「ほうれ、どうした? さっさとあの野郎を連れてこねぇと、ガキの命はねぇぞ?」

「う……っ」

「スバルっ!?」

「落ち着くんじゃパナシェ!」



思わず飛び込んで行こうとしたパナシェを止めるゲンジ、

老人は近くで遊んでいる子供達をほほえましく見ていたはずなのだが、そこに突然あの男が現れたのだ。

マルルゥにはみなを呼びに行ってもらっておりこの場にはいないが、パナシェは取り乱し今にも飛び込んでいかんばかりだ。



「だって!? スバルはボクのこと、かばって捕まったんだよっ!

 ボクのせいだ……っうっく、ううっ、うっ、うわあぁぁぁぁん!!」

「泣くなってば! パナシェはおいらよりお兄ちゃんだろ? おいらなら平気だい!

 それに……先生が来たら絶対こんなヤツらやっつけてくれるってば!」

「……だとさ?」

「さあ、どうだろうね?」



ビジュの声に答えたのは以外な人物だった……。



Summon Night 3
the Milky Way




第八章 「臆病であるという事」第七節



ミスミを見送った後、俺はなんとか体を動かしラトリクスを出ようとした。

このままでは、まずい気がしたのだ、確かにミスミは強いだろう。

しかし……北辰は、奴の強さはよく分からないところがある……。

奴が俺と同じ境遇なのは間違いないだろう、しかし、奴の強さは異常だった、今までの奴と比べて確実に数倍の力を有していた。

あれは、おそらく俺と同じように剣の力で増幅されているのだろう、それも俺とは比べ物にならないほどに……。

下手をすると奴のせいでアティ達が全滅と言う可能性も……。



「やはり、俺が行かねば……」

「おにいちゃん?」


俺がベッドから立ち上がり、歩き出すのを見てハサハが寄ってくる。

目には心配そうな光をたたえているが、俺は首を振ると歩き出す。

まだ筋肉痛のきしみはあるが、流石に回復は早い。

なんとか移動するくらいなら問題はなさそうだ、後は歩きながらでも回復を図れるだろう。

急がねば……。














必死に走りこんできた私の目に飛び込んだのは、ビジュとかいう帝国兵に抱えあげられ、首元にナイフをつきつけられたスバルくんでした。

私はいつかそういう事をされる可能性があるとは思っていたのですが、どこかで楽観していたのかもしれません。

相手がアズリアだから……。

アズリアは優秀ですが公正明大であることも良く知っています。

こういった卑怯な作戦が後に遺恨を残す事を良く知っているのです、誇りと矜持にかけてそういう事はしない、そう思っていました。

でも、目の前には囚われたスバルくんがいる。

この事実はどうしようもない事です。

アズリアの命にしろ、ビジュの暴走にしろ、結果的には同じ事です。

ここまできたらアズリアも追認するしかないですからね……。



「スバルくん!?」

「あ……」

「ヒヒッ、よく来たな? 待ちかねたぜェ……」

「この卑怯者……恥を知りなさいっ!」

「お姉ちゃん……っ、お願いだよ、スバルを助けてあげて……」



ソノラが怒りをぶつけていますが、今の私達にはそれ以上の事は出来ません。

私はパナシェくんの頭に手を置いてさすってあげながら、ビジュに目を向けます。



「村に火をつけて回ったのは、貴方だったんですか……」

「ヒヒヒッ、まァ、半分はそうだぜ」

「半分だと?」

「最初の一件については僕がやったんだよ。子供たちと遊びながらこっそりと、ね……」

「……!」

「イスラさん……っ!」



そう、なんですね……私が甘かったという事……。

あの時のことを黙っていたからこんな事に……。



「ふふっ、みんななんて顔してるのさ? 仲間同士、疑う事をしない君たちだからこんな不覚をとるのさ。

 もっともおかげで僕は万全の準備をしてこの時に望むことができたんだけどね」

「最初から、計画的に動いていたということですか……!?」

「ひ……卑怯者ッ!!」

「君たちよりも利口だっただけさ。だから、ほら……こういった準備だってきちんとあるよ」

「イヤあぁぁぁぁっ!」

「たっ、助けてくれえ!」



あれは、風雷の郷の妖怪の方たち……子供や老人ばかり……。

若い人たちが仕事に行った後を襲撃したんですね……。

何から何まで計算されていたという事ですか……っ!



