私は夢をみる…
それはきっと、誰でも見る夢に過ぎません…
見る夢は本人の意思や感情とは裏腹に、いい夢、悪い夢、おかしな夢、怖い夢…
色々な夢があると思います。
でも、記憶の奥底に残るのは・・・やはり・・・悪夢・・・悪意のある夢・・・
それは、何も無い空間、真っ暗闇で、だただた誰もいない…
音も、光も無く、上下左右の感覚さえも判然としない、星の瞬きさえも届かない暗黒の宇宙のように…
でも、私はそこに誰か…いえ何かでしょうか、人なのか物なのか何なのかはわかりません。
でも何かがいる…と、そう感じられるんです。
そう、あるのではなく、いる…なぜそう感じられるのかはわかりませんが…
その感覚は夢とは思えないくらい鮮烈に感じられます。
私は、それの近くからすぐさま離れなければいけないと感じるんですが、
逃げようにも、足場すらなく、
手足をばたつかせてもその場を動けず、ただひたすらにその場にいるしかありません。
そして、響くんです。
そう頭の中に直接……響いてくるんです…
<こっちに来い> と
それは<声>とでも呼ぶべきかもしれません。
言葉と気配だけしかわかりませんから…
私はその<声>から、必死に離れようと模索していますが、
次の<声>が響くと、体が動けなくなります。
そう…その<声>とは
<来れば全てが無くなる>
というもの、そして<声>はさらに響きます。
<そう全て、辛い事、苦しい事、嫌な事、悲しい事…それらの全てが、お前の存在と共に…>と
キーンと耳鳴りがするのを感じます。
それは、悪夢なのでしょう…
現に、起きた時には寝汗をかき、息を荒げているのですから…
私は私自身を肯定しています。でも…
いえ、忘れてください、ただの夢、いやな夢、そう悪夢なのですから…
機動戦艦ナデシコ
心の隙間に響く声…(前編)
「ハァッ…ハァッ…ハァ…」
私は、目覚めた後も息切れしたまま、暫く動けませんでした。
夢の中で何が起こっていたのか正確に思い出す事は出来ないのに、
それでも、もがいていた事、逃げながら逃げ切れないと感じていた事は明白に思い出せます。
自分がなぜそうなってしまったのか、分かってはいます。
でも、それを認める事はとても出来そうにありません。
否定したい事、決して認める事のできない事。
そんな事が昨日起こってしまいました。
目の前が真っ暗になるほどの衝撃、気付いた時にはミナトさんの家、ミナトさんのベッドの上だった事を覚えています。
その後、ミナトさんに寝ていなさいと言われたのを無視して、アパートに重い足取りのまま引き返し、そこでまた記憶が途切れました。
そして、目が覚めた後はただ一日中寝転がっています。
本当は、起きていたく無い、でも寝てしまえば悪夢を見ます。
でも、起きていれば考えてしまう…考えたくないのに…
心の中は、怒りも、悲しみも、後悔も何もかもが心の中でごちゃごちゃに混ざり合って
もうめちゃくちゃな気分でした…
そして私が思う事は……寂しい…という事……
心の中は千路に乱れていてもただ思う事…私…独りになってしまったんですか…?
いつも感じる狭い玄関を見れば、窓硝子に影が映り、今にも二人が「ただいま」の声と共に帰ってくる、そういう幻影すら見て…
あれから、何度か誰かから呼ばれた気がします。
目の前には、誰が作ったのか分かりませんが、食事も並んでいます。
見覚えのある顔、声、後ろ姿・・・いつもの光景のよう・・・
でも、でも、これも夢なのか・・・
もう何も分からない・・・
それは、昨日のこと…
低血圧気味の私も朝早くからおき出し忙しく動き回っていました。
今日は三日前に買ってもらったばかりの新しい服を着て、なれない愛想を振りまきながら周りの人の手伝いをしています。
とはいっても、大体の事は終わっていて今日はお客さんを迎える準備からですが。
そんな折、新郎の服を着たアキトさんがやってきました。
アキトさんは新郎の服を着てはいますが、何と言うか服に着られている感じがします。
童顔のせいでしょう、でもそれなりに見れる姿ではあります。
「ルリちゃん、そんなに忙しく働かなくてもいいよ。
もう後は義父さん達がやってくれるはずだから」
「いえ、私も親族なわけですから働かないわけには行きません。
ミスマル家もおじさまだけでは何かと不便でしょうし」
「フミさんもいるし、式場の人たちも手伝ってくれるよ。
まあ、お金も払ってるんだし式場の人たちに任せておけばいいさ。
それより、ユリカのほうを見てきてくれないか?
