新機動戦艦ナデシコ
黒き王子と福音を伝える者
第三話 就航までの一年間(またですか? アキトさん)
◆南極大陸中心部南極点◆
吹雪が吹き荒ぶ中シンジは目を瞑りジッと立っていた。
回りの気温は−30℃以下だがシンジは日常の
半袖の白いシャツに黒の長ズボンの服装だった。
「やはり無い・・・」
呟いた後シンジは瞼を開き付近を見回した。
吹雪で視界はゼロの筈だがシンジには視えているようだった。
背後の山以外は、なだらかな平地が続いている。
(箱根に黒き月は無かった。 そして此処にも白き月は無い)
シンジはジッと考え込んだが答えが出る事は無かった。
(存在しないのか? ……いや、情報が少なすぎる…
答えを出すにはまだ早いな…)
シンジは思考を消すと背後の山に振り返った。
「ここには用は無い。
もう戻ろうか」
「Guruuuu」
シンジが背後の山に話しかけると、山が獣のような声を発した。
そしてシンジと山は足元に出来た影に吸い込まれるようにして消えた。
後に残ったのは吹雪く音のみ…
〜ナデシコ就航6ヶ月前〜
◆ネルガル重工エステバリス開発部◆
テスト用アサルトピットのハッチが開くと中からアキトが出てきた。
アキトがタラップから降りてくると控えていた研究員が近づいてきた。
「お疲れ様ですテンカワさん」
労いの言葉と共にタオルとドリンクが手渡される。
アキトはそれを受け取るとドリンクを飲んで汗を拭いた。
「いやまだ大丈夫だ。
次の実験は何時だ?」
「今の実験結果の洗い出しが終わってからですから
早くても3時間後だと思いますよ?」
「結構時間が空くな…」
「そうですね。
もし暇なら食事にでも行かれたらどうですか?
一度実験が始まれば、次はいつ摂れるか分りませんからね」
「そうだな…」
アキトが今後の予定を考えていると、研究員は興味津々で聞いてきた。
「テンカワさん、今回の実験はどうでしたか?
力作だと皆が言っていたんですよ」
「う〜んそうだなぁ〜
確かに足回り関係は前に比べて良くはなっていたな。
でも細かい動作になると少しな…」
アキトは言葉を濁すが研究員は「やっぱりなぁ」という風に
頭を掻いていた。
「やっぱりそこですかぁ〜
多分言われるとは思っていたんですよねぁ〜」
「やっぱりって…」
「えぇバランス調整はまだ完成していないんですよ。
IFSは確かに操縦者のイメージのみで操作する事が出来ますが
イメージなんて千差万別でしょ?」
「確かにな」
「ですから平均化が出来上がってないんですよ」
「おいおい、間に合うのか?」
アキトは心配になって聞いたが研究員は何でもないように言った。
「全然問題ないですよ。
既に出しても問題ない製品は出来ているんですよ。
ただどれだけ良い物を製っても時間が経てば旧くなります。
だから今の研究はより良いモノを製っている試行錯誤の段階なんですよ」
「成る程、そういうことか」
「テンカワさんが開発に加わってから問題点の多くが解決もしました。
お陰で開発時間にゆとりも出来て幾つかの計画が前倒しになっているんです。
研究員の中には趣味に走っている人もいるくらいですからね。
ですから全員アキトさんには感謝しているんですよ?」
「俺が役に立ったのなら嬉しいな」
アキトが納得すると研究員は顔をしかめた。
「それよりテンカワさん…」
「なんだ?」
「アッチはどうなっているんですか?」
「アッチ?」
「碇主任担当のE計画開発部ですよ。
アッチは何してるんですか?
全然情報が流れてこないんですよ」
アキトは尋ねられたが答えられなかった。
何故なら自分も全く情報を持っていなかったからだ。
前に何度かシンジに何をしているのか聞いたのだが、
その度にシンジはニヤリと笑うだけで何も教えてくれなかった。
「テンカワさんと碇主任って友人なんですよね?
