地位には相応の責任が伴う。
しかし、生まれながらに地位を持つものは責任を実感する事が出来るのだろうか?
当然としてあるものの理由を問いただす事が出来るのだろうか?
みな地位を奪われたくはない、そしてより高い地位を欲する。
敬われ慕われる事は誰もが望む事だからだ。
しかし、敬われ慕われるための努力は並大抵ではない。
最初から地位を持った者には、そこまで上がるために必要な努力を知らない。
結果として恨まれるのは本人が悪いのか、生まれが悪いのか。
ただ、平等がまやかしである以上、地位も砂上の楼閣にすぎず。
一枚めくればそこには怨念が渦巻いている事に気付く。
だが、誰も望んで世界の成り立ちを知ろうとは思わない。
そこには見たくないものが溢れかえっているのだから。
光あふるる場所
In a far star of the future
第十話 「視察」
「陛下、この資料に目を通してください」
「陛下、予算の請求書です。署名と捺印を」
「陛下、国境近辺ににおけるアルタイとの狩猟権問題についての見解を出してほしいと外務大臣から……」
「陛下、砂漠化対策事業費が削られた事に対する抗議文が来ております」
「陛下、貴族院から権限の拡大についての申請書が……」
「うるさーーい!!」
女官のアオイ・セノー(先日、学園長室にお供をしていた女官)から次々と新しい書類を渡され、マシロ女王はかんしゃくを起こしていた。
衛兵長のサコミズ・カージナルがいない為、少しは楽が出来ると思っていたところ、
実際にはサコミズとアオイは協力関係にあり、こちらでも書類は滞りなくやってくる。
監視役がサコミズからアオイに変わっただけだった。
実のところ、マシロは政務が大嫌いである。
そもそも、生まれてから14年いや、もう数ヶ月で15ではあるが、その間一度も現場と呼ばれるような場所に出た事は無い。
つまりは、それぞれの場所で起こっている問題も彼女にとっては絵空事にしか過ぎない。
そんな、現実感の無い問題が毎日、それも一日に大小数十もの案件が持ち込まれるのである。
勉強ならばしなくても本人の頭が悪くなるだけである、しかし、案件は処理されない限りそこにあり続ける。
国家の重責など注意するものも無く、全く感じていないマシロではあるが、増え続ける案件には頭を痛めている。
当然、原因となる人々の考えを杓子していない以上、表面上の問題は解決しても、すぐにまた同じ問題が持ち上がる。
理解しようとしていないのだから当然ではあるが……。
「もー嫌じゃ! ガルデローベに来てからも毎日毎日! わらわはこのような事をする
ために女王になったのではないぞ!」
「ですが……これが女王の務めですし」
「何を言っておるか! このようなもの執政官でも立てて任せてしまえばよいのだ!
わらわの時間の殆どがこれに消えておるではないか!」
「そう言われましても……」
アオイはのんきそうな細目を更に細くして考え込むが、いい考えが浮かぶわけも無い。
彼女はマシロにいい女王になって欲しいと思っているのだが、伝わらなければ意味は無いと言うことか。
そんな時、マシロは資料の一つに目を留めた。
「なんじゃこれは?」
「あっ、はい。えっと、レルゲンシュタット侯爵の事ですね」
「ああ、あの太ったおっさんか」
「陛下!」
「何か違うか?」
「いえ……その通りですけど……。あまり直接的な表現は……」
「わらわは女王じゃ、この国で一番偉いのじゃぞ! 臣下をどう呼ぼうとわらわの勝手じゃ!」
「はぁ……」
「それで?」
「最近領内で増税がなされたようです」
「わらわを介さずにか?」
「そうなりますね、それに、申請に無い貿易船が出ているそうです」
「かなり派手に動いておるな……」
「それで、注意を促すに留めるか、それとも査察を行うのかという内務大臣からの申請書類です」
「ふむー」
マシロは考え込む。
ただレルゲンシュタット家に対する対策とは実は全く別のことを考えていた。
「そういえば、レルゲンシュタット領には温泉が出るそうだな?」
「えっ……はい、そうですが……」
「ならば査察はわらわが行く!」
「はい!!??」
「はい? じゃないわ! こんな狭いところにいつまでもいたら息が詰まる! 査察は
決定じゃ、良いな!?」
「ちょっ、ちょっと待ってください陛下〜」
