇でしか話は出来てなかった。

僕はショックで上手く頭が回ってなかったし、アスカもアスカで思うところがあったのか、

きつい視線は投げかけてきたけれど、昨日はあまり話しかけては来なかった。

それこそ、アスカが巻いている包帯の話をしたぐらいのものだ。

そもそも。リツコさんという第三者の手前、というのがお互いに遠慮した大きな原因だろうけど。

とそこまで考えて今の発言が少し拙い事に気が付いた。

ここがネルフだった時程の監視を受けているとは思えないけど、

こうした何気ない会話でも記録されて可能性が無い訳じゃ無い。

まあ、前にも色々と拙い発言はしてる気もするし今さらだけどね。

とは言え何事にもフォローは必要なわけで。

「あ、その、ゴメン。惣流って呼んだ方が良かったかな？」

軽く頭を下げつつアスカの方をチラリと見ると、アスカは目だけで頷いて口を開く。

「アタシは気にして無いわ、シンジ。

　アタシもファーストネームで呼ばせてもらうし、お相子でしょ？」

視線の意味を理解してくれたのか、僕の問いかけに合わせたように答えて来るアスカ。

頭の回転の速さは相変わらずで、前の時の追い詰められた時のアスカとは今は違うんだって素直に思えた。

「同じチルドレン同士、これからは仲好くってことで良いかな？」

「命令があればそうするわ」

腕を組んだまま、差しだした僕の右手をちらりと眺めながらアスカがそう返して来る。

うん、それ違うから。

それ、綾波の台詞だから。

とその辺はアスカも解ってるのか、その口元には笑みが浮かんでいた。

「冗談よ、冗談」

言いながら改めて僕の差し出した左手に、アスカが自分の左手を重ねてくる。

綾波と違ってＬＣＬには還らず、アスカの包帯の巻いてない左手の感触は暖かく柔らかなものだった。

そのまま一応の初対面という状況から、

さらに友好を深めるという意味合いで、きっちり握手をしてくれるのは良いんだけど、

そんなに力強く握る必要な無いんじゃないかなと思う。

まあ、僕もやられっぱなしは癪なんで、思いっ切り握り返してみたけどね。

そうした結果として、互いに痛い左手を我慢しながら午前中のトレーニングをする事に。

当然、痛くない振りは僕もアスカも止めなかったけどね。

そして、午後からはアスカとは別行動を取る事になった僕。

アスカはＣＡＴ本部で調整をした弐号機のシンクロテスト。

旧ネルフのドイツ支部の時のデータと比較しながらベストのチューニングを探すという事らしい。

ドイツ支部よりこっちの方が、エヴァの調整術には長けているというのが、アスカの前の時からの意見だった。

まあ、そんなものか、とか思いながら僕は端末を前にして学校代わりの勉強をする事に。

ネルフが倒産して以降端末が碌に使えなかったことも在り、勉強は正直遅れ気味だったからだ。

前にも習った事だとは思うんだけど、残念ながらあまり覚えてないのが現状だったりする。

前の時はネルフの用事で学校にはあんまり行ってなかった気もするし、

内容が頭に残ってないのも仕方が無いのかもしれない。

更に最近は不況の所為で、勉強してる時間よりも、その分チェロを弾いて日銭を稼ぐってのがやっとだったからね。

まあそんな事は、この前市内の学校と同じ内容で行われたらしいテストが、

まったく出来なかった事に対するいい訳にすぎないんだけどね。

うん、正直これまで自主学習の勉強では手を抜いてたんだよ。

だって学校みたいにテストをするとは全く思ってなかったからね。

追試の結果如何では、今更学校に通わされるようになる可能性も……。

それはそれで在りだと、今更ながら思うんだけどね。

なんかさ、学校に行って皆と会うだけでも、若いパワーを吸収できそうな気がするんだよね。

旧ネルフの時はまだしも、今は僕の周りには僕ぐらいの若い人ってアスカ以外に居ないんだよね。

若い方なのが司令部に居るマヤさん達で、正確には知らないけど２０台前半ぐらいだよね？

で、ＣＡＴとなってからは更に平均年齢が上がって、多分平均３０台半ばぐらいなんな無いかな？

これはＣＡＴの方針らしいんだけど、つぶしが効く若い人よりも、

或る程度の熟練度のある技術を持った人たちを中心に採用をしてるから。

後継者の育成をあまり考えて無いのか、今直ぐに使える人たちを集めてるみたい。

だからいわゆる脂ののった中年層を狙い撃ちしてるって事らしい。

まあ例外的に僕と同年代に綾波が居るけど、

綾波も色々と規格外で、精神的には老成してる感じだからね。

中学生にありがちな若いパワーを持って無さそうなんだよね。

まあ、単なる思い込みなんだけど、的を得ているとも思ってるんだよね。

あ、そういえば、ゆりえ先輩は僕と同じに神様なのに中学生っぽいよね？

若々しさを保つなにか秘訣とかあるのかな？

今度、会ったら聞いてみよう。

そんな事を考えながらも、僕はしぶしぶ端末で勉強に励んだのだった。

ＣＡＴにとってアスカが日本に来た事は渡りに船だった。

何故なら今現時点において、初号機が凍結されているからだ。

チルドレン無しかつ電源も切れたような状態。

にもかかわらず初号機が動き出したとあっては、無期限の凍結処分も当たり前の措置だと思う。

動き出した原因を突き止めるまでは、基本的には凍結されたままにするらしい。

なので最近はシンクロテストすらやってないような状態だ。

僕がＣＡＴに行った日は、一通りの予定を終らせた後に、必ずケージに顔を出すようにしてるんだけど、

シンジさんチョリースっと挨拶してくれる初号機は、いつもヒマそうだった。