「郷の者たちに、手を出すつもりか!?」

「卑劣な……っ」

「目的のためなら手段なんて選ばない。敵の弱みをついて、いかに早く、確実に勝つかが大事なんだ。

 そうだろ、姉さん?」

「……」

「姉さんって……」



まさか!?

いえ、確かに病弱な弟がいると聞いていましたが……。

帝国軍が迫ってきていた事にも気付きませんでした……。

そう、イスラさんが呼びかけたのは、駆けつけたばかりのアズリアだったんです。













ミスミは自らの作り出した風に乗ってかなりのスピードで郷への帰りを急いでいた。

彼女も普段は使わないような術を使うのには理由がある、アキトが考えた真相が本当ならば郷の者が狙われる可能性が高い。

良くて人質、悪ければ皆殺しにされるだろう、早く戻って郷の安否を確かめる必要があった。



「しかし、アキトめ……無茶ばかりしおって、あの調子では直に追って来ような。

 ならば我は奴の戦う理由をなくしてやらねばならぬ」



ミスミはほんの少しだけ微笑み、また頬を引き締める。

気配が生まれていた、先ほどまで完璧に隠していたように思われるそれは、確かに殺気。

それも、今までに感じた事の無いような底冷えのするものであった。



「ほう……よほどのてだれと見える、わらわの邪魔をしにまいったか?」

「我とて貴様に興味はないが、浮世の義理よ……つまらぬ仕事ゆえせいぜいあがいて我を楽しませよ」

「ほほう、わらわをつまらぬと申すか……ほんに、なめられたものよ」



そう言葉を発しつつも、既にミスミは戦闘態勢に入っている。

首元の雲からなぎなたをスッと取り出し、一振り。

なぎなたの先から真空の刃が飛び出す。

一瞬影は引き裂かれたように消滅した。



「ククッ、変わった技を使うな。やはり人とは違うか……されど、その程度の芸で粋がるならば半時と持たぬぞ」

「ふむ、そなたか、組傘の男。アキトと因縁があるようじゃのう。せっかく人らしくなってきた奴をまた闇に落とされても困る。

 ついでじゃ、その根源わらわが絶ってやろうぞ」



互いにニヤリという笑いで答える。

殺気のぶつけ合いでは互角に近い結果となった、そうミスミは北辰の殺気を受けて自らの闘気ではじいて見せたのだ。

次の瞬間、二人の姿が霞む。

あまりの高速に人間の脳の認識では追いつけないほどになったせいだ。

誰かが見ていれば剣戟の音のみが響き、辺りが壊れるのに人の姿は見えないというまるでカマイタチのような現象を目にしただろう。



「ははは、まさかこのような世界でこのようなてだれに会おうとは、運命とは分からぬものよ!」

「お主もな……しかし、次で決めさせてもらうぞ!」

「望む所よ!」



互いに戦闘の技量においては認めあうほどには技量が近いことはわかった。

とはいえ、北辰は匕首のみ、ミスミは薙刀と無詠唱術の併用でほぼ互角である、スタミナの消耗具合は明らかにミスミの方が上だった。

ゆえに、ミスミは決着を急いだ、この後の事も考えたのかもしれない、しかし、それは大きな隙となる……。

大技を狙ったがゆえ、詠唱で薙刀の集中が低下し薙刀をはじき上げられた。

その隙を逃さず匕首はミスミの首を狙う……。



「ぐぁぁぁぁ!!!?」



北辰もミスミも終わったと思ったその瞬間、北辰の顔面は凄まじい速度で横に吹っ飛んでいった。

そして、その場所にはいつもの黒い服装に身を包んだ黒目がねの男がたっていたのだ……。

















「あっははははは……、これで、僕がどうしてこんなことをしたのか理解できただろう?

 そうさ、僕の名前はイスラ・レヴィノス。帝国軍諜報部の工作員であり……アズリアの弟さ!」

「そんな……」



イスラさんは私達を前におかしそうに笑います。

アズリアの弟……私がアズリアから聞いていたのとは随分と違う性格をしていますね。

言われて見れば顔のつくりとか、似ているところもありますが……。

いえ、そんな事を考えている場合じゃないですよね。

これは、思いつく限り最悪の状況という事になります……。



「まさか、お前がビジュと接触していたとは思わなかったぞイスラ……」

「秘密を守るのは諜報部の鉄則だからね。計画を実行するまでは姉さんでも話す事は出来なかったんだよ」

「選択の余地はなし、か」

「体面を気にするあまり失敗を失墜にしてしまったら、それこそ本末転倒でしょう?

