「いや、残念だけど……多分届かないと思うぜ?」
「何? どういうこと?」
「聞いた限りじゃ、そのエンジン既に届いているみたいなんだが……
途中で臨検に会って止められているって話だ」
「そんな!?」
臨検? 複葉機のエンジンなんて戦争に使えるような代物じゃない。
骨董品に過ぎないそれを臨検にかけるというのはおかしい、
そもそも、この複葉機は臨検を通っているのだ、今回だけというのは……
戦争の緊張状態の所為だとしても、無人兵器相手に臨検は関係ない。
とすれば……何かきな臭い物を感じるな……
「まさか……な……」
「アキトさん……」
俺とルリは目配せを交わす。
確信は持てない……しかし、確実に何かが動き出しているのを感じていた。
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第十六話「いつもの『自分』に休息を」その6
━━━明日香インダストリーオオサカシティラボラトリィ━━━
明日香インダストリー製のナデシコ級戦艦第一号である、この船は、既に出向可能状態であるにもかかわらず、
4ヶ月近く動かす事が出来なかった、メインコンピュータであるヤタガラスのプログラマーでもあるラピスが細工を施していたからだが、それにも理由がある。
アキトがあまり早い段階でナデシコ級を飛ばしておくとネルガルや連合宇宙軍の警戒を生むからと言う理由で発進を見合わせるために行われたのだ。
とはいえ、そのお陰で不良艦であると噂された事もあり、この船はネルガル、連合宇宙軍ともにあまり警戒されていなかった。
しかし……
「連合宇宙軍中佐カイオウ・シンイチロウ以下二名着任の挨拶に来ました」
「これはこれはカイオウ中佐、連合宇宙軍の出世頭の名前はよく聞いておりますわ」
「いえ、これはこの船に乗船するにあたって特別昇進にあてられたもので、深い意味はありません」
カイオウ・シンイチロウと名乗った大柄な男はいかにも軍人といった落ち着いた態度で話を続けてくる。
カグヤは相手が切れ者である事がよく分かった。
それに、控えている黒髪の女性……中尉の階級章をつけているが、彼女も優秀な軍人なのだろう。
頼もしい事には違いないが、方針がぶつかれば困った事になりそうだ。
カイオウはカグヤの視線を見て、興味があるのだろうと踏んだらしく、紹介を買って出てくれた。
「彼女はエスピシアのパイロットをしていた、イツキ・カザマ中尉です」
「はじめましてオニキリマル代表。エグザバイトの搭乗経験はありませんが、エスピシアよりもスペックが上だとか、期待しております」
「はい、女性の身で実戦経験を多くつんでいらっしゃるイツキ中尉が乗り込んでくだされば、この船も安泰ですわ」
「ところで、この艦には他にもパイロットが乗っているとの事ですが、ブリッジに行く前に紹介していただけませんか?」
イツキはカグヤとにこやかに会話をしていた、カグヤはそれに適当に応じる。
もっとも、両者ともに会話に探りを入れているため、会話の内容にかかわらず、緊張感が漂っている事も確かである。
「エグザバイトのハンガーデッキはこちらですわ」
「あれが、エグザバイトですか……直接見るのは初めてですが、複雑な形状をしていますね」
「エステバリスの空戦フレームと陸戦フレームの中間に相当するフレームに換装していますから。
宇宙戦フレームはカウンターバーニヤ用に武装排除していますから、これほどではありません」
「つまり、宇宙戦闘では武装が少ないと?」
「いえ、アタッチメント方式で追加武装を加える事は出来ますが……
基本的に超高速戦闘に近接武器はあまり使いませんから。
イミティエッドナイフ以外の基本武装は排除しています」
「確かに、そういった面はありますね。ではこのフレームは武装が多いのですか?」
「一応、ワイヤードフィストとローラーダッシュ用のキャタピラ。