「待たぬ! さっさと支度をせい! 明日には出立するぞ!」
「ひょえええーー」
こうして、査察と銘打ったマシロの慰安旅行が決定された……。
「……と言うわけなんです」
「なるほどな」
俺の部屋にマシロ女王付き女官のアオイ・セノーがやってきて告げる。
マシロのわがままがまた爆発したようだ。
しかし、現場に行くという考え自体は悪い事とは思えない。
ただ、問題が複雑だった場合危険が伴うという点が抜け落ちているが。
「衛兵長のサコミズ様からは最低護衛一個大隊を連れて行けという御達しなのですが、
それを陛下がお許しになるとは思えず。どうしたものかと……」
「ははは、確かに。大隊というのは1000人規模だからな。面倒な事を嫌う女王は嫌がるだろう」
「笑い事じゃないですよ!」
「いやすまん」
真剣にマシロを心配するアオイちゃんを見ていると困らせて見たくなる。
マシロもだからこそ近くにおいているのかもな。
「そうだな……俺が護衛として付いていけばいいだろう」
「え?」
「俺が付いていくということは、サレナや、俺の監視役のオトメがついていくという事だ」
「あっ! そうですね! オトメは一人で一軍に匹敵しますから護衛としても申し分ないはずです!」
「元々俺は女王の護衛役として雇われているんだからな。とはいえ、申請には手間取るだろうが」
「そうですね……でも、明日には出立するって……」
「それはまた急な……」
マシロらしいといえばらしいが……。
これは俺も急いで申請に行かないと。
そう考えていると、背後に控えていたサレナが扉に注意を向ける。
気配は殺しているようだが、確かに誰かいるな。
「別に監視は隠れてしなければならないという決まりがあるわけじゃないだろう?」
「嫌やわぁ、今来たばっかりどすえ、隠れてたなんて人聞きの悪い」
そうすっとぼけながら出てきたのはシズル・ヴィオーラ。
彼女にとって俺の監視は日常業務なのだろうが、気配を消していられるのはあまり気分のいいものじゃない。
「それで、折角聞いていたんだ。意見を聞かせてくれ。俺の外出とオトメの出張は可能か?」
「うーん、そうどすなぁ、出来れば外に出て欲しくは無いんどすが……
問題はうちが今ガルデローベを離れられん事の方かもしれませんねぇ」
「……代わりの監視役は?」
「呼び戻してはおるんやけどね、まだ半月ほどかかりそうな感じどす」
「そうなると……」
「まぁ、ナツキと相談してみるさかい、少し時間をおくれやす」
「頼む、ガルデローベとしても、女王に何かあってもらっては困るはずだしな」
「その通りどすわ、頭の痛い問題です」
シズルは頭痛がするかのように、額をとんとんと叩いてから、部屋を出て行った。
部屋にはまた俺とサレナとアオイちゃんが残る状態となる。
「シズル様っていつも礼儀正しいのに、テンカワさんの前では随分くだけていますね」
「くだけている……のか?」
「敵対者としてある意味対等に思われているのかもしれません」
「それもどうかと思うが……(汗)」
好き勝手言われても正直困る、あの女の敵意はかなり神経にくるからな……。
昔の俺なら、確実に体調を崩していただろう(汗)
サレナも表情には出さないが、シズルに対する警戒は相当なものだ。
こっちも息が詰まる部分がある。
復讐をしていたころと違って周りを見ているせいか、それともここが違う世界だからなのか。
どちらにしろ、歓迎したい事ではないのだが。
「それにしても、アオイちゃんは随分女王陛下が気に入っているようだな」
「アオイちゃんって、そんなに私子供っぽいですか?」
「16か17と言うところじゃないか?」
「あっはい、そうなんですけど……」
「……俺は25だが?」
「えっ!?」
「まさか同い年くらいとか思ってないよな?」
「いえっ、そんな! まさか!!」
童顔だとは言われていたが、8つ以上若く見られたのははじめてだ……(汗)
いくらなんでも20よりは上に見えるつもりだったが……。
「あや、その、あの……姫様……いえ、陛下がご重用なさるからてっきり同世代なのかと」
「これは……バイザーの代わりになるものが必要だな」
「そっ、そんなこと無いです!! テンカワさんみたいな人の顔を隠すものなんて罪悪ですよ! ね? サレナさん!」
「私……ですか?
