時空管理局に所属する次元空間航行艦船アースラは、とある世界を目指し航行中であった。
事の起こりは最近になって発掘されたロストロギア、『ジュエルシー ド』だ。
発掘現場から本国へジュエルシードを輸送していた船が、不意の事故で大破。
積荷であったジュエルシードを、事も在ろうに管理外異世界へとばら撒いてしまったのだ。
事がロストロギアの事だけに、その事故の調査及び事後処理に当たる事になったアースラは探査を開始。
そして、ジュエルシードが撒かれた管理外異世界に、大小二つの奇妙なパターン時空振を感知した。
それはつまり、次元犯罪の可能性の示唆にほかならない。
よって、アースラは優先順位を変えることになる。
当初の予定とは違い、事故の調査を後続に任せて、自らはその管理外異 世界へと向かう事になったのだ。
そして、アースラから先行する形で放たれた探査機は、
管理外異世界ではあるはずの無い魔法戦の残滓を感知する、という予想外の結果をアースラに届けてくる。
次元犯罪の疑念が深まる中、アースラの艦長リンディ・ハラオウンは、
アースラにおける最大の戦力たるクロノ・ハラオウンの出撃を決意した。
MAHO−中年りりかるHOKUSHIN
「三度目の出会いは必然にも似て、なの?」
作者 くま
両膝を地に着き、北辰はうなだれていた。
その様はまさにorzな感じであった。
その横に立つ夜天光はその北辰を慰める様に、そのうなだれた頭をその小さな手で撫でている。
その北辰の前に在るのは何かの残骸。
木で作られた何かが叩き割られ、幾つもの破片に成り果てていた。
そこに在る、いや、在ったのは今朝方完成したばかりの北辰達の仮住まいだった。
鍛え上げたサバイバルスキルを遺憾なく発揮し、
小屋がけ禁止の公園内で、傍目にはそこにまるで解らぬように作り上げられたのは、
完璧なカモフラージュを施された広さ2畳ほどの小さな小屋。
材料集めの段階から都合三日かけて作られたそれは、
徹夜作業の内装も今朝の6時頃に終り、ようやく完成を向かえたはずだった。
北辰と夜天光はその喜びの余りにその場で万歳三唱をするという、
普段には決してせぬであろう行動すらとった処であった。
それが今や、ただの残骸に成り果てている。
「くくくく」
落ち込んでいたはずの北辰の口から笑い声が漏れる。
ゆらりと立ち上がる北辰の顔には笑みが浮かび、しかしながら放つ雰囲気は怒りそのものだった。
そして、その怒気の篭った視線は破壊の原因へと向けられる。
そう、ジュエルシードを取り込み暴れまわる一本の樹木に。
そして北辰が注視するその木に突き刺さるのは、桃色と金色の二条の光。
暴れていた樹木は沈静化し、その暴走の原因となったジュエルシードが中空に浮かぶ。
さらにそのジュエルシードをめぐり、黒と白の衣装を纏った二人の少女が対峙し始める。
先日も目にしたのと同様の光景を目に、北辰は重々しく口をひらく。
「決めたぞ、夜天。我はジュエルシードを収集する」
その視線は、中空に浮かぶジュエルシードへと向けられている。
「夜天、主は全てを喰らい尽くし、その力を己がモノとせよ」
「うん、解ったよ。ほっくんがそう言うんなら、そうするね」
怒りに燃えた北辰の重々しい口調とは対照的に、ぺかぺかと笑みを浮かべて軽々しい口調で答える夜天光。
その夜天光の様子に北辰も一抹の不安を覚えなくも無かったが、
それが何時もの夜天光である事に思い至り、あえて咎めるような事はしなかった。
逆に自分が何時もよりも感情的になりすぎている事を感じ、
大きく息を吐いて思考をクールダウンし、北辰は己を戒める。
感情を心の奥底に押し込め、外道たる己が如何に行動すべきかを思考する北辰。
そして、即座にその答えを導き出し、北辰は行動を開始する。
「行くぞ、夜天」
「うん!」
鞘に入ったままの小刀を手に北辰は告げ、夜天光は錫杖を取り出してそれに応える。
目指すは二人が争っている中央にあるジュエルシード。
そして、北辰達は仮住まいを建てた植え込みの中から一気に加速した。
「そこまでだ!!」
デバイスを振りかぶり今にも激突せんとしていた二人、なのはとフェイトの間に割り込む存在があった。
黒いバリアジャケット身に纏った一人の少年。
次元空間航行艦船アースラから先行する形でこの世界へと送られた執務官、クロノ・ハラオウンだった。