何か聞いているんじゃないですか?」
「いや俺も知らないんだ。
聞いても笑うだけで情報は何もない」
研究員はキョロキョロと周囲を見回すとアキトに
小さな声で話し出した。
「私興味が沸いて向こうの事探った事が一度あるんですよ」
「えっ」
アキトは驚きの声を上げた。
E計画は極秘研究であり情報漏洩には厳しい罰則がついているからだ。
(もしかしてコイツってその方面では優秀なのか?)
等とアキトは随分失礼なことを思い浮かべていた。
「それで幾つかの会話も盗聴できたんですけどね」
(おいおいマジかよ…)
「でも変なんですよ…」
「変って何が?」
アキトも研究員の話に興味が出て聞き漏らさない様に
耳を立てた。
「あそこもロボット開発ですよね?」
「あぁそうだな。
違うアプローチからの開発とだけは聞いたが…」
「でもロボット開発の話じゃないんですよ」
「と言うと?」
「だって聴こえる会話が
腐ってきた計算どおりだ、とか
腐敗速度が激しいので破棄、とか
腕が千切れた、とか
血が止まらない止血を急げ、とか
そんな会話ばかりなんですよ…」
「嘘だろ……」
それを聞いてアキトは言葉に詰まった。
如何考えてもロボット開発者の会話ではないからだ。
「それに…」
「それに?」
「あそこの研究員って全員血の匂いがするんです…」
「……」
「本当にロボット開発なんですか?
まさか……」
アキトも言葉が出なかった。
シンジは人体実験等を憎んでいる節があると思っていた。
だが今の話を聞く限りどう考えても人体実験に聞こえてしまう。
(シンジくんに限ってそんなことないと思うが……
…シンジくんだしなぁ〜 何かやってるのは確かだよなぁ)
ある側面からみてシンジを正しく理解しているアキトだった。
今迄自分はシンジに弄られ続けていたのだから…
「あっアキトさん休憩ですか?」
そこにシンジの声が聞こえた。
「あっシ、シンジくんじゃないか…
どうしたんだい?」
「あっお、お疲れ様です碇さん
ど、どうされたんですか?」
今迄話に出ていた本人が来たので二人の声はどもってしまう。
「いや僕も丁度休憩しようかなと思っていたんですよ。
一緒しませんか?」
「う、うん。 そうだね。
一緒に休憩しようか…」
「? どうしたんですかアキトさん?
凄い汗ですよ?」
「いや何でもないんだよ…
ハハハハハ…」
「ならいいんですが」
シンジは納得いかないみたいで首を傾げていた。
「それよりシンジくん。
聞きたい事があるんだが…」
「何ですか?」
アキトは先程の事が気になってシンジに聞いた。
「シンジくんのE計画って何をしれるんだい?」
「何って…」
「勿論ロボット開発だよね?」
隣では研究員もシンジの言葉を真剣な表情で待っていた。
シンジは二人を見るとニヤリと笑い一言言い放った。
「問題ない」
(問題ないって何がさ…)
結局何も分らなかった。
************************
◆ネルガル重工社員食堂◆
「………」
「……」
シンジは白けた目でジッとアキトを見ていた。
「………」
「……」
アキトはその視線に耐え切れず下を向きながら、
ただ黙々と食事をしていた。
「………」
「…アキトさん」
「……何だい」
「…また! ですか?」
「……はい…」
シンジはため息を吐いた。
目の前の男は何をしているのだろうか… と。
「アキトさん。
あなた誘蛾灯ですか? もしかして
どこでもここでも手当たりしだいに女の人を引き付けて。
何考えているんですか?
