アキトは最初驚いた顔をしたが、やがて力無く笑うと…
「そうか。やっぱり今の俺には難しかったかもな…」
「待ってください! 確かにアキトさんのラーメンは薄くなってしまっていますが、決して不味いと言う訳ではありません…」
「だが、俺は…」
「何うだうだやってんだい! 一回失敗しただけだろ!
それに概ねみんな満足しているじゃないか!
何が自信ないのかは知らないけど、料理は経験と愛情! それに伴う自信さ…
腕が良くても自分の料理に自信が持てなければ失敗しちまうもんさ…だから、もっと経験を積みな!」
ホウメイはアキトの背中を叩き、嬉しそうに笑った。
それを見てアキトも表情を崩し、ホウメイに言葉を返す…
「そうですね…頑張って、また作ってみます」
「うん。また私、味見してあげるからね!」
「ああ」
「それじゃあ、次は私も手伝います」
「ルーミィちゃんそれずるい! 私も手伝う!」
「お前は止めとけ」
「えー!? そんなー!!」
「バカばっか」
わいわい、がやがやと、アキトの周りは喧騒が絶えない…
ルリは精神安定剤を貰おうかどうか、本気で考えたくなってきた。
平和な空気が漂う中、サツキミドリの休暇はこうして終わったのだった…
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第十話 「ルリとルリの『航海日誌』 」(中編)
ナデシコはエスカロニアとのドッキングを果たし、火星へと向かって出航しました…
私は今回の事を仕組んだテンカワさんやミルヒシュトラーセさんの意向は良く分かりませんが、
ナデシコは今回のドッキングで相転移エンジンの出力を大幅に上げたのは間違いありません。
ネルガルの目の役目をしているプロスさんも今回の事には気を良くしている様で、
いつもの電卓を叩きつつ、嬉しそうにしている様に見えます…
「これで食費や弾薬、整備の費用がかなり浮きそうですね…我が社としても、願ったりかなったりです」
「プロスさん…ナデシコの経費まで明日香インダストリーに払わせようとしてません?」
「いえ、別に。ただエスカロニアやテンカワさんの係るような部署は多いですので、
どうしても“あいまいな線”が出来てしまうのですよ。ハイ」
「はあ、そんなものでしょうか?」
「ハイ、そんなものです」
多分プロスさんはここぞとばかりに、色々お金を請求するんでしょうけど…ま、私にとってはどうでもいいことです。
今の所、ナデシコは順調に火星へ向かっています。
特にドッキングによる問題は発生していません…ほぼ完璧に、エスカロニアとのエネルギー循環が行われています。
よほど綿密に調整しなければこんな突然の改造が上手く行く筈がないのに…
しかし、何故明日香インダストリーは詳細なナデシコの知識を持っていたんでしょう?
テンカワさんやミルヒシュトラーセさんも、その事に関しては教えてくれません…大人ってなんか嫌です。
でも、オモイカネはお友達が出来たので嬉しそう…
ヤゴコロオモイカネはミルヒシュトラーセさんのお友達です。
オモイカネに聞いた限りでは同じ神様の別名だとか。
周囲の監視は二人で交代しながらやっている様です…
そういった事情はさておくとして…兎に角、ナデシコはパワーアップしました。
加速・減速の速度は約1.3倍。ディストーションフィールドやグラビティブラストの威力は約1.5倍…
更に、砲身の加熱を気にしなければグラビティブラストの連射も可能です。
エスカロニアの船体は大部分が相転移エンジンを詰め込む為に使われているので、
整備や修理は全てナデシコ整備班任せですが、メリットの方が多いのは間違いありません。
現に火星までの距離はナデシコで普通に加速しても二週間かかる距離ですが、現在の加速なら十日前後で着いてしまいます。
まあ、そんな訳で散発的な敵の攻撃等ではディストーションフィールドが揺らぐ事も無いのですが…
その所為もあって、私達…結構暇です。
そういった状態の所為か、私がゲームをやっているのを見咎め、艦長がやってきます。
因みに私がやっているゲームは、大昔に流行ったテトリスというゲームを自分なりにアレンジして作った物です…
題して、アイがいっぱい…ちょっと、周囲に対する皮肉の意味も込めてるんですけどね。
「ねえねえルリちゃん…何やってんの?」
「ゲームです」
「ふーん…落ちゲーの一種みたいだけど、目痛くならないのかな?」
確かに、漢字を見分けて落とすのは集中力が要りますが…私の場合、IFSでいつもやっている作業が
基本的に集中力の要る作業なので、こういった事はわりと得意です。
尤も…隣の艦長はもう目が痛くなったみたいで、眉間 に指を当てていますが…