「時空管理局『執務官』クロノ・ハラオウンだ。
直ちに戦闘を停止し、こちらの指示に従う事を要請する」
乱入者であるクロノに純粋に驚き、手を止めてしまうなのは。
他方のフェイトは時空管理局と言う言葉に反応し、やはりその手を止めていた。
そして間に入ったクロノに押し返されるようにして、なのはとフェイトは自然とその距離を開けた。
油断無く二人の魔導師へと視線を投げかけるクロノ。
そしてその両者の激突の原因ジュエルシードに目線を振った瞬間。
その方向から飛来した何かをクロノは感知し、手にした杖で高速で迫った楔形のそれを叩き落した。
「あれ?避けられちゃった」
その様子にそんな言葉を漏らしたのは、二人の魔導師とは別に居た、赤い衣装の少女夜天光だった。
「まあいいや」
が夜天光は、投げたクナイが外れた事など気にする素振りも見せない。
そのまま中空に浮くジュエルシードを無造作に掴み、ポイと己の口の中に放り込む。
そのままボリボリとジュエルシードを噛み砕き、ゴクンと咽を鳴らしてジュエルシードを飲み込んでしまう。
「「あー!!」」
何が行われたのか認識できずに固まったクロノとは異なり、二人の少女は揃って声を上げる。
その声に少し驚いた夜天光は、さっと身を翻しその場から逃げ出した。
無論、夜天光が向かうその先には、
長時間の飛行能力が無いために地上で待っているしかなかった北辰の姿があった。
そして夜天光を追いかける形で地上に降り、なのは達は北辰達と再び対峙する事になる。
己が愛杖バルディッシュを構えたフェイトと牙をむくアルフ。
そして、なのはもまた戸惑いながらもレイジングハートを構える。
「ふむ、先日の小娘か…。して、今日は何用だ?」
「…ジュエルシードを渡してください」
からかうように唇をゆがめる北辰に向け、フェイトはただ静かにそう告げる。
が、バルディッシュを握るフェイトの手には自然と力が入り、今にも北辰達に襲い掛からんばかりだった。
「無理だな、無い袖は振れぬよ。
それに、貴様の様な小娘の言う事を、我が素直に聞くとでも?」
ニタリ。
笑みを浮かべて告げる北辰。
その態度に激昂しかかるアルフを押さえ、それでもフェイトは平静に続けようとする。
「持っていないものは仕方がありません。ですが、遅まきながら理解させて貰いました。
貴方達は私達の脅威になる。今のうちに排除させて」
ガキィン!
が、フェイトの言葉は最後まで続けられなかった。
その言葉を遮ったのは一本のクナイ。
夜天光が音も無く投擲したソレは、フェイトの眼前に展開されたシールドによって防がれていた。
「ちぇー、また外れた」
「この程度の不意打ちならば防ぐか…、やはり面白いものよ」
むーとむくれる様子の夜天光とは対照的に、感じた愉悦からか唇をゆがめて見せる北辰。
ぎりりと歯を食いしばるフェイトとの間に更に緊張が走る。
バルディッシュを握り締めるフェイトがそうして即座に襲撃できずにいるのは、
先日のアルフが一交差で吹き飛ばされた姿が脳裏に焼きついているからだろうか。
高まる緊張感を明らかに楽しんでいる北辰とは違い、フェイトにはその表情に余裕が見られない。
対峙しているだけにも関らず追い詰められている。
苦々しいその事実を前にしたフェイトはその眉間の皺を深くする。
何かのきっかけを…。
そう求めたフェイトに味方したのは、皮肉にも明らかに敵対関係となるであろう管理局の人間だった。
「そこまでだ!」
先ほどと同じ様にその対峙に割り込んで来たのは、管理局の執務官であるクロノ=ハウラオンだった。
だがそのクロノを一瞥した北辰は、夜天光に短く命令を下す。
「小僧を潰せ、口はきける程度にな」
「うん!」
何を言っている?とクロノが誰何する間も無く、夜天光はクロノへと突進する。
「ちぇーい!」
気の抜けるような掛け声とは裏腹に、振るわれた蹴りはガードをあげたクロノを易々と弾き飛ばした。
そのまま追撃に移る夜天光を何とか受け流すクロノ。
だがそのパワーを前に、反撃の糸口すら掴めない。
直にけりもつくだろう。
夜天光の責め具合を一瞥し、北辰は対峙していたフェイトの方へと向き直る。
「少々邪魔が入ったが…行くぞ」
静かに北辰が告げる。
そして言葉の終りを待たずに、北辰の身体が加速状態に入った。
早い!
