「あ…
アキト、やっぱり強いんだね…」
「別に取り繕わなくて良い。俺は…」
「ううん、大丈夫! アタシも武士の家系の女だもん。人死に位は平気だよ…」
「そうか…」
「それより、急ご! 今の事はマロネーにも直ぐ伝わるだろうし、アメルちゃんやラピスちゃんが心配でしょ?」
「ああ、そうだな…」
身近な人間に気を使わせる…やはり、俺は…
いや、今は目の前の厄介事を始末するのが先だ…
後悔等何時でも出来る…
俺達はここから脱出する為、地下道を引き返す。
地下道には特に仕掛けも無いのか、特に問題無く出られた…
…しかし地下道を脱出した途端、闇の中に浮かび上がる影が有った…
俺達は身構えたが、
影はいきなりウクレレを取り出し爪弾き始める…
「メイドが死んだら何処へ行く…そりゃ当然冥土だよ…明度の低い場所は嫌い…プックク」
凍りつくような駄洒落に、俺達は一瞬白くなる…
俺はそれなりになれているが、ムラサメは完全にボーゼンとしている。
…そう…
俺達の目の前に立っていたのは、メイド服に身を包んだイズミさんだった・・・
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第四話 「メイドさんはいかが?」(後編)その3
ここはネルガル本社ビル内の一角、会長の執務室…
現在ここに集まっているのは二人だけである。
一人はこの部屋の主…キザなしぐさが似合う二枚目の男で、黒髪をロングヘアーにして垂らしている。
しかし…不思議と何処か二枚目になり切れていない、のほほんとした雰囲気を纏ってもいる。
もう一人は赤系統の色をしたベストを着ていて、フレームの厚い眼鏡と口髭が特徴の男…
いかにも<万年課長>といった感じの風体だが、何時も微笑んでいるので、簡単に考えを読ませてくれそうにない。
どちらも一筋縄ではいかない感じだ…
その二人の内、口髭の男が口を開く。
「本当にイズミさんでよろしかったのですかな?」
ロンゲの男はそれに対し、大袈裟に肩をすくめてから…
「おいおい、彼女を行かせた訳は話した筈だろ…」
「はあ、ですが…彼女はパイロットですし、SSとも何の関係もありませんが…」
「彼女がエステバリスのテストパイロットだと言う事は知っている。
ただ、君には<スキャパレリプロジェクト>の監修をやってもらわないといけないしねぇ…
適任が居ないからって戦闘訓練ばかりさせたSS達だけをあそこに放り込めば、
あのテンカワ・アキトとか言う少年を殺してしまいかねない…
だから“顔つなぎ役”が要る訳さ…」
「しかし、彼女はあまりそういう事に向いていないと思うのです…ハイ」
口髭の男は心底不安そうに表情を変える。だが、何処か本気を感じさせない表情ではある…
それに対しロンゲの男は、
「まあ、彼女に交渉まで期待している訳じゃない…
テンカワ君に対し、ある程度面識を得てくれれば良い。
彼がどういう人間か、とかね…」
「確かに、あのジョーとか言う自称ネルガルSSとテンカワ夫妻の子である
テンカワ・アキト君が同じ遺伝子を持っていたのは驚きですが…
彼に“ジョーと同じ事”が出来るかどうかは分りませんが、よろしいので?」
「もちろん。しかし、あのジョーだっけ?
彼が12万人乗せた輸送船をジャンプさせたと言う事は、
上手くすれば艦隊をジャンプさせる事も出来るということになるよね…」
「そうですな。しかし研究者達の意見によりますと、CCと強力なディストーションフィールドも必要らしいので
NERGAL−ND−001が完成しない事には次に進めませんな…
それに、彼は今明日香インダストリーに身を置いています。我々に協力してくれますかな?」
「確かに。けど、何とか協力してもらわなくちゃね」
そう言いつつもロンゲの男は口元にニヤリと笑いを浮かべている。
口髭の男はそれを見てはあ、とため息をつく…
「それで、あの島の方は如何しましょう?」
「ああ、あのネオスとか言う欠陥品の事かい?
