それはシロガネタケルに残る記憶の内でも、
最も古いものとして分類される記憶だった。
因果導体から開放され、
誰の記憶に留まる事も無く、
あとは消え行くのみ。
香月夕呼から聞かされた通りに、
タケルは己の身体が崩壊し、
光の粒子へと分解されていくのを感じていた。
柄にもなくしんみりとした香月夕呼と、
今にも泣き出しそうな社霞に見送られ、
それでも笑みを浮かべて、
シロガネタケルは消えて行く。
…はずだった。
何モノかが、
キエユク自分を、
そう、
哂いながら見ている事を認識するまでは。
確かに、ナニカが哂っていたのだ。
タケルが認識できたソレは、
何処にでも在って、
何処にでも無い、
昏く緋く燃ゆる、
焔にも似た、
三つの―――
MUVLUV ――マブしいヤツラ――
第1話
作者 くま
何時もの様に意識が覚醒して行く。
目覚めた時にたどり着く場所が何処なのか。
タケルはこれまでの幾度と無い繰り返しから理解していた。
やるべき事は既に決まっていた。
これまでも幾度と無くそうしてきたように、人類の敵であるBETAを倒し、
あいつ等が笑って死んで行ける世界を作る事。
決意を新たにタケルは目覚めに備える。
そして…
パン!パン!パン!
軽快なクラッカーの音が三つ続けて鳴り響いた。
自分に向けてばら撒かれた紙ふぶきを、タケルはただ黙って受け入れた。
オカシイ。
これまではこんな事は無かったはずだ。
疑問に眉を寄せるタケルは、目の前に居る神々しい輝きを放つ存在に目を向ける。
その存在は自分よりもかなり背の低い子供の様にタケルには思えた。
もちろん、タケルに神々しい輝きを放つ知り合いなど居ないし、
その正体にタケルが思い至るわけでもなかった。
「おめでとうございます!!」
「「「おめでとうございますー」」」
若いというよりも幼いというべき女性の声に続き、3つの異なる声が唱和する。
女性の声は目の前にいる神々しい輝きから発せられており、
残りの3つの声はその足元で鳴らされたクラッカーを持っている小さな人形のようなものの声だった。
小さいながらも生き物の様に動いているそれら。
モチーフは猪、鹿、蝶の様にタケルには思えた。
もちろんそれが判ったからと言って、今何が起きているかをタケルが理解できたわけではない。
「えっと、シロガネタケルさんはこれで丁度一万回目のやり直しになります。
ということで、神様協会ではこれを記念し、シロガネさんにがんばったで賞を贈る事にしました」
パチ!パチ!パチ!
足元の3体が拍手をする中、神々しい存在は、タケルの額に手にした何かを押し付けようとし、
届かなかったのでぴょんと飛び跳ねて、タケルの額にそれを押し付けた。
何故か避ける気にならなかったタケルはそれを甘んじて受け入れ、
その神々しい存在の手にスタンプが握られているのに気がついた。
表裏の反転はしていたものの、何とか読み取れたのは『がんばったで賞』の文字。
ひねりも無くそのまんまなのかよ!
と心の中で突っ込むタケル。
「それと、これは私からの副賞です」
神々しい存在はスタンプを足元の猪に預けると、オレンジ色のハンテンのような衣服の袖口から、
封筒を一通取り出して、それをタケルへと差し出す。
表に『がんばったで賞』の文字が書かれた封筒を、
思考がいまだままならないタケルは、ペコリと頭を下げつつ素直にそれを受け取った。
ひょっとしなくてもこの神々しい女の子?が神だったりするのだろうか?
上手く回らないタケルの頭はそんな事を考えていた。
「えっと、最後に神様協会からの伝言です。
このまま続けて行って繰り返しが百万回になると、
『百万回死んだタケルちゃん』として神様に成れます。
ですので、頑張ってくださいね」
何処をどう突っ込めと?