「こういうのも慣れです」
「そうなんだ…アハハ(汗)」
「でも、どうしたんですか? 艦長」
「うん、何かヒマだな〜って」
その時、警戒アラームがなり始めました。
どうやら、バッタの小集団が接近しているようです…
「敵、攻撃」
「え!? どこどこ!? 迎撃…」
「いりません。ディストーションフィールド、順調に作動中…
…隕石コロニーサツキミドリ二号での戦い以来、木星トカゲが本格的な攻撃を仕掛けて来ないのは
ナデシコに対する<偵察>の意味合いが濃い為だと思います。
恐らくこの船の能力を把握するまで…少なくとも制空権の確立した火星までは、
攻撃は挨拶程度の物になると思いますが…艦長はどう思います?」
「あなた、鋭いわね。子供なのに…」
「私、少女です」
とりあえず、私は間違いを訂正しつつレーダーを再度確認していると、またレーダーに引っかかりました…
中途半端な攻撃をするぐらいなら、火星に戦力を集中すればいいのに。
「攻撃第二波、フィールド出力安定…」
「…そっかぁ。私、火星までは暇なんだ…あ〜あ…」
「艦長、邪魔です。自分の席に着いてて下さい」
「は〜い」
コンソールに腰を下ろす艦長に注意してみますが、何だか上の空な感じです…
一応艦長席の方に戻っていきましたが、何だかぼんやりしている感じです。
…また、テンカワさんの事でも考えているのでしょうか?
「失礼します」
その時、ミルヒシュトラーセさんがブリッジに入ってきました。
私達ブリッジクルーの視線が集中します…もっとも、今居るのは私と艦長とリリウムさんの三人だけですが…
因みに、リリウムさんはメグミさんの交代要員として通信士もやってくれています。
リリウムさんは、やる事がないから丁度良いと言っているのですが…通信士の資格なんていつ取ったんでしょう?
兎に角、ミルヒシュトラーセさんは私達に一斉に睨まれる事となりました…もっとも視線の向け方は三者三様で、
ユリカさんは呆然としつつも何か言いたそうな感じ…
リリウムさんは対抗心が見受けられます。
私も何故なのか分かりませんが、彼女の前では胸が少しもやもやします…
ミルヒシュトラーセさんはそう言って、私たちの視線を知ってか知らずか
私の方に無造作に近付いて来ると、私に話しかけてきます。
「ホシノさん、ドッキング後のトラブルは起こっていませんか?」
「問題ありません」
「そうですか…もし何かあったら知らせてくださいね。今の内にそういった事への対応を考えておかないといけませんし…」
「分かりました。問題が起こった時はお知らせします」
ミルヒシュトラーセさんは無表情にそれらの事を確認します。私もこんなに無表情なのでしょうか…?
いえ、彼女はまだテンカワさんの前では良く表情を変えます。でも私は…
「…」
そういった表情は流石に表に出ていたのでしょうか…
ミルヒシュトラーセさんは、
「気を落ち着けて下さいホシノさん。心配しなくても、貴女は私よりも明るい人になれますよ」
「え?」
何故考えている事が…?
今度ははっきりと顔がこわばるのが分かりました…
それを見てミルヒシュトラーセさんは力無く微笑むと、少し言い辛そうにしながら話し始めました。
「私もそういう事がありましたから…でも、
私がそう考える様になったのは、貴女よりもずっと後。
十三歳になってからですが…」
この人もそんな事を考えることがあったんだ…
私は不思議に思いました。
ミルヒシュトラーセさんは何をさせても完璧で、まるで悩み事が無いように見えましたから…
「そうなんですか。ミルヒシュトラーセさんはそんな事で悩まないと思っていましたが…」
「昔はそうだった事もあります。でも<振り向かせたい人>が、出来てしまいましたから…」
出来てしまった…等と言いつつも、彼女からは嬉しそうな雰囲気が漂っています。
しかし、ミルヒシュトラーセさんがそういう状態になるのに合せて、
艦長とリリウムさんが落ち込んでいく様に見えるのですが…(汗)
「振り向かせたい人、ですか?」
「はい。でもその人を振り向かせるには、私は出遅れすぎましたから…今必死に追いかけている所なんです。
…貴女も、もう少しすれば分かるかもしれませんよ?」
ミルヒシュトラーセさんはそう言うと、私に向かって悪戯っぽく微笑みました…
でも、正直私はバカの仲間入りした自分が想像できなかったので、会話を終わらせる事にしました。
「はあ。大人の事情と言うのは正直良く分かりません…私少女ですから」
「あら、私も少女ですよ」
ミルヒシュトラーセさんはそのまま悪戯っぽい表情をしています…からかわれたのでしょうか?