背部スクラムジェットエンジンのせいで少し形状が複雑化していますが、
武装と呼べるのはその程度です」
「カザマ中尉、あまりオニキリマル代表を困らせるんじゃない。それに、向こうでお待ちかねの人たちがいるようだぞ?」
カイオウが、口調とは裏腹に苦笑しつつ、顎をしゃくる。
その方角には、先ほどイツキが言っていた、他のエグザバイトパイロットがいる……筈だった。
「あのっ、えっと……メイドさん……ですか?」
そう、そこにいるのはメイド服に身を包んだ一団である……
作業服の人間が行きかう中では周囲を圧して違和感があった……(汗)
「ええっと、皆さん、パイロットスーツは?」
カグヤも彼女らの服装には違和感を覚えたらしく、表情が引きつっている。
だが、特に違和感を感じたふうでもなく三人のメイドはカグヤたちに近づいて、一度止まった。
「いやあ、私たち本業はメイドだし、パイロットスーツの代わりにこれでってね?」
「だからあたしはやめた方がいいって言ったじゃん」
「え〜、でも〜、パイロットスーツって可愛くないんだもん」
中国系と思われる女性が軽く返せば、褐色の肌をして赤毛の少女は異を唱え、
おっとりとした、アッシュブロンドの少女がパイロット服の不満を述べる。
やり取りは気を抜けさせるに十分だった……
だが、カグヤはどうにか気を取り直し、二人に対する紹介を始めた。
「えっと、取り合えず。パイロットの三人の紹介をします」
「ははは……宜しくお願いします」
「彼女は……」
「私は、カールア、ハウスメイドやってたんだけどねー。ナノマシンがあるからって引っ張り出されたのさ。
まぁ、この先必要になりそうだし、それに明日香インダストリーには恩もあるしね……」
「あたしは、エール。気性的にはこのパイロットっていうの、あってなくも無いけどさ。突然じゃ不安だね」
「私ぃ、カシスっていいます〜。コーラルちゃんと同じ職場だから、がんばろうと思ってま〜す」
三人はそれぞれ、カイオウとイツキに自己紹介をした。
なんとも緊張感の無い自己紹介に二人は唖然としたものの、自分達も紹介を返す。
「私はカイオウ・シンイチロウ、連合宇宙軍中佐。この艦の戦術指導を勤めさせてもらう事になった。
平たく言うと軍とのパイプ役だ。よろしく」
「私はイツキ・カザマといいます。一応軍人ですが、こちらで働かせていただいている間は仲間として扱っていただけると嬉しいです」
二人の紹介を聞いていたメイド達は何かピンと来るものがあったらしい、ひそひそと何か話し始めた。
「ねぇねぇ、あのカイオウって人、隣のイツキさんが好きなんじゃない?」
「でもぉ、イツキさんは興味なさそうに見えるんですけど〜」
「まあねー、カイオウって人、ごついけど強引さは無さそうだし」
「……皆さん?」
「「「あ!? ……ごめんなさい……」」」
「あははは……カイオウ中佐は私なんて相手にしていませんよ。許婚もいるって聞きましたし」
「ええーそうなんだ?」
「視線が妙に熱い〜って思うんですけど〜」
「浮気? もしかして浮気?」
「(ヒクヒク)」
カイオウは無言だったが、顔を引きつらせていた。
リハビリ生活も三週間目になれば、俺もほぼ完治したといっていい。
車椅子はとうに卒業したし、走ったり跳んだりも問題ない。
内臓はまだ完璧とはいえないし体力も少し落ちているが、もう支障なく戦闘が出来るだろう。
大学生活はそれなりに楽しかったが、そろそろ終わりにしなければならない。
俺は今週から木連式の鍛錬を再開していた。
「ふぅぅぅぅぅ……」
一通り型をし終えたころにルリの気配が近づいてくる。
適当に返事をし、迎え入れた。
こちらの方も、問題ないようだ。
「もう、鍛錬を再開したんですか?」
「ああ、じっとしているのは性に合わないし、それにあまり時間があるとも思えないからな」