タケルはそんな事を思いながらも、改めて意識が急速に覚醒して行くの感じていた。
何時ものように自分の部屋で目覚めたタケルが、先ず感じたのは違和感だった。
あの神々しい存在によれば、今回は一万という記念すべき?数のやり直しらしい。
それが原因なのかは不明だが、繰り返す度に必ず感じていた喪失感を今回は感じなかったのだ。
これまでは、ある程度失われる事が多かった記憶が、全て在るようにタケルには思えた。
無論、一万回の内に起きた全てを覚えているかどうかを検証する術をタケルは持たず、
本当に全部を覚えているのかどうか?などは確かめようがなかった。
ただ、記憶が在ろうと無かろうと、タケルの為すべき事はやはり決まっていた。
人類の敵であるBETAを倒し、あいつ等が笑って死んで行ける世界を作る。
その思いを再確認したところで、自分が一通の封筒を持っている事に気がついた。
表に書かれた文字は『がんばったで賞』。
先ほどのあれは夢幻ではなかったのか。
そう感心しながらも、タケルは封筒の中身を確認する。
出て来たのは、封筒よりふた周りほど小さな紙が一枚。
超吉、と題打たれたお御籤らしきその紙片には、こう書かれていた。
『人間万事塞翁が馬。
たとえ望まなくても様々なモノがあなたの元を訪れます。
もちろん、No Welcome。
しかしながら、最終的には全てが上手く行って、オールオッケイです。
探し物は見つかり、待ち人はすぐ来て、健康は問題なく、恋愛は怒涛のごとく、金運はばっちりです。
ただ、初心貫徹は心がけましょう』
突拍子もないその内容に、眉を寄せるタケルであったが、
結局は幸先が良いという事だと思い直し、
待ち受けているであろう現状を、
そう人類の危機を打破する為の行動を開始した。
制服に着替えたタケルは、これまでと同じ様に家を出た。
これから起こるであろう交渉事に備え、タケルは部屋からはゲームガイを持ち出し、
その足で向かう先は、元の世界では学園のあった場所である横浜基地。
そこの副指令官である香月夕呼を頼る事が、今のタケルに出来る唯一の事でもあった。
英霊達が眠るという葉の落ちた桜並木の道を通り、一路横浜基地へと向かうタケル。
そうして横浜基地に近づく事は、つまり見張りの憲兵の眼に留まると言う事でもあった。
さて、今回はどうやって対処するべきか…。
最初の難関を前にして、タケルは幾つかのプランを頭に浮かべつつ、
桜並木の続く坂を上り、更に基地へと近づいていく。
しかし警戒を露にする憲兵たちの誰よりも早く、口を開いた人物がいた。
「…見慣れない顔ね。ココに何の用かしら?」
「…夕呼先生?!」
あまりにも意外な人物の登場に、唖然とするタケル。
横浜基地で副指令の地位にある女性、香月夕呼。
決して外門の警備に当たる憲兵と行動を共にしている人物ではないはずだった。
「先生?・・・あたし、教え子をもった覚えはないわよ?」
タケルの言葉に眉を寄せて返す夕呼の存在により、
タケルの脳裏に浮かぶのは制服の内ポケットに仕舞ったおみくじの言葉。
そして今在るこの状況が、これまでにありえないような好機であるに気が付き、慌ててたたずまいを正すタケル。
ゴホン、と咳払いを一つして、夕呼に綺麗な敬礼をしてみせる。
「失礼しました、香月副指令。
自分が隣り合ったあちら側で師事していた夕呼先生に、
まるで同一人物としか思えないほどに瓜二つでしたので、間違えて呼びかけてしまいました。」
続けられたタケルの言葉に引っかかるコトがあった夕呼は、ピクリと眉を動かして、タケルへとさらなる注意を向ける。
その厳しさを増した視線に、タケルは内心安堵し、更に言葉を続ける。
「自分は香月副司令にお願いがあり、横浜基地を尋ねました。
あちらの夕呼先生からの宿題で、自分が丸暗記した例の量子論の論文について、判定を頂きたいのです。
この判定をしていただけるのは、この世界では、香月副指令、ただお一人だと聞いております。
お願いできますでしょうか?」
手持ちの札を一枚切りつつ、タケル夕呼にそう訊ねる。
夕呼は一瞬驚きに目を見開いたものの、すぐに平静を装いタケルを見返した。
その視線を真正面から受けとめ、凝と夕呼を見つめ返すタケル。
「……なるほど、例の量子論の関係ね。
いいわよ、着いてらっしゃい。
少なくともココで話せるような話じゃないでしょう?」
しばしの沈黙の後、腹をくくったのか、夕呼はタケルの提案を受け入れる事にした。
門番をしている憲兵に目配せをし、タケルに向けていた銃を下ろさせる。
本来ならタケルのボディチェックなどして然るべきではあるのだが、
副指令絡みの来客という判断からか、そのまま定位置に戻って行く憲兵達。
「ありがとうございます」
予想外にすんなり行った事に喜びつつも、タケルは深く夕呼に頭を下げた。
意外なものを見るような視線をタケルに向けた夕呼。
今頭を下げている男がどういう輩なのか?
