新機動戦艦ナデシコ
黒き王子と福音を伝える者
第四話 新しき出会いと再会と
◆ナデシコ艦内食堂◆
「碇シンジです。
よろしくお願いします」
シンジはホウメイに頭を下げた。
「へぇ〜、アンタがサブコックの碇シンジかい?
取り合えず腕を見てみたいから得意料理を作ってくれるかい?」
ホウメイは自己紹介もそこそこにシンジに言った。
「わかりました」
シンジが料理の準備を始めると、ホウメイはその手際をジッと見ていた。
「出来ました」
シンジはそう言いテーブルの上に出来あがったハンバーグを置いた。
出来あがった料理を見て
「店で出る料理じゃなくて家庭のハンバーグだね」
ホウメイはシンジの料理をそう評して一口食べた。
「へぇ〜、いい出来じゃないかい。
これなら問題ない、合格だよ」
ホウメイは内心シンジの料理の出来に驚いていた。
何故ならシンジは10代の少年にしか見えない。
だが料理の出来栄えはどう考えても長年料理をしてきた
腕でないと作ることができないからだ。
(どういう事なのかねぇ…)
「ホウメイさん、僕は何をすればいいんですか?」
「碇は他に作れる料理はあるのかい?」
得意料理でこれだけの味が出せるのならば、
他の料理でもある程度の味が保障できると考え
ホウメイはシンジに聞いた。
「そうですね、日本の料理は得意な方ですね。
料亭で出るような料理ではなくて家庭の料理ですけど
まぁ凝った料理も作れないことはないですけど…」
「そうかい…
なら碇は日本料理を担当してくれるかい?
それとハンバーグも全て担当しておくれ」
「分りました。
これからよろしくお願いします」
「あぁ。
こっちこそよろしく頼むよ、碇。
さぁ、さっそく仕込みを手伝っておくれ」
「わかりました」
二人は厨房で料理の準備を始めた。
ホウメイは思い出したように
「あぁそれと、後で従業員の娘たちを紹介するよ」
「アレ?
まだ乗っていないんですか?」
シンジが不思議に思い聞いた。
「いや、ちょいと街に買い出しに行かせたのさ。
船が出た後は暫く降りられないからねぇ。
十分準備しておかないと困るだろ?
それに就航までの最後の休みさ」
「そうだったんですか」
その後もシンジとホウメイは質問したりされたりしながら
仕込みを終わらせていった。
〜ナデシコ就航三日前〜
◆ナデシコ格納庫◆
「てめーら、さっさと動きやがれ!
チンタラしてるとスパナで殴り倒すぞ!」
「「「「うぃ〜〜すっ!」」」」
格納庫では次々運び込まれてくるエステバリス関係の搬入を
整備員総出で置き場に運んでいる。
ウリバタケは檄を飛ばしながらリストチェックを終わらせている。
「しっかし、このエステバリスは最高だなぁ〜
改造のしがいもあるし、なによりお肌もスベスベ〜〜」
ウリバタケはにやけながらエステバリスの装甲にほお擦りしている。
「ウリバタケさん作業は順調ですか?」
プロスがウリバタケに話しかける。
「おう、プロスの旦那か。
今の所問題ないぞ。
搬入が終わり次第エステのメンテをはじめる予定だ」
「そうですか」
「それより旦那アレ何だい?
何でプールがあるんだ?」
ウリバタケはそう言いながら格納庫の隅を指差した。
そこには、格納庫に造られたプールの回りをうろつく
数名のネルガル研究員の姿があった。
「あぁ〜〜、アレですか…
あれはE計画の施設ですね」
「E計画?