唯一の楽しみは、マギを通じてネットの世界にたゆたう事だとかなんとか。

その所為なのか、最近の初号機の発言が、さらに訳の解らないものになっていたりするけどね。

この前なんて、どうやったら目からビ−ムが出せるのか真剣に悩んでたし。

その前の、ウメハラ的にハドウケンってどうやって出すんですか？

と聞かれた時には、ＡＴフィールドの応用で何とか出来るんじゃない？と適当に返事をしておいた。

そもそも、ウメハラが誰なのか？僕にはさっぱり解らなかったけどね。

多分だけど日本人だよね？ネットの世界での有名人なのかな？

ひょっとしたら、ハドウ剣っていう剣術使いの人かも？

まあ、どうでもいいんだけどね。

ヒマそうな初号機は勿論弐号機の使徒戦の映像もチェックしていた。

ＡＴフィールドを投擲して使徒を倒した弐号機に、その発想はなかった、って感想を洩らしてたね。

確かに応用によっては波動拳は無理でもソニブなら……とかなんとかぶつぶつ言ってたなぁ。

まあ、色々考えてくれて、初号機が自ら強くなるのはいいことだと思う。

僕が何もしなくても良いトコロが、特に。

あ、別に僕自身は向上心が無い訳じゃ無いよ？

やれる事はやろうと思うし、訓練だって真剣に取り組んでる。

どっちかって言うとチェロの練習の方が優先だけどね。

勿論、体力的な意味での訓練は、チェロにとっても無駄じゃないから凄く真面目にやってるよ。

けど正直僕がスキルアップするよりも、初号機がスキルアップする方が、より効果的なんだよね。

所詮僕の仕事はエントリープラグ内のシートに座って、初号機が戦えるように力を貸すだけ。

コレまでの使徒との戦闘だって、実際の行動は全部初号機まかせだったしね。

どうせやるなら、効率的にって考えるのがヒトとして正しい姿だと僕は思うんだ。

まあ、僕は人じゃ無くなったみたいだけどね。

人じゃないといえば、初号機が弁天様から貰ったうちわなんだけど、

お取り寄せで買ってきた立派な神棚をケージに取り付けてもらい、

うちわをご神体として初号機にも見える形で祀っている。

祀られたご神体がうちわな所為か、手を合わせるのは僕くらい。

普通の人に見えないヒト達は、よく手を合わせてるんだけどね。

そういえば、弐号機が搬入されて以降、見慣れない見えないヒトも見かけるようになったね。

見えない方の綾波に紹介してもらって、こんど話をしてみようかな？

とかそんな事を思いながら僕はケージを後にしたのだった。

んで、そんなこんなで、初号機に乗らない訓練ばかりの日々を繰り返すこと４週間目。

初号機の凍結処理が解除されないまま、次の使徒が現れた。

ＣＡＴは海からやってくる使徒に対し、水際で叩く作戦を擁立。

上位団体である国連議会の許可を取ってから、海岸線で使徒を撃退する事に。

二週間前に起動に成功した零号機の綾波をバックアップにし、

フロントアタッカーは弐号機のアスカが受け持つ布陣だった。

凍結された初号機と僕は、本部でお留守番だ。

エントリープラグの中には僕が入るけど、

初号機にエントリープラグは差し込まれないまま、

という何とも中途半端な状態での待機だった。

それでもある程度の情報は共有させてもらえるようで、

エントリープラグ内には生中継の戦闘映像が映し出される事になった。

この状態だと初号機と話が出来ないんで、僕はヒマなんだけどね

そうして、現場から本部に届けられる映像が目の前で流れて、

ザバザバと波を掻き分け姿を表した使徒の姿に、前の時のこの使徒の特徴を思い出した。

そう、この使徒分裂する奴だ。

前の時は、アスカと二人掛りで倒したっけ。

倒した後の着地は失敗して、そのまま口論になったっけなー。

とかそんな事を僕が思い出している間にも、使徒殲滅作戦は開始された。

弐号機が使徒へと吶喊、その勢いのままに飛び上がり、上空からソニックグレイブで使徒をあっさりと両断する。

真っ二つにされながらも、前と同じ様に左右それぞれでコアを頒ち身体の再生を始める使徒。

弐号機は振り下ろしたソニックグレイブから手を離し、左右に広げたそれぞれの手にＡＴフィールドを展開。

そして使徒の身体の再生が終了し動き出す直前に、

左右のＡＴフィールドを刃に見立てて振るい、２体に別れた使徒のコアを同時に切断する。

２分割から４分割へ断ち切られた使徒が再生する事は無く、

そのままずるりと崩れ落ち、弐号機が距離を取ったその直後、

轟音と供に二つの光の柱となって消滅した。

零号機のフォローすら要らない、弐号機のワンマンショーだった。

その後のリツコさんの作戦終了の言葉をもって戦闘態勢は解除され、

緊張に包まれていた司令部では、皆が安堵のため息をもらす。

僕自身はＬＣＬに濡れる事すら無く戦闘が終ったけど、たまにはこう云うのも良いと思う。

正直、ＬＣＬって変な味だし、肺の奥にまで入ったのを吐き出すのは結構苦しいんだよね。

エントリープラグからケージに降り立ち、初号機にお疲れさまと声をかけた。

肝心の初号機は軽く挨拶を返してくれた後、

今日の弐号機の戦いに何か思う事が在ったのか、そのまま考え込んでしまう。

そんな初号機の思考の邪魔をするのも弊いので、僕はシャワーを浴びてささっと帰る事にした。

とは言え出張っていた綾波やアスカをスルーして帰るのは気が引けたので、

取敢えず二人が帰ってくるまでは施設内に残ってた。

サラリ−マンが付き合いでするサービス残業って、こんな感じかな？とか思いながら。

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