「所で、一つ聞きたいのですけど…ルリさん、貴女も…」
「はい」
「うっ…(汗)」
「企業人が約束を破ってはいけませんよ」
「そ…そうですわね、仕方ありません。ですが今日から私達はライバルですわ」
「ええ、手加減はしませんよ」
私も本当は自覚が無い訳ではないんです。
アキトさんに直接言えるほどじゃ無いですけど…
それは、彼女も同じ様ですし…
最もユリカさんは告白する事無く迫り続けると言う
荒業を持っていましたが…
「それではホウショウ、彼女をアキトさんのアパートに案内して差し上げて」
そう言ってカグヤさんは部屋から出て行きました。
多分、かなり忙しいのでしょう。本社とナガサキ支社を往復しているのですから当然ですが…
ホウショウさんはカグヤさんが出て行くのを確認した後、私のほうを向き、
「それでは、参りましょうか」
「はい」
私はホウショウさんに付いてアキトさんのアパートに向かう事になったのです…
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その2
電車で行くつもりだったが、紅玉が新車を披露したいというので付き合う事となった。
見た目は何の変哲も無い乗用車だが、いざと言う時は300kmまで加
速できる改造車だと言う。
もとがゾク(と言うより走り屋)なので、そう言う事も得意らしい…
そんな彼女らにとって、セイヤさんは何でもカリスマだったとか。
…一寸想像出来んが…
兎に角、紅玉の運転する車に乗って行く事になった俺達は、一路ハカタシティへと向かった…
セイヤさんが営業している違法改造の店(元は自動車の修理業者だったらしい…原形を止めていないが)は、
何処だか聞いていた訳では無いが、周辺の家を破壊しまくっているので良く分かる。
屋根の半壊した家が周囲に十軒近くのきを連ねているのだから当然だが…
国道を降りて町道の方を行きながら車を進めていると、道の途中で爆発跡があり、車を進めることが出来ない…
近くに車を止めて歩く事になった俺達は、セイヤさんが周りの人からどう言われているのかを聞くはめになった。
曰く、マッドエンジニア・完成品の無い発明家・爆弾男・天才と何とかの何とかの方、
等々…
酷い言われようだが、不思議とそれ程悪意のこもった物は無い。
周囲の人々もセイヤさんの発明にどこか憎めない所を感じているらしい。
最も爆発は勘弁して欲しそうだが…
そうやって周りの人達の話を聞きつつ、セイヤさんの店へとやって来た。
店ではセイヤさんが何か作っているらしく、金属が摩擦する作業音が響いている。
俺達はシャッターをあげて、声をかけた…
「すみませ〜ん」
「失礼する」
「なっ!?」
ボッカーン!!
セイヤさんの改造していた洗濯機が爆発した…
俺は咄嗟に先に行っていた紅玉を庇う位置に移動する。
だが爆発の規模が小さなものであった為、怪我をせずに済んだ…
煙が落ち着いてきた頃、タイミングを計った様にラピス達も中に入ってくる。
「おっ? ラピスちゃんとアメルちゃんじゃねえか、わざわざ来てくれたのか?