何だい何だいオレは何も聞いちゃいねーぞ」
ウリバタケは顔を蹙めていた。
自分はナデシコの整備班長であり格納庫は自分の城である。
なのに格納庫に自分の知らない設備が造られているのだ。
ハッキリ言って面白くないのだ。
「いやはや申し訳ありません。
E計画については私も知っている事が何も無いのですよ。
会長と数名の研究員以外誰も知らない極秘プロジェクト
なものでして、はい」
「ちっ、しょうがねーなー。
モノは何時来るんだい?」
「予定では就航当日朝の予定です」
ウリバタケは何も知らないプロスを責めても意味が無いので
必要な事を聞いた。
◆ナデシコブリッジ◆
「ちょっとそれどういうことなのよ。
フクベ提督もあたしも既に乗艦してるってのに
肝心の艦長がまだ来てないって何考えてんのよ!
ホントに軍人なの?
キーーー!!」
「いえもう来てもいいはずなのですが…」
キノコ頭のムネタケ・サダアキがキャンキャン叫んで
プロスがペコペコ頭を下げている。
「軍人なら三日前には乗艦するのは基本でしょうが
冗談じゃないわよ!」
「ムネタケ少しは落ち着け。
聞けばその艦長は地球連合大学を卒業したばかりらしい。
ならば私たちが教えていけばいいではないか」
「ですが提督…」
ムネタケをフクベが諭すように言うが、本人はまだまだ
言い足りないらしく、未だブツブツ言っている。
「はぁ〜…、戦艦っていうからカッコイイ男の人が
いると思って期待してたのにな〜
いるのはお爺さんにオカマさんかぁ」
通信席に座っているソバカスにお下げの女性
メグミ・レイナードがため息を吐いた。
「あら、艦長はカッコイイかもしれないわよ。
でもメグミちゃん、期待が大きいと反動も大きいわよぉ?」
操舵席に座る胸元を大きく開いたお色気お姉さん
ハルカ・ミナトが冷やかしながら言った。
「でもハルカさんだって良くない男より良い男の方が
いいですよね?」
「あら、良い男の条件なんて外見じゃないわよ?」
ハルカはそう言って肩をすくめた。
「それよりメグミちゃん、昼食に行かない?
昼食時間も過ぎてるからのんびりできるわよ」
「そうですね、ここに居てもウルサイだけですし」
メグミが同意するとミナトは先程から会話に加わらず
黙って作業をしていたオペレーター席の少女
ホシノ・ルリに声をかけた。
「よかったらルリちゃんも一緒に食事行かない?」
「いえ、まだ作業が残っていますから」
ルリはモニターに向ったままそう言った。
「え〜食事は皆で一緒に食べや方が美味しいわよ。
それにシンジくんのハンバーグランチは最高よ?」
「シンジくんって碇シンジくんですよね?
彼のハンバーグランチってホント美味しいですよねぇ
私、最初女の子と間違えちゃって…」
メグミが会話に加わりそう言った。
会話の中にシンジの名前が出るとルリは二人の方を向いた。
その時ルリは始めて会った時の会話を思い出していた。
(碇シンジさん…)
あの時自分はシンジの料理を食べに行くと行ったが、
今迄の食事は全て自動販売機のハンバーガーだった。
一度も食堂に行っていなかった。
「…」
「ルリちゃん一緒に行きましょう?」
「そうですよ、一人の食事は寂しいですしね」
「…わかりました」
再度ミナトに誘われてルリはうなずいた。
◆ナデシコ艦内食堂◆
「碇、そろそろ上がるかい?」
昼食時間もだいぶ過ぎ人も少なくなってきた食堂内を
見回しホウメイが言った。
「そうですね、夜の仕込みが終われば上がります」
そうシンジが言った時食堂のドアが開きブリッジの三人が入ってきた。
一番後ろにいたミナトはシンジに笑顔でVサインをしていた。
それに対してシンジも笑った。
実はシンジがミナトにお願いしていたのだ。
ルリはナデシコに乗艦してから一度も食堂に来ていなかった。
オモイカネに聞くと今迄全てジャンクフードで食事を済ませていたらしい。
その事を今日の朝食を取りに来ていたミナトに伝えて、このままでは駄目だと思い
お願いしてルリを食堂に連れてきてもらったのだ。
「こんにちはホシノさん。
お久しぶりです。
来てくれたんですね」
「はい」
シンジが笑顔でルリに挨拶をした。
「あれ?