やはりこの人は苦手です…思わずため息が出てしまいました。
「はぁ…」
「…クスッ」
そう小さく笑うと、ミルヒシュトラーセさんはブリッジから出て行きました…
私はそれを見て、どうしていいか分からずにただ見送っていると、息を潜めていた二人が騒がしく話し始めたんですが…
ま、どうでも良いですねそんな事…
俺は日課にしている、木連式の鍛錬を行っていた。
先ずは、息を大きく吸って吐き出す…
空手の息吹の要領で腹圧をかけ、逆腹式呼吸とでも言うのか――息 を吸った時にへこみ、はく時に膨らませる。
空手には三戦立ちと呼ばれる型がある。脇を占めて構え、前と左右に備えるという物だ。
俺は三戦立ちに構え、受け・突き・流し・蹴り…と、手足を振るい始める…
木連式柔においては基本が柔術である為、このやり方は異端ではある…
しかし、俺は力を引き出す方法として、投げ・組み討ちよりも先に当たる<打撃>を優先した。
よって、空手に近い鍛錬となる…それに、どうしても投げ組み討ちの鍛錬は相手がいないと難しい…
流石にツキオミを呼んで来て鍛錬と言うわけにも行かないので、最近はもっぱら打撃中心の鍛錬になっている。
三戦が終わると、型を一通り流す…投げの型も含め、
およそ二十程を終えたところで声が掛かった。
「アキト、今日も鍛錬?」
「ああ。日課だからな…」
「アキト…北辰やオメガを警戒しているの?」
「…いや、オメガがここで仕掛けて来る可能性は低い。
火星で消耗した俺達を叩きに来るだろうからな…奴に俺を殺すつもりがあるなら、だが。
…北辰は優人部隊の実験が一年早まらない限り、来ないだろう…」
「オメガが…アキトを殺すつもりが、無い?」
「いや、俺の考え過ぎだろう…奴は俺を恨んでいるはずだ…」
火星での行動、クリムゾンとの接触、木連との繋がり…
北辰を利用してのシチリアでの戦い…
ナデシコに対する、軍部を利用した上でのエンジン占拠…
ただ、どれも少しおかしいと思う部分はあった。
火星以来、俺達はオメガと接触すらしていない…
俺を殺すにしては、奴の仕掛けはいつもあっさりと引きすぎている…奴の本気はこの程度なのか?
それとも、何かの企みに俺を乗せる為にわざと…
「アキト、何を考え込んでるの?」
「ん? いやなんでもない…」
「そういえばアキト、今日は何か予定あるの?」
「ん? ああ…コックの仕事以外は特に無い」
「じゃあ、今日は私に付き合ってね」
「はいはい、分かりました」
「あ〜! アキト本気になってない!」
「いや、付き合うよ。仕事が終わってからでも良いなら」
「うん!」
嬉しそうに笑うラピス…こういう表情を自然に出来るようになったのは、いつからだろう…?
ルリやルリちゃん、アメジスト等もそうだが、皆透き通る様な白い肌をしている。
ルリによるとハーリー君は健康そうな肌色をしていたそうだが…
IFS強化体質にされた者は皆白い肌になるのか、と思えてくる。
しかし最近は、ラピスも少し肌の血色が良くなっている様な気がする。
それ程はっきりとした違いでは無いがそれでも、嬉しい事だ…
「さて、俺はそろそろ食堂に行くが、ラピスはどうする?」
「うん…そろそろヤタとの交信限界が来そうだから、ヤタに教えられる事は今の内に教えておく」
「そうか、頼んだぞ」
オモイカネ級スーパーAI<ヤタガラス>の教育は、ほぼ完了しているらしい…
だが、交信限界といっても別に不可能になる訳ではない。
単に強い電波を飛ばさねばならず、さらにタイムラグが大きくなるという事だ…
まぁ、軍と対立している以上、あまり目立った通信は控えた方が良いだろう。
一応プロスさんを通しているのだが、向こうの方としてもそろそろ許可できなくなってくるだろうしな…
俺はそんな事を考えながらナデシコ食堂へと向かった…
最近アキトが私に会いに来てくれない…
もう、照れ屋さんなんだから…でも、最近は他の女の子も気になってるのかな…?
