「アメジストさんはここで待っていて下さい。偵察に行ってきます」

「うん。それも良いけど、先ず警備のシステムから私達を隠すから、一寸待って」


そう言うと、アメジストは携帯型のオペレーターIFS端末(ノートパソコンの様な形)を取り出し、

警備システムに侵入二人を警備員として登録した…


「出来たよ。これで少なくとも警備システムは騙せた筈」

「ありがとう御座います。それでは行って参ります」

「うん、でもSSはいると思うから、気をつけて」

「そのSSの存在の有無を確認するだけです。中まで入ったりはしませんよ」

「頑張って」

「はい」


そう言って、アメジストはホウショウを見送った。

ホウショウは見る間に屋敷の影に隠れてしまった…

少し気を抜いたアメジストに背後から声がかかる…


「お久しぶりですわ、アメジスト様…アキト様はお元気にしておられますか?」

「なっ?」


アメジストは再び緊張し背後を振り返るが…


「捕まえました♪」


振り向き終わる頃にはシェリーに抱き着かれていた。

アメジストは微笑みを浮かべるシェリーの腕の中で、気を失った…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その5



俺達が服を選び終わった頃、すでに日が落ち始めていた…

シチリアの日照時間は長い。夏場になれば、十五時間も日が出ている事もある。

二月では有るが、既に日が傾くのは7時近い時間になるという事…

その為、報告を受けねばならない俺達はホテルへと急いで戻った。

ラピスとコーラルの部屋に寄り、荷物を置いてカグヤちゃんの部屋へ。

カグヤちゃんのドレスが一番多かった為、運び込みも兼ねてカグヤちゃんの部屋で集まる結果となった…


「夕食位、外で食べても良かったんじゃありません?」

「そうですよぅ、食べないと元気が出ませんよぅ」

「今度、もっと時間が有る時にな…今はホウショウや紅玉達から報告を受けなければ」


それを聞いて、少し不満そうだったカグヤちゃんは肩をすくめ、表情を引き締める。


「…分かりました。私も頭を切り替える事にします」

「ありがとう。ところで、ここは盗聴の危険性はあるのか?

 盗聴器や監視カメラはラピスなら如何とでもなるが、直接見られたり聞かれると不味い」

「それは問題ありません。このホテルは明日香インダストリーの系列ですから、特別な部屋を用意させました。

 この部屋の在る棟は外部から覗けないようになっていますし、ホテルとは別回線を使っています」

「そうか、ラピス頼む」

「ウン、わかっタ」


ラピスは端末に向かい、暗号化通信を行う…相手側では自動的に解けるようになっているが、

それ以外の所で開こうとするとウイルスに化けるシステムになっている。

とりあえず、ホウショウちゃんの携帯(携帯通信端末の略)に繋ぐよう言うと、ラピスは直ぐに返事をした。


「つながっタ」

「…そうか…ホウショウちゃん報告を…ホウショウちゃん?」

『あっアキト様…』


ホウショウちゃんは茫然自失と言った感じで震えている…

かなり不味い事になっているという事か…


「如何したの? ホウショウ」

『アキト様、カグヤ様…まことに、申し訳ありません…』

「何かあったのか!?」

『…はい、アメジストさんが行方不明に…』

「な? 誰も付いていなかったのか!?」

『…私の所為です…私が、アメジストさんから離れなければ…』


ホウショウちゃんは自責の念で潰れかかっているのが分かる。

ルリちゃんに続いて二度目の失態…

精神的に限界の筈だ…

俺も“似たようなもの”だから良く分かる。

きっと、昔の俺ならこのまま怒鳴り散らして、彼女を更に追い詰めていただろう…


「いや、ホウショウちゃんの責任じゃ無いよ。

 これはアメジスト達を連れてきた俺の責任なんだから」

『え?』


俺は涙が浮んでいるホウショウちゃんの目を見据え、はっきりと言った。


「まだ終わったわけじゃない…後悔は全てが終わってからにするんだ。

 責任は俺が取る。だからきちんと作戦を遂行してくれ」

『え…あ…その…ポ(///)…分かりました…ご期待に沿え るよう頑張ります』


ホウショウちゃんは先程と違い、何か俯き加減で頬を染めている。

どうやら、少し落ち着いたらしいのだが…

俺、また何か恥ずかしい事言ったんだろうか?