シンジさんとルリちゃんって知り合いなんですか?」
「えぇ、ホシノさんをスカウトする時に僕も一緒に行ったんです」
メグミがシンジに聞くと笑顔で答えた。
「三人は何を食べますか?」
「シンジくん、今日のハンバーグランチは何かな?」
「今日は煮込みハンバーグランチですよ」
ミナトに聞かれたシンジはランチメニューを出しながら答えた。
「私はそれかな?」
「あっわたしも同じもので」
「…」
ミナトとメグミは答えるがルリは黙ったままだった。
「ホシノさんは何にしますか?
ハンバーグ以外のランチも美味しいですよ?」
何も答えないルリだが、それでもシンジは微笑んでいた。
それを見ていたミナトはルリに耳打ちをした。
「ルリちゃん、シンジくんの作ったハンバーグ美味しいわよ?
食べたら絶対気に入るから」
「そうですよ。
シンジさんのハンバーグ凄く美味しいですよ〜」
「では同じもので」
ミナトとメグミの二人に薦められたルリは同じものを頼んだ。
「わかりました、三人ともハンバーグランチですね。
持って行きますからテーブルで待っていてください」
そう言ってシンジは厨房に入っていった。
三人はテーブルに座ると料理が出てくるまでお喋りをしていた。
会話をしていたのはメグミとミナトだけだったが…
それでもミナトはルリに何度も話し掛けていた。
「碇、それを持っていったらあんたも上がりな」
シンジが出来あがったランチを持って行く時
ホウメイが言った。
「えっ
いいんですか?」
「かまわないよ」
「そうですよ、仕込みは私たちでしますから、
シンジくんは上がってください」
「「そうそう」」
ホウメイの言葉と共にテラサキ・サユリが言い
残りのホウメイガールズの四人も頷いた。
「ありがとうございます」
シンジは礼を言うと、ランチを持ってテーブルへ行った。
「お待たせしました」
シンジは三人の前にランチを置いた。
そしてランチと一緒にチェリータルトを置いた。
「あれ?
シンジくんこれは?」
ミナトが今迄出てきたことが無いタルトを不思議に思い
シンジに聞いた。
「ホシノさんが始めて食堂に来てくれましたしね。
その記念にですよ」
シンジはルリを見て微笑みながらミナトに言った。
ミナトも微笑みながら
「そっか。
いただきます」
「いただきまーす」
「いただきます」
ミナトの声に二人も続いてランチを食べ始めた。
「う〜〜〜〜ん。
相変わらずシンジくんのハンバーグは美味しいわね〜」
「ホント美味しいですね〜
何かくやしいな〜」
ミナトとメグミはランチに舌鼓を打ちながら食べていた。
「ホシノさん、料理は美味しいですか?」
シンジは黙って食べていたルリに聞いた。
聞かれたルリはシンジを見て
「はい、とても美味しいです…」
それだけを言うと黙ってしまったが
シンジはニコニコしていた。
「う〜〜ん、ごちそうさま」
「ごちそうさま〜」
「ごちそうさまです」
三人はデザートのタルトまで完食していた。
「どういたしまして」
シンジは厨房から四人分の紅茶を持ってきて
それぞれの前に置いていった。
「ホシノさん、オモイカネはどうですか?」
「はい、とても良い子です」
食後の紅茶を飲みながらシンジはルリに
ナデシコ乗ってからの事を色々聞いていた。
「そうですか。
ホシノさんも「それよそれ」
シンジが何か言いかけるとミナトが遮った。
「え?」
「シンジくん堅いわよ」
「堅いですか?」
「ルリちゃんと年も近いのに、苗字をさん付けで呼ぶなんて
堅いわよ。
名前で呼んであげなくちゃ」
「名前で、ですか…」
それにミナトは頷く。
「ルリさんですか?」
ミナトは横に首を振る。
「…ルリちゃんですか?」
ミナトはニッコリ笑って頷いた。
「ルリちゃんもシンジくんの事は名前で呼ぶこと。
いいわね?」
「はぁ…
…シンジさんですか?」
「そうそう」
ミナトはルリの事が心配だった。
最初ルリを見た時、何故こんな小さな子がオペーレーター
なのかと不思議に思いプロスに理由を聞いて愕然とした。
余りの大人の身勝手に憤慨し何かと話し掛けるが進展は全然なかった。
そしてシンジのお願いを聞いて食堂まで連れて来た時、ルリが
少しだけだがシンジとは仲が良いように感じた。
ならばルリとシンジの仲をもっと良くしようと動いた。
(そうよね、年が近い方が仲良くなりやすいわよね)
そうミナトは考えたが!
