ホシノ・ルリBirthday記念ss
機動戦艦ナデシコ
「幸せ」
another story
「さ〜さ〜の〜は〜さ〜らさら〜。」
「の〜ぎ〜ば〜に〜ゆ〜れ〜る〜。」
あたりが暗くなったとある軒先で二人の子供が笹を眺めながら歌っている。
「お〜ほしさ〜ま〜き〜らきら〜。」
「き〜んぎ〜んす〜な〜ご〜。」
今日は7月7日「七夕」である。
年のころは5,6歳といったところであろうか、男の子と女の子が幼稚園の合唱のよ
うな綺麗な声で「たなばたさま」を歌い上げた。
「あらあら、二人とも上手ですね。どこで覚えたの?」
そう言いながら彼らの母親であろう人物が軒先にやってくる。
子供たちの名前は男の子がアキラ、女の子がマミという。そして今やってきた母親が
テンカワ・ルリである。
「えへへ〜。ビックリした?幼稚園でね、みんなで歌ったんだよ。」
マミがルリにうれしそうに言う。
「そう。すごいわねマミ。」
「おか〜さん、ぼくは〜?」
ルリがマミをほめる姿を見てアキラが頬を膨らませる。
「ええ、すごいわよアキラも。」
そう言ってルリはアキラの頭をなでる。
「アキラばっかりずるい!。」
今度はマミが抗議の声を上げる。なんとも忙しい姉弟である。
「あっ・・・。」
マミが何かを思い出したのか声を上げる。そしてアキラに近づき声を小さくし耳打ち
する。
「ほらアキラ、忘れてないわよね。」
「なんのこと?」
「バカ!お母さんの誕生日でしょ!」
「あっ・・・そっか今日だったね。」
「いい?せ〜ので言うからね!」
「うん。」
「なに?二人ともお母さんには内緒の話なの?」
二人の様子を優しく見守っていたルリが二人に問う。二人は母の問いにお互い目くば
せさせる。
「いくよ?」
「うん。」
「「せ〜の」」
「「お母さん、誕生日おめでと〜!!」」
二人の声にルリは目をぱちくりさせる。しばらくそうした後、二人の言葉を飲み込め
たのか口を開く。
「ありがとう、二人とも。今日は私の誕生日だったんですね。」
そういってルリは夜空に瞬く星に視線を移す。過去を思い出すかのように・・・・
・。
火星の後継者事件から2年がたった。
連合宇宙軍をやめたルリはアキトとともに暮らしていた。
はじめはひどく落ち込み自暴自棄になっていたアキトを励ますために転がり込んだの
だが、いまやアキトは立ち直りルリの助けがなくとも何とかやっていけるぐらいには
なった。
今ルリはひどく悩んでいた、自分は必要ないのではないかと。しかし自分はアキトが
必要なのであることはわかっていた。
大切だから尊重したい。でも離れたくない。
ルリは二つの想いの板ばさみにあっていた。
「アキトさん・・・・・。」
そう誰もいない部屋でつぶやいた。7月6日のことである。
「テンカワ!チャーハンまだかい!」
「もうできます!っと。ホウメイさん、これどこですか?」
「カウンターのお客だよ!早くしな!」
ここは日々平穏。時刻はディナータイムの真っ只中。お店の賑わいも最高潮に達して
いた。
「テンカワ!次は天津飯と中華飯だよ!できるね!」
「もちろんっス!」
アキトは次々と料理をこなしながらともに住む少女、いや女性に思いを馳せていた。
「今日もご苦労だったねテンカワ。」
「ホウメイさんこそお疲れ様です。」
アキトとホウメイがお互いにねぎらいの言葉をかける。
「そういえばテンカワ、今日は少しだけ集中できてなかったね。」
その言葉を聞いてアキトは目を大きく開きホウメイを凝視する。
「わかったん、ですか?」
「わかるさ。何年生きてると思ってるんだい?」
そう言ってホウメイは豪快に笑う。
「大方ルリ坊のことだね・・・。」
「何でもわかっちゃうんですね・・・。そうです。ホウメイさんには隠し事はできま
せんね。」
そう言ってアキトは苦笑する。
「で、なにを考えてたんだい?あたしでよけりゃ聞くよ。」
「はい・・・。」
アキトは少し考えた後口を開く。
「明日、ルリちゃんの誕生日なんです。それで・・・・。」
「結婚でも申し込むかい?」
その言葉を聞き再びアキトは驚愕の表情を浮かべる。ホウメイはそれを見てニヤリと
笑う。
「やっぱりかい・・・。遅すぎたくらいさね。」
「そう、ですかね?」
「そうさ!待たせすぎだよテンカワは。」
「セイヤさんのも言われました。うじうじ悩んでないで行動しろって。」
「なにを悩んでるんだい?」
「俺なんかがルリちゃんにプロポーズしてもいいのかなって・・・・。」
それを聴いたホウメイはため息をつく。
「テンカワ・・・・それ、本気でいってるのかい?」
「なんでですか?セイヤさんにも言われましたけど・・・」
「はぁ〜・・とにかく男ならはっきりしてやんな!」
「わかりました・・・・。」
「うわっ、もう11時か。話し込んじゃったみたいだな。」