あの性格だから緊張してるかどうかはわからないけど、
様子を見てきてやってくれると嬉しい」
そういってアキトさんはいつもの微笑をうかべます。
私は一瞬胸が苦しくなりました。
なぜなのか、自分でもきっちりとした答えの出せない気持ち…
多分オモイカネに何度も聞いた気持ち…
でも、それはきっとアキトさんやユリカさんの重荷になる。
私は勤めて表情を変えずにうなずきました。
「わかりました」
そう短く答え、私はアキトさんから離れます。
私もアキトさんたちを祝福したいと思っていますが、
どうしてもそっけない態度になってしまいます。
そう、今日はアキトさんとユリカさんの披露宴です。
式の順序としてはどうかと思いますが、先に披露宴を行って、
新婚旅行先で籍を入れて結婚式をするみたいです。
行き先は月を経由して火星、ユートピアコロニー跡です。
やっぱり思い入れがあるのでしょうか…
式はどうしても火星で挙げたいという事でした。
アキトさん達は一緒に来ないかと言っていましたが、
やはり、お二人で行ってくるべきでしょうといって拒みました。
夫婦水入らずにしてあげたいという思いは事実ですが、
感じているもやもやの所為という事も否定できません。
そんな事を考えながら、新婦の部屋に入っていきました。
中では、純白のヴェールに包まれ光り輝くほどに白いウェディングドレスを纏ったユリカさんがいます。
私は一瞬息を止めました、ユリカさんも綺麗な人ですが、いつも感じていたものとは別種の思いが貫きます。
神々しさというのは判りませんが、何か犯しがたいものを感じさせる…そんな姿でした。
「あ、ルリちゃん。来てくれたんだ!」
「はい、アキトさんに様子を見てくるように言われたので…」
「うんうん、アキトったらてれちゃって! 自分で確認しに来ればいいのにね〜」
「そうですね、結婚式なら兎も角、披露宴なんですから、どうせ一緒に入場ですし…」
「そうだね〜、アキトもあんまり純情だと困っちゃうよ。ルリちゃんもそう思わない?」
「でも、それがアキトさんですから…」
「うん、そうだね。ナンパなアキトなんて想像もつかないし、浮気されても困るしね!」
「挙式前から浮気の心配ですか?」
「ううん、ぜーんぜん心配してないよ〜。ただ言ってみただけ♪」
「そうですか、離婚の調停までやらされるかと思いました」
「ぶぅ! ルリちゃんひど〜い!!」
「午後からは新婚旅行ですし、あんまりはしゃぎ過ぎないでください。
旅行先で昼寝してたら格好つきませんよ?」
「は〜い」
「でも、幸せになってくださいね」
「うん! ていうか、新婚旅行から帰ってきたらまた一緒に住むんだし。一緒に幸せになろうね!」
「はい」
ユリカさんを見ていると私の考えている事がちっぽけに思えます。
まあ、ただ天然なだけとも言いますが…
「私は新婚家庭にはお邪魔じゃないんでしょうか…」
「ないない! ルリちゃんはそんな事気にする事ないよ! って、もしかして新婚旅行に一緒に来てくれないのってそういう理由?」
「はい」
「だったら気にしなくていいのに…私はルリちゃんも含めて家族だって思っているから。ルリちゃんがいないと寂しいよ」
「ありがとうございます…でも…」
「駄目だよ、そんなに細かい事気にしちゃ! 子供はそういう事で悩まない!」
「はい…でも私子供じゃありません、少女です」
「はは(汗) そうでした」
私はこの二人に必要とされているのでしょうか…
その考えには答えが出た事はありません、
でも…
ここにいる事で幸せを感じているのは事実です。
もやもやが消える事はありませんが…
「じゃあやっぱ新婚旅行一緒に行こ!」
「それは駄目です。新婚旅行には夫婦水入らずで行ってもらいたいですし、こぶ付きの新婚旅行では体裁が悪いです」
「そんな事気にしないのに〜」
そうそうしている間にも披露宴の時間は刻々と近づいてきます。
コンコン…
扉を叩くその音で私達は今がいつなのか気付きました。
『ユリカ、入っても良いかね?』
「あっ、はいお父様。どうぞお入りください」
『では、失礼するよ』
その言葉と共に、ミスマルおじさまが入室してきます。