その後、今後の方針を伝えて通信を終える…

しかし、いつの間にか背後に異様な気配が有るのに気付いた。

・・・まさか(汗)


「アキトさん、ホウショウの事、慰めてくれてありがとう御座います…(怒)」


カグヤちゃん…言っている言葉は丁寧なのに、怖い…


「アキト様、女の子口説くの上手ですね」


コーラル…あんまり誤解を招くような事言わないでくれ。カグヤちゃんの視線が痛い…(汗)


「アキト、“やっパり”女たらシなンだ…」


うおっ…ラピスまで…またサチコお嬢さんのせいか…


「だぁっ、今はそんな事を議論しているんじゃ無い! アメジストが行方不明なんだ ぞ!」

「「「あっ」」」


どうやら、すっかり忘れていたらしい…(汗)

兎も角…俺は一通り見回した後、言葉を続ける。


「カグヤちゃん、例の物の搬入はいつ終わる?」

「そうですわね…今日中にはトレーラーが着く筈ですわ」

「ありがとう」

「出来れば使わないで済ませて居ですわね。これを出したら最悪……」

「ああ、しかし向こうが仕掛けてきた場合、これが有ると無いとでは全く違う」

「そうですわね…」


カグヤちゃんはもう既に、この先の事を視野に入れている様だ…

しかし俺にとっては先の事と同じか、それ以上に二人の救出が優先事項だ。

その為には…


「俺は少し部屋に戻っている。先に紅玉達と連絡を付けといてくれ…」

「それは構いませんが、どうかなさったのですか?」

「いや、少し考えを纏めたいと思ってね」

「それでは、私がお手伝いしますぅ」

「いらん」

「そ!」


コーラルの言葉遣いがまた変になったが、気にせず部屋を出る…

扉を閉める前、一瞬ラピスと目が合う…俺はその眼差しに一つ頷き、部屋へともどる事にした。


部屋に着き扉を閉める。そしてベッドへと向かいながら、アメジストとのリンクを開く…



吸い込まれるように視界が暗転した…












紅玉達はドゥオーモ内に潜入…というか、観光客として入り込んだ。

クリムゾンが買い受けた今でも、ここは教会として使われたり、観光スポットとして人を入れたりしている。

元々その用途だったものを買い受けただけの物なので、アクアが泊まる区画を除いて普通に入る事が出来る。

昔あった神殿そのままの巨大な石柱を柱としたその建物を、観光客と一緒にのほほんと巡る紅玉達…

有名な青銅の扉をくぐり、右手にある回廊に出て、228本もの円柱の上部にあるそれぞれ異なったモザイクの模様を眺めたり。

内部にある案内版にコインを投入し、キリスト像がライトアップされるのを見たり。

グリエルモ2世が教会の聖母マリアに捧げる図や、

玉座の上にある、キリストの手から王冠を授けられているモザイク等を覗いたりしつつ歩く…

かなり色々まわっているのだが、全く反応が無い。

警備員やSSのあまりの無反応振りに、ムラサメは気が抜けてしまっていた…


「何か拍子抜けだね。SS達もアタシらに見向きもしないし」

「そんな事無いですよー、あのSS達の見ている方向を見てください」

「え? 何かある? って[アクアのお部屋]だって?」


SSたちの警戒している方向には、わざわざ日本語で表記されたプレートが付けられていた…


「おちょくってる! 絶対おちょくってる!」

「まあまあムラサメさん、折角ですから入れてもらいましょう」

「へ?」


紅玉は驚くムラサメを放って、そのまま扉に向けて歩き出す…

ここで二人の格好が問題になった。

二人とも今回は行動的な服装という事で、ラフな格好をしている。

紅玉は黒いパンツと、黄色いハイネックのセーター。

ムラサメはスカジャンと、Tシャツにジーパンという格好だ。

それ自体は問題では無いのだが……

紅玉は赤毛の上にいつも通り<ナースキャップ>を、