僕には貴方の事が理解できません…」
「すみません…」
そう二人が食堂に入るとどこからともなく女の人が現れて
アキトに食事を手渡してくるのだ。
おつかれさまです。
お仕事頑張ってくださいね。
身体には気をつけてくださいね。
等などの言葉と共に。
そして二人しか座ってないテーブルの上には
どう見ても5人前以上の食事が置かれていた。
「アキトさん…
あなたの未来を予知して上げましょうか?」
「………」
「女の人に刺されて死亡」
「……うっ」<サイズ変更-2>
「その時の言葉は多分こんな感じじゃないんですか?
『私と一緒にあなたも死んでっ!!』
ってね」
「………」
「アカツキさんも
『アキトくんには敵わないよ。
大関スケコマシの名は返上しなければいけないな』
と遠くを見ながら呟いてましたよ?」
「………」
「…」
「………」
「無様ですね」
「………」
結局アキトは何も言い返せずに
言い返していたら更なる毒がシンジの口から出てくるが…
ずっと下を向いて食事をしていた。
ただ黙々と5人前以上の食事を全て。
************************
〜ナデシコ就航4ヶ月前〜
◆ネルガル重工会議室◆
「第一次火星会戦敗退から一年あまり、すでに火星と月は完全に敵の制圧下。
地球も時間の問題にすぎない。」
薄暗い会議室に役員の声が響く中、モニターには幾つもの場所が映し出されていた。
「質問があります」
「何だね? ゴートくん」
ゴートと呼ばれた男はガタイのいい大男だった。
「要するに私に何をしろと?」
「スキャパレリプロジェクト。
聞いたことあるね?」
「はぁ…」
役員の問い掛けにゴートは曖昧な返事をした。
「我々の中でも従軍経験のある君を推薦する声が多くてね」
別の役員が言葉を続ける。
「私を?
それは軍需計画なのですか?」
ゴートの横に立っていたプロスペクターが言葉を続けた。
いつもの眼鏡にちょび髭、クリーム色の上にシャツの赤いベストの
通常装備だった。
「まぁ、それはともかく。
今度の職場はオナゴが多いよ〜」
「はぁ?」
「それにボーナスも出る。
ひぃ、ふぃみぃ、でこれくらい」
ゴートが何かを言う前にプロスペクターは何処からともなく電卓を取り出し
計算を終えるとゴートに金額を見せた。
「…一つ聞いていいですか?」
ゴートが真剣な表情で聞いてきた。
「何だね?」
「それって税抜きですか?」
会議室を出たゴートとプロスペクターはネルガルビルをバックに立っていた。
「まぁそれはともかくとして。
まずは人材が必要だねぇ」
「人材?」
「そう、人材。 最高の!
多少人格に問題があってもね」
◆某所工場◆
「ふふ、ふへへへへへへ」
眼鏡をかけツナギを来た男が不気味に笑いながら、何かをつくっていた。
男の隣には釣り合っていない美人の妻が呆れ返っていた。
「ねぇ、あんたぁ
見つかったらまずいよぉ」
「うるせぇなぁ
これをこうすりゃリリーちゃんは無敵なんだよ!」
その時突如ガラガラと工場のシャッターが上がった。
「はい、ごめんください〜」
「ひえぇ〜、あぁ〜
いやいや、これは違うんです。
こ、これは……」
男がうろたえながらリリーを背後に庇うが突如動き出した。
「コンニチハ。
アタシ、リリー」
等と言いつつミサイルを撒き散らした。
「俺をメカニック!」
「違法改造屋だがいい腕前だ」
ゴートが頷きながら言った。
「是非ともウチの…」
プロスペクターが言い終わる前に男は顔を近づけると
人差し指を口にあてた。
「しー、しー。しぃぃぃぃ…
よーし行こう、すぐ行こう、パッと行こう」
「しかし条件面の確認とか契約書…」
「いいの! いいの!」
男はチラッと妻の方を見ると。
「あいつと別れられるんなら地獄でもいい」
※ウリバタケ・セイヤをゲッツ※
◆某企業社長室◆
「本気なのかい?