 汚れ役は僕が全部引き受けるよ。姉さんはただ黙認してくれればいい」

「わかった……」



アズリアは唇をかみながらも、イスラさんの提案を受け入れます。

本来は家の当主となるはずの弟……できればこういう卑怯な事はむしろ一番して欲しくないでしょうに。



「それじゃあ取引といこうか?」



聞くまでもありません、つまりあの剣が欲しいんでしょう。

アキトさんには申し訳ないですが、人(?)の命には変えられません。

それに、剣を渡してもアキトさんが消滅するわけじゃないでしょうし……。

もしかしたら、少し甘いのかもしれないとも思いながら私は抜剣して剣を具現化します。



「……これを渡せばいいんですね?」

「ほら、姉さん。ああいってるんだからもらっておいてよ」

「……すまん」



私がイスラさんに剣の柄を向けて差し出すと、イスラさんはアズリアにそれを引き渡します。

アズリアは苦しそうな顔で謝りました。

やり方の卑怯さには当然腹が立ちます、でも、この状況は気付いていながら注意していなかった私のミスでもあります。

アズリアが悪いわけじゃないといってあげたい気持ちもあります、でも、結果は同じ。

今の選択が正しいと信じてはいますが、もっと以前に何か出来たのではと考える自分もいます。



「さあ、これで文句はないはずです……みんなを解放してください!」

「ああ、いいとも」

「ほらよっ!」

「せんせえっ!」



スバルくんが引き渡されます。

私達はほっと一息つきました、でもイスラさんの計略はこれで終わりじゃなかったんです。



「……」

「ほら、あんたたちもさっさとそこをどきなさいってば」

「……危ないっ!!」

「え……って、ひゃああああっ!?」

「ナンノマネダ……」



他の人質を解放するつもりでいたソノラに兵士達が攻撃を加えたんです。

ファルゼンが庇ってくれたので事なきを得ましたが、殺されていてもおかしくない状況でした。

私はイスラさん……いえ、イスラを睨みつけます。



「どういうつもりですか?」

「品物一つに対して人質が一人……正当な対価でしょう?」

「な……っ」



私の視線に答えるのは蔑み愉悦に浸ったような嫌な目。

イスラはこの状況を楽しんでいるよう……。

私は歯噛みする思いで、イスラを見続ける事しか出来ません、これ以上、弱みを増やさないように……。



「全員を解放してほしいんだったら、また別の対価を用意してもらわないとね」

「これ以上なにを望むんですか!?」

「そうだね……君の命、かな?」

「!」

「イスラっ!?」

「使い手が死ねば、もう、この剣の力におびえなくてもいい。違いますか!?」

「ヒヒヒッ、隊長殿、まさか、イヤだとかぬかしたりしないでしょうねぇ?」

「みんなのために犠牲になれるんだ。アティ。いかにも君にふさわしい結末だと僕は思うけど?