それとも、島の方? どちらにしても僕の意見は同じさ…」
「と、言いますと…」
「ネルガルがそんなものと関わった事実は無い、と言う事」
「証拠の隠滅ですか…」
「さあ? ただ今日当たりテロ組織があの島を襲うかもね」
「…」
口髭の男はロンゲの男が父と兄の事もあって、必死でネルガルの舵取りを行っている事を知っている。
しかし、そのやり方が最近過激になりつつある事を憂慮してもいた…
――ハロン島・深夜――
眠る用意を始めていたアメジストは、屋敷の周辺が騒がしくなっている事に気付いた。
気になったアメジストはベッドを降りてトコトコと窓際に向かい、カーテンを開け…
そして、アメジストの視界に最初に飛び込んで来たのは爆光だった。
ドガーーン!!
アメジストは目を庇いながら窓の外を見た…
「何かが戦っている…?」
屋敷の周辺だけでなく、屋敷の中でも騒音が聞こえる。
アメジストはアキトとのリンクを開いてみようとしたが、不思議な感覚が邪魔をして上手く繋がらない…
しかし、彼女には繋がらない理由が直ぐに分かった。
この感覚は姉妹が近くに居る時のもの…
私の近くに居ない以上、アキトの近くに居る筈…
そう考えたアメジストはアキトの行方を知るべく行動を起そうとしたが、その時扉がノックされた。
「アメルちゃん居る〜?」
声はタカチホのものだ…アメジストは扉を開けてタカチホを招き入れた。
タカチホは部屋に入ると直ぐに周囲を見回しつつ、何かシールのような物をペタペタと貼り付ける…
アメジストが不思議そうな顔で見ていると…
「ああ、これ?
盗聴や盗撮を妨害する電波を出すシール。安心して、人体には無害だから」
「どうしたの? 今何が起こっているの?」
「おそらくネルガルのSSか、クリムゾンのSSが島を襲撃しているみたいね…
目的は証拠の隠滅と言った所かしら。
…でも、何故今なの…?」
「証拠…?」
「マロネーと二企業の内どちらかには、何か繋がりが有ったと言うことね。
例えば、資料の中に有ったネオスとかいう遺伝子改造された人間達…
あれでは、寿命が一年と持たないわ。
でもその開発費用は、マロネーの個人資産だけでは彼の家が傾いてしまう程…
あれの出資先が恐らく…」
タカチホがその事について考えを巡らせている時、とうとう屋敷にも砲撃が届いた。
ズガーー
ン!!
壁の一部が崩れ落ち、部屋に大きな穴が開く。タカチホはアメジストに覆いかぶさり、爆風をやり過ごす…
「ここも不味いわね…早急にラピスちゃんと合流して、屋敷から逃げた方が良いかも知れないわね…」
そのタカチホの言葉を聞き、アメジストはアキトの事に触れていない事に気付いた。
「アキトはやっぱり屋敷にはいない…じゃあ何処に?」
「森に行くって言ってたわ」
「森…」
「ムラサメを一緒に行かせたから心配いらないわよ。それより、今は私達の方がピンチなんだから急がないと」
「わかった」
タカチホとアメジストはそろって部屋を出て行った…
島の西の海岸線――砂浜が数十m続くこの場所に、一人のメイドが佇んでいた…
完璧に着こなしたメイド服と、ブルネットのストレートヘア・ライトブルーの瞳をしたそのメイドは、
海に向かい風を受けながら携帯通信機を取り出す。
呼び出し音が数度聞こえた後、相手が受話器を取る音がする…
「もしもし、生きてますか? アクア様」
『残念ながら生きてますわ』
心底残念そうな声でアクアが言う。アクアは昔ながらの黒電話が好きなので、
顔が映らず<sound only>となっているが、この場合その方が好都合だ。
『で? 首尾はどうなりまして?』
「はい、やはりネルガルは突入を開始するようです」