実際ルリとシンジの歳は離れすぎていた。
と言うよりもシンジは誰よりも年上なのだ。
「ルリちゃん、次からも食堂に食べに来てくださいね?
ジャンクフードは余り身体に良くないですよ?」
食堂から出るルリにシンジはそう声を掛けた。
「ですが碇さ「ルリちゃん?」
「…シンジさん」
ルリの言葉をミナトが遮った。
「もし食堂に来る時間が無かったらコミュニケで教えてください。
出前もしていますから」
「はぁ…」
シンジの言葉にルリは生返事だった。
ならばとシンジは攻める先を変更した。
ニヤリと笑い
「ミナトさん、メグミさん」
「なぁに?」
「何ですか?」
「ルリちゃんと一緒に食事に来たら、
美味しいデザート付きますよ?」
「あらら…
なら必ず一緒に来るようにするわ」
「わたしもです」
シンジの言葉に二人もニヤリと笑い答えた。
「…え?」
話の展開に付いていけずルリは困惑するが、
ミナトとメグミはルリを連れ出した。
「じゃあ夕食楽しみにしてるわね、シンジくん」
「あの…」
出て行く三人をニッコリ笑顔で送り出した。
その後就航までの三日間は三人で必ず食堂に来ていた。
◆ネルガル重工エステバリス開発部◆
アキト専用エステの回りで研究員が忙しく動き回っている。
「おい…
あとどれ位で終わるんだ?
大丈夫なのか?」
アキトが心配そうに近くの研究員に聞いた。
その研究員は笑顔で
「大丈夫です!
ナデシコ就航の直前には終わる予定ですから!」
「……はっ?」
アキトは何を言われたのか理解できなかった。
本当ならば既にナデシコに向っているはずなのだ。
「ちょっと待て!
何でそんなに時間が掛かるんだ?」
「いや、直前になってシステム回りの変更がありまして。
でも今までよりも3%性能がよくなるはずなんです
開発部の会心の出来なんです!」
「………」
「ナデシコ就航までは絶対に間に合わせますから!」
「………」
研究員はそう言うと作業に戻っていった。
「……シンジくんに怒られるーーー!!」
いつものアキトだった。
〜ナデシコ就航当日〜
◆ミスマル邸◆
「ユリカー!!」
ミスマル・コウイチロウの声が屋敷に響き渡る。
「ユリカぁ
ほら、おじさんも怒ってるよ」
部屋の前で待っているアオイ・ジュンが部屋の中に声を掛けた。
「だぁってぇ、この制服ってダサダサで決まんないんだもん」
「ふぅ、気にしたってしょうがないよ」
中から聴こえ来る声にジュンは溜息を吐いた。
「ねぇ、ジュンくん。
わざわざ連合軍辞めて付き合ってくれて本当に良かったの?」
「ユ、ユリカ一人じゃ、し、心配だから」
「さっすがジュンくん。
最高の友達だね」
「はいはい」
それに対してまた溜息…
「ユリカ!
こら、ユリカ!
学生気分もいい加減にせんか!」
「だぁってぇ…」
「だってだと!?
軍というのは時間厳守で…」
コウイチロウは部屋に入ろうとするが
「あぁ!
おじさん、今はまだ着替え中だから…
あぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
部屋の中から色々な物が飛んできた。
「ユリカ……
立派になった。
我が娘、子供と思えば、ないすばで…
ユリカ、立派にお勤め果せよ」
◆ナデシコブリッジ◆
「ちょっと何で艦長が当日になっても乗艦してないのよ!!