アキトが私を好きな事は昔から変わらないと思うけど…
男の子は一人だけしか好きにならない訳じゃない、ってどっかの本で読んだ事があった気がする…
ううん、アキトはそんな事無い…だって、私の王子様なんだもん…うん!
今日こそは、アキトと会ってお話しなきゃ!
「アキト、どこにいるのかな…」
エレベーターへと向かう通路を歩きながらコミュニケでシフト表を呼び出して確認してみると、
今日のアキトの仕事のシフトが、ナデシコ標準時(日本と同じ)で午前六時〜午後三時まで、ってなってたの。
う〜ん…やっぱり、コック二人じゃシフトも大変かも。
夜班の人にはちょっと悪いけど、ナデシコ食堂は二十四時間営業じゃないの。
自販機もあるから、別に食べられない訳じゃないけど…
ナデシコ食堂の営業時間は、午前六時から午後十二時まで…それでも、二人じゃ分担が九時間ずつ。
ううん…早めにきて仕込みをしないといけないから、十時間…
アキトほんとに頑張ってるんだなって思う…だって、私を守るためにパイロットもしなくちゃいけないんだもん。
もう一人くらいコックを入れれば、普通のシフトに出来るんだけど…ここはもう宇宙だし…
兎に角、ナデシコ食堂の方に行かなくちゃ!
ナデシコ食堂の方に来てみると、昼食を取っている人がまだ何人かいるみたい。
でも今はもう二時だから、それも少なくなって来てる…
私は迷わずアキトのいる厨房を目指して歩き出す…
「ア〜キ〜ト〜!」
「ユリカか…もう昼は食ったんだろ? あんまり食べると太るぞ」
「ぶう! 別に食べに来たんじゃないもん!」
「へ?」
「アキト、ナデシコに乗ってからあんまり私とお話してくれないから…お話出来ないかな〜って思って…」
「何言ってるんだ? お前、良く食堂に来て喋ってくだろ?」
「そんなんじゃなくて、二人っきりでお話したいなって…」
「見ての通り、仕事中だ。二人きりなんてのは無理だよ」
「アキトが恥ずかしがり屋さんなのは仕方ないけど…やっぱり、二人の為に時間を作るべきだと思うの…」
「…」
なんか、アキトが唖然としてる…変な事言ったかな?
私は邪魔にならないように、少し離れてアキトを見つめていた…
すると、アキトはプッと噴出しながら私にココアを差し出し、カウンターに置く…
カウンターに行け、という合図なのかな?
私は厨房からカウンターに戻り、座ってアキトを見る事にした…
「変わらないなユリカ…」
「うん! 私はいつまでも私だよ!」
「いや、そういう意味じゃないんだが…まあ良いか…」
アキトはそう言いながら次の注文の品を作っている…
うん、こういうのも良いな…二人で小さい店を持つの。
それで、アキトは若くても腕のいいコックで…
私は美人で評判の看板娘…うん、これ良い!
そう思いながら、目の前のココアに口を付ける私…
「あっ、このココア美味しい…」
「ん? そうか?」
「うん。本当に美味しいよ!」
「まあ、良く作ってたからな…」
「え? アキト、ココア飲むの?」
「まあ飲まない事も無いが…ラピスやコーラルにせがまれて作っている内にな…」
「ラピスちゃんは兎も角、何でコーラルちゃんに作るの…まさか…」
そう言えば、ナデシコ内でまことしやかに噂されている事があった…
アキトがメイド好きでロリコンだ、って。私は信じてなかったけど、まさか…!
「違う! 違うぞ! お前の考えてる事は分かるが、断じて違う!」
「へ? ロリコン?」
「いや、そうじゃなくて…」
「ご主人様! 配達終わりましたぁ!」
「はう!」
コーラルちゃんが戻ってきたみたいなんだけど…
その声を聞くと、アキトはまるで重傷を負った様にうずくまった。
アキト…どうしたんだろ?
でもここは、愛する恋人である私が優しくしてあげなきゃ!
