えっ、アキトさんじゃないんですから……。
無茶ばかり……もう、なんでみんなそうなんでしょうか?
アキトさん、なんで私には教えてくれなかったんですか、私が悲しむとかそういうのではなく。
私はアキトさんの事をもっと知りたかったのに、それとも、こんな関係で知ろうと思うこと自体卑怯なのでしょうか?
「わかりましたクノン、イスラさんには私のほうから話しておきますね」
「よろしくお願いします」
どこかおざなりに返事したその事が、
更に私を困惑させる事になるなんて、その時は思いもしませんでした……。
だって、それは……。
今まで築いてきた事を突き崩しかねないほどの事実だったんですから……。
Summon Night 3
the Milky Way
第七章 「心に届く言葉」第三節
私は帰りに出会ったキュウマさんからアキトさんが風雷の郷にいる事を聞きました。
そして、なにやら不穏な噂もちょっとキュウマさんにお願いして聞きだしました。
後でキュウマさんが震えていたのが気になりますけど……。
私ってそんなに怖いかな?
笑顔でお話を聞いただけなのに。
「あのー、ミスミさまいらっしゃいませんか?」
「ん?」
「あっ、ゲンジさん……」
「鬼姫ならおらんぞ、小僧を迎えに行っておるでな」
「あ、そうなんですか……」
「うむ、そうじゃ、お主も来るか?」
「へっ?」
「丁度今茶をたてておってな、ヤードとかいう若造も来ておる」
「ヤードさんが……」
おかしな雲行きになってきました、アキトさんを探しに来たはずなんですが。
もっとも、アキトさんに会っても何ていって言いかわからないんですけど。
ただ、もやもやしたものを言葉にしたくてつい来てしまっただけかもしれないです。
でも、ゲンジさんって風格があるっていうか、なんか逆らいがたくて(汗)
つい流されてしまいます。
そのまま、ゲンジさんの庵に案内されてヤードさんとも会うことになりました。
目的からかなりそれている気もしますが。
仕方ない……ですよね?
「その……」
「そうじゃな、とりあえず茶でも飲め」
「えっ、あ、はあ」
そう言って出されたのは黄色いお茶。
シルターンから伝わったものですが、紅茶の茶葉のほうがこの世界に合っていたらしく、時々しか目にしません。
ゲンジさんが興味津々と言う感じで見ているので口に含んで見るんですが、
お茶という感じがするのみです。
紅茶と比べて少し甘みがあるのは特徴的な気はしますが、以前飲んだものと比べてどうと言われてもわからないのが現状です。
「……どうだ?」
「素晴らしいですよこれは!?」
「え、えーっと???」
「なんじゃ若造、貴様にはこの絶妙な風味というものがわからんのか?」
「そうですよ!? これほどのお茶にはそうはお目にかかれません」
うわっ、二人とも一気に詰め寄ってくる。
私はちょっと引きました、だってお茶の味は皆同じように思えるし……。
飲み分けできるほど知らないんですもん!
でも、ゲンジさんの趣味がお茶だって事はしってましたけどヤードさんが同好の士だとは、思いもし無かったです。
「しかし、これが貴方の手作りだとは驚きです」
「いい苗を鬼姫から分けてもらえたからな。加えてここの土と水は申し分ない。
だからワシごときの工夫でもこれだけの味が出せるんじゃ」
「いえいえ、これは並みの努力で作れるものではありませんよ。各地のあらゆるお茶を飲み比べてきた私の舌は誤魔化せません」
「わははっ! そうか? それならもう一杯やってみるか?」
「ええ、是非!」
これはこれで、きっと本人達には楽しいんでしょうねえ……。
とはいえ、巻き込まれてもよく分かりませんし、そうだ。
「あの、アキトさんは来ませんでしたか?」
「ん、あああの黒いのか」
「黒いのって……」
「テンカワさんなら少し前に貴女に合いに行くとラトリクスへ向かったと聞いていますが」
「こら若造、ワシの台詞を取るではないわ」
「すみません、しかし話題を早く終わらせてお茶の話をしたかったものですから」
「ううむ、そういわれては付き合わぬわけにも行くまい」
「でですね……」
「ううむ、慧眼じゃな、それは……」
ああ、遠い世界に行ってしまいました……。
って、アレ?
それって、私とアキトさんすれ違ってる……?