一体何考えてるのよ!
何遅刻してんのよーー!!
きーーーーーーーーーー!!」
「ふむ…」
「いや〜どうしたんですかねぇ…
もう着いてもいいのですが…」
艦長席の傍でムネタケが叫びまくっている。
その近くではフクベ提督が何やら考えている。
プロスは困り果てていた。
「バカばっか…」
ルリはポツリと呟いた。
「あぁ〜あ、これじゃあカッコイイ艦長でも
幻滅だなぁ」
「確かにねぇ…」
上の騒ぎを無視して下では雑談している。
「ほーんと、どんな人が来るのかしらねぇ」
「女の人ですよ?
艦長は」
ルリがポツリと言った。
「え!?
そうなのルリちゃん」
メグミが驚きルリに聞いた。
「はい。
ミスマル・ユリカ、20歳
地球連合大学在学中、統合的戦略シュミレーションの実習において
無敗を誇った逸材だそうです」
ルリがメグミとミナトの正面にモニターを出しユリカの情報を表示した。
三人は三日間一緒に食事をしていたので少しは仲良くなっていた。
ルリもミナト・メグミ・シンジの三人に対しては他の人より
多く話したりもしていた。
「へぇ〜成績は凄いんだ、でも遅刻するのはねぇ」
ミナトは苦笑しながら言った。
「そうなのよ!
軍人が遅刻するのはもってのほかよ!
一体何してるのよーー!!」
上で叫んでいたムネタケが突如下の会話に加わった。
「ムネタケ、少しは落ち着かんか。
お前も副提督だろうが、それでは下の者が不安がる」
「……すみません、提督」
フクベに言われてムネタケは深呼吸すると心を落ち着かせた。
「そうね、艦長が来るまでできる事は終わらせておきなさい」
「あーー!
ここだ、ここ。
皆さ〜ん、わたくしが艦長のミスマル・ユリカです。
ブイ!!」
「「「「ブイィ!?」」」」
ユリカが入室そうそうそう言った。
「またバカ?」
「これでみんなのハートをキャッチ!」
ユリカは得意そうに笑っていた。
ユリカを見てムネタケは一瞬で頭に血が上り叫ぼうとしたが
「敵襲・敵襲…
サセボ周辺に敵機動部隊多数接近中…
地上軍交戦に入ります」
オペレーター席に座るルリが突如報告した。
ブリッジの人間はその報告を聞き内容を理解しようとした。
「ほえ?
敵襲?
うそ〜〜!?」
ユリカは驚きぼやいた。
「通信士!
艦内放送で知らせなさい!」
ムネタケは報告を理解すると通信席のメグミに言い放った。
「は、はい!
現在敵機動部隊と地上軍が交戦中。
全乗組員は交戦に備えて各部署に移動してください。
これは訓練ではありません。
繰り返します。
在敵機動部隊と地上軍が交戦中。
全乗組員は交戦に備えて各部署に移動してください。
これは訓練ではありません」
メグミはムネタケの言葉に即座に反応すると全艦に放送で
戦闘を伝えた。
「敵機動兵器は約600。
敵の攻撃は本艦ドッグに集中しています」
ルリの報告が続いた。
「ちょっとどうにかしなさいよ!
このままじゃ上の街が壊滅してしまうじゃないの!
この艦が狙われてるなら早く移動なり攻撃なりしなさいよ!」
「ムネタケ、静かにせい」
「フクベ提督…」
フクベはムネタケを黙らせると、ユリカに向き直った。
「艦長、何か意見はあるかね?」
ユリカはずっと腕を組んで考えていたが、
フクベに問われるとこちらを見ていたミナトに言った。
「相転移エンジンを始動してください」
「りょうか〜い、ルリちゃんお願いね?」
ミナトはウインク付きでルリに頼んだ。
「はい。
相転移エンジン、始動します」
「それで艦長、その後はどうするつもりなのよ!」
ムネタケがヒステリックに叫ぶ
「本艦は準備完了次第、海底トンネルを抜けて海中へ。
その後浮上して敵を背後より主砲で殲滅します」
「なるほどな…」
フクベは頷いているがムネタケは叫んだ。
「あんたね!