ムラサメは、布にくるんでいるものの<日本刀>を持ち歩いているのだ…


「おい、そこの二人! ここから先は立ち入り禁止だ!」


そう言ってSS達が近付いて来る。

ムラサメは紅玉と目を合わせ、一つ頷いてから飛び出した…

ムラサメが飛び込んできた事に驚いたSS達は一瞬動きを止める。

ほんの十分の一秒に満たない時間だったが、それが致命的な時間差となった…

ムラサメは一人目の懐に飛び込むと、鳩尾に刀の柄をめり込ませる…


「ゴホッ!」


そのまま流れる様に刀を払い、鞘ごと二人目の後頭部に叩き込む…


           ドガ!


三人目は慌てて銃を取り出そうとするが、

一気に間合いを詰めたムラサメに反応できず、銃で殴りかかろうとする。

ムラサメは円を描くように銃床の一撃を避わしながら、背後に回り込み…


          トス!


手刀を落とした。


全て終わるまで約四秒…

余りの速さに、他の観光客達は何が起こったのか把握し切れていない。


「あらあら、いけませんねーこんな所で寝てると風邪引きますよ〜。あちらの部屋で休みましょうねー」


そう言って紅玉達はSS達を引きずり、アクアの部屋に入る…

アクアの部屋は鍵がかかっておらず、容易に中に入る事が出来た。


「さてと…この部屋、大した物は無い様だけど…」


ムラサメは部屋を一通り見回し、うんざりした様につぶやく。

この部屋はまさに、“ステレオタイプのお嬢様の部屋”と言った感じだ…

窓は光を取り込みやすいように大きな物で、金の刺繍が入った赤いカーテンで覆われている。

天蓋つきのベッドと、大きなヌイグルミ置き場と化した枕元…

三十畳はあろうかという部屋にしては、家具らしき物は少ない。

せいぜい、ティータイム用であろう丸テーブルと椅子一脚だけだ。


「で? どうする?」

「う〜ん…凄い人ですねー、アクアさんって…」

「え? なにが?」

「彼女の<趣味>が感じられないんですよ。

 ヌイグルミに統一性が無いし、部屋も特にいじった様子も無い…

 いえ、二・三十年前には一度いじっているんでしょうけど、別に彼女の趣味じゃないでしょうし…」

「ふーん…でも、そんな事知っても意味が有るの?」

「まあ、無い事もないですけど…今すぐ役に立つ訳でもないですねー」

「じゃあ意味無いじゃん!」

「いえ、意味は有りますよ。そのヌイグルミ…」

「? ワニの…って何アレ?」

「竜でしょうか? でもその事ではなくて…」


紅玉は竜のヌイグルミを手に取り、腹の部分にあるチャックを開ける…

そこには、一冊のノートがあった。


「何なの…それ?」

「きっと、大切な物です」


そう言うと紅玉はムラサメを促し、ドゥオーモを出て行くのだった…












真っ暗だ…しかし、この暖かさは何だろう…?


まるで、体を何かに預けている様な安心感…


このまま居られたら、幸せなのだろうな…


しかし…


……





…ん?

俺は寝ているのか?

アメジストとのリンクを開いた筈なのだが…

兎に角、目を開かねば…


     …パチリ


俺は目を開け、ぼんやりと目に映る物を見た。


雪の様に白い何か…

しかし、とても暖かい…


俺はその白い物の上に頭を乗せているらしい。

更に、頭の上では白い何かが頭を撫でている…

むう、もしかしてこれは…

そう思い身じろぎすると、上から声がかかった。


「大丈夫ですか?」


その聞き覚えのある声に、俺はふと上を見上げる…

目に前に、真っ白な少女が金色の目をこちらに向け微笑んでいた。

俺は慌てて身を起すと、彼女に向き直り…


「ル…ルリちゃん?」

「え? 私の事を知ってるんですか?」


知ってるも何もって…アレ?