アキとは帰路についていた。右手にはなけなしの金をはたいて買った指輪が握られて
いた。
「はぁ〜、何回こうやって帰ったのかわからないな。」
ホウメイの言葉を思い出す。
「俺だって行動しようとしなかったわけじゃないんだけどなぁ・・・・」
自分の住むアパートが見えてきて指輪を握る手に力が入る。
「今日こそは言うんだ。」
アパートと指輪を交互に見ながらアキトはつぶやいた。雲ひとつない夜空には数え切
れない星が輝いていた。
「ただいま・・・ってルリちゃんなにしてんの!?」
「あ、アキトさん。お帰りなさい。」
少し沈んだ顔でアキトを迎えたルリの隣には旅行かばんがあった。
「どうしたの?それ?」
「これですか?・・・・・アキトさん・・・」
そこでルリは一度言葉を切りおじぎをする。
「今までお世話になりました。アキトさんはもう十分に立ち直りました。だから私は
もういりません。」
「ちょっと・・ルリちゃん?いってる意味がわからないんだけど・・・・」
アキトはルリの真剣な表情におされうまく言葉をつなげれずにいる。
「もう一度いいましょうか?お世話になりました。もう私がいなくてもアキトさんは
大丈夫です。」
これがルリの出した結論だった。自分は必要とされない、でも一緒にいると離れたく
ない、だからいっそ会わないようにする・・・・・。
「ルリちゃん、・・・本気なのかい?」
アキトはいまだに信じられないといった表情でルリに問う。
嘘だといってほしかった、否定してほしかった。しかしルリはうなずき肯定を表し
た。
「今までお世話になりましたアキトさん。アキトさんのところに来てアキトさんは迷
惑だったかもしれませんね。でも今日で終わりにします。では。」
そう言ってルリは部屋を出て行こうとする。
「・・・・なもんか・・・。」
アキトの口から言葉が漏れる。ルリにはなんと言ったのかはわからなかったが言葉を
発したということだけはわかった。
「え・・・?」
ルリは部屋を振り向きアキトを見る。アキトはうつむいていてルリからは表情がうか
がえなかった。
「・・・が、・・きゃ・・・・なんだ・・・。」
またもアキトの口から言葉が漏れる。しかし、またしてもルリは聞き取ることができ
なかった。
「アキトさん、なにを言ってるんですか?」
ルリは意を決して尋ねてみる。そしてアキトの顔を覗き込もうとした。
「大丈夫なもんか!」
そのときアキトが顔を上げ声を荒げて叫んだ。ルリは突然のことにあっけにとられて
しまっている。
「ルリちゃんが・・・ルリちゃんがいなきゃダメなんだ・・・。どこにも行かないで
よ・・・。」
アキトが再び顔をうつむける。その両のコブシは握り締められギリギリと音を立てそ
うである。
「でも・・・私は・・・」
ルリはアキトの言葉を聞き美しい金色の瞳を潤ませながら言葉をつむぐ、拒絶の言葉
を・・・。
「私は・・・ここにいる理由がありません・・。だから、さよならです。」
ルリはこみ上げてくる熱いものを押さえ込み言葉をしぼり出す。そして振り向き部屋
を出て行こうとした。
しかし体はルリの意に逆らって部屋の中へと引き込まれる。
「えっ・・・?」
ルリからそんな声が漏れる。
次の瞬間ルリの体はアキトの腕の中にあった。アキトがルリを体ごと引きこみ後ろか
ら抱きしめたのである。
ルリを困惑させたままアキトの言葉が静寂の部屋の中に響く。
「理由なんかなくていい・・・好きなんだ、君が。離れたくない・・・。」
アキトはルリを抱きしめる腕の力を弱めることなく言葉を続ける。
「・・・・結婚しよう。」
その言葉でルリの金色の瞳からせきを切ったように涙が流れる。
「・・・・ホント・・・ですか?」
「ああ、それじゃ、一緒にいる理由にはならないのかな?」
「・・・いえ、十分・・・です。」
ルリは流れ出る涙を一生懸命ぬぐうが、涙はとまりそうにない。そして・・・
ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・・
12時を知らせる音が鳴る。そう7月7日を知らせる・・・。
アキトはルリを抱きしめる腕を揺るめルリを振り向かせる。
「・・・誕生日おめでとうルリちゃん。」
アキトは最高の笑顔とともにルリに言葉を送る。
「ありがとう・・・ございます・・・・。でも・・涙が・・とまりません・・・・」
ルリはとめどなく流れる涙をぬぐいながら言葉を返す。体はアキトに預けたまま・・
・。
「ルリちゃん・・・はい、誕生日プレゼントだよ。」
そう言ってアキトはポケットから指輪を取り出しルリの体を離す。
「受け取ってくれるかい?」
それは美しい瑠璃色の真珠がついた指輪だった。ルリは指輪を手に取ると、自分の目
の高さまであげいとおしそうに眺めた後にアキトに差し出す。
「つけてもらえますか?」
そう言ってルリは左手を差し出す。