「……アキトさんはいつもそうですね、生き急ぐみたいに……」
「そういわないでくれ、状況の問題なんだから、そろそろ月の木星トカゲを駆逐しなければならない時期に来ている」
「それはそうですが……私たちがいなくても戦力的に不足があるとは思えませんが?」
確かに、普通に考えれば前回はナデシコがいなくても奪回したのだ、
ナデシコとそして、明日香の新造艦がある以上失敗の可能性は少ない。
しかし、胸騒ぎがする。
ここのところおかしな策動が動いているような、断片的な情報が入ってくるのが不安だ。
殺気だった人間が大学構内をうろついているようだし。
コロニーは関税ではなく検問をはって物品の検査をしているらしい。
外では、シゲルの妹ミオを含む10万人の火星出身者が連合宇宙軍第5軍(ヨーロッパ方面艦隊)に志願したとか。
これだけでは、何のことなのかさっぱり分からないが、何かが動き出している事を感じるには十分だ。
「ルリ、今までの周囲の動き、気にならないか?」
「……気にならないと言えば嘘になります。でも、アキトさんに無茶をさせないのが、私の仕事ですから」
「はぁ、お堅いな……」
「当然です。アキトさんが自力で息抜きを出来る人なら誰も苦労しません」
「……そこまで言うか(汗)」
最近妙に立ち位置が悪いな……
まあこれもオメガ戦で無茶をした為かもしれないが……
「そういえば、政治家の知り合いを作れとか最初に言っていたが、近くにいないのか?」
「……えっ、気付いてなかったんですか?」
「何が?」
「いえ、カザオカ・リョウジは、地球連邦議会極東代表カザオカ・ゴウゾウの息子ですし。
アルフレート・フォン・リヒトホーフェンはドイツ貴族リヒトホーフェン家の家督を譲られたばかりだとか。
ワガン・オリファーはアフリカ共同体オリファー外務次官の弟です。
べスと名乗っていた彼女の素性は調べ切れませんでしたが……」
「まさか!?」
「いえ、そもそも航空力学の学科生30人の半数がなんらかの政治活動に係っているかその係累ですから、当然ですが」
「つまりは……」
「法学部に入れなかった、もしくは入らなかった政治家やその子弟の入る掃き溜め的な学部なんです、ここは」
「………」
何ていうか、ある意味凄い連中と知り合いになった物だ……
ルリが政治家の知り合いを作れるような事を言っていたのも当然か、
半数が政治家の係累なんだとすれば、上手くすれば15人分のコネを作る事が出来るという事……
もちろん、短期間でそれは難しいだろうが、運が良かったと言えるのだろうか?
「さて、そこでですが」
「ん?」
「彼らに計画的に恩を売っておきましょう」
「……例のエンジンか」
「はい、それに私も飛ぶところを見たみたいですし」
「そうだな、そうするとしようか」
俺は最初ルリが本気で言っているのかとも思ったが、どうやら後の方が本音らしい。
考えてみれば、メンテナンスを一緒にみていたのだ、お互い思い入れもある。
しかし、どうやって合法的に持ってくるのかということで悩まなくてはならなさそうだ(汗)
━━━明日香インダストリーナガサキ支社内機動兵器研究施設━━━
現在、アキトからもたらされた設計図を元に、エグザバイトの新型を開発中であった。
その場にはアメジストもいる、彼女は時折アキトの言葉を伝える役目を負っていた。
もっとも、パイロットとしての意見などは既に殆ど取り終えているため、今はそれほど忙しくも無かった。
アメジストはそこで開発されている機動兵器を見てため息をつく。
「追加装甲と多数の大型バーニアによる推進力の増加。
武装はなるたけ排除して、強力なディストーションフィールド形成にまわす……
このコンセプトは……アキト、またするつもりなの?」
そう、アキトが考えている次世代タイプ。そのコンセプトはそのまま、以前使っていたサレナのものだ。
つまりは単独特攻に主眼をおいた作りになっている。