『やはり…ではその時に上手く立ち回らないと、ネルガルとお爺様の一人勝ち…いえ、二人勝ちになってしまいますわね…』
アクアが憂慮している事は大体分かる。ここでネルガルとクリムゾンが勝ち残れば、立ち向かえる様な企業は殆ど居なくなる…
その時はネルガルとクリムゾンの一騎打ちとなり、恐らく木星トカゲとの戦争は<企業の代理戦争>と化してしまうだろう…
「では、やはり…」
『コーラルと言ったかしら…その子の事、頼むわよシェリー』
「はい」
シェリーはその言葉を言い終わると、通信を切ろうとしたが…アクアの言葉には続きがあった。
『ところで、私と死んでくれそうないい男見つかった?』
「死んでくれないでしょうが、いい男なら見つかりましたよ」
その後シェリーとアクアは、半時間ほどその話で盛り上がった…
コーラルは轟音で目を覚ました…
何が起こっているのか分からない…しかし、隣りに寝ているラピスを見てハッとなる。
「私、客間で寝ちゃったんだ…またメイド長に怒られるぅ…どぉしよ〜(泣)」
思わず涙がこみ上げてくるが、更なる轟音で現実に引き戻される…
取り合えずメイド服は着ているので、そのまま起き上がり窓際に向かう。
「何? 一体何が起こっているの?」
ゴガーー
ン!!
地震でも起こったかの様に部屋が振動する…
余りの衝撃にコーラルは尻餅をついた。
寝ていたラピスも飛び起きる…
「何?」
「ワヮワヮ…分かりませんですぅ、外で何か爆発が!」
動転したコーラルが答える。
そう言われたラピスが外を見た…
「戦闘? ドウシテココで…?」
「えっあれって戦争なんです
か?」
コーラルは言われた事と微妙に違う言葉を返したが、
ラピスは無視を決め込み、アキトとのリンクを繋ごうとする…
しかし、何かに邪魔をされて繋がらない。
焦ったラピスは周辺を見回すが、そこにはコーラルが居るだけだ。
そして、取り合えずコーラルにアキトの居場所を聞いてみる事にした…
「アキトハ何処?」
「知りませんですぅ!」
ラピスも動揺していたが、コーラルは明らかに混乱していた…
仕方なく、ラピスはコーラルを促しながら部屋を出た。
『そんな事を信用しろと言うのか?』
「さあ? 私はアクア様から《伝えて欲しい》と言われた事をお伝えしているだけです」
『分かった。一応待機させておこう』
「ありがとう御座います」
『まあ、クリムゾン家のご令嬢からの依頼を無下に断る事も出来んしな…』
「それが<どんな問題児でも>…ですわね」
『はあ、メイドの君にそう言われるとはよっぽどなのだね…』
「はい…(汗)」
通信を閉じると溜め息を一つつき、
シェリーは爆光に包まれる島の中を屋敷へと急ぐ…
途中何度かネルガルのSSと鉢合わせたが、気付かれるより早く逃げ出す事に成功していた。
しかし…ネルガルはヘリや、戦闘車両等を投入してきている…
どれも良く見れば“クリムゾンと明日香インダストリーの物”ばかりを使っている事からも、ネルガルの本気が伺える…
マロネーはほぼ全てのネオスを投入してきているが、それでも20体程度しかいない。
SSを含めても100を超えないだろう…
対して、ネルガルは500人近い戦力を投入してきている。
装備にも差が有るので、例えネオスが一人十人づつ倒せたとしても、とても追いつかないだろう…
勝敗はもう決していた……
「別にマロネー様がどうなろうと私の関知する所ではありませんが、
コーラルのためにもここは急がなくてはなりませんですわね」
シェリーはそう言いながら、うまく交戦ポイントを避けつつ移動している…
「しかし、彼女の今後を如何するかと言う問題もありますし、結構大変そうではありますが…