アキトはしっかりとうなずくと指輪を受け取りルリの左手を優しくつかみ薬指にはめ
る。
「似合ってるよ、ルリちゃん。」
「ありがとうございます。どんな贈り物よりもうれしいです。」
ルリはアキトの目を見上げながら言葉をつむぐ。涙は止まっていた。
アキトはそっとルリを引き寄せ顔を近づける。
ルリもアキトの顔が近づくのに気づき目を閉じる。そして・・・・・・
「・・・あさん。」
「・・・かあさん!」
誰かに呼ばれる声で徐々に意識が覚醒していく。
「「お母さん!」」
「あら?どうしたの?」
ルリは目線を星から自分の子供たちに移す。
「どうしたの?じゃないよ〜。」
ルリの言葉にマミが頬を膨らませている。
「お母さん、僕たちが何言っても答えてくれないんだもん。」
アキラも同様に腕を組み頬を膨らませていた。
「あらあら、ゴメンなさい。何の話でしたっけ?」
「誕生日おめでとうって話さ。」
突然ルリの背後から声が聞こえた。子供たちは声を発した人物を見て表情一変させ
る。
「「お父さん!」」
「マミ、アキラ。ご飯の準備ができたよ。」
「ホント?」
マミが目を輝かせる。今日はルリの誕生日ということでアキトが夕飯作りをかってで
た。
「やったあ!行こうマミ!」
アキラも同様に目を輝かせ、マミを促してキッチンへと向かっていく。二人ともアキ
トの作るご飯が大好きだった。
子供たちが去り、その場にはアキトとルリだけになった。
「そういえば・・・」
アキトが唐突に言葉を発する。ルリはアキトの言葉を待つようにアキトを見つめる。
「あの日もこんな夜空だったな・・・・。」
アキトは懐かしむような目で夜空を見上げた。雲ひとつない夜空にはあの時と同じよ
うに星が瞬いている。
「そうでしたね・・・。」
ルリもアキトから目線をはずし夜空を見上げる。
「ホントは誕生日を迎えてからプロポーズするつもりだったんだよ。あれじゃ順序が
逆だね。」
そう言ってアキトは苦笑する。ルリもつられて笑う。
「突然何を言い出すかと思えば出て行くだもんなぁ。」
その言葉にルリは顔を赤くする。
「だって・・・・・。」
「ルリは一人で考えすぎなんだよ。俺も人のことは言えないけどね。」
ルリの顔はますます赤みを増していく。
「いいじゃないですか。昔のことです。」
ルリの精一杯の反撃だった。アキトはそれを笑顔で受け流す。
そして二人の目が合い、どちらともなく近づいていく。
ルリはあの時と同じように目を閉じる。そして二人の距離はゼロになる。
「愛してるよ、ルリ。」
「私もです。アキトさん。」
FIN
あとがき
お久しぶりです。紅です。
「幸せ」another storyお楽しみいただけたでしょうか?
今回はルリちゃんの誕生日ということで投稿させてもらいました。
連載をほったらかして何してるんだ!という方、ご勘弁を(笑)
今回のssは言わなくてもわかると思いますが「七夕」がお話の主題です。
もちろんルリちゃんの誕生日ではありますが。そっちのがメインっぽいですね(笑)
前から7日にssを書くつもりだったのですが、学校とかの関係により気がつけば5
日(笑)
超特急で書き上げました。よって誤字脱字あるかもしれませんので気がついた方がい
らっしゃれば、お教えください。
連載のほうも書かなければ、とは思うもののなかなか時間がありません。
じゃあこれは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんね(笑)
できるだけ早くUPしたいと思っていますが、テストも始まるのでどうなることやら
・・・・。
続きを待っている方がいるかはわかりませんが、がんばりたいと思います。
それでは、連載のほうもよろしくお願いします。
ありがとうございました。
感想
紅さん早くもルリ嬢誕生日記念を作ってこられたようだね。
ふふふっ今回も紅さんはやってくださいました♪
確かに。シルフェニア内でもアキト×ルリの大家であることは間違いないね。
作品も、青春の甘酸っぱい思い出っぽい感じで決まっているし、
ルリ嬢、自分がアキトにとって必要ないのではないかと思ってしまう辺り、かなり思いつめていたようだね。
確かに私らしいしおらしさですね、アキトさんもきちんと引き止めてくれてますし♪
確かに可愛い所というか、王道を行く作品だね。
そう、王道こそわが
道!
アキトさんと私の前に開かれる道はすべからく王道となり感動の渦を巻き起こすのです!
それはどうかと思うけど(汗)
大体貴方は私への信心が足りません!
は信心って宗教じゃないんだから…(滝汗)
大大丈夫です、貴方の心の中にもルリ神教の
協議を叩き込んであげます!!
そんな宗教知らんて!
ふふふ、ならばウリバタケさんに脳改造を
してもらうとしましょう。
ひえ!? 絶対いやじゃー!!!