そう言えば今の俺、ルリちゃんより視線が低い…

…と言う事は、またアメジストの体に感覚が飛んでるって言う事か?


「すみません、つかぬ事を伺いますが…私は女性でしょうか?」

「はあ、あまり男性には見えませんけど」


…しらけた空気が漂う…


俺の言動はかなり怪しい。

ルリちゃんの事を知っていたり、自分が女か聞いたり…

アメジストごめん、きっと後で誤解は解いておくから…(汗)


「それで、貴女は誰です? 私の名前だけ知られていると言うのは不公平です」

「あー…うん、そうですね。アメジストと言いいます」

「アメジストさんですか。それで、貴女は如何して掴まったんです?」

「明日香インダストリーが貴女の救出に動いています…私もそのメンバーの一人として来たんです…」


何故俺がアメジストの自己紹介をやっているんだ…

頼む、アメジスト早く起きてくれ!

(…)

駄目か…


「ところで、アメジストさん」

「はい」

「何故私を“ルリちゃん”と呼んだのですか?」

「あ…(汗)」


やっぱり憶えてたか…さて、どう言えば納得してくれるのか…

いっそのこと、全部話してしまうか?

しかし、それでは男の尊厳に係わりそうだ…(汗)

まあ、なりふり構わない段階になったら考えるとしよう。


「アキトがそう言っていたので、つい…」

「そうですか、アキトさんが…」


ルリちゃんは目をつぶって何か考えている様だが…表情は妙に安らいでいる。

現在は掴まっているんだから、そんな余裕は無い筈なのだが…


「それでアキトさん、どうやって脱出するんです?」

「あぁそれは…って、え?」

「反応しましたね? …私を甘く見ないで下さい、バレバレです」

「ええ!? そんむ ご…うぐ…」


余りの事に俺は絶叫してしまった。

しかし、ルリちゃんはその事を予測していたのか、俺の口をふさぐ…

しばらくムゴムゴやっていたが、俺が落ち着いて来た時を見計らい手を離した。


「どうして…?」

「言動の中からの推測です。特に最初の言動が胡散臭すぎましたから」

「……(汗)」

「それで、一体どうなっているんですか?」

「ああ、それは…」


そうして、俺は今まで起った事を全てルリちゃんに話した…

ルリちゃんは俺の言った事を聞き逃すまいとする様に、真剣な面持ちで耳を傾けていた。

俺が融合した存在であり、ルリちゃんの知るアキトの肉体は死んだ事を告げた時、流石にルリちゃんも顔を伏せていた…

その後、アメジストの事や地球に来てからの事等を話し、

最後にアクアが如何してか俺に興味を持っているらしいことを話す…


「そうですか…それで私が連れ去られたという訳ですね…」

「ああ。だが、場所の特定さえ出来れば助け出せるんだが…」

「はあ、リンクが繋がっているなら如何にかならないんですか?」

「ならないことも無いが…先ずはアメジストを起さないと…」

「アメジストと言えば、どうやって繋がっているんです?」

「恐らく偶然波長が一致しただけだろう…イネスさんの言っていた<ナチュラルリンク>と言うやつだと思う」

「なら、アキトさんは如何して私とリンクしないんですか(怒)」


ルリちゃんの表情は透明な笑顔なんだが…

額の横辺りに血管が浮き出ている…(汗)


「いや、その、仕方ないじゃないか…別にしようと思ってした訳じゃないんだ」

「仕方なくありません! ラピスとリンクする前に私に言って貰えれば、私がリンクしたのに!」

「…それは無理だ。ルリちゃん…君を巻き込みたくなかったんだ…」

「でも…だったらラピスなら良いんですか?」

「良くは無い…だが彼女は自我が壊れていた。

 ラピスにとってあれが最善だったとは思えないが…

 …いや、忘れてくれ…全ては俺の責任だ。

 結局ラピスを巻き込んでしまったのは、俺なんだから…

 それにルリちゃんも…」

「私は…私はいいんです……家族…なんですから。

 苦しい時に頼ってもらってこそ<家族>だと思うんです…」

「ルリちゃん…確かにそうだと思う。だが…俺は血に塗れた手でしか、君達に接する事が出来ない…」

「じゃあ! もう料理しないんですか? テンカワ特製ラーメンは?