主砲で殲滅はいいけど街に向ってぶっ放すつもり!?
死人が大量に出るわよっ!
それにどうやって600もの敵機動兵器を主砲射程内に
集めるつもりなのよ!!」
「それはナデシコのパイロットに囮になってもらって…」
ユリカがそう反論しようとしたが、目の前にモニターが現れ
「いねーよ、パイロットなんて」
ウリバタケが言った。
「はへ?」
ユリカはウリバタケに言われた事を理解できなかった。
ウリバタケは溜息を吐きさっきの騒動を見せた。
◆ナデシコ格納庫◆
『レッツゴー! ゲキガンガー!!
飛べ! ゲキガンガー!!』
暑苦しい男、ヤマダ・ジロウの叫びが格納庫に響き渡る。
「そこのエステバリスー!
勝手に動かすんじゃねーー!
まだメンテも終わってないんだぞ!
つうかお前は誰だーー!!」
ウリバタケの怒声も響き渡る。
『トドメは必殺! ゲキガンブレード!!』<サイズ変更+2>
エステに乗っているヤマダはウリバタケの声を無視していた。
「聞けーーーーー!!」
『でははははははは。
いやー本物のロボットに乗れるって聞かされたら、もー
一足先に来ちまった。
ふっ! 俺の名はガイ。
ダイゴウジ・ガイ!
まっガイって呼んでくれ』
ウリバタケはモニターに映るデータを見て
「あれ?
ヤマダ・ジロウになってるけど」
『ん、んん、そりゃ仮の名前。
ダイゴウジ・ガイは魂の名前、真実の名前なのさ!』
「あっそ…」
ウリバタケは呆れた声を出した。
ヤマダは更に調子にのって
『諸君だけにお見せしよう。
このガイ様の超スーパーウルトラグレート必殺技!
人呼んで!』
その掛け声を聞いたウリバタケはハンドマイクで
回りから退避するように整備員に言った。
「バカが何かするぞーーーー!!」
『ガァァァイ・スゥゥゥパァァァ・ナッパァァァァァ!!』
威勢の良い掛け声と共にエステは右拳でアッパーを決めて
天高く拳を突き出し片足で立っている。
『ふっ決まった』
ヤマダはカッコつけているが、片足で立てばそりゃもう当然
『だあぁぁぁぁぁぁ!?』
転ける…
「あぁー、やっちまった!
起こせ起こせ!」
ウリバタケは溜息を吐きながらエステのハッチを開いた。
「でーはははー!
すげーよなー、ロボットだぜ!
手があって足があって思った通り動くなんて!
何か、凄すぎってかよ」
「最新のイメージフィードバッグだからさ。
IFSさえありゃ、子供にだって動かせるけどねー」
ウリバタケは倒れたエステのチェックをしながら
適当に対応していた。
「木星人め来るなら来い!
このダイゴウジ・ガイ様が相手をしてやるぜ!!
………うぎゃ!?」
「どしたの?」
叫んでいたヤマダが呻き声をを上げたのでウリバタケは聞いた。
ヤマダはあぶら汗を流しながら
「いや、う、その、足がね?
痛かったりするんだなぁこれが…
ぐっふっふっ〜〜…」
「あ〜、おたく折れてるよ、これ」
どう見ても在りえない方向に曲がっている足を見て
アッサリとウリバタケは言った。
「なんだとーー!!
たーー!!
いたたたたーーー!!!」
「おーい、救護班呼んでくれー」
終了
◆ナデシコブリッジ◆
「「「「「………」」」」」
「つう訳だからパイロットは一人もいねーんだよ…」
「またバカ?」
全員言葉が出なかった。
ルリの言葉が痛すぎる…
「で、艦長。
あんたの作戦の要、囮はどうするのかしら?」
ムネタケはユリカに聞くがユリカも答えられない。
「え、え〜〜っと…
それはぁ〜…」
「さっさと代案出しなさいよ!