視覚的な事は良く分かりませんが、マスターはここに来てから安定しておられるように思います。
バイザーは視覚補正と精神を落ち着けるためのものでしたから、特には必要ないかと」
「……とりあえず、護衛で出かけるついでにサングラスでも探して見よう……」
「……もったいないです」
アオイちゃんが何か言った気がするが聞かなかった事にする。
護衛なんて職業なめられたら終わりだしな……(汗)
最近サレナは家事をするようになった、とはいえ料理はまだレパートリーに欠けるが。
だが、紅茶だけは俺よりも上手く入れる事が出来る。
ミユと言われるアンドロイドが自分の経験をスペアボディにある程度バックアップしているらしいので、サレナも出来るということらしい。
ミユのマスターは北欧系の小学生程度の少女だったらしく、紅茶とお菓子だけはレパートリーが広い。
よってサレナもそういうところは受け継いでいると言う事のようだ。
「スリランカ系と思われる茶葉が手に入りましたので、オレンジティにして見ました」
「なるほど、確かに柑橘系の香りが良く出ているな」
紅茶に一口つけて、一息し、皿にカップをもどしながら、俺とサレナが話していると、
アオイちゃんは紅茶には手をつけずボーっとしている。
「どうかしたのか?」
「あっ、いえ、なんでもないです! ご主人様ってこんな感じなのかーとか思ってませんよ!? 私!」
「……」
この子は自爆するのが趣味なのか天然なのか……。
楽しい子である事は間違いなさそうだな……。
「俺みたいな流れ者よりも、きちんとした主に仕えているじゃないか、君は」
「あっ、はい、そうなんですけど……」
アオイちゃんは困った顔になり、うつむく。
わがままに振り回される立場としては、思うところもあるのだろうかと思っていたのだが、
うつむいたままアオイちゃんはポツリと話し始める。
「実は話していいのかどうか分からないんですけど、
陛下と親しい間柄になったテンカワさんには知っておいてもらいたい事があるんです」
「……言ってみてくれ」
「はい、実は女王陛下が生まれてすぐ、王宮に賊が入った事があるんです。
その時は丁度王家のオトメがいない時期でしたので、王宮は大混乱になりました。
それで、当時のマシロ様はどうにか逃がされたのですが、その時に行方不明となり、
それから数ヶ月たって当時の内務大臣が見つけてきたのが今のマシロ様なのです。
ですが、今やその大臣も既に亡くなり、大臣の家族もその事は知らないと。
ですからその……」
「本物かどうかという証明が無いわけか?」
「はい、それゆえに陛下は周りの人々に偽者呼ばわりされることも多く、
また、本人もその事にコンプレックスを持っていらっしゃいます」
それは……重いな。
幼い女王にはきついだろう。
「ですので、それとなくでいいですので、気を配ってあげて欲しいのです」
「分かった、気をつけよう」
とはいえ、部外者の俺が出来る事などたかが知れているだろうが。
ただ、マシロの立場はそれらを跳ね除けた上にしか確立できないものなのだろうな。
そんな話をしているうちに結構時間がたったらしい、足音が部屋へと近づいてくるのが分かる。
ただ、複数の足音である事が気になった。
気配も……6人分、これはいったいどういうことだろう?
「入ってよろしおすか?」
ノックの音と共に、シズルの声がする。
特に敵意も感じない。
拘束しに来たと言うわけでもないようだ。
「サレナ、頼む」
「はい」
サレナは警戒した面持ちのまま、扉を開ける。
俺はそれほどは心配していなかったが、念のためという事もある。
扉が開かれると、中に入り込んできたのはシズル……ではなかった。
「はーい♪ テンカワさんお久しぶりです!」
「アキト! アタシもお供するんだって!」
「あっ、あのこの間は助けていただいたのに、まだお礼に来れていませんでした。申し訳ありません!」
「……」
「こらこらハニー達、シズルお姉さまの前だよ。あんまりはしゃがないの」
最初に入ってきたのは、テンションの高い赤毛の眼鏡っ子ことイリーナ・ウッズ。
続けて後頭部から二つの三つ編みを揺らせながらアリカが飛び込んでくる。
それに続くのはおどおどしているものの礼儀正しい少女エルスティン・ホー。
4人目は冷ややかな目で俺を見ている確かコーラルbPだったか、セルゲイ・ウォンの養女ニナ・ウォン。
五人目は……初めて見る顔だ。
姿勢がよくどこか男装の麗人を思わせる、暗灰色の髪をした少女。
彼女は一瞬俺への目つきを鋭くしたが、すぐに悪戯っぽく笑う。
怒涛のごとくかしましい声が聞こえる中、シズルは額に指を当てて不安そうな顔をしている。
一体どういうことだ?