っと、こっちはメイドとナース…ちゃんと萌えどころを抑えてる…
んで、そっちがお前達の保護者って訳か…」
「ウン、セイヤも元気ソウ」
「可愛い事言ってくれるじゃねーか」
セイヤさんがこっちをじろじろ見ている。
…仕方ないか。こっちでは初対面なんだし…
まぁ、不審に思う気持ちも分かる。
コーラルはメイド服以外は持ってないし(メイド服は十着持っているが)、紅玉はナースキャップを外していない…
やっぱり、コスプレ集団だよな…(汗)
アメジストはゴシックロリータが気に入ったのか最近はその格好ばかりだし、
ラピスは今日もサチコお嬢さんの着せ替え人形になって、ナチュラルライチのコスプレだ。
俺一人普通の格好だから逆に浮いている…
俺達はセイヤさんに案内され、応接間に通された。
最も、作業場の隣りなので直ぐだったが…
「それで、俺に何の用だ?」
セイヤさんは応接間のソファーにどっかと座り込み、腕を組んでから俺達に言った…
因みに俺達は三人用のソファーに、右からアメジスト、ラピス、俺、紅玉の順で座っている。
コーラルは
『メイドはご主人様の背後に控えるものだ』
とかシェリーに吹き込まれているらしく、俺の背後に立っている…
俺はセイヤさんに向かって頭を下げると、話を切り出した…
「先ずは先だってスーツとマントを作ってくれた事…それに、IFS端末を貸してもらった事…礼を言う」
「別に頭を下げて貰う程の事じゃねえよ。あれは俺が好きでやった事だ…
礼を言うなら、そこのお嬢ちゃん達に言うんだな」
セイヤさんは頭をかきながら誤魔化した。
らしくも無く、照れている様だ…
「ああ、そうだな。だが、あれで救われた事も確かだ」
「まあな。あれはそこらの防弾ジャケット何ぞよりは良い出来の筈だ…
最も、機能やデザインはお嬢ちゃん達の趣味の様だが…」
「やっぱりそうか…(汗)」
「ウン。ヤっぱリアキトはアの格好が良イ」
「やっぱり、必殺技は叫ばないと」
ああ、やっぱり…
アメジストは俺の記憶のせい、ラピスは環境のせい…と、それぞれ原因は違うものの…
どっちも俺のせいで変な影響が出ている…(泣)
これは、ミナトさん辺りにでも頼むしか…(汗)
いや、今回はこんな事を言いに来た訳では無いんだった。
「それで、一つ頼みがあるんだが…」
「何? …俺に?」
「ああ。一つ“作ってもらいたい物”があるんだ」
そう言いつつ俺は<ある設計図>を広げた…
ホウショウさんの運転するベンツに乗って、ナガサキシティーの道を山の手方面に向かい進みます…
何でもアキトさんの住んでいるアパートは、築4年目の新築マンションに
余った空間があったので作られた…という、おまけみたいな部屋の様です。
アキトさん曰く「今の自分は社員とは言っても仕事をしている訳では無いから、出来るだけ安い所を」との事…
まあ、テストパイロットの方はまだ少し先のようですが、
明日香インダストリー存続に大いに係わっているのですから、もっと高望みしても良いのに…
そんな所も、アキトさんらしいと言えばアキトさんらしいですが…
そう考えているうちに、その新築マンションが見えてきました。
車を降り、部屋の近くまで来て見ます。
十五階建てビルの一階、左の端っこ…
10の部屋が並ぶその隣りに、せせこましい感じの仕切りがされています。
何だか、部屋は新しそうですが…私達が昔住んでいた所と違い、
周りが良い部屋ばかりなので異様に目立っています…
アキトさん、この部屋は失敗なのでは…明らかにカグヤさんの意図を感じます…
えーっと、アキトさんの部屋の表札には…テンカワ・アキト、ラピス、アメジストとなっています。
アメジストはホウショウさんによると、私やラピスと良く似た感じの子らしいです…
多分、マシンチャイルドでしょう。アキトさんは不思議と良く出会う様ですし…
一応隣りの表札も確認してみました。コーラル・ド・マロネージュ・アイドクレーズ…長ったらしい名前ですね。
…そう言えば…アイドクレーズ家と言えば、ヨーロッパではかなりの資産家だった筈…
まあ、関係ないですね……その筈です(汗)
その隣りは、劉・紅玉…なんだか、女性の名前ばっかりですね。
もう見る気が失せました…
アキトさんの事ですから、また女の子達に囲まれている事が容易に想像出来てしまいます。
それも、自覚が無いですから止めようも有りません…
…かといって、自覚されても困るんですが…
ホウショウさんが、車を引き上げるのでこの後どうするかと聞いてきます…
私はここに残る事にしました。
単に、まだアキトさんに会っていないのに帰るのが嫌だっただけですが…
「合鍵等は渡す事が出来ませんが、構いませんか?」
「はい。それに、夜までには帰るんでしょう?」
「その筈です。遅くとも六時までには帰ると承っております」
「それなら問題ありません、早く帰ってあげてください。
カグヤさんの近くを余り離れている訳にはいかないのですよね?」
「はい。タカチホが変わりにカグヤ様のサポートを行っている筈ですが、彼女にも別に仕事がありますので…」
「それでは」
「お気遣い感謝します」
ホウショウさんはそう言い残すと、ベンツに乗って行ってしまいました。
さて、これから私は如何しましょうか…
グゥ…
…ポッ(///)
…そう言えば、昼食がまだです。近くに店は有るでしょうか…?