そうだ! 手に負えなさそうなら、アキト様にお任せしてしまいましょう♪」
シェリーは暫く難しい顔をしていたが、ぽんと手を打つと、少し意地悪そうな顔をした。
そしてアキトが“どう反応するか”等と考えつつ、屋敷の中へと踏み込んだ…
屋敷の中はもう既に戦闘が始まっているらしく、銃撃音が絶え間なく聞こえているが、
シェリーにとっては無人の野を行くようなものだ。実際何度か戦闘に巻き込まれそうな所を通ったが、
彼女は両陣営の視界に納まらない位置を常にキープしていた…
そしてラピス達のいる一角を気配で探り当てると、無造作に近付き
「お久しゅうございます、ラピス様。それと…コーラルでしたわね」
深々と礼をした後、にっこりと微笑みながら挨拶をした…
ネルガルSS特別制圧班(臨時に編成されたため)の突入メンバーは、屋敷の中に突入を開始した。
しかしその中に、一人だけメイド服の女性が含まれていた…
黒髪をストレートのまま腰までたらし、前髪も長く顔の半分が隠れてしまっている。
メイド服はどうやらコスプレ用らしく、素材が違う…
その女性は突入メンバーの中でも異彩を放っていたが、本人は全く気にしておらず、
先程から何かをぶつぶつと呟いている…
(と)
「とーとつに突入を行うと、ファツニュウ…今一…ブツブツ」
それらの駄洒落を聞かされたSSは大抵行動停止に追い込
まれるので、皆少し離れている。
それでも聞こえていた不幸なSSが行動停止し、ひくひくやっている…
仕方なく別のSSが頬を張り飛ばし、
「しかりしろ! 駄洒落でやられたんじゃ死んでも死に切れんぞ! しかも味方に!」
「うう…す、すまない…俺の事は置いて行ってくれ…後は頼む…」
「だめだ! お前がやられたら、次は俺が聞かされるんだ! だから、だから…」
二人のSSが必死なのか何なのか良く分からない事をやっていると、
先程の女性が近付いてきて、ボソリと言った…
「あんた達、ホモ? …人類皆ホモサピエンス」
「うああ…!」
「うぎょー!」
女性の一言により、二人は30分程凍りついた…
タカチホとアメジストは一度ラピスの部屋を訪れたが、既にもぬけの殻だった。
次にアキトの部屋に向かったのだが、こちらにも誰も居ない…
二人は仕方なくラピスを探しながら出口へと向かう事にした…
しかし二階の踊り場まで来た所で、黒服の男達とメイドの戦いに鉢合わせてしまった。
メイドは一人だけだが、黒服の男達八人が撃つハンドガンやマシンガンの類は全く命中しない。
彼らの視線や腕の動きで射線を見切っているのだろう…
しかし、メイドの動きが急に停まる。
いつの間にか、メイドの足には弾痕が穿たれていた…
「本当は、こんな事したくないのよね…でも、
己の意思でなくとも死の川の淵に立った以上、己に降りかかる火の粉払わせていただきます」
ライフルを手に階段を上がってきたのは…
コスプレメイド服を着て、前髪で顔が半分隠れた女性だった。
顔を見た瞬間、アメジストは彼女が誰なのか気付く…
(イズミさん、如何してこんな所に…?
それに、何故メイド服?)
イズミはアメジストが驚いた顔をして見ている事を少し不振に思った様だが、
あえて話しかけず、次の言葉を紡ぐ…
「貴女達、ここは危ないわ。戦闘に巻き込まれたくなかったら、部屋に帰っている事ね」
(シリアス・イズミだ…)
アメジストはイズミが珍しくシリアスモードのままなのに気付いて、少し不思議に思う…
しかし、これで一つ仮説が成り立つ。
この頃既にネルガルのパイロットであった筈のイズミがここに来ている…という事は、
襲撃者はネルガルだろうと言う事だ…
タカチホも何か思う事があったのだろう、イズミに質問をした。
「貴方達は何者かしら…?