ミスミに説得された後、俺はアティに謝るべく……いや、感謝の言葉を伝えるべくラトリクスに向かう事にした。
ミスミに忍びを使ってアティの居場所を探ってもらい、ほぼその位置はつかんでいる。
とはいえ、今も同じとはいえないが、できるだけ早く伝えられるようにしようと思う。
「また俺は迷惑をかけてしまったな……」
しかし、ラトリクスへ向かう途中の道すがら人影があった。
初期のメイド服を仕立て直したナース服のようなものをつけた少女……いやアンドロイドか。
「クノンか」
「アキトさま、お体は大丈夫ですか?」
「問題ない」
「それはよかったです」
ある意味アティとギクシャクするようになった原因といえなくもない。
だが、本人にその自覚がない事は明白であり、その事を追求するのは酷だろう。
それに、自我の発達具合によってはかなり不味いしな。
「それよりどうした? わざわざ一人で外出とは」
「必要に迫られれば、私とて単独行動をいたしますが?」
「必要に迫られる……か、かなり重要な用事なのだな」
「はい、私にとっては最重要に位置する事項の一つであると判断します」
「ほう……」
「アルディラ様が摂取される薬の原料が切れてきましたので」
「んっ、何か悪いのか?」
「そうではありません、融機人がこの世界で生存するために必要な免疫体の強化ワクチンの材料です」
「ワクチン……何かこの世界の菌に有害なものが?」
「はい、融機人にとってはこの世界の幾つかの菌は致命的になりうるのです」
「つまりは彼女らにとってこの世界の空気は毒そのものだという事か?」
「そこまではっきりと言い切るほどのものではありませんが、でも定期的に薬を投薬しなければ一年と生きられないかもしれません」
「それは……」
逆にふと思う、アルディラは簡単な自殺の手段を持っているという事になる。
以前そのハイネルとかいう召喚士が死んだ時、彼女は後を追おうと思わなかったのか?
あれだけの思いを抱えて生きていくというのは辛い、そういう意味では不思議ではある。
「アルディラさまはハイネルさまが死んだ後、何度か投薬をやめて自殺を図った事があります」
「……」
「同じ境遇のミスミさまがいさめてくださったので、今もこうして投薬を続けてくださっておりますが」
「ミスミはそんな事もしていたのか」
「ミスミさまはハイネルさまやリクトさま亡き後この島の後見人といっていい立場におられますので」
「後見人な、確かにそんな感じではあるな」
「私は元々機融人の医療用として作られました。この世界に呼ばれたのもアルディラ様への投薬を行うためです」
「では、今のこの仕事こそこの世界での存在理由というわけか」
「はい」
「だとすれば邪魔をして悪いな」
「いえ、別に時間には余裕がありますので」
「所でどこにとりに行くんだ?」
「この先の分かれ道からユクレス村に行く途上にある廃坑です」
「そうか、気をつけていけよ」
「はい、では失礼致します」
融機人がこの世界で生きるには、定期的に薬を摂取し続ける必要がある、か……。
確かに呼び出される世界の空気が呼吸できるものとは限らないよな。
だが、この世界の人間は召喚して使役する、それが可能であるという事実が実は奇跡のようなものだとは知らないのだろうな。
そしてふと思い出した、アティが今どこにいるか聞けばよかったなと。
「まあいいか、兎に角ラトリクスえ……?」
よく見れば後ろ、というか風雷の郷の方角から気配がかなりのスピードで近づいてくる。
しかしまあ……。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はあ」
「お前も良く走る奴だな」
「ぜぇ、はぁ、なん、のために……急いでる、と、思ってるんですか」
「話があったのか?」
「ぜぇ、ぜぇ、はい。というか……知りたい、事が……」
「知りたい事?」
「ぜぇ、ミスミさま、と……」
「……」
そっちか!
今朝の事のほうだろうと思っていただけにある意味拍子抜けではあった。
「ミスミには教えてもらったよ」
「えっ、何をですか……」
「生きている人の言葉を聞け、とな」
「ううっ、確かにそのとおりです」
「何か問題が?」
「いえ、ただなんかいい所もってかれたなーって」
「そういうものか?」
「そういうものです」
「まあその辺はいいとしてだ。すまないな、心配かけた。
そしてありがとう……」
「えっ!?」
俺はアティを抱きしめる。
それは、親愛の表現と取れなくもないかもしれない。
しかし、感謝を表すのに言葉だけでは足りないと思った。
だから俺は、腕の中のアティをただ見つめていた。
「うっ」
「う?」
「うきゃー!?」
「あ」
アティは顔を真っ赤にして俺を振り払い、そのまま走っていってしまった。
俺は何か悪い事をしたのか?