私は散策もかねて、食事の出来る所を探す事にしました…
アクアは買い物に出かけていた…
シチリア島は地中海に浮かぶ温暖な気候の島である。その為、シチリアでは海産物が良く取れる。
そのせいか、ここは都市としてかなりの発展を遂げていた。マフィアによる収益も無視できない物だったが…
そのマフィアがいなくなった今、この島はクリムゾン家の支配下にあるといって良いが、
決してアクアの様な有名人が一人歩きして安全という訳ではない。
しかも、シェリーを使いに出している為、護衛の者もいない…
そもそも、外出などお付が許す筈も無いのだが、アクアはこういう事には天才的に頭が働いた。
ここに連れてきている二十人のお付と十人のSSの内、半数近くに徐々に休みをやり、残った者の食事に下剤を入れて
殆どの使用人を行動不能にしたうえ、SSにはきちんと対戦相手もあてがっておいた…
「うふふ…あの人達、今頃どうしているかしら…」
遠くの方で、警察とSSがやり合っている音が聞こえている。
その音をBGMのように聞きながら、アクアはショッピングを始めた。
CDやオールドレコード、カジュアルファッション、マジック等を買う…
そうしてさらに色々な物を買った後、アクアはふと思い出したように振り向き…
「そこの人、これ重いんですけど持ってくださらない?」
振り向いたその先にいたのは、鳥打帽を目深に被り口元をマフラーで隠した小男だった…
「流石、アクア嬢…俺の気配に気付いたか」
「いえ、気配なんて知りません。でもその背格好はお爺様から聞いておりましたから…
ショウウィンドウの隅に時折写っていたのに気が付いただけです」
「ほぅ…かなり注意深い方のようだ」
「そうね、でも貴方が何者かは分かりませんけど…」
「総帥からは聞いていないのか?」
「聞いていますわ。雇ってはいるものの、油断のならない相手だと」
その言葉を、アクアはオメガに向かってずっと笑顔のまま言い切った。
それを見て、オメガも口元を歪める…
「それで…その危険人物に声をかけるとは、どう言う心算だ?」
「いいえ、言いたい事が有るのは貴方の筈でしょう?」
「ほう、そこまで読めているのか…少し貴女を見くびっていた様だ。普通に近付くべきだったか」
「そうね。私も貴方を見くびっていたわ、自分の失策を認めるなんて…そこまで出来るとは考えてなかったもの…」
二人は視線を合わせ、頷きあう。そして場所を移すため歩き始めた…
半時間ほど辺りを散策していると、住宅街の切れ目に真新しいレストラン…でしょうか?
いえ、<レストラン こうずき>と書いてあるのですが、大衆食堂の様な雰囲気が…
まあ、この際どっちでも構いません。いい加減お腹も空いているので中に入る事にしました…
「いらっしゃい。どうぞ、こちらの席が開いております」
背の高い落ち着いた感じの女性に案内されて、二脚の椅子が付いたテーブルに付きます。
中はいい感じですね。真新しいだけあって店内は清潔ですし、配置もよく考えられています…
店内には写真が幾つも貼られていました。モニターではなく、紙の写真と言う所がレトロですが…
…ん?
あれは、ラピス…もう一人はアメジストでしょうか…?