おじ様は、きちっと黒いスーツを着こなし、表情を硬くしています。
やはり、娘を嫁に出す父親の心境というのは何か特別な物があるのでしょう、
ですが、ユリカさんのウェディングドレス姿を見て、一瞬呆然としたようでした。
「…ユリカ…綺麗だ…」
そう呟きミスマルおじさまはユリカさんを見つめて動かなくなりました。
もしかして呼吸が止まったのかもしれないと、少し心配し始めた頃、
ようやくおじさまは再び動き出しました。
「ああっ…すまんな、つい見とれてしまった…
ウォッホン! あ〜
…準備は出来たかね?」
「・・・はい、お父様。後は時間を待つだけですわ」
「うむ……いつまでも可愛い娘と思っておったが、もう結婚とは…」
「いやですわ、お父様。アキトとの結婚は前から言ってたじゃありませんか」
「しかし…しかしだな…ユ〜リ〜カ〜〜!!」
「きゃ、お父様! 抱きついて泣かないでください! ウェディングドレスに鼻水がついちゃいます!!」
「あっ、おお! すまない…」
「バ…いえ、やめたんでした」
思わず口をついて出てしまいましたが、結婚式に望む親の心境ってそんなものなのかもしれませんね。
耳年魔になりますが、父親にとっての娘は歳の離れた恋人のようなものと聞いた事があります。
育っていく過程を見ていただけに離れるのは辛いとか…
まあ、家族の記憶が無い私にはわかりかねる心境ですが…
「うう…それでは、式に行くとしようか…」
「はい、お父様」
ユリカさんは会場へと向けて歩いていきます。
アキトさんとはホールで落ち合うみたいです。
アキトさんも色々と今までやってたみたいですから、時間がかかっているんでしょう。
私とおじさまは会場内に入り、親族席の方につきます。
おじ様がそわそわしているので、ちょっと恥ずかしかったですけど…
この披露宴はまるでナデシコの同窓会のようでした。
新婦側には軍人なども沢山来ていましたが、新郎の知り合いは殆どがナデシコの元クルーですから…
ウリバタケさん、ホウメイさん、ホウメイガールズの皆さん、
ミナトさんにユキナさん、アカツキさん、プロスさんに、ゴートさん。
それに、リョーコさんを含めた元エステバリス隊のみなさんや、メグミさん、エリナさんなども来ています。
説明おば…いえ、イネスさんは研究の途中との事で不参加です。
もちろん、ジュンさんは最初から挙式の手伝いをしてくれています。
友達だからねとかいいながら泣いているのを先ほど見ました。
フクベ元提督はアキトさんに嫌われているからと断りを入れてきましたが、
祝辞だけはきっちりと届けてくれているみたいです。
他にも色々な方が集まってきていましたが、覚えていません。
そもそも、興味ありませんでしたし。
そうやってみんなが席に付いた頃、披露宴が始められました…
内容はよく覚えていません、その後の事が印象に残りすぎたので、
披露宴の事が霞んでしまっただけかもしれませんが、
それでも、ナデシコの同窓会として盛り上がったのは事実だったと思います。
披露宴が終わり、新婚旅行に向かうアキトさん達の見送りを行う事になりました。
アキトさん達は例の恥ずかしい空き缶を引きずった車で空港に向けて出発していきましたから、
私達はその後を追いかけて空港に行きます。
空港についてきたのは殆どナデシコの元クルーだけだったと記憶しています。
それだけ、みなあの時の事を大切に思っているのでしょう。
私はミナトさんが運転する車で付いていく事にしました。
車の後部座席でボーっと外を見続ける私をミナトさんが見咎めたのでしょう、
唐突に話しかけてきました。
「ルリルリ。どうかした? 何か心配事?」
「…いえ、別に」
そういって、私は会話を打ち切ろうとしました。
少しだけ話すことがおっくうに感じられたので…
でも、私の隣で座る人物がそれを許してくれるはずもありませんでした。
「ちょっとルリィ! それはないんじゃない! せっかくミナトさんが心配して聞いてるのに!」
「ユキナ。私は別にいいから」
「うんうん良くない! もうイライラすんのよね〜あんたを見てると!