フェイトがソレを感じた瞬間には北辰の振るう刃が既にその身に迫っていた。
フェイトを庇うようにその間に割り込んだはずのアルフを独特の歩方だけですり抜け、
誰に止められるでもなくフェイトへと迫る北辰。
プロテクション。
だが、その振るわれた刃はフェイトの身体へとは届かない。
己の主の危機に反応したバルディッシュが展開する防御魔法、
それが振るわれた北辰の刃を寸での所で押し止めていた。
「ぬるい!」
が、北辰はそれを気にせず、刃をフェイトへと押し込む。
金属同士が削れる音を立て、遂にはその役目を果たさなくなる防御魔法。
が、稼いだ僅かな時間で、北辰の刃の軌道からフェイトは己の身を退避させる事に成功していた。
「GAAAA!!」
そして、攻撃を終えた僅かな隙を突き、大きく吼えたアルフが北辰へと襲い掛かる。
大きく開いたその顎は北辰の左腕をがっちりと捉えていた。
このまま食いちぎってやる。
その顎に力を込めるアルフであったが、その攻撃の効果が現れることは無かった。
「鉄の腕はさぞかし美味であろうな」
腕をアルフに噛み付かせたままニヤリと笑みを浮かべる北辰。
全身を半ば機械化している北辰のその腕は、もちろん生身のものではなかったのだ。
ゾクリ。
背中を走るその感覚にアルフは噛んでいた北辰の腕を放し、全力で後ろへ跳躍する。
が、その跳躍を持ってしても、無拍子に放たれた北辰の蹴りを完全に回避する事は叶わなかった。
「ギャン」
脇腹を抉る蹴りに悲鳴を上げるアルフ。
直撃こそ免れたが、その蹴りは軽く撫でる様な接触でも相応のダメージをアルフ与えていた。
その蹴りを受けてしまった場所もまた悪かった。
先日の夜天光との交錯でダメージを受け、今だ回復しきっていない場所だったからだ。
それでも痛みを堪え空中で体勢を整えると、主であるフェイトの傍に着地するアルフ。
(大丈夫、アルフ?)
(ゴメン、ちょっとミスった。今は戦力になれそうにない…)
(…解った、隙を見て撤退する)
(ゴメンよ、フェイト…)
念話での会話を元に、対峙したままじりじりと距離を広げに掛かるフェイトとアルフ。
北辰はその思惑を見抜いてか、ゆっくりと、しかし大股にフェイト達と間合いを詰める。
隙を見出せず、逆に詰まっていく間合いに焦るフェイト。
そのフェイトに助け舟を出す形で割り込んだ声があった。
「止めてください、北辰さん。どうしてこんな事を…」
それは杖を構えたなのはの、少し震える声だった。
「高町か…。が、無駄」
北辰がなのはへと意識を逸らした瞬間、フェイトは一気にその場を離脱にかかった。
だがそれは北辰の言葉の通りに無駄な行動となる。
打ち出された北進の右手が飛び去ろうとしたフェイトの足を掴み、
右手と繋がっているワイヤーが巻き戻される事でフェイトの身体を一気に地面に引きずり倒したからだ。
成す術もなく地に叩き付けられるフェイト。
何とか起き上がろうとするフェイトのバルディッシュを蹴り飛ばし、
逆に引きずり起こしつつその細い腕を極める北辰。
フェイトはまるで叶わぬ北辰の力を前に、身をよじる程度の抵抗しか出来無い。
しかも、その身じろぎすらフェイトにとっては苦痛をもたらす事にしかならず、
その整った顔に苦悶の表情を浮かべるという結果しか導き出せなかった。
「ふむ、そう言えば、未だ高町の問いには答えておらなんだな。
少々事情が変わったのだ。今の我はジュエルシードとやらに怨嗟をもつ身。
それ故にその存在を消滅させる事にしたのよ」
ギリギリと、極めているフェイトの腕に力を込めていく北辰。
もたらされる苦痛に、よりいっそう表情をゆがめるフェイト。
「犬、貴様らが所有するジュエルシードを差し出せ。さもなくば…」
フェイトを人質に取られ動けないアルフに向けた北辰の言葉。
く、と歯噛みを漏らしアルフは獣型から人型へと変化する。
そして北辰に弾き飛ばされたフェイトの杖、バルディッシュを手に取った。
「止めて、アルフ、ジュエルシードを渡しちゃ…あぐっ」
続けられたフェイトの声は、途中で苦痛を訴えるものへと変わる。
その原因は、北辰が腕を極める力を強めたからに他ならない。
「そろそろ折れるが、構わぬのだな?」
優先すべきは主人の命令か、主人の身体か。
戸惑い動けなくなったアルフ。
フェイトの使い魔であり、フェイトよりも幼い精神をした彼女には、圧倒的に経験が足りてなかった。
それ故に非情な北辰を相手に迷い、何も行動できずいた。
「私のジュエルシードを差し出します。
だからその娘に、フェイトちゃんに非道いことしないでください」
そこで再び割り込んだのは、なのはの声だった。
その手には言葉通りにジュエルシードが一つ乗っており、その手は北辰へ向けて差し出されていた。
「ふむ高町か…。どういうつもりかは知らぬが、それも良いだろう」
ギリギリと腕を極める力を緩める事無く、北辰がフェイトの身体ごとなのはの方へと振り返る。
「高町、先ずはそれを地面に置け。この娘を解放するのは、それからだ」
苦悶の表情浮かべるフェイトの目の前に、なのはは慌ててジュエルシードを地面に置き、
その場から少し下がって北辰の行動を待つ。
「仇敵に助けられて満足か?