いや、やっぱり恥ずかしいか、いきなり抱きしめたりするのは。
しかしこれくらいしないと伝わらない気がしたしな。
「まあ、なるようになるだろ」
その時俺は楽観的にそう思った。
俺がいつもの如く海賊船に戻ってくると、船の前に人だかりが出来ていた。
スバルにパナシェ……青空学校の連中だな。
それに、アティやベルフラウと使い魔の……オニビだったか。
一緒にいたハサハが真っ先に俺に気付きトテトテと近付いてくる。
「おかえり、おにいちゃん」
「ああ、ただいま」
反射的にハサハの頭をぽんぽんと叩きながら、その場に近付いていく。
すると話声が聞こえる、それもかなり切羽詰ったものだ。
「じゃあ、君たちが見たその大きな虫は、木を食べていたのね?」
「うん……」
「鋭い牙でさ、こうメリメリって、大木をへし折ってたんだぜ!」
「ねぇ、もしかしてその虫たち……」
「ニビビ……ッ」
「ええ、きっとジルコーダがまだいたんでしょう」
「ええーっ!?」
「とにかく、集いの泉で対策を相談しなくちゃ」
「私、みんなを呼んできますわ!」
「ビビーッ!」
「なあ、またあの時みたいな騒ぎになっちゃうのか?」
「心配しないで、巣は始末したから前みたいに増えることは……」
ジルコーダ、巨大白蟻だったなしかし、今頃……。
俺は、皆に近付いて話を聞く。
「そこは、クノンが薬の材料を取りに行った廃坑の位置……まずいな」
「急ぎましょう!」
言うが早いか駆けていくアティ、俺は姿を見失わないうちに追いかける。
アティに聞かせるべきではなかったろうか、彼女なら真っ先に助けに行くに決っている。
とはいえ、俺はクノンの危機を聞いても同じだけの心配をする事が出来なかった。
理由は簡単だ、彼女がそう簡単にやられるとは思えなかったし、
ロボットとは人より強いものというイメージがどうしても離れないせいもある。
だが、彼女は医療用だ、考えてみれば戦力としてはどれくらいなのか未知数だ。
「クッ、間に合ってくれよ」
俺はアティの全速に追いつくと、その手を引っ張り更に加速した。
アティがなぜか悲鳴のような声を上げ始めたが、無視して全力で進む。
半時間もかからない間に目的地に到着した。
Gyeeeeeeeee・・・・・・・・
人のものではありえない、高音の鳴き声。
いや、何かをかち合わせるような音もしている。
とはいえ、ここに人はいない、ただフラーゼン(アンドロイド)が一体いるだけである。
「警告します……それ以上接近すれば敵対行為とみなし徹底抗戦いたします」
クノンは採取したワクチンの原材料である鉱石の粉をシャーレに移した後、肩から提げている鞄に入れる。
そして、目の前まで迫った巨大な白蟻を見た、彼女は一度このジルコーダと戦っている。
しかし、それも一人きりだったわけではない。
彼女は赤外線感知から数を割り出している、その数10体。
うち2体ほどが彼女に突撃してきた。
Gysyaaaaッ!
「……ッ!!
届けねば……アルディラ様に薬を……」
クノンは跳びずさって回避するが、出口が遠のくばかり。
彼女の武器と言える物はせいぜいが腕を槍に変形させるくらいだ。
不意打ちには有利だが、絶対の体格差を相手に何度も効くとは思えない。
それでも、果敢に戦うクノンだったが、数の差はいかんともしがたく、徐々に追い詰められていった。
「せめて薬だけでも……ッ!」
Gyeeeee!?