ほら! テンカワさんの事好きなんでしょ!
さっさと告白しちゃわないからそうなるのよ!」
「…!!?」
「あちゃー(汗)」
ミナトさんは何かうめくようにしつつ額を手で覆います。
でも、そんな事私は殆ど気付いていませんでした。
今ユキナさんに言われた事…それが、頭の中を渦巻いていたんです。
「えっ? えっ? 私何か悪い事言った?」
「もう、ユキナ! 言い方ってものがあるでしょう!」
「あっ! はう… ごめんなさい…」
「別に私に謝る必要は無いの、それよりルリルリ大丈夫?」
「…いえ、大丈夫です」
「ルリィ…本当にゴメンね…もしかして…傷つけちゃったかな…」
「そういうわけでは…ただ、思いもよらない事だったものですから…」
「え? もしかして…」
「うん、まだこの子…自覚してなかったのよ」
自覚…そうです、私は確かにアキトさんとユリカさんの前に出るともやもやする時があります。
それが、そうだったんでしょうか…
でも、私はアキトさんもユリカさんも好きだと思います。
なのに…
でも、アキトさんに自分だけに微笑んで欲しいと思う時があるのは確かです。
それがもやもやの原因だとすると…
私、アキトさんの事が好きだったんでしょうか…
「そう…なんでしょうか…私、アキトさんの事が好きだったんでしょうか…」
「う〜ん、私には何とも言えないな〜
ルリルリくらいの歳なら近くにいてくれた人でいい人がいると好きになっちゃうから。
一過性のはしかみたいなものかも?」
「…」
私がアキトさんの事を好きになったのはどういう理由だったのでしょう。
私はアキトさんの事を考えます。
覚えているのはオモイカネの敵味方認識システムの再構築の時。
あの時初めてアキトさんを意識しました。
思い込みの強い人という程度ですが…それでも、その事は悪い事には思えませんでした。
そしてピースランドにいるという父と母に会いに行ったとき。
お姫様には騎士がつきものという事がわかったときは迷わずアキトさんを選びました。
単に他の人選が考えられなかったからですが、それでも確かにアキトさんを意識し始めていたのかもしれません。
そして、一番星コンテスト…自分がバカな事をやっていると自覚しながらも、
アキトさんに対してまるで告白のような歌を歌ってしまいました。
半分わかっていたんです。でも自覚は無かった…
その時は既にアキトさんの横にはユリカさんがいたから…
「そう…なんですね、私…アキトさんの事…」
「ごめん、ルリィ…知らなかった方が良かったよね…」
「いえ、ありがとうございます。もやもやの原因がわかってすっきりしました」
「大丈夫? ルリルリ…その…空港に行くのやめる?」
「いえ、行ってください。きちんと見送りしたいんです」
「わかったわ、さっすがルリルリ! 頑張ってね。艦長には悪いけどでもこれからも一緒ならチャンスもあるかもよ?」
「不倫をそそのかすつもりですか?」
「うんうん、それくらい元気があれば大丈夫よね。
もし何だったら、アキト君たちが結婚したら私達の所に来る?」
「そうよ、それがいい。ルリィも一緒に学校通お!」
「はい、ありがとうございます。考えておきますね」
そういっているうちにも車は進み、空港に到着しました。
今の時代、空港からシャトルを飛ばします。
ナデシコの登場以来、重力制御が一般社会にも行きわたり、
大気圏脱出にロケットエンジンの大量消費も、マスドライバーによる電磁的加速も必要としないようになりましたので
普通の空港からシャトルを飛ばす事ができます。
まあそれでもロケットエンジンを積んでいないわけではありませんし、補助的には十分必要ですが…
これら、重力制御の小型、高性能化などの立役者たるネルガルは、
戦犯の烙印を押され、多額の賠償金を払わされた所為で特許料など消し飛んでしまったようですが…
空港についてから私達は正面ロビーを上がっていき、
3Fにある旅客搭乗口の手前にあるロビーまで来ています。