支援や団体戦闘を考えるなら足並みを崩しかねない加速力は不要だし。
殲滅に主眼を置くなら火力が心もとない。
しかし、特攻して敵を混乱させるには抜群の性能を発揮する、それがサレナタイプの増加装甲のメリットだ。
「でも、それはまたアキトが一人で全てを背負うという考え方の現われだよね……」
アメジストはその威容を見ながら不安になる、アキトは無茶が過ぎる。
これは、アキトの贖罪なのだろう、この世界とは直接関係無いのだとしても。
だからこそ、強くとも儚い……
アキトが戦うたびにボロボロに傷ついている事はアキトの近くにいる人ならよく知っている。
肉体的にも、精神的にもだ。
「早く終わらせないとね、こんな戦争……でも、私……」
アメジストは何を考えているのか、苦しげな表情で立ち尽くしていたが、ふと視界の隅に人影が走るのが見えた。
「!?」
不審に思いつつも、体内のナノマシン(フェムトマシン)を操り特攻形態へと移行、その影へと疾駆した。
「誰!?」
相手を視認すると同時に攻撃へ移行。
常人ならば、反応する間もなく沈んでいただろう……
しかし、人間には反応でき無いほどの速度で拳を繰り出したにも拘らず、その影はあっさりとそれを掴み取った。
アメジストは驚愕に見開かれた目で相手を見る。
体格は170cm強、筋肉質で、細身だった。
しかし、顔は白い頭の上半分を覆うような仮面で隠されていて確認できない。
「馬鹿にして!!」
アメジストは拳を引き抜き距離をとる、しかし、仮面の男はその一瞬で銃をホルスターから抜き放っていた。
とっさに、横っ飛びに避けるアメジスト。
心臓を狙った銃弾は、半瞬は早く動いたにもかかわらず太ももをかすめて通り過ぎていった。
「クッ!」
「……」
アメジストは体勢を立て直そうとしたが、太ももの痛みに顔をしかめる。
仮面の男はじりじりと接近しながら銃を構えなおすが、
その時、男の右腕を銃弾が掠め銃をはじき飛ばす。
「アメルちゃん大丈夫!?」
ハンガーデッキを横切りながら、銃を構えたタカチホと警備員の一団が駆けこんでくる。
「チィッ!」
仮面の男は脱兎の如く駆け出していった。
「さあ、貴方達、こういうときのために給料払っているんだから、がんばりなさい!」
「「「「はい!」」」」
数人の警備員が男を追いかける。
タカチホはアメジストの体を見回し、太ももに出来た裂傷の治療を始める。
「タカチホ……私の事よりもあの男を追って……」
「馬鹿言わないで、今医療班に連絡をまわしたから、応急手当だけだけど、するのとしないのじゃ回復も全然違うんだから!」
「でも……っ!」
「警備員っていってもね、一応この施設の警備員は銃器の訓練も受けている半分傭兵みたいなもんなんだから多分大丈夫でしょ」
「ううん……仮面の男が逃げた方向にアレがあるの!」
「それって……もしかして……(汗)」
「……うん」
アメジストが返事をするかしないかというタイミングで、いきなり起動音が響き渡る。
恐る恐る振り返るアメジストとタカチホの前に、起動を始めた追加装甲装着型エグザバイトが動き出すのが目に入った……
「……あいつ、本気なの!?」
「多分……」
そう、追加装甲装着型エグザバイトはアキト専用機として開発中のものだ、全てにおいてアキトの戦い方を優先する形で出来ている。
並みのエステバリスライダーでは振り落とされるのがオチだし、逆に一流の乗り手なら癖が強すぎて乗りにくい。
ある意味アキト以外の乗り手を想定していない、かなり無茶なカスタムチューンである。
そんなものに、いきなり乗り込んでどうにかなるほど世の中は甘くないはずなのだが……
いともあっさり起動した追加装甲装着型エグザバイトは、研究施設を適当に破壊しながら上昇し、空中で光となって消えた。
タカチホとアメジストはどうにか施設の建物から脱出したが、警備員には負傷者も出たようだ。