私、不審者の言う事は聞かない事にしているの」
しかし、今イズミに駄洒落を飛ばされてはかなわないと思ったのか、黒服の一人が飛び込んできて代わりに答えた。
「我々は<違いの分かるメイドさん同盟>
ここのメイド達が不振に消息を絶っている事を調べた結果、
ここは改造メイドを作り出している事が分かった為、天誅を加えるために参上した!」
「はあ…(汗)」
だが、彼のセンスもかなり駄目だった…
タカチホも何を言って良いのか少し戸惑ったのだが、タイミングを計ったようにイズミが割り込む。
「テンカワ・アキトって言う子を探してるんだけど…知らない?」
「何故、私達にそんな事を聞くの?」
「今この島に居るのは、私達とマロネーとその科学者、SSとメイド達、
そして…テンカワ・アキトご一行のみ」
「SSかもしれないし、メイド服を着ていないメイドかもしれないわよ」
「ここのSSは皆男だし、メイド服を着ていないメイドは私達にとって敵とは言えないわ。
今のネオスはそこのメイドみたいに直ぐに分かるし」
そこには手錠をし、鎖で足を何重にもまかれ、猿轡をかまされて、
身動きの取れなくなったメイドがもがいていたが、その目はどこか虚ろだった…
「なっ…?
これが、ネオス?
食事の時は普通のメイドに見えたのに…」
メイドのあまりの変貌にタカチホは驚く。
しかし、何処か形勢を変える糸口を探している様に、目は油断なく周囲を探っている…
その時、不意にアメジストが動いた。そしてイズミの前まで来ると、ふとイズミに聞く…
「私の事見た事ある?」
「…何?」
「なら良いの。
アキトの居場所知りたいんでしょ? 教えてあげる、付いてきて」
そして、アメジスト達はイズミを案内して、森へと向かうのだった…
森に現れたイズミさんに気を取られていたが、その外にも幾つかの気が近くに有る事が知れる。
俺は、その中にアメジストとタカチホさんの気があることに気付く。
二人からは特に緊張した気配は伝わってこない。
俺は先程の戦闘で、木連式の瞬間的筋力増強法である<纏>
を使ってしまっていた。
今はあれの短所である<反動>で手を上げるのも億劫なので、戦闘は避けたい所だ…
森の外では戦闘が行われているのだろう…夜闇が僅かに赤く染まっていた。
今ここを出れば、巻き込まれる可能性も有るな…
ムラサメはまだ凍り付いているので、暫くそのままにしておく事にして…
俺はイズミさんに事情の説明を求める事にした。
「何者だ?」
ポロローン…
「私はマキ・イズミ。
戦場に咲いた黒い薔薇…
君の手助けに来たわ」
いや、ウクレレ弾きながらシリアスされても…
…っと、ペースにはまる所だった。
「マキ・イズミ…確か、ネルガルのパイロットの中にそんな名前があったな…」
ピン…ポロン…
「良く知っているわね? 地上の方では余り知られていない筈だけど」
一応冷静は装っているものの…俺は正直かなり、
ウクレレシリアス・イズミにツッコミを入れたくなっていた…
「その言葉は、お前が“ネルガルの指示”でここに来ていると考えて良いんだな」
ポロン…ポロン…
「好きにすると良いわ…」
俺の中で会話よりツッコミが勝ったその時、森の影からアメジストとタカチホさんが跳び出してきた…
「アキト! マロネーがここに来る!」
「何!?」
マロネーの奴ここに来るという事は…
恐らくこの遺跡の<何か>を起動するつもりか、持って逃げるつもりだという事だ。
戦力的にこちらが不利なのは間違いない。
やつらが正規の方法で株を入手したのでない以上、交渉の余地は無い。
…別の意味でも交渉の余地は無くなっている。
俺があの男を殺したせいで…
しかし、あの男を改心させる方法等思いつかなかった。