 アキトさんあれだけ苦労して作ったのに! …折角、味覚が戻ったのに!」


再び沈黙する。


…ルリちゃん…


目には涙をためている。

少しきつい言葉だったろうか…だが俺は…

俺が如何しようか迷っていると、ルリちゃんが俺に向き直った。

最初は俺に向かって不満そうな顔を向けていたが、

その表情が少しずつ緩んでくる…

さらに、頬がピンク色に染まってきた…?

一体如何したのだろう? 何か恥ずかしい事でもあったのか?



「アキトさん、すみません…言わせてもらって良いですか?」

「何だ?」

「その姿でアキトさんの行動をされると…異常に可愛いんですが…」

「ぶっ!?」


なっ…ルリチャンソノハツゲンハナンデスカ…

……



っと不味い、思考が止まっていた…


「突然何を言い出すんだ!」

「クスクスッ…すみません、でもアキトさん元から可愛かったですし…」

「ぶーッ! 仮にも俺は年上なんだから、可愛いって言うのは…なんか違うぞ!」

「そうですね、でも今は年下です」

「………(汗)」

「………(///)」

「…頼むからあんまり変な事言わないでくれ(泣)」

「…そうですね、からかうのはこの位にしてあげます」


何か不安が漂うが、兎に角、脱出の為の作戦を伝える…

その頃になって、ようやくアメジストが目覚めた様だ。


(…ふぁ、おはようアキト…)

(おはよう、アメジスト)

(あれ、今…私の体アキトが使ってる?)

(ああ、直ぐに主導権を返す…)

(そのままでも良いのに…)

(…いや、それは問題だろ)

(…そうだね、じゃ御願い)