応援も直ぐに駆けつけるだろうが、やはり数分かかるだろう……
沈黙が痛いほどに張り詰められたその状況で、アメジストはぽつりと漏らすように言った。
「……アキト」
「え?」
「ううん、違う……でも……」
「どういうことなのアメルちゃん?」
「気のせいだと思う、でも仮面の男の動き、どこと無くアキトに似てた……」
「……ん〜きっと気のせいだよ、アキト君はそんな事をする必要が無いでしょ?」
「そうだよね……」
しかし、アメジストの表情は晴れなかった。
何か得体の知れないことが起りつつある、それだけがはっきりと感じられた。
不安はつのるばかりだった……
「しかし、こんなに堂々と行って大丈夫なのか?」
「ええ、多分ですが……」
俺とルリは連れ立って税関へと向かう。
手続きは大抵宇宙港で済ませるものだが、今回は軍部も係っているようだし、色々手続きは煩雑になるだろう。
しかし、ルリは何か秘策があるらしい。
それを先に話して欲しいと言ったのだが、ルリは”それではありがたみが薄れます”といって取り合ってくれない。
まあ、そうかもしれないが……
「しかし、税関といえば、港内にあるものだと思っていたが……」
「気持ちは分からないでもないですが、実際税関は輸出入に関すること意外でも、
保税地域の許可及び保税地域に蔵置される貨物の取締りなども行っています。
ですから、事務所は港の外にも必要になってきます」
「……今一つ良く分からないんだが……」
「まぁ、本部は別にあると考えてもらえば十分です」
「なるほど」
俺たちは、第五層の中央にある駅から、シャフトエレベーターに乗り換えて、政治中枢がある第三層を目指す。
フタバアオイは五層構造になっており、それぞれ2kmほどの高さがある。
200万人が住めるように出来ているのだ、当然と言われれば当然だが、巨大すぎてコロニーとは思えないな。
実験的に作られた物のあまりに巨額の費用の為、二基目は残念したというのも頷ける。
暫くして、シャフトエレベーターの第三層駅に到着する。
第三層は政治を司る街が形成されている。
もちろんそれぞれの層に政治的中枢は置かれているが、第三層は五層全体の政治を担っている為、官僚組織が発達している。
地球そのものと交渉して、ちょっとした治外法権も勝ち得ていると聞く。
「さすがに、ここまで来ると住んでいる人間の質が違っているな」
「サラリーマンというか、官僚が中心ですからね。
第四層に海、第二層は商業都市、第一層は農園と分化が進んでいますから。
ここも当然政治関連に偏った都市を形成しています」
「なるほどな……で、税関はどっちだ?」
「はい、確か……あそこです」
ルリが指差したのは、駅から500mほど先にある5階建ての西洋建築物。
どういう機能を目指してああなったのかは不明だが、確かに目立ってはいた。
「じゃあ行くか」
「はい」
500mとはいえ、途中の信号に遮られて10分程度の時間は消費した。
しかし、話しながらだったため、それほど気にはならなかったが。
建物内に入ったところで、ルリは俺に待っているように言う。
こういった手続きは、俺には向いていない事は知っているから、書類を書き終わるのを待つことにした。
手持ち無沙汰になった俺は、壁にもたれかかりながら玄関の方を見るともなしに見ていたが、
ふと、見知った顔が入ってきた事に気付いた。
「ん? あれは……べス……」
そう、いつも作業服ばかりのべスが洋服を着ていたため一瞬戸惑ったが、間違いないだろう。
しかし、きちんとした服を着るととたんに威厳のような物が漂っている。
何なんだ……彼女は……
「アキトさん書類申請って、どうかしましたか?」
「いや、あれってべスだよな?」
「そうですね、声をかけてみますか?」
「ああ」
俺達はべスの方へと近づいていく。