そう興味は湧いたが、今優先すべきがタケルの話を聞くことであるのを直に思い出す。
「さ、行くわよ」
頭を下げたままのタケルにそう告げて歩き出す夕呼。
「はい!」
タケルは夕呼に返事を返しつつその後を追った。
ここを乗り切ってしまえば如何にでもなる。
経験則からその事を確信していたタケルの足取りは、随分と軽いものだった。
俺は頭が悪いんで、丸暗記してるだけなんです、だから内容について聞かれても答えれませんよ。
副指令室に連れて来られたタケルはそう前置きをし、淡々と諳記した因果律量子論を語りだす。
無論、それはタケル自身が考えたものでは無く、これまでの世界で夕呼が完成させてきたものだった。
15分かけて語られたそれを、時折メモを取る以外、夕呼は黙ってそれを聞き入れていた。
タケルが全てを語り終え、そして夕呼の口が静かに開かれた。
「色々と参考になる話を聞かせて貰った事には、礼を言わないといけないんでしょうね。
けど、アナタは何者なの?
因果律量子論を語った以上、平行世界から来た事は容易に推測できるけれど…。
アナタの目的は一体なんなの?」
鋭い視線と供に投げかけられる夕呼の言葉。
これまでも幾度と無く夕呼の口から績がれた疑問に、タケルは思わず苦笑を漏らす。
そのタケルの様子に夕呼の表情が厳しくなるが、
タケルはその怒気をさらりと受け流し、今度は自分の言葉で語り始める。
「あー、その、すいません、何処の夕呼先生も同じ様な質問をするので、つい…。
あ、それと俺の名前はシロガネタケルです。
夕呼先生は基本的に、シロガネって呼んでました」
悪びれた様子も見せずに語るタケル。
夕呼に更に睨まれて慌てて言葉を継ぎ足して行く。
「夕呼先生の言うとおり、俺は平行世界から来ました。
その世界ではBETAは居なくて、夕呼先生は物理の教師で、俺はその教え子の一人でした。
ついでに言えば、まりもちゃんは、俺達のクラスの担任でした。
と同時に、かつて俺がいた世界とは違うこの世界を、幾度も繰り返している存在でもあります。
神様協会ってところの使いによれば今回で1万回の…あーすいません、今のは忘れてください。
俺にも実際にあったことなのか判断が付きませんから。
まあ、何度も、それこそ気の遠くなるくらいに繰り返してるのは、本当ですけれどね。
質問のあった俺の目的ですが、BETAを打ち倒して、ここにいる皆が笑って死んでいける世界を作ることです。
ついでに全人類を救うって事になるんでしょうが…」
妄想大言そのもののタケルのもの言いに、さしもの夕呼も呆れるしかなかった。
が、タケルはそんな夕呼の態度にも慣れているかのように軽くため息を吐き、すっと夕呼との間合いを詰める。
「もちろん、夕呼先生が俺の言葉を信じられないのも解ってます。
これまでの夕呼先生もそうでしたし、今目の前に居る夕呼先生もそうですよね?
ですので、夕呼先生には俺が繰り返しているという事を身体で理解してもらいます。
貴重な先生の時間を15分ほど貰ってね」
そう云うや否や、制服の上着を脱ぎだすタケル。
鍛え上げられた身体を夕呼の露す事になるが、まるで気にした様子も無く更に夕呼へと近づく。
その行動が何を目的とするのか悟った夕呼は懐の銃に手を伸ばし、
そしてその手を、密着状態にまで接近ったタケルに押さえられる。
「ちょっと、アン・・・」
言いかけた夕呼の言葉はタケルの唇でせき止められる。
夕呼の手から銃をもぎ取り、床にそれを転がしたタケルは更にきつく夕呼を抱きしめる。
「慣れない銃を使って、夕呼先生が怪我でもしたらどうするんですか?