「これが、護衛兼監視のオトメたちどす」
「は!?」
俺は一瞬目を疑う。
最後の娘は服装からしてパールとか言う上級生のようだが、他の四人は全てコーラルと呼ばれる一年生だ。
二ナやアリカはそこそこ戦えるのかもしれないが……。
どのみち学生にさせる仕事ではないと思うが……。
「みんな若い子ばかりどすけど、それなりに役に立つ娘達を連れてきたつもりですんえ?」
「?」
「それに、この娘らはテンカワはんに関係のある娘らを中心に選んでます。この意味分かりますね?」
「なるほど、確かに監視役として申し分ないわけだ」
シズルは暗に俺が勝手に出て行くようなことがあれば、4人のコーラルオトメに何らかの危害が及ぶと言っているのだ。
軽く言っているものの、シズルは恐らくその事をパールの少女に言っているはず。
つまり、実際に手を下すのはパールの少女と言う事になるだろう。
「そうなりますな。それにチエはんはパールの2。戦力としてはマイスターに次ぐ実力どすえ?」
「シズル姉さまにそう言っていただけると照れますね。期待を裏切らないよう頑張りますよ」
チエと呼ばれたその少女は俺に目を向けると薄く笑った。
なるほど、躊躇いを持つようなタイプではなさそうだ。
ナオとはまた違うが、心を隠す事のできる人間だな。
警戒はしておいたほうがいいと思わせるには十分だった。
しかし、ある種の緊張は横からの闖入者によりあっさり破られた。
「わぁ、チエが来てくれるんだ♪」
「え? アオイ!?」
「だったら安心。よろしくお願いね♪」
「……はぁ、分かったよマイハニー。でも、緊張感がなくなるから後でね?」
「クスッ、まだそのくせ直ってないの?」
「べっ、別にいいじゃないか。僕はこれで楽しくやっているんだから」
「そうだね、ごめん」
「いや、その、分かってくれればいいんだ」
一気に緊張感の無くなった部屋の中で、少し息を付いてからシズルが再び話し始める。
「兎に角、視察は明朝より5日間。それ以上は外交問題に発展しかねませんえ?」
「ああ」
「マシロ女王の護衛はこの6名で行ってもらいます。王宮でつける護衛は10人ほどいますが、役に立つとは限りませんよってに」
「わかった」
「それともう一つ、分かってると思いますがこの娘達に手を出したらちょっきん、どすえ?」
「そんなつもりは無い」
シズルは相変わらず笑顔のまま殺気をぶつけてくる。
俺は、無表情に受け流すが、胃に悪そうなのは間違い無いな。
とにもかくにも、こうして俺達は視察へと出かける事となった。
「遅い! いつまで待たせるつもりじゃ!」
「ナオーン」
「陛下お待ちください、この船は貸切ですから、急がなくても問題ありませんよ〜」
マシロは額に十字傷のある黒いブタネコを抱えながら走っていく。
ブタネコは大人しく抱っこされているようだが……。
あんなのを王宮で飼っているのか?
どう見ても雑種だが……(汗)
いやまぁむしろ金がかかっていない分いいのか?
「おぬし、随分久しぶりではないか! わらわの護衛しっかりやっているんだろうな?」
「できうる限りは。サレナにもサポートさせているからほぼ24時間護衛できていると思うが?」
「そっ、そうか? 一度も見かけんかったが?」
「部屋には近づいていないからな」
「それでどうやって護衛できるのだ!? 衛兵ですら門前に控えていると言うのに!」
「サレナの監視システムは周囲1km圏の熱源を判別できる。俺も気配で近くの敵意は感じられるしな」
「ええい、ようわからん! これからは部屋の前で護衛せい! わらわの精神安定に寄与するのも護衛の仕事じゃぞ!」
「……了解した」
俺はふっと微笑む、わかりやすい人間というのはいいものだと思う。
純真であると言う事でもあるのだから。
しかし、彼女の成長を周囲は待ってくれるのだろうか?