べスの方でも俺たちに気付いたらしく、表情を強張らせて驚きを表現していた。
「あっ、あなたたち、どうしてここへ?」
「……いえ、飛行機のエンジンの件何かお手伝いできればと」
「貴方たち……もしかして……知っているのね?」
「……? 何をです?」
「私たちの政治的意味合いよ……」
「さあ、少なくとも貴女の事はしりませんが……」
「そう……」
ルリは知っている事を包み隠さず話した訳だが、彼女は信用していないようだった。
どちらにしろ、俺たちの意図を読まれたことは間違いないだろう。
恩を売るというには大げさだが、知り合い程度にはなっておこうと言う部分において、
確かにエンジンの話は美味しいのだ。
「兎に角、余計な事はしないで。私たちはあの件においては権力を使う気はないし、使わせるつもりも無い」
「そうですか、ではこれも無駄になりましたね……」
ルリは持っていた書類を無造作にゴミ箱へと放り込んだ。
無表情を装っているが、多少腹を立てているのか、挑発するような含みが見て取れる。
「でも、まさか貴女がそんなに器の小さい方だとは思いませんでした」
「……っ!?」
「他人から物を受け取ることは出来ない、格好いいですけど、裕福な者の傲慢ですよね」
「!! 何が言いたいの!!?」
「貴女は一体何がしたいんです?」
ルリとべスは少しの間正面からにらみ合う。
しかし、ルリはふぅっと息を吐き。
「慣れない事はするものじゃありませんね」
「……?」
「いいですか、私もアキトさんもこんな事で恩を着せるほど困ってはいません。
私たちは政治家ではありませんから、駆け引きの仕方もそれほど詳しくないです。
でも、せっかく出来た友達に手を貸すのは悪いことですか?」
「……でも……」
「貴女たちにも立場があるんでしょう、では私たちの事は大学を出たら忘れると言う事でもいいです。
もっとも、私たちは思い出させて見せますが」
「……結局何が言いたいの?」
「友達になりましょう、という事です」
いったルリは少し恥ずかしいのか、顔を赤くしている。
対してべスは唖然として口を開けっ放しだ。
俺も少し驚いた、ルリがこんなことを言うとは考えていなかったからだ。
後になって聞いたことだが、彼女が誰だかルリはハッタリをかましたらしい。
べスのことは知らなかったが、言い回しで多分高官か貴族の娘だろうことは予測がついたので、それに合わせたらしい。
で、結局三人で申請を行って(俺は殆ど何もしなかったが)ルリは見事にエンジンを取得した。
危険物基準に引っかかっていたようなので、それを回避する方策を示して見せたのだ。
エンジンそのものではなく、その部品を数点持っていって、元々ついていたエンジンにつける事で修理してしまおうという考え方だった。
もちろん、普通なら部品だけとはいえ、一度引っかかった物を出してくれるとは考え辛いのだが……
その辺りは、べスが何とかしてしまった。
確かに、案外いいコンビかも知れない。
ルリは帰りのエレベータの中でイタズラっぽい表情で笑っていた……
あとがき
ああ8:54分……
ぎりぎりだー(汗)
しかし、最近話が進まなかったけど。
そろそろ16話も終わりだな〜
17話からは、この話で張った伏線を回収しつつ戦闘になりますから、結構派手な展開になると思います。
何と言っても、次回からは殆ど原作の流れと関係の無い方向に行きますからね。
色々おかしな点はあると思いますが、それでもいいという方はよろしくお願いします。
WEB拍手いただきありがとう御座います。
今後もがんばって行きます。
最近ちと疲れがたまり気味かな?(汗)
〜光と闇に祝福を〜が最後まで続けられるかは、気力次第ですので……
出来れば感想下さいね〜〜
押していただけると嬉しいです♪
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