そんなに社長秘書ってイヤなの?」
退職届を出された男は困った顔をしながら聞いた。
聞かれたのは20台の亜麻色の長い髪をした綺麗な女性だった。
「んー、てゆうかぁ
やっぱ充実感かな?」
女性の後ろにはゴートが立っていた。
※多分ハルカ・ミナトをゲッツ※
◆某スタジオ◆
「さぁ、戦いましょう!」
「よーし、行くぞぉ!」
「「おー!!」」
「はい、OK!」
隣の部屋にいたオッサンが、声優たちにOKを出した。
「「「お疲れ様でしたー」」」
仕事仲間で挨拶をしているとオッサンがソバカスのあるお下げ髪の
女の子を手招きした。
「メグミちゃん」
「はい?」
「お客さん、ネルガルの人だって」
「あ……
どうも……」
メグミと呼ばれた女性は首をかしげながらも挨拶をした。
※メグミ・レイナードをゲッツ※
◆某食堂◆
「はい、おまちどう」
「いやーではいただきましょうか」
「うむ」
プロウペクターとゴートは出てきた料理を食べ始めた。
コックの女性は渡された名刺を見ていた。
「あたしが戦艦の食堂の料理長かい。
他にも人はいるんじゃないのかい?」
ホウメイはプロスペクター聞いた。
ゴートは喋る事無く食べている。
ハンカチで口元を拭きながらプロスペクターは
「いえいえ、ただでさえ戦艦の乗組員はストレスが溜まりまから。
少しでも不満を減らす為にも、多種多様の料理をつくれる人が
必要なのですよ、はい」
「まぁ一応考えてみようかねぇ」
※ホウメイをゲッツ※
「旨いな」
************************
◆ネルガル重工会長室◆
部屋の中で三人が紅茶を飲んでいる。
「アカツキさん、スカウトはどの位終わっているんですか?
あっこの紅茶美味しい…」
「そうだね、半分位じゃないかな?
まぁ会長室で飲む紅茶だからねぇ、良い物使ってるよ?」
「…」
「人員は僕らが知っている人と同じですか?
会長職ともなると良い物飲めるんですねぇ〜」
「変わらないよ?
末端の職員は分からないけどね。
もしよかったらシンジくん紅茶の葉いるかい?」
「…あの」
「まぁ細部はこちらも把握していないので問題は無いと思いますよ。
何か問題は起こっていますか?
あっくれるんですか? ありがとうございます」
「スカウトも後一月もすれば終わるからスケジュール通りだよ。
なら帰る時までに用意させておくよ」
「…あの」
「なら今の所ナデシコ就航まで問題は無いみたいですね。
ならお礼に料理つくりますね」
「そういやシンジくんの所属部署はどこにするんだい?
パイロットでいいのかい?
いやぁ〜シンジくんの料理は凄く美味しいからたのしみだなぁ〜」
「…あの」
「僕ですか?
そうですね艦内食堂所属にしてもらえますか?
パイロットは兼任ですかね。
ならアカツキさん時間の空いている時教えてくださいね、準備しますから」
「食堂コック兼パイロットでいいんだね
いいなぁナデシコ職員はシンジくんの料理が食べられるのかぁ〜
わかった、後でメールしとくよ」
「あの!」
「五月蝿い、黙れ、喋るな、誘蛾灯」
「………」
無視され続ける事に耐え切れなくなったアキトが声を上げるが
シンジの黒い言葉にバッサリ切られて沈黙してしまう。
アカツキはシンジの言葉で何があったのかを正確に理解した。
「あれ? アキトくん
もしかして、またなのかい?」
「ぐっ…」
「えぇ、また! なんですよアカツキさん。
この人何を考えてるんでしょうね。
僕には理解出来ません…
と言うより理解したくありません」
「…ぐ」
「で?
今度は誰なんだ?」
「本人の口から聞いてください。
ねぇ、アキトさん?」
「…エリナだ…」
「は?」
アキトが言うとアカツキの目は点になった。
エリナといえば一人しかいない会長秘書つまり自分の秘書の
エリナ・キンジョウ・ウォンだ。
「で?