体を破棄してでもと考え始めた頃、周囲の敵影が目に見えて減っていくのが分かる。
ドカ、バキッといった打撃音と共にほんの数秒でそれは彼女の前にたどり着いた。
「クノン! 大丈夫ですか!?」
アティの声にクノンは正面を向くが、なんというか一瞬ほうけてしまった。
アティはアキトにお姫様だっこの状態で連れられていた。
アキトはゼイゼイ荒い息をあげてアティをおろす。
どういう状況ならこういう状態になるのか、クノンの中でかなりの検討が繰り返されたが、
最終的にはエラーを出してみなかった事とした。
「どうして……ここに……」
「そんなの決まってます! クノンが心配だから……ってその肩、ケガしてるじゃないの!?」
「私の体は修理すれば元に戻ります。それに、私の活動目的は医療行為ですので、多少の……」
「クノンも仲間だよ? だから傷つけば悲しいし、頼って欲しいと思う」
「ですが、私は」
「やめておけ、アティにその理屈は通じない。その事は散々俺もあじわったからな」
「ちょ……それなんかトゲのある言い方です。私は皆の事が心配で……」
「無茶をするのはお前も似たようなものだろう?」
「うぐ!?」
「ふふっ……」
クノンはその二人の姿を見て何故か笑顔を作りたいという命令系統が出現するのを感じた。
特に不都合はないようなので許可し、笑い声を出したのだが、何故そうなったのか疑問は残った。
しかし、その時はまだ安心できる状況ではなかった。
Gyeeeee!?
「もう、いつも一人で飛び出すんだから!」
「ビーッ!」
「ったく、理由があるなら俺らも連れてけっての!」
「だよねー、こいつらにはアタシらも借りがあるんだからさ!」
「はしたないわよ、女の子なら慎みを持ちなさい」
「ふーんだ、スカーレルに言われたくないもん」
瞬く間に残っていたジルコーダを駆逐していくカイル達。
廃坑内のジルコーダは元々たいした数ではなかったためか半時もしない間に全滅した。
「あ……」
「さあ、みんなの所に合流です!」
どこか戸惑っている様子のクノンを引っ張り、皆の所へ連れて行くアティ。
元々彼女はワンオフの機体というわけでもない、危険を承知で助けるより新たに生産すればいいという考えが根底にある。
とはいえ、この世界においては彼女を再生産するなど不可能だ、その意味でワンオフの機体と変わらないのだが。
そんな彼女はどうにも疑問に思うことがある、あの時点でアキトは役に立たなかったろう、アティ一人でも何とかなったかもしれない。
しかし、1対10ではかなりの危険だったはずだ。
「みんなが助けに来ることに確信があったのですか?」
「なんとなく、だけどね」
アティは微笑みながらその質問に答える、根拠は薄弱だ、でも確かに彼らの性格なら追いかけてきてくれる可能性は高い。
そういう事を見越すことが出来るという事が信頼というものだろうか……。
クノンは先ほどと同じような命令文がICを走るのを感じた。
「やはり、貴方の行動は無茶苦茶すぎます。ですが……。
そういうのは……私もキライではないかもしれません」
「え?」
「では、失礼いたします」
クノンの微笑みに向けられたアティは一瞬驚いた表情になり、そして笑い返す。
そのまま踵を返して去っていくクノンを見送り、ふとこぼした。
「クノンもちょっと砕けてきてくれたみたいですね」
「そういう言い方も間違いではないかもな」
「どういう意味ですか?」
「あまり深い意味はない、これからも頑張れという事だ」
「うー、なんだかはぐらかされた気はしますが、もちろん頑張りますよ!」
アティはガッツポーズを作りアキトに見せる。
それをほほえましいと感じているアキト。
その間に割り込むようにハサハが歩いてきてアキトの裾を引っ張る。
「ゆうごはん、だよ?」
「そうだな、そろそろ帰るか」
「えっ、ええ……そうですね」
アティはいいタイミングで割り込まれた気がしたがハサハの年齢を考えてまさかねと考えを改めた。
「そういえば今日の夕食は誰が担当しているんですか?」
「ああ、今日はオウキー二に来てもらっててな」
「それは楽しみだな」
「ええ、オウキーニさんってそんなに料理上手いんですか?」
「ああ、一級の料理人といっていいんじゃないか?」
「だな、俺らも毎日食ってもいいと思うぜ」
「へーそれは楽しみですね!」
「先生も見習ったら?」
「ちょ、別に私は料理できないわけじゃないですよ!」
色々な出来事が起こった日ではあったが、その日はまるで何事もなかったように過ぎて行った。
しかし、その時既に種が蒔かれていた事には誰も気付かなかった。
あとがき
WEB拍手の返信さぼり気味なのは本当に申し訳ないです。
ただ、今はかなりのペースを保っていると思われますので、勢いで責めますw
今回からはしばらくアズリアが主役っぽかったりw(爆)
まー長いSSですので、お許しを。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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