あんた艦長なんでしょう!!」
「はぁ〜、碇さんに頼まないといけませんかねぇ…」
「碇さんってもしかしてコックのシンジくん?」
上ではムネタケが叫んでいて、ユリカが頭を悩ませていた。
下ではプロスの呟きにミナトが聞いてきた。
「えぇ、碇さんはパイロット兼任なので」
「へぇ〜、そうなんだ…」
「艦長!
通信が入ってます」
通信席のメグミがナデシコに通信が入ってきた事を伝えた。
「繋いでください」
それを聞きユリカは真面目な顔になった。
メグミがブリッジに通信を繋ぐとウィンドにナデシコの黒の制服を着た男が映った。
『こちらネルガル重工・起動戦艦ナデシコ所属・ファレノプシスパイロット
テンカワ・アキト。
これより地上敵起動兵器との戦闘に入る。
作戦の概要を伝えられたし』
海上をナデシコに向かって飛んでくる機体も映った。
白をメインとしたエステバリスに似た機体だった。
「テンカワ… アキト……?」
ユリカはその名前に何か思い当たり悩んでいた。
「艦長!
ボケッとしてないで、パイロットにさっさと伝えなさいよっ!」
「は、はいぃ〜〜
それではテンカワさん… 作戦を……
テンカワ・アキト、テンカワ・アキト…
…あぁぁぁぁぁ、アキト! アキトだ!」
ユリカの叫びにアキトは少し笑った。
「ユリカ、久しぶりだな。
元気そうでよかった」
「アキトも気が付いていたんだ!
すぐに言ってくれればよかったのにー」
「ははは…
まぁ大変そうだったからな
後でもいいかと思って」
「やっぱりアキトは私の王子様だね!
ユリカがピンチの時にいつも駆けつけてくれるもんね」
「王子様ってのはちょっとなぁ〜…」
アキトは照れていた。
二人でそんな会話の後ろではムネタケがぶち切れ一歩手前だった…
下は下で
「ねぇねぇ、メグミちゃん」
「なんですかハルカさん」
「あの二人ってどういう関係だと思う?」
「友達以上恋人未満って所じゃないですか?」
「そっかなぁ〜」
「そうですよ」
「…メグミちゃん」
「…何ですか、ハルカさん?」
「カッコイイ男の子みたいだね。
希望が叶ったんじゃない?」
ミナトはニヤニヤしながらメグミを見ていた。
横ではジーっとルリもメグミを見ていた。
「……かな?」
プッツン
確かにブリッジ内にその音は響き渡った…
「あんたらいい加減にしなさい!!
これ以上下らない事続けるなら
あんたらのドタマに鉛弾ブチ込むわよっ!!!」
「「「「「は、はいっ!!!」」」」」
拳銃片手にキレたムネタケに恐れ戦き、ユリカはアキトに作戦手順を伝えた。
ユリカの頭の後ろには拳銃が向けられていながら…
『これより戦闘域に入る』
「アキト、頑張って。
私信じてるから…
アキトは私の「カチャ」
「死にたいの?」
「いえぇぇぇぇぇ…」
ユリカ半泣き…
「数が多いな…」
アキトは外部エネルギーユニットをパージすると敵起動兵器バッタ・ジョロの
群れに突っ込んでいった。
2〜3機パンチで叩き壊すと、常に移動を続けながら両腕に装備された
ハンドカノンで次々にバッタ・ジョロを落としていった。
こちらの攻撃は外れないが相手の攻撃は一つも当たっていない。
バッタ・ジョロはアキトを脅威と考えたようで、ナデシコへの攻撃は殆ど無く
ファレノプシスに雲霞の如く群がっていった。
「流石テンカワさんですなぁ」
「わぁー、すご〜い」
「ふむ、素晴しい腕だな。
連合軍のエース級だ」
「やるなテンカワ流石だ」
「わぉー、やっる〜」
ウィンドに映る戦闘を見ながら各自感嘆の声を上げる。
「やっぱりアキトは私の王「カチャ」
「何か言ったかしら、艦長?」
「いぃえぇ〜〜何も〜〜…」
「艦長、相転移エンジン準備完了。
地下ドック注水も40%まで終了」