何故そうなったんですか?
アキトさん?」
「…バッタリ会ったときに凄く落ち込んでいたんだ…
自分も知っている人だったから元気付けようとして……」
「…」
「元気付けようとして、ナチュラルに口説いたんですね」
「いや…
口説くつもりはなかったんだ…」
「つもりは無くても口説いてるんですよ
あんたは」
「……」
シンジはアキトに対して毒を吐き続ける。
「…いやぁ〜参ったなぁ
この頃機嫌が良いと思っていたらそういう事だったのかい」
アカツキはエリナの事を思い出していると納得がいった。
ここ暫くずっと機嫌が悪かったのだが、二、三日前から
急に機嫌が良くなったのだ。
理由が分からず少し恐かったのを覚えている。
「まぁ未来においてアキトさんとエリナさんは肉体関係にありましたし。
多分こうなるんじゃないかとは思ってましたよ?
でも実際こちらの期待を裏切らない行動を取られるとねぇ〜?」
「は!?
嘘!?
え!?
マジで!?」
シンジがサラッと吐いた衝撃の事実にアカツキは固まった。
シンジは確かに言った、未来で肉体関係にあったと。
アキトとエリナの二人がだ。
「ちょっとシンジくん!
それは言わないはずじゃ」
アキトも固まった。
言わないと約束した事柄の一つをサラッと言われたからだ。
「アキトさんと約束しても意味は無いと思うようになったんですよ。
色々と疲れますしね…
ハハハハハ……」
今回はシンジの背中に哀愁が漂っていた…
************************
「でもマジメな話、エリナさんってそんなに機嫌悪かったんですか?」
「あぁ〜、シンジくんとエリナくんは殆ど会わないから知らないのか。
ここ半年いつも機嫌悪かったんだよ彼女…」
アカツキは疲れた顔で溜息を吐いた。
「お陰でボクにあたるもんなぁ〜…」
「理由は?」
「まぁ理由といえばアレかな?」
「アレですか?」
「うん、ここ半年近くで新興企業にウチも追い抜かれたりしたんだよ。
追い抜かれたといっても情報部門だから
会社自体に影響はあまりないんだけどね…
ただその所為で社長派の人間からネチネチ言われ続けてきたんだよねぇ」
「社長派の鬱憤晴らしに巻き込まれたと…」
「そういうことだよ」
アキトのお陰でボソンジャンプの研究が進んだ事や
スキャパレリプロジェクトが順調だからよかったものの
(そうじゃなかったらどうなていたことやら…)
アカツキは溜息しか出なかった。
「そういえばシンジくん明日は暇かい?」
「明日ですか?」
アカツキが急にそんな事を聞いてきたので
シンジは明日のスケジュールを思い浮かべた。
「明日は特に何もないですよ。
何か手伝ってほしい事でもあるんですか?」
「うん、まぁ、あると言えばあるんだけどね…」
アカツキは言葉を濁した。
「?
何ですか? アカツキさん」
「明日はプロスくんと一緒に行動しないかい?」
「プロスさんとですか?
と言うとスカウトに付き合うってことですよね」
「うん、そうなんだよ。
明日のスカウト先でちょっとね…」
「何か問題でも?」
「いや、問題はないんだけどね…
……明日のスカウト先は彼女の所なんだよ」
「彼女?」
「そう、ホシノ・ルリくんの所さ」
シンジの目を見てアカツキは切り出した。
「ナデシコは確かに今迄とは全然違う船だ。
でもそれもMC、ホシノくんが居なければ
全く意味のない船なんだ」
「…」
「だから出来る限り彼女には配慮したいなぁ〜と…」
「で、年も近くて見た目も似ている僕の出番ですか…」
「……怒ってるかい?」
問われるとシンジは一口紅茶を飲んだ。
「別に怒ってはないですよ。
……そうですね」
「…」
「……僕もついて行きますよホシノさんの所に」
それを聞いてアカツキはホッと息をついた。
シンジを怒らせると恐いのはアキトを見ていると理解できる。
物理的にではなく精神的に痛いのだシンジは。
自分にその矛先が向かうのだけは避けたい。
「いやぁ〜ありがとうシンジくん。
出来れば彼女の力にもなってほしいんだけど…
ほら彼女もネルガルの…
ねぇ……」
「……」
「…」
「……」
(あれ? もしかしてボク自分で地雷踏みに行った?)