二人がウエイトレスの服に身を包み、働いている姿が映っています…
「あの…」
「ん…ああ、あの子達ね…ラピスちゃんとアメルちゃんって言うんだけど、可愛いでしょ♥」
「ええ、そうですね…」
「あ…そう言えば貴女、二人と似てるわね…」
「そうでしょうか…」
「うん。まるで姉妹みたい」
「言われてみれば、そうなのかも知れませんね」
マシンチャイルドは皆似ると言う事でしょうか…
でも、ラピスは兎も角…アメジストは少し違う様にも見えますが…?
周りの人が見たら同じなのかもしれませんね。
「あっ、気に触ったのならごめんなさい。それだけ貴女がかわいいっていうだけの事だから…」
「いえ、それより注文良いでしょうか?」
「ああ、そうだった…ごめんなさい。ただどうも、ラピスちゃんやアメルちゃんを相手にしている時のような気になっちゃって…」
はあ、この人ラピス達と大分親しいようですが…
何だか一寸私を見る目が怪しいですね…
「それで、ご注文は決まりましたか?」
「チキンライスを」
「はい、かしこまりました…」
女性が厨房に向かって歩いて行きます。
ラーメンの方が良かったのですが、在るとは思えませんし…
しかし、あのウエイトレスの女性…ラピスやアメジストの事を知っているのなら、アキトさんの事も知っている筈。
次にこちらに来た時にでも聞いてみましょう…
十分ほど経ち、先程の女性がチキンライスを運んできました。
今度は私から声をかけてみる事にします…
「あの、貴女はアキトさんの事…知っていますか?」
「ああ、アキトちゃん…やっぱり知り合いなんだ…一寸待って、私もう直ぐ休憩だから…」
「はい」
そう言うと、彼女は仕事に戻って行きました…
私は兎に角、チキンライスを制覇する事にします。
ん? 一口食べてみて、その味に気付きました。
これは…テンカワ特製チキンライスの、ホウメイさん流とは違う部分の味…
いえ、その特徴の内の一つですが…この独特な感じはそう重なる物では有りません。
もしかして、アキトさんの最初の師匠…確か、トウジさん…
ラーメン屋台を引きながら話してくれた、トウジさんを救う事が出来たんですね…
本当に良かったです。
その時…
私は、頬が冷たくなっている事に気付きました…
「大丈夫? 何か料理に問題あった?」
「いえ、何も」
私は涙を拭いながら、戻ってきていた女性に微笑みかけます。
私、こんな涙もろい人間じゃなかったんですけどね…(///)
「うっ…可愛い…」
「何か言いましたか?」
「ううん、何も…ってこれじゃ同じだ…
ははは…
そういえば…まだ名乗ってなかったよね。私オガワ・サチコ、貴女は?」
「ルリと言います」
そう言えば、まだ偽名…と言うか、偽姓を考えていませんでした。
いっそテンカワと名乗りましょうか?
…いえ、やめておきましょう…それはアキトさんに会ってからでも遅くない筈…
「ルリちゃん…で良い?」
「はい」
「ルリちゃんはアキトちゃんの知り合いなんだね?」
「そうです」
「う〜ん…最近どうも、私達の知らないアキトちゃんの知り合いが増えてるんだけど…貴女も幼馴染?」
「うーん、どうなんでしょう…」
・・・何か、変です。
アキトさんの事をこの人が“アキトちゃん”と呼ぶ筈がありません…
彼女は二十歳前後、アキトさんは二十三歳。アキトさんの方が年上なんですから…
「あの、アキトさんって今年で幾つになるんでしょう?」
「えーっと、もうすぐ十八だと思うけど?」
……え?
では…私の知るアキトさんではなく、この時代のアキトさんなのでしょうか?