「アキト大丈夫? そんなにメイドさんが好きなら、私がアキトのメイドさんになってあげる!」
「ちがーう! 俺は…俺は!」
「そうです! ご主人様のメイドはもう私がいますぅ! ご主人様の収入ではこれ以上の雇用は無理ですぅ!」
「いや、お前もネルガルから給料貰ってるだろ」
「そんな事ありません! アキトは愛する私のためなら、きっと一人分くらい給料 を出してくれます!」
「そもそも、給料の問題なのか?」
アキトったら照れちゃって…私はアキトの趣味がメイド好きでも気にしないのに。
でも、メイドだったら…
《ご主人様、アフタヌーンティで御座います》
《うむ…良い出来だな。お前、名前は何と言った?》
《ミスマル・ユリカと申します。ユリカとお呼び下さいませ…》
《うむ、ではユリカ…褒美を取らせよう。何が良い?》
《褒美など勿体無いですわ。この程度当然です》
《何と奥ゆかしいのだ! 結婚してくれ! ユリカ!》
……やん! まだ結婚は早いよ…でもでも、アキトとなら…
「あのぉ、ユリカさんどうしたんでしょう?」
「ああ、アッチの世界に行ってるみたいだな…それよりコーラル、
休憩時間じゃ無いんだからさっさと次の仕事に移ってくれ」
「はい、分かりましたぁ!」
暫くして気が付いた時はもうコーラルちゃんはいなくなっていて、
アキトも注文が少ないのか料理の下ごしらえ(玉ねぎの皮むき)をやってた…
「ほえ? コーラルちゃんは?」
「また配達に行った…今度は整備班だな…」
「でもコーラルちゃんって、迷わずに艦内を回れるようになったの?」
「いや、まだ無理」
「じゃあ、連れ戻さなきゃ」
そう言ってカウンターから離れようとする私をアキトが呼び止める…
嬉しいけど、コーラルちゃん前に半日近く迷ったって言う噂だし…助けてあげなきゃ。
「必要ない」
「へ?」
「あれから、俺とラピスとルリちゃんが暇を見付けては艦内の事を教えてるし、
コミュニケを常時展開させて現在位置を知らせてるからね…
それに、コーラルの配達なら遅れても良いってお客さんが多いんだ」
「ふーん…なんか凄いね…(汗)」
「まぁな…」
アキトはそう言いながらも、慣れた手つきで玉ねぎの皮をむく。
それから手ごろな大きさに切って、冷蔵庫に入れていくんだけど…
涙を流さずにそれをやるアキトは、何となく凄いとおもった。
…私は切るのが怖いからそのまま煮込んで溶かしてるんだけど… (汗)
「ねえ、アキト…アキトは火星に、何をしに行くの?」
「うん? これも仕事だからな…」
「何か表向きだね…私も確かに仕事だからだけど…
お父様のいない所で頑張ってみたいと思ったから…
それに、今はアキトがいるし…」
「そうだな…俺の理由…か、それはまだ言えない。
言えばお前を巻き込んでしまう…それに…もう一人のユリカのこともある しな…」
「え? 最後…良く聞き取れなかったんだけど?」
「ははは…まあその、何だ…世の中、上手く行かない事が多いって事さ!」
「…はあ?」
アキトの言いたい事が良く解らない…でも、私を心配してくれてるんだよね?
だとしたら、私を助ける為にこの船に乗り込んでくれたんだ…
やっぱり、アキトは私の王子様!
「うん、そうだよね! やっぱりアキトは私を大好き!」
「何でそういう結論になるんだ…(汗)」
「でも、そう言えば…アキトは確か、明日香インダストリーからの出向社員だって聞いてるんだけど…」
「うっ…(まさか…)」
「明日香インダストリーって、確かカグヤさんの…」
「そうだな…(やっぱり…)」
「アキト! カグヤさんとはもう会ったの!?」
「うう…」
「アキト! 答えて!」
「はい…(やっぱり…ユリカが別人のように気迫に満ちている…(汗))」
「カグヤさん…お父様から聞いてはいたけど、まさかもう既にアキトと会っているなんて…」
「まあ、そんな事どうでもいいだろ。この場に居ないんだし…」
「いいえ…アキト、それは違います。そう…彼女は私の運命のライバル。アキトという、たった一人の王子様をかけた…」
「へえ…そうなのか(あああ…こんなユリカは俺から見れば、十九年ぶりだ…どこから突っ込んでいいのか判らない…)」
そう…思い出すのは幼稚園に通っていた頃、アキトをかけての数十回に及ぶ、決闘の数々。
白雪姫の劇(年長年少合同の…)のお姫様役(アキトが王子様役だった)を取り合って、いつの間にか劇自体が中止になっていたり…
料理対決を行ってアキトに判定を聞いた所、あまりの美味しさに気絶していたり…
…カグヤさんの料理は黒い液状物体だったので、負けという事は無い筈だけど…
アキトの隣でお昼寝をしようとして、アキトの組の部屋に行こうとする途中、
カグヤさんと鉢合わせしてにらみ合っていたら先生に見つかって連れ戻されたり…
彼女とは一度も決着が付いていない…もちろん、アキトは私が好きなんだけど。カグヤさんも粘り強い人だから…
でも、絶対負けない!