今でもマシロ女王の人気はあまり高くないと聞く。
取り違えの件がどの程度噂になっているのか知らないが、
出来れば民衆が不満を爆発させる前に目に見える功績を挙げさせてやらないとまずいだろうな。
「あんた! またわがままばかり言って! アキトを困らせてるでしょ!?」
「ふふん、わらわはアキトの雇用主じゃ! どう扱おうとわらわの勝手じゃ!」
「うー!」
「むむむ!」
俺をダシにしてマシロとアリカが睨みあっている。
ブタネコはのたのたと先に乗り込んでいってしまった、ある意味大物だな……(汗)
しかし、マシロとアリカは似たもの同士だからだろうか、二人は良くぶつかり合っているようだ。
俺は知らなかったがこれまでも何度かぶつかっているらしい。
「だいたい、わらわが出したアキトの給与でガルデローベに通えるくせに、わらわに対して偉そうじゃぞ!」
「なにをー! アキトはしっかり働いているんだから! それにお金は元々ガルデローベの資金だたそうじゃない!」
いや、俺がしっかり働いているかどうかアリカは知らないだろう(汗)
しかも交渉の事まで……どこから漏れたんだか……。
雰囲気が不味そうなので、護衛をサレナに任せ先に船に乗船する。
すると今度はイリーナ・ウッズとエルスティン・ホーの二人が近寄ってきた。
見た所、イリーナがエルスティンを引っ張っているというような状況のようだ。
「ほら! あんたが言い出したんでしょ?」
「うーだけど」
「大丈夫! テンカワさんは乙女の心を裏切るような人じゃないって!」
「うぅ、わかった。頑張るね」
「それでこそ我が親友! いけいけGOGO!」
「もーからかわないでよ」
「いいから、いいから」
「うっ、うん、あ……あのー、助けてもらったお礼に……良かったらですけど……」
「何だ?」
「これ! お口に合うかどうか分かりませんけど」
そう言ってエルスティンが俺に差し出してきたのはバスケット。
中身は……何種かのサンドイッチと鳥(何の鳥かは不明)のから揚げ、野菜スティックなどの詰め合わせのようだ。
一緒にポットが用意してある。おそらくはスープだろうか?
難易度はそれほど高くないが、一つ一つ丁寧に作っているらしく彩りも綺麗に仕上がっている。
「これ君が作ったのか? えーっと」
「エルスティン・ホーです。みんなからはエルスって呼ばれてます」
「じゃあエルス」
「はい、頑張って作ったんですけど……美味しくなかったらごめんなさい」
「いや、美味しいよ。まさかその年でここまで出来るとはね……」
俺はサンドイッチを食べながらびっくりしていた。
それぞれ、素材を良く生かしている。
切り方、焼き方、湯で具合、混ぜ具合など一つ一つはたいした事の無い違いでしかないが。
総合すると、一流の味になる。
このサンドイッチはその辺の喫茶店などよりも本格志向の料理店の物を思わせる。
「これなら多少高くても食べに行くよ俺は」
「そんな……」
「そうでしょー? エルスちゃんの料理の腕は一流なんですから♪」
「君はイリーナだったかな?」
「はい! 私からもお礼もらってもらえます?」
「いや、俺は君に何もしていないと思うが……」
「親友を助けてくれたお礼です!」
そう言ってイリーナが差し出したのは見た事のある形状……。
いや少々ファンシーではあるが、携帯電話のように見えた。
「私なりに研究して再現してみたんです。携帯電話って言うらしいですよ」
「再現……という事は、これは失われた技術なのか」
「はい、って知っているような口ぶりですね?」
「ああ」
そう言いつつ携帯を二つに開く、このタイプは火星で何度か使う機会があった。
とはいえ、古い記憶でしかないが。
「画面もプッシュもあるが、繋がるのか?」
「一応、今は私の持っているこれとだけですけど」
「なるほど」
「その携帯が0、この携帯が1番になってます」
「しかし何を通じて電波を飛ばすんだ?」
「何でもこの星には人工衛星があるらしいんですよ。その範囲外に出ない限りは」
「そうなのか」
問題は人工衛星の周回スピード次第という事か、しかし、これは何かと役に立つかもしれないな。
「ありがとう二人とも。ここまでして貰えるとは思わなかったよ」
俺は俺なりに感謝の心を込めて二人に礼を言う。
こんな風に感謝してもらったのはもしかしたら初めてのことかもしれない。
それが表情に出ていたのだろう、自然と微笑んでいた。
恥ずかしいので、すぐに表情を戻したが。
二人はどこか頬を染めて俺を見ている。
……?