まあ、夕呼先生も案外ネンネですし、ナニが怖いのは解りますけどね…」
小ばかにしたようなタケルの態度に、カチンと来た夕呼。
その身長差から、ギロリと下からタケルを睨みつけた。
銃に不慣れな事を馬鹿にされたのよりも、そっちの方面で見下されている事が腹立たしかったのだ。
「へぇー、そこまで言うのなら、不本意ながら相手をしてあげるわよ。
貴重な私の時間をくれてやるんだから、もしもの時は解ってるわよね?」
殺気すら込めてタケルを見上げる夕呼。
タケルは一旦抱きしめていた夕呼を放して少し距離を置くと、夕呼に向けて優雅に一礼してみせる。
「謹んで、お相手を務めさせていただきます、お姫様」
思いもよらぬタケルの態度と言葉に、不意を突かれた夕呼は即座に反応できなかった。
そのまますっと夕呼を隣室に在る仮眠用のベッドへと誘いながらも、副指令室のドアをロックするタケル。
それから、3分後、副司令室に漏れ聞こえてきたのは嬌声だった。
「じゅ、15分で4回も、4回もイカされた…」
ベッドの上でうずくまりぶつぶつと呟いているのは夕呼だった。
その身に纏っているのは備え付けのシーツのみ。
同じベッドの上には夕呼の相手を務めていたタケルが居て、
どんより雲を背負っている夕呼に困ったような顔を向けていた。
「あーすいません。少々やり過ぎちゃったみたいで…」
バツが悪そうに頬を掻き、頭を下げるタケル。
夕呼はそんなタケルをギロリと睨み返し、口元はきつく結んだままに顎を動かす事でタケルに答えた。
タケルは夕呼から視線を外して背を向けると、ベッドの横に脱ぎ散乱した制服を再び身に付け始める。
同様に夕呼もまたベッドの脇のテーブルの上に畳まれていた服にそそくさと着替えていく。
「シロガネ、私はアンタの事を信じることにするわ。
というか、こうまでされたら信じるしかないわね。
私以上に私の事を識ってる人間が居るなんて、想像もしてなかったもの。
けど、さぞかし気分がいいんでしょうね?相手の全てを知ってるなんて」
ベッドの上の一戦の意趣返しか、やや非難めいた夕呼の言葉。
夕呼に背を向けたままのタケルは、決して首を縦には振らなかった。
「それが、そうでも無いんですよ。
確かに俺にもいろいろと思うところは在りますが、正直なところ、寂しいって言うのが一番大きいんですよ。
だって、俺は皆のことを、それこそ、何処が感じて、どれぐらいで気をやるのかまで知ってるのに、
みんなは、誰も俺の事を知らないんですからね…。
……毎回新鮮な感じがするっていう事だけは、なんともで撤てがたいんですけどね」
最後にはそう軽口を叩くタケルの背中に、夕呼は孤独を連想していた。
そして先ほどタケルが口にした1万という数について考える。
一回の繰り返しで何年過ぎるのかは知らないが、
途方も無い年月をかけて繰り返えされる出会いと別れを、タケルが経験しているであろう事に思い至るのは容易だった。
それ故に先ほど感じたタケルの背の孤独感こそが彼の本心だと理解した。
そしてその背に妙に惹かれている自分をも認識し、そして即座に否定する。
年下は趣味じゃない。
そう断じようとして、タケルが見かけどおりの年齢では無い事に改めて気がついた。
だったら、私が惹かれても仕方が無い?
その疑問を否定できなかった夕呼は、更に思考のループに囚れそうになる。
「どうかしたんですか、夕呼先生?」
それを断ち切ったのはタケルの声だった。
背を向けたままで、タケルは夕呼にそう呼びかけた。
考え込み、黙り込んだ夕呼の気配を感じ、気にかけたからでもあった。
「ああ、大した事じゃないのよ、アンタの立場をどうしようかって考えてただけだから。
取敢えず、アンタの考えを聞かせなさい。
そういう打算もあって、わざわざ私と接触して、こういう展開に持ち込んだんでしょう?」
?