アカツキはイヤな汗が噴き出してきた。
シンジは言葉を発することなくジッとしている。
部屋の中は時計の針が進む音がハッキリ聴こえる。
「……」
「…」
「……そうですね」
シンジは悲しそうな表情でアカツキに言った。
「僕で力になるのなら、彼女を手助けしたいですね…」
アカツキはその表情を見ると何も言えなくなった…
え? アキトは何処かって?
彼は部屋から排除済み
************************
◆人間開発センター◆
「さぁ着きましたよ碇さん。
ここが人間開発センター、ホシノ・ルリさんのいる所です」
「人間開発センター……ですか」
シンジは溜息を吐くと呟いた。
「マシン・チャイルド… 遺伝子操作された子供ですか…
……
他人を勝手に研究して喜んでいる馬鹿共が
研究対象としか見ないで、例え傷付いても関係ない
玩具としか思わず、同じ人間とは考えない
そして幸せを当然の如く当り前に奪っていく・・・か
はっ! 余りにも傲慢だ・・・
それでこそ人間だ、まさに人間としての行動だ
下らなさ過ぎて反吐がでる」
プロスとゴートは呟きを聞いて動けなかった。
夏も近いというのに寒かった、喉もカラカラに渇く。
二人とも裏の世界を知っている、だから余程のことがなければ動じない。
だが違う、これは全く別物だ。
裏の世界を知っているからこそ悲鳴を上げずにすんだだけだ。
出来る事なら今すぐこの場から立ち去りたい。
「プロスさん」
「は、はい。
何ですか碇さん?」
プロスは緊張しながらシンジの言葉を待っていた。
何を言い出すのか全く分からない。
下手したらここの研究員皆殺しと言い出すかもしれない。
今のシンジはそうしてもおかしくない雰囲気を持っていた。
「相手との交渉は全て任せてもいいですか?
僕はルリさんに直接会いに行きますから」
「え、えぇ問題はありませんよ。
碇さんは自由にしていて下さい」
「ありがとうございます。
一緒に行ったら、うっかり殺してしまいそうで」
そういってシンジは冷ややかに嘲笑った。
それを見てプロスとゴートの背筋が凍った。
************************
シンジは部屋の出入り口の横の壁に寄りかかっていた。
目の前で進んでいる作業を冷めた目で見つめ、横を見ると
ガラスを挟んだ隣の部屋では両親らしき夫婦が目の前の金塊に
目を輝かせて喜んでいる。
(殺したいなぁ〜)
ふとそんなことが頭に浮かびシンジはゆっくり頭を左右に振った。
ルリの作業が終わったらしく、部屋から出る為に近づいてくる。
「はじめまして、ホシノ・ルリさん」
シンジは近づいてきたルリに対して優しく微笑んだ。
「誰ですか?」
ルリは感情を浮かべる事なく聞いてきた。
「碇シンジといいます。
よろしくお願いします」
自己紹介をすると握手のためにルリに右手を差し出した。
「ホシノ・ルリです」
自己紹介はするが握手は無視された。
だがシンジは右手を差し出したまま話を続けた。
「ホシノさんがオペレーターとして乗る船に僕も乗りますから
挨拶をしようと思いまして」
「そうですか」
ルリは表情が無いままシンジと話している。
それに対してシンジはとても優しく微笑んでいる。
「ホシノさんはもうオモイカネとは話されましたか?」
「いえ、まだです」
「そうですか。
オモイカネはとても良い子ですが、まだ生まれたばかりです。
ホシノさんがオモイカネを育てていくと言っても過言ではありません」
「私が育てる…」
「はい、そうです。
オモイカネと仲良くしてあげて下さいね。
オモイカネも喜びますから」
ルリはシンジをジッと見ながら
「オモイカネはAIです」
それに対してシンジは何でもない風に
「はい確かにオモイカネはAIですよ?