ちょっと前にアキトさんやユリカさんと合流したのですが、
アキトさんとユリカさんはもうタキシードやウェディングドレス姿ではなく、
少しカジュアルな感じのする真新しい服に身を包んでいます。
アキトさんたちは元ナデシコクルーの人たちと話し込んでいましたが、
私に気付くと近くまでやってきました。
「ルリちゃん、色々仕事押し付ける格好になってごめんな」
「いえ、お二人の晴れ舞台ですし、家族としては手伝わないと」
「ルリちゃんありがと! でも、無理しなくてもいいんだよ?」
「そういうわけにも行きません、それにお二人のいない間、部屋は私一人で使う事になりますので…
自分で出来ることぐらいしたいと思ったんです」
「う〜ん、本当に大丈夫? お父様の所に行ったほうがいいよ?」
「はい、どうしても駄目な時はそうさせてもらいます」
「ははルリちゃん、あの部屋気に入ってくれたのかい?
でも、義父さんもさびしがっていると思うしちょっと頼まれてやってくれないかな?」
「ミスマルおじさんの面倒をみるんですか?」
「うん、そう…あの人はほら、ユリカの事が本当に可愛かったと思うんだ、だから一人にしておくのは可哀想だし、ね?」
「…アキトさんがそういうなら…」
無自覚だと思いますが、あの顔で微笑まれると嫌とはいえません。
まあ、それほどこだわりがあったわけでも無いですし…
おじさまの話し相手くらいならいいかもしれません。
アキトさんはそれを言い終わると、また元ナデシコクルーの人たちと話しこみ始めました。
ウリバタケさんが何か言っているようですが、まあいつもの事ですし。
そうこうしているうちにシャトルの発進時刻が近づいてきました。
元ナデシコクルーはおもいおもいの言葉を投げかけて出立を祝っています。
そして、私の順番が回ってきました、というかみんなが気を利かせてくれたんですけどね。
「ルリちゃん、それじゃ、留守中いろいろあると思うけど頼んだよ」
「おみやげいっぱい買って来るからね!」
「はい…」
私は、その次の言葉をどうするかで迷ってしまいました。
言いたい事、でもいえない事…
その事も、今なら言える…
でも…やっぱり…
「ほらほら、アキト時間だよ!」
「ああ、もうこんな時間か…じゃあルリちゃん。行ってくる」
「あ…はい、いってらっしゃい」
遅刻しそうになっていた二人はあわてて搭乗口に駆け込んでいきました。
私は、その姿を見送りながらこれでよかったのだと、そう思います。
もやもやは晴れる事は無かったですが、新婚の二人にそんな事を告げることなんて出来そうもありませんし…
だから、時間が来た事にちょっとだけ感謝します。
私達は最後に二人の門出を祝う為に、シャトルの発進を飛行場の展望室から見送る事にしました。
まあ、あまり意味のある事ではないんですが…
二次会とか私は参加できませんし、これも一つのお付き合いという事らしいです。
私はミナトさんやユキナさんと一緒に展望室の外に出てシャトルを眺める事にしました。
「う〜ん、考えてみると私達あんまりシャトルの発進とか見ないわね〜」
「そりゃミナトさんは自分で運転してるもん、人のシャトルなんて殆ど見ないんじゃない?」
「そうでもないわよ、ただね、最近は学校の先生なんかやってるから、こういった光景は久しぶりっていう事もあるし…
そもそも、空港を利用した事ってあんまりないじゃない?」
「あ、それもそうだね〜」
「私達トカゲ戦争ではみんなの敵みたいなものでしたから…」
「そうよ! 考えてみれば遺跡演算ユニットの投棄って、
地球・木連両政府から見ても犯罪みたいなものなのによく出てこれたよね私達」
「それは、ネルガルの上の方から色々手を回してくれたみたいね、ルリルリはなんか知ってる?」
「さあ、アカツキさんの考えはわかりませんけど、ナデシコの戦果とか、遺跡のテクノロジーとかその辺を手土産にして交渉したんじゃないでしょうか?