誤魔化し混じりの夕呼の言葉に、背を向けたままで軽く肩をすくませるタケル。
「話が早くて助かりますよ、夕呼先生。俺の考えはですね…」
言いながら、夕呼の方を振り返るタケル。
そしてこれまでの経験から、ベストと思える方法を夕呼に提案してみせるのだった。
夕呼はタケルの案にいくつかの質問を返して答えを得ると、その全てを受け入れた。
そのやりとりの過程で、タケルという人物の本質が、
自分の思い描いたモノとそう遠くない事を確認できたのが大きかったのだろう。
そして何より、因果量子論を本当に丸暗記しているだけだった事は夕呼にも驚きだった。
どうやって覚えたのか?と聞く夕呼にタケルは遠い目をしてこう答えた。
「電気椅子っていう処刑道具が在るじゃないですか。
あれの電圧を下げたのに座らされましてね…。
そうです、今想像したとおりに、俺が一言でも間違えると電気がビビビって来るんですよ。
コントロールパネルを持ったあの時の夕呼先生は、凄く楽しそうでした…」
如何にも自分がやりそうな事だと思いながらも、タケルは因果量子論を本当に身体で覚えているのだと理解する。
それはつまり、タケルから丸暗記した以上の情報の提供が無い事の裏づけであり、
そして研究においての手助けにならない事を意味していた。
根底すら全く理解できない事に対して、画期的なアイデアを出す事は誰にでも不可能なのだから。
そうした話し合いもひと段落着き、夕呼は00ユニット完成の為の研究へ、
そしてタケルは次の段階の行動に移り、社霞と供に戦術機のシミュレータ付きの端末の前に座っていた。
00ユニット中枢たる鏡純夏への挨拶もそこそこに、
霞の手を借りて戦術機用のオペレーティングシステムの制作に着手したのだ。
無論、夕呼にはその辺りも含めて色々と話は済んでいたし、霞の手を借りる事の許可も受けていた。
元よりタケルにプログラムを組むj技術などは無く、因果律量子論と同様に丸暗記してきたとあれば、
夕呼もタケルのいう新OSの開発に、霞が手を貸す事に許可を出さざるを得なかった。
件の新OSの完成が、オルタネイティブ5への大きな牽制になると聞かされれば尚更だった。
今回も初対面になるタケルを、対人恐怖症の気のある霞は当然のように恐がったが、
力を貸してくれと土下座するタケルと夕呼のお願いを前に、首を縦に振りOSの完成に手を貸す事になった。
そして霞はリーディングの能力を生かし、よくタイプミスをするタケルのフォローをしながら、
日付が変わる頃には新たなOSを完成させる事になる。
そのプログラムにどこかで見たような癖を感じる事に疑問を抱きながら…。
かくしてXM3と呼ばれる事になるOSの完成をもって、
一万回目の繰り返しとなるシロガネタケルの最初の1日は終了した。
彼女はその様子を最初から見る事になった。
寝所の窓から見える月明かりだけが差し込む中庭に、突如現れた光の渦。
眩しいと思えるほどでは無かったが、
数秒間に渡り無数の光の粒子が螺旋を描き、
何時も見慣れたはずの中庭に幻想的な風景を画く。
そして、ひときわ光の渦が輝き、次の瞬間には爆ぜる様に掻き消えた。
代わりに現れたのは、その場に立ち尽くすの一人の少女の姿。
珍しい衣服を纏った少女の姿を彼女が眺めていると、
少女ははっと気がついた様に周りを見渡し始める。
…そして少女と彼女の目が合った。
困ったような表情を浮かべた少女は、彼女に向けてこう訊ねた。
「あのー、ここは何処なのですか?」
月明かりのみが周囲を照らすというこの状況下の所為もたったのだろう。
視線の先で首を傾げる少女の瞳の色が左右で異なるという特徴を持っている事に、
何時もは聡明であるはずの彼女は、まだ気付けずに居た。
続く
あとがき、という名の言い訳
某投稿板とかのSSを読み漁っていたら書きたくなり、書きました。
例によって多重クロスの蹂躙ものになります。
今後の話を読まれる場合は、注意いただければと思います。
ではまた。
PS 題名を一緒に考えていただいたガルフさん、どうもありがとうございました。