否、憎かろう、悔しかろう、だが、其れが今の貴様の限界よ。
せいぜい次の機会がある事を、高町に感謝するがいい」
フェイトの腕を極めたまま、その耳元で語られる言葉。
バチッと弾ける様な音がその言葉に続く。
そしてフェイトの身体が一瞬跳ね、そのまま力を失った。
「暴れられても煩いのでな、気絶させただけだ。
では、約束どおりに小娘は解放しよう」
気絶したフェイトを持ち替えて抱え、そのままアルフの方へと軽々と放り投げる北辰。
両腕でフェイト受け止めたアルフだったが、その敵意を込めた眼差しは北辰を捕らえて離さない。
だが、今は抵抗する事自体が最悪の結果を招くと承知してか、
そのまま北辰達から距離を取り一気に離脱して行く。
先ほどとは違い、それを悠然と見送る北辰。
おもむろになのはが置いたジュエルシードを手に取り、それを放り投げる。
「夜天光」
その呼びかけに答え、反応をしたのは当然にして夜天光だった。
夜天光の手でズタボロになったクロノを放り出し、投げられたソレを空中でパクリと喰らい付く。
くるりと身を拈りながら着地を決め、口にしたジュエルシードをボリボリと噛み砕き、ゴクンと飲み込んだ。
そして何やらひとつ頷くと、ズタボロのクロノを小脇に抱えあげ、北辰の元へと歩み寄る。
そんな夜天光が何を期待しているのか良く理解している北辰は、
その頭に手を伸ばしぐりぐりとと撫で回しはじめる。
そのおさげが、喜びに尻尾を振る犬のようにパタパタと揺れていたのは、別になのはの目の錯覚ではなかった。
「ねーほっくん、やーもなのちゃんみたいなのをやりたいな」
ひとしきり撫でられて満足した夜天光は、唐突になのは達を指差してそんな事を口にする。
それが何を指すのか解らなかった北辰ではあったが、
今日だけで二つのジュエルシードを確保した事もあり、うむ、と鷹揚に頷く事で夜天光に許可をだした。
もちろん、唐突に指をさされ、自分みたいなのをやりたいと言われたなのはは、
何が如何なのか解るはずもなく戸惑っている。
「じゃあ行くね、せーっとあーっぷ!」
掛け声と供に北辰に抱きついた夜天光。
その身体が赤い光に包まれ、そして光の粒子へと変化していく。
その光の粒子は北辰を覆い、そして北辰の全身を包む光が弾けた。
『まほーちゅーねん!りりかるほっくん、見参!』
夜天光の声と供に炸けた光の中から姿を現したのは、なのはのものと酷似した衣装を身に纏った北辰だった。
サイズこそ違えど白地に青を基調としたスカート姿なのは言うまでもなく、
ご丁寧にリボンでまとめられて頭の両サイドで揺れるおさげ髪と、
(流石ににおさげ髪はとって付けたようなものであったが)
その特徴的な胸元の大きなリボンすらも再現されていた。
違いと言えば北辰がレイジングハートに掃相当する杖を持っておらず、
その代わりに一製造えの刀を手にしている処だろうか。
そしてその姿を前に、ショックで言葉を失うなのは。
よろよろとふらつき、遂にはぺたんと地面に座り込んでしまう。
「夜天光、これは?」
己の姿の変貌に北辰も疑問の声を上げる。
『なのちゃんたちがやってる、ばりあじゃけっとっていうものだよ。
なんかこう、一体感?がうらやましかったからやってみたのー。結構良い感じだよね』
響く夜天光の声に、軽く身体を動かして確認をする北辰。
それほど違和感を感じなかったのか、うむと一つ頷いた。
「確かに悪くは無い。が…何故に我のパーソナルカラーの赤ではないのだ?」
『…あ。なのちゃんのを参考にしたから白になっちゃったみたい。ごめんね、すぐに色は変えるね』
再び響く夜天光の声を域に、北辰の纏うバリアジャケットに変化が現れる。