少なくとも既に戦犯になっているネルガルですし、上が罪をかぶってくれれば
私たちが命令違反して投棄した事実をうやむやに出来ますし…
私達の命令違反も表に出すのは不味い物ですから…」
「ふ〜ん、さっすがルリルリ、よく事情を把握してるね〜」
「ぬぬぬ…私だってそれくらい知ってたんだから〜!」
「こらこら、つまらない対抗心燃やさないの」
「だって、なんかルリィばっか美味しいとこもってくんだもん」
ユキナさんは少しつんとしてそっぽをむいてしまいます。
ミナトさんはそれを見てクスクスと笑います…
私はそんな二人を見てきょとんとしている事しかできませんでした。
何が美味しいのか、全くわかりません。
ふざけて話しているうちにも時間はたちシャトルのエンジンに火が入った音が聞こえてきます。
今日の最後のお仕事、二人の見送りもこれで大体終わりですね。
そう思いながら、シャトルをみています。
「発進の時はやっぱ普通のエンジン使うんだ」
「はい、平行して使ってるみたいですけど、最初は重力制御が働きにくいという事です」
「まあ、発進はちょっとくらい衝撃があった方がわかりやすいもんよ」
「そんなもんかな〜?」
だんだんと、エンジン音が高まっていき加速をはじめるシャトル…
見ているだけですが、少し切ない気もします。
やっぱり私は付いて行きたかったんでしょうか…
わがまま…そういってしまえば簡単な感情…
私もかなりバカですね。
私は考え込んで少し下を向いていました。こういったことは初めてでしたから…
ちょっと戸惑いもあったんだと思います。
「あっ飛んだ…」
そのユキナさんの声を聞いてシャトルに視線を戻したその時…
突然、視界が真っ赤に染まりました…
ドオォォォォォォン!!
私は、何が起こったのか判りませんでした…
視界を染めている光も、もうもうと上がる煙のわけも、そして残骸がパラパラと降って来ているその理由も…
「な!? アキト君!!」
「艦長!!」
みんなが走りこんでいく姿を私は遠い世界の事のように感じていました。
意識が混濁し、沈んでいくように感じます…
そんな、まさか…
ドテッ…
倒れていく自分を私はまるで人事のようにしか感じられませんでした…
ただ、今起こっている事が信じられなかった…
抜け落ちていく感情と、心の冷静な部分が告げる信じられない事実を前に…私は意識を失ったんです…
なかがき
えー100万&一周年記念用自作品としてふじ丸さんと一緒に作っておりました。
メインシナリオはふじ丸さんが小説版を元に起こしてくれた物です。
私は肉付けを行っただけですので、自作品というにはおこがましいですが…
まあ、一つお許しください(汗)
直、このお話は挿絵つきです!
ふじ丸さんのイラストのついでにSSを見ていただければ重畳かと(爆)
後編は前編とは違って三枚もの挿絵がついています!
この話は私に出来る範囲で作られておりますので後半のルリの葛藤まで表現できたのかどうかかなり微妙な感じですけどね(汗)
後編は明日UP予定です。
押していただけると嬉しいです♪
感
想はこちらの方に。
掲示板で
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