でも想いは持っています。
確かに人間に作られた人工知能かもしれません。
ですが人と接している内に多くの事を学びます。
そしてそれはオモイカネだけの記憶であり経験です。
それがオモイカネの個性につながります」
「…」
「人に例えるならそれは人格と一緒です。
人も赤ん坊の頃から色々なものを見て・感じます。
それがその人そのものを創りあげます。
つまり人が個性を持つ、他人と違うという事は
記憶であり、経験であり、他人との繋がりです。
オモイカネはAIですがそれと同じ事が絶対に無いと
言い切ることはできますか?」
「…いいえ」
ルリが否定すると頬笑み頷いた。
「えぇ、そうです。
オモイカネを育てていくのはホシノさんであり
同じ船に乗る僕達です。」
「…」
「オモイカネも同じ船に乗る僕達の仲間なんですから」
「…仲間」
「ホシノさん、もう一度聞きますね。
オモイカネと仲良くしてくれますか?」
「…はい」
先程シンジが聞いた事を聞きなおすとルリは小さく頷いた。
それを見たシンジは差し出していた右手をルリの頭にもっていき
ゆっくりと優しく頭を撫でた。
「っ…」
頭を撫でられたルリは少し驚いた。
「イヤでしたか? ホシノさん」
「……イヤじゃないです」
ルリが俯きながら言うとシンジは暫く撫で続けた。
ルリはシンジの両手の甲を見てシンジに聞いた。
「碇さんはマシン・チャイルドではないんですか?」
「僕ですか?
僕は違います。
アルビノですけどね」
「アルビノですか…」
「変ですか?」
シンジがルリに問いかけた。
ルリは改めてシンジを見ると小さく横に首を振り
「いえ…
綺麗だと思います…」
そう言われたシンジは嬉しそうに頬笑み
「ありがとう。
でもホシノさんも凄く可愛いですよ」
そう言いルリの頭を撫でた。
その時のルリの頬は少しだけ赤くなっていた。
「疲れているのに長いこと引き止めてすみません」
「いえ、大丈夫です」
ルリは否定するが少しだけ困った顔でシンジは
「身体を壊したらいけません今日はゆっくり憇んでくださいね?
ナデシコでまた会えますから」
「ナデシコ?」
「そう、ナデシコ。
僕達の乗る船の名前です」
「ナデシコですか…」
「ナデシコで会えるのを楽しみにしています」
「はい」
そしてシンジはもう一度右手をルリに差し出した。
「ヨロシク」
「はい。
よろしくお願いします」
今度はルリも手を握りかえして握手をした。
「ホシノさん!」
部屋から出ようとしたルリにシンジは思い出したように声をかけた。
「僕はコックとしてナデシコに乗ります。
ナデシコに乗ったら、ぜひ食堂にきてください。
美味しい食事を作って待っていますから」
シンジは微笑みかけてルリに伝えた。
ルリはシンジに振り返ると
「はい、わかりました」
それだけを言うと部屋から出て行った。
ルリが部屋から出たとシンジは振り返った。
するとシンジの表情は一変していた。
先程までの優しい微笑みではなく、氷の様に冷たい表情だった。
「プロスさん、交渉は終わりましたか?」
「え、えぇ終わりました。
もう戻られますか? シンジさん」
急に声を掛けられたプロスは何とか返事をすることができた。
「そうですね、ここにいる必要は無いですから」
そう言いながらシンジは周りを見回すが、
その目は穢いモノを見る目だった。
シンジは外に出る為歩き出すが、近くにいたルリの両親に言った。
「彼女に下らないことはするなよ?