ルリが淡々と報告する。
「わかりました。
地上はアキトを信じましょう
私たちは注入が80%に達しだい海底トンネルから海へ」
「「「了解」」」
「前よりも数が多くなってるな」
アキトは次から次へと向かってくるバッタ・ジョロを落としていった。
危険は全然なく鼻歌を歌いながらファレノプシスを操っていた。
「10分あれば殲滅も可能だが…
まっナデシコの初陣だ、華々しく飾ってもらうか」
そう考えてアキトは手を抜いて群がるバッタを指定された海上へと
誘き寄せていった。
指定されたポイントまで後10秒というところで、海面が泡立ってきた。
「指定時間通りか、流石だな」
時間通りに指定場所の海上を飛ぶと、海中からナデシコが浮上してきた。
「敵残存兵器、全てグラビティ・ブラストの有効射程内に入っています」
ナデシコブリッジでは最後の作業が行われていた。
ルリが報告するとユリカは正面を指差し。
「目標、敵まとめてぜーーんぶ!
てええぇぇぇぇぇぇ!!」
ユリカの号令と共にグラビティ・ブラストのスイッチが押された。
眼前に広がるバッタの群れに黒い光が突き刺さり空を埋め尽くす。
その光に飲み込まれた起動兵器は次々と爆発していき、
後には何も残らなかった。
「やった!」
「すっごーい」
「バッタ・ジョロとも残存ゼロ。
地上軍の被害は甚大ですが、戦死者数は10。
市街地の被害も軽微です」
ルリが被害状況を報告しているその回りにオモイカネの
ウィンドが幾つも出てきている。
『よく出来ました』
『バッチリ』
『凄い凄い』
『問題ない』
『ルリ可愛い』
等など。
「なにこの偶然…
冗談じゃないわよまったく…」
「ふむ、認めざるを得まい。
よくやった、艦長」
「まさに逸材ですなあ」
ムネタケは呆れて溜息、フクベとプロスは
ユリカの手腕を喜んでいた。
『ファレノプシスこれよりナデシコに着艦します。
艦長、許可をお願いします』
アキトがユリカに着艦許可を求めると
「はい、着艦を許可します。
…アキトー、すぐにブリッジに来てね!
待ってるから」
最初こそ真面目な顔だったがやはりユリカ。
すぐにニコニコしながらアキトに言った。
「ブリッジクルーにパイロットの紹介もありますから、はい」
ユリカの言葉にプロスも頷いた。
『了解』
言葉と共にウィンドを消して着艦準備に入った。
ついに発進したナデシコ、この先どうなるのか…
続く…
「ボク、ナデシコでセリフ無かったんだけど…」
いいじゃん別にジュンなんだし。
後書き
皆さん、こんにちは。 玖杜です。
まず今回は難産でした…
構成の時から最初の方は原作沿いのつもりでしたが、今回は中々きつかったです。
この部分だけは私の文才の限界なのですがオリジナリティが出し難かったです。
設定も話の中に入れ難かったのでTVをなぞるような話がダラダラ続いてしまいました。
すみません。
まぁ次の話からはもうちょっとオリジナリティを出す事が出来ると思います… 多分
TVをなぞるだけの話にならないように気をつけたいです。
アキトが乗っているファレノプシスはアキト専用エステバリスです。
装備等の情報は次の話の最後に付けるつもりです。
ムネタケが真正面な軍人です。
私結構ムネタケのキャラ好きなので真面目キャラにしました。
今後もムネタケは出していこうと考えています。
それとWEB拍手をくれた方・メッセージをくれた方、ありがとうございます!
凄く嬉しかったです。
感想やコメントは嬉しいですし話を書くモチベーションも上がります。
これからも頑張りますので、応援よろしくおねがいします。
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