白の部分は赤に、そして青の部分が銀へと変わっていく。
全身のすべての色が変わり、赤を基調とした様相になった北辰。
それを確認して、今度こそ北辰は満足気に頷いた。
「ん?そういえば高町は何故そこで座り込んでいるのだ?」
今更ながらに座り込んでしまったなのはに気が付き、そんな言葉をなのはにかける。
なのははレイジングハートを片手に立ち上がり、北辰へと向き直る。
「ま、まあ、私の真似をしてバリアジャケットを創ったのは良いとしてもですね…。
北辰さん、なんでスカート姿なんですか!」
顔を真っ赤にして、結構大きな声で告げるなのは。
北辰はそれに対して、不敵に嗤ってみせる。
「何を言っているのだ高町? これはこの世界の戦闘装束であろう?
郷に入っては郷に従えと昔から言うではないか。まあ多少下半身が心許なくもあるが…」
手でひらひらとスカートを翻しながら告げる北辰。
ちらりと見えるすね毛の生えた足に、なのはは顔を引きつらせて声を失った。
くるりとその場で回って、スカートをさらに翻して見せる北辰。
そこからチラリと見えた何やら赤いものを、なのはは見なかった事にした。
「ふむ、割と涼しいものなのだな」
そんな感想を漏らす北辰に、なのはは強く握り締めたレイジングハートを向けようとし…。
そのレイジングハートに行動を咎められた。
そして事もあろうに、レイジングハートはなのはに即時撤退を提案してくる。
何故?というなのはの疑問に、レイジングハートはこう答える。
彼女がまだ本性を露わさずに遊んでいる内に逃げるべきだ、と。
その言葉に戸惑いつつも、なのはは結論を下す。
「ま、まず、私のこの格好は私用のバリアジャケットを創ったのであって、標準的なものじゃないんです。
そこの男の子だって、私とは違う格好してるから、解りますよね?」
北辰の足元にあるズタボロのクロノを指差し、告げるなのは。
が、あまりにボロボロになったクロノの姿を見ても、北辰は首を傾げるばかり。
「と、とにかく、その格好は恥ずかしいものだって事は自覚してくださいね。
多分、私が何を言っても無駄だと思いますから今日は帰りますけど、
次までには夜天光ちゃんと相談して、ちゃんとした格好をしてくださいね」
見ている方が恥ずかしい、とばかりにやや頬を染めながら、
なのはは北辰にレイジングハートを付きつけてそう告げる。
「…善処はしよう」
対する北辰はやや不満顔でなのはにそう返す。
内心ではこの格好を気に入っていたが故の態度であるのだが、
なのはに其れを見抜けるほどの人生経験はなかった。
次に会う時はあんな格好はしていないだろう。
一方的にそう思い込む事で心の平穏を保ち、その言葉の通りに北辰たちへ背を向けて歩き出すなのは。
その背を見送りながら北辰は夜天光に問いかける。
「夜天光、我のこのばりあじぇけっとはそんなに変なのか?」
『ううん。ほっくんにばっちり似合ってるよ』
顔を羞恥に染めつつになりつつ投げかけられたなのはの言葉が気になったのか、
少し声の調子を落とした北辰からの問いかけに、夜天光はいつもの調子で即答する。
『えっと、何ていうか、変態っぽいところがほっくんらしくて最高だと思うよ』
なぜか嬉しそうに続けられる夜天光の弾んだ言葉。
「…そ、そうか」
北辰は顔を引きつらせながら、そう答えるしか出来ない。
ひょっとして最近随分と毒されているのか?
そんな思いをその時の北辰は秘めていたとかいないとか。
ニコニコ顔の夜天光、それとは対照的に引きつった笑みを浮かべる北辰。
いつの間にか結界も解除された公園で奇妙な沈黙が満ちる中、
ぼろぼろになったクロノだけがうめき声を上げていた。
つづく?