 それとも、やっぱり自分の身のほうがかわいいかな?」



どちらを選んでも、私は終わりだとそういっているのに気付きます。

そう、私がみんなを選べば私自身の命が、自分の命を選べば皆からの信頼がそれぞれ無くなると考えたのでしょう。

本当に用意周到ですね……。

昔、用兵学で聞いた事があります。戦争は勇者が勝つのではない、臆病者が勝つのだと。

この場合の臆病とは、震えていることじゃなく、あらゆる怖さを知り全てに対する対策を練ってから動けという意味です。

彼はそれを行っている、つまり策は何重にもめぐらされていることでしょう。

私はこの状況では選ばざるを得ないと感じました、そして、その場合できることは……。



「……わかりました」

「アティ!?」

「こんなふざけた提案を聞き入れるんじゃないでしょうね!?」

「ごめんね、自分でもバカだなあ、って思ってはいるんです。でも……私にはやっぱりあの人たちを見捨てることはできないから」

「く……っ」

「ふふふっ、本当に君は、僕の期待したとおりに動いてくれる。ありがとう……そして……さよなら!!」



進み出た私にイスラは剣を振り下ろそうと……。



「ぐ……っ」

「……??」

「どういうつもりだい? 姉さん……」



その腕にはアズリアが絡みつき、振り下ろすのを止めていました。

彼女の表情は悲痛であり、私達は何も言えず動きを止めて見入ってしまいます。



「もう、やめて……いくら任務のためでもこれ以上、私は……お前のそんな姿を見ている事なんてできはしない!」

「アズリア……」



それは、本来アズリアにとって許せない行為。

臆病者の用兵は、彼女の求める跡取り像とはかけ離れすぎていたという事なのでしょう。

歴史上非道な行いを正当化する組織は多いです、でも、そういう組織は自分達を誇る事は出来ない。

人質、だまし討ち、裏切りはレヴィノス家にとってあってはならない事なのだとアズリアに聞いた事があります。



「放せ! いくら姉さんでも、任務の邪魔をするなら……」



イスラがアズリアを払いのけようと動いたその時、突然風が吹きすさび、人質をとっていた兵士達が苦しみ始めました。

イスラのまわりにもまとわりつき、帝国軍の動きを止めてしまいます。



「な、なんだッ? この風……ッ!? まとわりついて……」

「これは……」

「母上の<風>だ!」

「くうぅぅぅぅぅっ!?」



スバルくんが上のほうを向きながら、自慢げに語ります。

そう、その突風に乗って飛んできたミスミさまが私達に向けて舞い降りてくる所でした。



「よう、辛抱してくれたアティ」

「ミスミさま……」

「そなたが、時を稼いでくれたおかげで結界を張る用意ができたのじゃ……見るがよい!!」

「ギャッ!?」

「ひぎゃぁぁぁぁっ!!」

「竜巻、だと!?」

「これで、もう貴様らは郷の者には、指一本も触れられはせぬ……」



人質になっていた郷のみんなの周りに風が集中して、竜巻のようになっています。

中にいる人は無事ですけど、周りにいる兵士ははじかれて吹き飛んでいきます。

これで、人質にはだれも触れる事は出来ない……。



「よかった……」




私は一瞬腰が抜けるかと思うほどの安堵感を感じました。

ミスミさまは私ににこりと微笑むと、イスラと帝国軍に向き直ります。



「この女……余計な真似を……ッ!」

「重ね重ねの非道の数々……。

 もはやこのまま見捨てては置けぬわ。

 白南風の鬼姫ミスミ、これより参戦つかまつる……覚悟しやれや外道ども!!」



一瞬ミスミさまの放った威圧感に帝国軍は気圧されたように下がります。

怒りの強さが伝わる思いでした、いえ、矛盾するかもしれないですけど私だって今の彼らを許せそうにありません。

でも、イスラはそれを鼻で笑うように見下しながら私達を睨みつけます。



「人質がいなくたってなにも問題はないさ。

 あいつらはもう剣の力を頼ることはできないんだからね。さあ、返り討ちにしてやるんだ!!」



人質を解放したことで私達は士気を上げていますし、相手にしても今のイスラの言葉で気力を取り戻しているはず。

互いにここで決着をつけてしまおうという勢いでぶつかっていきました……。

















ミスミを先に行かせて俺は北辰と対峙していた……。

睨みつけていると、吹っ飛んでいったはずの北辰は首をこきっとならしながら立ち上がる。

予想していた事だがダメージは無いようだ。

奴は恐らく、この力を使いこなしている……エルゴとかいうこの世界の力を……。



「我の不意を打つとはな……止めゆえ殺気を殺しきれなかったか……まあよい、あらかた仕込みは終わった」

「……それくらい、彼女がなんとかするさ。俺はただお前を殺して安心したいだけだ」

「フッ、我の足元にも及ばん貴様がなにをするというのだ」



確かに、今の俺は奴には及ばない……もともと木連式の武術でも奴に敵わなかったのだ。

いい所、捨て身で五分といったところだった。

それが現在力の差も加わっているから話にならない、しかし……。



「俺には俺のやり方がある、何も貴様に付き合う義理はないからな」

「ほう、見せてみよ。貴様の戦い方、我に通用すると思うならな」



俺は前もって契約していたいくつかのサモナイト石を取り出す。