でも、それではラピスが一緒に居るのは少しおかしい…
それに、明日香インダストリーを救うほどの力は<この頃のアキトさん>には無い筈…
「どうしたの? 考え込んでるみたいだけど…」
「いえ、その…最近アキトさんに変わった事は有りませんか?」
「そうね…つい最近まであの子昏睡状態だったんだけど…」
「昏睡状態!?」
「そっ。ああ、今は完全に回復してるから…最も、紅玉ちゃんはまだ安心できないって言ってるけど」
「そうですか…」
紅玉…アキトさんの部屋の又隣でしたね…
「それで、昏睡状態になった頃からラピスちゃんや、アメルちゃん、紅
玉ちゃんなんかが不思議と良く集まる様になってね…
あ、元々はその子達ジョーって言う人に付いて来ていたんだけど…
その人、アキトちゃんそっくりなのよ。まるで本人がそのまま成長したみたい…」
ジョー…ゲキガンガーに出てくるキャラの名前…
それに、ラピスがなつくのはアキトさん位の筈…
「その人! ジョーさんは如何したんですか!?」
「分からないわ。地球に来てから見ていないし…でも、一部の人はもう死んだって言ってる…」
「そう、ですか…」
アキトさんが死んだ…そんな、まさか…
いえ、死体を確認したわけでは有りません…
前も死んだと言われて生きていたんです。
今回も…きっと、生きてます。
「それで、昏睡状態から覚めた後…アキトちゃん、何か今までと違う行動をする様になったの。
今までは料理一辺倒だったのに、拳法の練習なんかをしたり、
今まであんまり使わなかったIFSでロボットのパイロットをするとか言い出したり…
それに、明日香インダストリーの社長代理とも親しいみたいだし…
何だか、無理してジョーって言う人になろうとしてるみたい。
でも、時々作る料理はとっても美味しいのよ? 父さんが店を継がないかって言うくらい…
そこで見習いしてるシゲルとは比べ物にならないわ…」
そう言って厨房の方をさすサチコさん…そこでは、茶髪の少年が皿洗いをしていました。
しかし、私はそれどころではありません。
この時代のアキトさんが…たとえアキトさんに影響されたとしても、拳法の練習などするとは思えません。
エステのパイロット等、尚更するとは思えないですし…
それに、料理という物は突然美味しくなる物では無い筈です。
やはり、会って確かめてみないと…
その後も、私達は色々とアキトさんの事を話し合いました。
そして、何故だか新製品の試食という事で“かに玉味噌煮込み”とか言う物をタッパーでもらってしまいました…
どうしましょう…兎に角アキトさんに会ったら渡してみましょうか…?
私はそう思いつつ、マンションの方に歩き始めたのです…
セイヤさんに会った帰り道…紅玉は俺に助手席を勧めてきた。
俺は、その言葉に従い助手席に乗り込む…
ラピスが膝の上に乗るとぐずったり、それをコーラルが
自分の膝に乗せると言い出したり、すったもんだしたが…
アメジストはセイヤさんに渡された<例の物>とやらに夢中になっている…
最終的にはまあ、三人とも後部座席の方に行ってくれた。
そして車を発進させた後、紅玉は話かけてきた…
「ウリバタケさんでしたっけ、かなり凄い人でしたね…」
「ああ、セイヤさんはあらゆる意味で凄い人だ…」
「それで、引き受けてくれますよね…?」
「多分な…だが、図面の事は少し怪しまれるかな」
そうだ…あの図面はセイヤさんが引いた物だ。本人なら恐らく気付く…
しかし、今頼れるのはセイヤさんだけだ。
明日香インダストリーは、ネルガル程に遺跡の知識がない…
この前の遺跡があるからこれから研究は進むだろうが、
ネルガルが既に知っている事を研究するのだから、出遅れている事は間違い無い。
俺としてはアカツキの独走を避けつつ、早い段階での木連との和平の確立を目指せれば、それで良いのだが…
その為に、明日香製ナデシコを早い段階で作り出しておきたい。その為にセイヤさんに接触したのだ…
だが、その所為でセイヤさんに警戒心を抱かせてしまった事は間違いないだろう。
「でも、<ラピス&アメルファンクラブ>ってなんです?」
「聞かないでくれ…(汗)」
「はあ…」