俺は先ずルリちゃんに向き直り…


「今アメジストが起きた。体の主導権を戻すから…じゃあ、明日会場で」

「はい」


俺は、アメジストとのリンクを徐々に放していく…

体の主導権が移り変わり、俺は自分の部屋のベッドに戻っていた。





翌日、一度ホウショウ達と合流して情報を交換し、会場のあるエリチェへと向かう…

エリチェは北西の海岸近くに有る町だが、標高751mのエリチェ山の頂上に立っている。

町の中にはよく霧が立ちこめ、会場となっているノルマン城は一年を通じて殆ど下から見る事が出来ない…

しかし避暑地としては快適らしく、冬は人口三百人程度だが、夏は約十倍となるらしい。

現在は冬のため人が少ないので、パーティ会場設営の為の人員を送り込みやすかったのだろう。

エリチェは人で溢れ返っていた…



夕方過ぎ、ノルマン城へと到着する。

この城には別名がある。<愛と美の女神・ヴィーナスの城>というらしい…

元々ここは愛と美の女神・ヴィーナスを祀った神殿跡だったのだが、そこへ

12〜13世紀にかけて<ノルマン人の要塞(Castello Normanno)> が後から建てられた、とパンフレットに書かれていた。

俺はカグヤちゃんのエスコートをして会場へ向かう…


カグヤちゃんは、青いドレスに身を包んでいる。肩が大きく開き、胸が零れ落ちそうなデザインのドレスだ…

宝石類は良く分からないが、ネックレスもイヤリングも大きな物ばかりだ。

しかし不思議とケバケバしく見えないのは、カグヤちゃん自身が綺麗だからだろう…


俺達の後ろを、ラピスがトコトコと着いてくる…俺の服の裾を掴んでいるのはご愛嬌だ…

ラピスは髪に合わせて薄桃色のドレスを着ている。まだドレスに着せられている感が無くもないが、

白い肌や金色の瞳とも相まって、まるで妖精の様に見える…

いつもはストレートに下ろしている髪を結い上げているのも特徴的だ。


最後に深緑のドレスに身を包んだコーラルが続く…

コーラルは背の割に胸が大きいので、ドレスが胸を強調する形になってしまい、恥ずかしそうにしている。

髪はいつもと同じシャギーだが、カチューシャをしていないため新鮮だ…

だがそれよりも問題なのは…緊張癖が再発したらしく…あちこちの壁にぶつかったり、奇声を上げたりしている事だ。

おかげで何度も呼び出される羽目になった…(汗)