奴と俺との違いがあるとすれば、あれしかない……。

俺はサモナイト石をかざして召喚する。



「来たれマシラ衆!」



瞬間召喚されたのは猿の面をつけた忍者達。

同時に4人、かなり高度な召喚らしいと聞いている、しかし、エルゴの力の影響かかなり強力なものまで呼び出せるようになっていた。

4人の忍者達は命じられるまでも無く北辰に向かい疾駆する。

木々をはねてわざと遠回りする者、地を這うように行く者、飛び込む者、背後に回りこむ者。

それぞれが、高度な体術を使い、北辰に必殺の一撃を放つ。


しかし、寸前に何かに縫いとめられたように動きを止める。

北辰からはまるでディストーションフォールドのような赤黒い光が発せられていた。

その光に全て縫いとめられて動きが取れなくなっているのだ。


だが、一瞬にせよ動きは止まった……。

俺は、その間に準備を終えていた。



「さあ、やろうか……」

「何!?」



俺はその時既に北辰の背後に回っている、奴の光が弱まったタイミングを見計らい、背後から拳を一突き。

その一突きだけで吹っ飛ぶ北辰、木々をなぎ倒して地面に転がる。



「何をした……貴様……」

「さあな」



言葉を投げかけた北辰は凄まじい加速で俺に仕掛けてくる。

しかし、本来俺の<纏>すら上回る北辰の動きを軽く捉えみぞおちに掌を叩き込む。

全身が燃えるように熱くなっているのを感じる……。

俺はそのまま連撃に持ち込んで北辰をサンドバックのように殴り続けた。



「そうか……血流の加速……」

「ご名答」



本来人間なら血を加速する方法は運動するか体温を上げるくらいしかない。

それに、こんな動きを続ければ普通血液が沸騰して死ぬ。

しかし、俺は最近さんざん聞かされてきたことがある、俺の体は一種の魔法の素でしかなく、人間の体じゃないのだと。

だが、<纏>で脳のリミッターを外しても増幅はそれほど変わらなかった。

それなのに北辰はどうしてあれほど強いのか考えていた、そして思いついたのが意識だ。

魔法で出来た体だというなら、体に意識がいけば魔法となるのではないかと。

試した結果は見ての通り、血流を意識して加減速出来るようになった。

イメージするために少し時間が要るのが難点だが。

つまり……。



「もう、パワーでもスピードでも貴様には負けん」

「クククッそれはいい……」



北辰は口元から血を流しながら、しかし、嬉しそうに笑う。

俺はその笑みを見るのが面倒になって、更に攻撃を加速した。

この状態になるとアドレナリンが大量に分泌するようで、えらく好戦的になる。

今にも笑い出したいような気持ちになりながら、奴をぼろ雑巾のようにぐしゃぐしゃになるまで潰した。



「はぁ……っはぁ……っはぁ……っ」

「楽しめたか?」

「!?」



良く見れば、俺が叩きのめしていたものは俺が呼んだマシラ衆の一人……。

いや、違う……俺のマシラ衆はもう帰ったはず。



「貴様……が、呼んだのか、北辰!!」



俺はいつの間にか大木の上に移動していた北辰に怒りの声を上げる。

さすがに加速状態はきつい、今の状態では1分もつかどうかだ。

まさか空蝉の様な事をしてのけるとは、まずいな……。



「本来、貴様を絶望に落とせばもう少し強くなるかと考えていたが、まさか自発的に考えるとはな。

 やはりお前も戦いが忘れられぬと見える、貴様の”修羅”みせてもらった」

「うるさい! 貴様を……倒すまでは、幾らでも強くなってやる。さあ降りてこい!」



やはり、奴との会話はイライラする……恨みは当然ある、俺の平和で幸せだった日々を崩した張本人なのだ。

しかし、それ以外にもいつも高みから見下ろして蔑んでいるようなその言動に腹が立つ。

命乞いをさせて絶望した所を殺してやりたいというような暗い感情を沸き立たせるからだ。

息が上がった今の状態が恨めしい。



「なるほど、だがいいのか? 彼奴らが仕掛けた以外にも我は一つ罠を仕掛けているぞ」

「何!?」

「貴様の怒りを煽るように、あの郷を全て焼き払う罠をなクククッ」

「……」

「爆発まで後1時間。ちょうど奴らも戦闘中だろう、探し出す事ができるかな?」

「くっ!!」



俺は余裕の意味を知った、奴は確かにハッタリはしない。

優先順位を変えてその罠を何とかするしかない、歯噛みする思いで奴を見る。



「だが、そうだな……お前が強くなった褒美に一つヒントをやろう。我は郷には罠を仕掛けていない」

「……!?」

「間に合うかどうか、貴様が死なない事を祈るぞ、貴様を殺すのは我なのだからな」



そういった瞬間、北辰は掻き消えた。


俺は目を疑ったが、あれは……加速じゃない。


しかし、そんな事を考えている暇もない、俺は全力で風雷の郷に急いだ……。









あとがき


ようやく8章もクライマックス。

しかし、またちょっこり登場の北辰です。

まー本格的には彼はアキトとの決戦がやりたいという感じにしていますので、もう少し先かと。

どちらもまだ100%の力を手に入れていませんからね。

とはいえ、アキトパワーUPしすぎかとも思わなくも無い今日この頃ですw



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