交渉人やメイド達、そしてアメジスト達を弄んでおきながら、
あの男は《道具として生きる事は幸せだ》等と言ったのだ…
恐らく、何度止められてもあの男が研究をやめる事は無かっただろう。
俺達を弄んだヤマサキの様に…
しかし、俺はこの時代で初めて人を殺した。
許される事ではない。俺はいずれ裁かれねばならない…
だが、それでも…ユリカとルリちゃんとイネスさんを探し出し、
木連との和平樹立と火星の後継者の問題を解決するまでは、裁かれるわけにはいかない…
「タカチホさん、何がどの位来るか分かりますか?」
「マロネーとメイドが6人にSSが10人、皆武装しているわ!」
正直、今の俺ではメイド一人相手するのもきつい。
恐らくムラサメも同様の筈だ…
イズミさんの射撃能力は良く知っているが、タカチホに同じ事を期待するのは酷だろう…
ネルガルのSSも来ている様だが、この場には6人だけ。
…正直、勝ち目が無い…
仕方ない、息を潜めてやり過ごすか…
「この場を離れ、息を潜めて待つとしよう」
俺達はイズミさん達と二手に別れ、入り口から少し離れた所で息を潜める…
アメジストも俺の記憶の中から気配の消し方を理解したのか、気配が小さくなっている。
タカチホさんやムラサメもかなり上手く気配を消せている…
そして数分後――
マロネー達がやって来た…
先ずSSが周囲を警戒しながらやってくる。
その後に、メイド達が…
そしてメイドに囲まれるようにしながら、マロネーがその巨体を現す。
しかし、目を引いたのはそこではない。ラピスが二人のメイドに引きずられるようにしながらやって来たのだ…
そして、その引きずっているメイドというのがコーラルとシェリーである事はすぐさま分かった。
俺はラピスにリンクすべきかと考えたが、迂闊な事をすればメイド達に気付かれる…
ここはやり過ごし、相手が遺跡内部に入ってから各個撃破でいくしかないだろう。
そう思い、周囲に確認を取ろうとした時…既にムラサメが飛び出していくのが見えた。
「くそ! あれではやられるだけだと何故分からん!」
俺は怒りに打ち震えるが、タカチホがそれを止める…
「今は我々だけでも息を潜めていましょう。
向こうもここに誰かが潜んでいる事に気付いていた可能性があります。
ムラサメは囮を引き受けてくれたんです」
「そうか、すまない…」
「それは、ムラサメが帰ってきてから本人に言って下さい」
「ああ、そうだな」
むこうでもSS数人が出てきて、参戦している。イズミさんは居残り組みの様だ…
しかし動かせない腕のことを考えても、俺が囮に出るべきだたのに…
ムラサメは例の小刀二本をうまく使って、銃を相手に良く立ちまわっている。
だがそれも、SSを3人倒すまでが限界だった。
二刀の間を縫って飛び込んだメイドに肘を喰らって吹き飛ぶ…
どうやら死んではいない様だが、あれでは肋骨にひびぐらいは入っただろう…
ネルガルSSはあっという間にメイド達にやられていた。
俺は唯見ている事しか出来ない自分に怒りを覚えた…
なかがき5
実は私、今ごろPCゲームのうたわれるものにはまっておりまして、
今回、執筆が遅れたのはそのせいだったりします。
まだクリアしていないので次回も少し遅れそう…
それと、前回あんな大見得きって今回で終われませんでした、すみません。
前回フォローコメントを飛ばしたりしたせいで、今回それの処理に忙殺されてしまいました。
よって、今回は前回から殆ど進んでおりません。
では、次回こそあとがきを書ける事を祈りつつ、
これにて、失礼します。
押していただけると嬉しいです♪
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