…会場内に入るまでに余計な時間をとった所為か、場内は既に来場客でごった返していた。

城内の施設をぶち抜く形で設えられた大きな会場に、ほぼ満杯になる程溢れている。

その殆どが政・財界の著名人や、一流と呼ばれる芸術家や芸能人だ…


暫くして、クリムゾングループの重役らが、会場に来た人々に挨拶をする。

本来なら孫の社交界デビューなのだから総帥が行うべきなのだろうが、来ていない以上どうしようもない…

その事はラピスに調べさせた時に分かっていた事だ。

挨拶が終わると、二階から赤い絨毯の敷かれた階段を下り、アクアが現れる。

叔父であり、クリムゾングループ最大の企業である、クリムゾンファクトリー社長ルベライ・クリムゾン…

総帥に最も近い男と言われているその男にエスコートされ、会場へとやって来た。

アクアが会場に現れたのを見て、来場客は割れんばかりの拍手をする。

アクアの挨拶が始まった…


「今宵は、私の社交界デビューの為のパーティにご参加下さり、心より感謝します…」


俺は少しずつアクアの方に向かう…

前回の話し合いで、俺がアクアの相手をする事が決まっていた。

カグヤちゃんは渋っていたが、アクアの近くにはシェリーが居る公算が高い…

シェリーと戦って勝てるのは、俺かムラサメ位だろう。

最もそれも、相手が正面から戦ってくれなければかなり怪しくなるが…

アクアの挨拶が終わりに近付いていた。

アクアは最初に叔父とダンスを踊った…定石というやつなのだろう…誰も誘っては居なかった様だ。

しかしそのダンスが終わると、アクアの周りは彼女を誘おうという男達で埋まってしまった…


「さて、どうやって、接触した物か…」

「簡単ですわ。アクア様の方からこちらに来られますもの」

「そうか…

 所でシェリー、せめて戦闘の時以外は気配を消して背後に立たないでくれるか?」

「あら、驚かれないのですね。つまりませんわ」


背後を振り向くと、相変わらずオーバーアクション気味にぷぅと頬を膨らませているシェリーと目が合った…


「こう見えても、気配を読むのは得意でね。それでもお前には半径5m位の所まで接近される様だがな…」

「流石はアキト様、私としても興味が尽きませんわ」

「聞きたい事が有る。何故ルリちゃんをさらった?」

「さあ…アクア様には『こちらに来て頂ける様に、誰かを呼んで置く様にしなさい』と言われていただけです」

「なら、アメジストは?」

「趣味です」

「……(汗)」

「冗談ですよ。ただアクア様の屋敷の前で見かけたもので、“保護”しただけです」

「なら、直ぐに二人を返してもらおう」

「ぶとうかいが終わるまでは駄目です」

「……まあ良い。こちらはこちらで勝手にやらせてもらう」

「そうですか、残念です…あっ、アクア様来ましたよ」


シェリーの声につられて、アクアのいた方向を向く。

そこには、ダンス相手をやんわりと断りながら俺に近付くアクアがいた…

アクアは背中の大きく開いた赤いドレスを着ている。

髪にはティアラの様なものを被り、大きなアクアマリンを中心として

全て十カラット以上のダイヤで出来たネックレスをしている…


「初めまして、私アクアと申します。

 テンカワ・アキト様ですわね…

 女性の方からのお誘いははしたないかとも思いましたが…私と踊って下さいませんか?」

「…ああ」


正直ダンスに自信が有る訳では無い。

しかしアクアの方から近付いて来てくれたのは、こちらにとってもチャンスだ…


スローテンポなワルツが流れ始める。

ダンスを始める人々の脇で、オーケストラが演奏している…


アクアは俺を連れてダンス場の中央まで進みでると、優雅に一礼する。

俺も一応礼を返し、アクアが腕を取るのに任せた。

アクアがゆっくりステップを踏み始める…俺はその気配に合わせて体を動かす…


「お上手ですのね…」

「いや、俺は合わせているだけだが…」

「そうですの、それでも凄いですわ…」


アクアがころころと笑う…

そろそろ本題に入るべきかと俺が考えていると、


「そう言えば、お名前をお聞きしていませんでしたわ」

「知っているだろう?」

「あなたの口からお聞きしたいんです」

「テンカワ・アキトだ…」

「アキト…良い響きですわ…これからアキトと呼んでもよろしいかしら?」

「別にかまわないが…質問に答えてもらえるだろうな?」

「ホシノ・ルリと同じ遺伝子を持つ少女と、アメジストと呼ばれる遺跡で発掘された少女の事ですか?」

「…そうだ」


良く調べている…これが本当にあのアクアなのか…?

前は騙されて食べた料理にしびれて、殺されかけただけだったが…(汗)


「では、まだ答えられませんわ。パーティーの終わりまで楽しんでいって貰わないとなりませんもの」

「貴様の悪ふざけに付き合う気は無い!」

「ですが、今はそれ以外方法は無いでしょう?」

「…良いだろう。だが覚悟しておけ、俺は許すつもりは無いからな」

「まあ、怖い…」


アクアは笑顔のまま俺の殺気を流す…

やはり、ただでは済みそうに無いな。

そう思いながら俺はアクアにあわせ、ワルツのステップを踏むのだった…











なかがき5


さあ、とうとうぶとうかい開幕だ…資料を読み漁っても今一つ要領を得んのだが…まあ良いか今までだってそうだったし…

良い訳無いでしょう!大体貴方の SSは行き当たりばったり過ぎるんです!むしろ今まで崩壊しなかったのが不思議な位…

いや、そんなこと言っても実力なんてそう直ぐに付くもんじゃなし、勢いで行くしか無いじゃないか。

勢いだけで行くから長いって言われ たり、いつになったらナデシコが出航するんだって言われたりするんです!

むむぅ…

そんな悩んだフリをしても何にも考えていないのはお見通しです!

何故分かった!?

フン、作品を見ていれば何にも考えて無いことくらい分かります。

そんな事無いぞ!伏線も嫌って言うほど張ってあるし、どんでん返しも予定している。

伏線全部把握してますか?どんでん 返し?そんな事したらナデシコSSじゃ無くなってしまうんじゃないですか?

そ…そんな事無いぞ…

怪しいですね…

とっ兎に角だな早く五話を終えて…

そう言えば…今回の私とアキトさん の出会いは何だったんですか!あれじゃ完全にお笑いじゃないですか!

いや、それはだな…

それは?

ただ再会するんじゃ面白くないかなと思って…(汗)

そんな筈無いでしょう!離れ離れに なってやっと会えた二人が永遠の愛を誓い合うんです!簡単にギャグにして良い所ではありません!

永遠の愛…(滝汗)

そんなことも分からないんですか!私とアキトさんの愛の前には全てが霞んでしまうんです!

わっ…分かりました…兎に角、次の再開シーンではもう少し良い感じになる様努力します…

そんなの当たり前です!貴方程度で は私とアキトさんの愛の軌跡の1%も表せない でしょうがこの際我慢しているのです、死ぬ気で書きなさい!

は…はひぃ…(こっ…殺されるー!)



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.