あれからセイヤさんとは散々話し合ったが、結局俺の監督不行き届きという事で決着が着いてしまった…(汗)
俺は少し脅しを入れてみたが、セイヤさんはその手の事になると異常な粘りを発揮した。
俺としては、今度来た時<紅玉とコーラルのフィギュア・モデル>が作成されていない事を祈るのみだ…(泣)
「それで、あの…ネオスの事なんですが…」
「ああ…」
「あれは、ジョーさんと同じ症状です。量は僅か百分の一程度なので、
ジョーさんほど酷くは有りませんが…ああいうことが起きる事はまず無い筈なんです」
「それは、どう言う事だ?」
「はい、私も不思議に思って調べてみたんですが…あれ、アメルちゃんのナノマシンと同じなんです…」
そう言って紅玉は表情を曇らせる。
俺の事やアメジストの事を心配しているのだろう…
しかし、あの男…まさかナノマシンの競合を無視して改造していたとは…
くそ! 俺は如何すれば良い…
俺の表情の変化を察してか、アメジストが心配そうに覗き込んでいる。
…手にはしっかり例の物を握り締めているが…
紅玉も、雰囲気を察して少し黙り込んだ…
「すまない、紅玉…続けてくれ」
「はい。兎に角症状の緩和を試みて、如何にか発作を押さえ込むと同時に
体の壊死も緩和させる事が出来ましたが……もって二年、
初期段階でコールドスリープに入れば、蘇生可能な時間…約十年ですが…何とかなります」
「二年…」
「それ以上の事は現状では不可能です」
「分かった…」
俺は、何とか間に合う内に治療法を見つけねばならない事を痛感した。
兎に角、イネスさんを探さなくては…
俺はその為に最優先に行うべき事を考え始めた…
私はマンションのアキトさんの部屋の前まで戻り、再び待つ事にしました。
しかし、ただ待つというのは退屈です。あくびをかみ殺すのに苦労します…
私が口元を押さえ目に涙をためていると…
「これ、ハンカチです…お使い下さいな」
「え!?」
突然背後から声をかけられました…
驚いて背後を振り向くと、そこにはメイドさんが立っていました。
ライトブルーの瞳と白い肌、ブルネットの髪をストレートにおろし、カチューシャで留めています。
服装は黒を基調としたエプロンドレス、卵形のその顔はまるで微笑を貼り付けているようです。
年齢は18、9と言った所でしょうか…
「貴女は何者ですか?」
「私はしがないメイドです」
「この付近でメイドという事自体、しがなくは無いと思いますが…」
「そうでしょうか。アキト様はいつもメイドを侍らせておりますわよ」
「なっ…」
「それよりも、貴女は随分アキト様の過去に詳しい様子」
「一体何の事でしょう?」
これは…もしかして、尾行されていたのでしょうか?
彼女は表情を変えずオーバーアクションで驚くしぐさをすると、両手を合わせ涙を流し始めました…
「先程まで、後をつけていた無礼平に平にお許しを〜…
私、主からの命令で“アキト様に一番近い方”を調べて来いと仰せつかりまして…」
「如何して私なのですか? 他にも親しい人は居る筈ですか…」
「貴女が、核心に一番近いと思ったからですわ。ルリさん…」
ドゴッ!!
その声を聞いたと思った時、私の意識は白くなっていきました…
なかがき2
ふーやっとさらわれてくれたか、うむ。
うむじゃないでしょう、私どうなっちゃうんですか。
いや、そう言うネタバレはここでは…
まあいいです、それでちゃんと満足行く結果になるんですよね。
ま、まあ…
なんですかそれは…お仕置きされたいですか?
いや、君の言う事はハードルがやたら高いからね。
当然です、こんな駄作でも見て下さる読者が居る以上手抜きをすれば殺します
よ…
うっ…また物騒な…
そんなに、ラストブリッドが欲しいですか…
いや、分かりました、きっと第五話はルリちゃんがラブラブ出来る代物にして見せます!
分かればよろしい。
はー疲れる…
やはりぶっ飛ばす事にしましょう
か…
うお…ごめんなさーい…
ピュー
ちっ、逃げられましたか…
押していただけると嬉しいです♪
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