殺すぞ」
夫婦はシンジの殺気に恐怖で気絶しその場に倒れた。
************************
〜ナデシコ就航1週間前〜
◆ネルガル重工会長室◆
アカツキの机の前にプロスが立っている。
「プロスくん、二人はもうナデシコに向ったのかい?」
「碇さんは先程向いました。
テンカワさんは研究所でエステバリスの調整中です」
「わかった」
「……会長お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「碇さんの事です」
「…」
「テンカワさんは素晴らしい才能の持ち主です。
あの年齢でエステの操縦も既に超一流です。
個人の技量もネルガルのSSと同等かそれ以上です。
ですが…」
「ですがジンジくんはアキトくん以上かい?」
アカツキはプロスの言葉を引き継いだ。
「いえ、碇さんはソレとは違います。
強い弱い、才能の在る無しなどではなく
全くの別物のように思えます」
プロスはうまく言葉が出ず中々言いたいことが伝えられなかった。
それに対してアカツキは
「まっ気にしなくてもいいんじゃないかい?
彼が敵に回るとしたらボクらが間違った刻だ」
「…」
「ボクは間違った道をいくつもりは全然無い。
それにシンジくんは間違えそうな時は必ず
ます言葉で諭そうとしてくる」
アカツキはそう言って笑った。
「会長がそう仰るなら問題ないのでしょうね」
「そう問題はないさ。
それよりプロスくん、ナデシコ就航まで
引き続き仕事の方は頼むよ」
「わかりました」
プロスが部屋から出て行くとアカツキは呟いた。
「ようやくナデシコ就航か…
アキトくん・シンジくん頼むよ。
ボクも後で合流するから楽しみだなぁ」
続く…
後書き
始めまして玖杜といいます。
私の書いた小説を読んでくれてありがとうございます。
前回投稿の時に後書きを忘れていました、恥ずかしい…
この小説が私の初小説となります。
まだまだ文法的におかしかったり、言い回しが変なところ
矛盾等も幾つもあると思いますが、頑張りますので皆さん
宜しくお願いします。
さて小説の内容ですが、
今更ですがナデシコ&エヴァです。
昔から書いてみたいなと思っていたのですが中々時間も無かったのですが
ようやく黒い鳩さんのHP「シルフェニア」に投稿させて頂きました。
最初はシンジとアキトが元の時間軸に行く話を考えていたのですが…
私の力ではどうやっても途中で断念せざるを得ないです、すみません。
ですから過去に行く話になりました。
今回もナデシコ就航までの一年間を全部書こうと思いましたが、
話が長くなりすぎて、それだけで3話近くなりそうでしたので端折りました。
残りの話は外伝という形で書こうと思っています。
そっちの方が一年間の出来事話のメインが多いのですが…
次の話からはナデシコの第1話に入ります。
クロスですのでバランスが崩れないように頑張ります。
アキトの設定ですが、強いけどヘタレです。
インターネット上でのアキトの逆行のモノはカッコイイものや真面目なもの
皆の上に立つものなど数多くあります。
そして私もそうの様な小説は大好きです。
ですが私の小説のアキトはヘタレです。
まぁヘタレといいましても人間的に未熟な所を多く持っているような
アキトだと思ってください。
私が100%シリアス&真面目な話が書けないとの理由もありますが…
シンジは… 優しいけど恐いです。
あとアキトに対して黒いです。
ある程度の話の構成は先の方まで出来ていますから更新速度は
ある程度保てると思います。
周1回のペースでいけたらいいなと思います。
もし更新期間が空いたときはゲームしてると思ってください。
私ゲーム大好きです、特にRPG!
グローランサーY楽しみです… 前回コケたからなぁ〜
では第四話でまた会いましょう。
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