「そうなんですか…初めて聞きますね…私も艦長については、まだまだ知らない事が多いみたいです…」
「あ…ルリ、いらっしゃい。何にする?」
「はい、では私もココア一つ」
「分かった。少し待ってくれ」
「へ?」
「どうしたんですか艦長」
「いっ、いえ…何も…」
「もしかして…気にしてます? この間の事…」
「いや…あの、気にしてない…事も無いけど…」
「はい、ココアお待ち!」
「ありがとうございます、アキトさん」
ルーミィちゃん…殆ど無表情だけど、口元が微笑んでる…
ううっ、強敵…ううん、アキトは私の事が好きなんだもん…大丈夫…だよね?
「どうしました? 艦長?」
「ううん…何でもない…」
どうしよ〜。ルーミィちゃんの前だと、きちんと話せないよ…
アキト…助けて!
そう私が心の中で悲鳴をあげていると、ルーミィちゃんはアキトに向き直って話し始めてしまった…
「アキトさん、この間はすいませんでした。生意気な事を言って…」
「いや、間違ってないよ…確かに俺のラーメンはあの頃のテンカワラーメンと比べて、まだまだだからね…」
「いえ…」
「気にしなくてもいいよ。まあ、まだ最初だしね…
ルリが一人で屋台を引いていた頃に、俺のラーメンをほぼこなしていたって、あの後聞いたよ…」
「私なんて、まだまだです…やっぱりテンカワラーメンは、アキトさんでなくちゃ…」
何!? なに!? ナニ!? この雰囲気…私、この二人の会話に入り込めない!!
もしかして…アキトって、私が知らない間にルーミィちゃんと仲良くなってたの?
私は…私は一体どうすれば良いのーー!?
「うぁ〜ん!! アキトのばかー!!」
「あっ…」
「え〜っと…あれ?」
「不味いですね…少し刺激しすぎたでしょうか?」
「もしかして…」
「はい。艦長、お籠りです…」
「…(汗)」
なかがき
ファイルの保存くらいきちんとしておかな いからそうなるんです!
まあ、なかがきが消えただけですんだから良かった物の…はあ、私の出番今回少なめですから、結構 きついですね…
すまんこってす…本当に謝る気あるんですか? まったく!
それでまあ、今回はなかがきを書く気力が減殺されております。…それは認めます…私の活躍が…失われてしまいました…
アレが活躍ですか…(汗)なんか文句あるんですか!?
いえ、めっそうもありません…で、今回の言い訳位言っておきなさい、どうせ言う事はそれ位でしょうから…
うっ…なんか嫌な台詞…まあ、仕方ないか…兎に角、今回今まで三人称の失敗が多かったので全て一人称で行っております。そうですね。
(やっぱり、二度目の所為か投げやり…)それでユリカさんの恋愛観は初期は子供チックなので、正面から恋人してるメグミさ んに敵わなかった…とか何とかそれっぽい事書いてましたね…
うぃ、その通りです。まあ、その辺の考え方は人それぞれでしょうが、まあ最初はそんな感じで行こうかと…それに対し、恋愛を競うような場になると、愛情料理の時のように競ったりもする と…
そういう感じな部分をカグヤに向けていると言う事です。まあ、どうでも良い事ですね、それで、私の役どころがまるでメグミさんな所を除け ば…
いや、あの…次回のあとがきを楽しみにしていてください…
え?ちょっとアルターの森に行って来ます。
もっ、もしや…でも、ルリちゃんなら…(今ルリちゃんと言いましたね…その辺も次回まとめてお仕置きです)