俺は何か変な表情をしていたのだろうか……。
「大丈夫か?」
「え、あ、いえ……ねぇエルスちゃん?」
「うん、あ、その……そうだね」
「……?」
二人はもじもじしながら何か言おうとしていたが。
それは途中でさえぎられる事となる。
「あー! アキトこんな所にいた!」
「わらわの護衛を放り出していくとは何事だ!!」
「いや……サレナがいれば問題ないだろう?」
「そういうことではない! 先に行くなど臣下として問題がある!」
「うんうん、もう、勝手に行っちゃ駄目だよ。ってあれ? そのバスケット」
「ほうほう、なかなか旨そうではないか」
アリカとマシロの二人はバスケットに取り付きあっという間に中身を平らげてしまった。
いや、元気なのはいい事なんだが……うしろでエルスが泣きそうな顔をしているぞ(汗)
「うむ、なかなか美味であった! 今後も精進するが良いぞ!」
「これ、エルスちゃんの味だよね? 美味しかったよ♪」
「だー! それは、エルスちゃんからテンカワさんに渡した物なのに! 意地汚いんだから!」
「ふん! 臣下のものはわらわのものじゃ!」
「あ、ごめんね。じゃあ、こんど私がエルスちゃんに作ってあげる!」
流石にバツが悪いのかマシロにも勢いがない。
アリカはご機嫌を取ろうとしているが……その方向性は正しいのか?
いや、そうだな。それほど間違ってはいないだろう。言う人物として適当ではないというだけで。
俺も一歩踏み出して見るか。
この子達の勢いに押されて見るのもいいかもしれない。
「全部食べる事ができなくてエルスには悪い事をしたね」
「いえ、そんな……」
「そうじゃ、おぬしが悪い!」
「こら、本当は私達が悪いんでしょ!」
「わらわは女王様じゃ! 悪いなどという事があるか!」
「女王さまでも悪いものは悪いの!」
二人の争いを完璧に無視しつつ、俺はエルスティンに言う。
「エルスとイリーナには俺の料理をご馳走するよ。もっとも、あまり上品な料理ではないかもしれないがね?」
「え?」
「テンカワさんって料理できるんですか?」
「これでも一応料理店で下働きしていた事もあるし、ラーメン屋といっても分からないかもしれないが、そういう屋台を経営していた事もある」
「そうなんですか」
「ただまぁ、ブランクは長いから、うまくいくか分からないがね。それでもいいかい?」
「はい! ぜひ!」
「うん、是非ご馳走してください!」
「ちょっと待て! わらわを仲間はずれにする気ではないだろうな!?」
「あー、アタシもアキトの料理食べてみたい! 駄目?」
俺が二人に礼を言うために久々に包丁を握る決心をすると、他の二人も同じように詰め寄る。
二人に勝手に食べられた事を気にかけていないか確認するためエルスティンとイリーナを見るが、問題なさそうだ。
「じゃあ明日にでも旅館の厨房を借りて作って見るよ。少し多めに作るから皆で食べるといい」
「良かったねアリカちゃん」
「ありがとう、エルスちゃん!」
「むー他の者達も一緒か……」
「今回は私達のためなんですから、マシロ様もご容赦くださいね」
「仕方ないのう」
それぞれに折り合いを付ける事が出来たらしく、どうにか静かになる。
「凄いね〜僕も年下には受けがいいほうなんだけど、君には敵わないみたいだ」
「チエ・ハラードだったか。何が言いたい?」
「いや、大した事じゃないんだけど。僕もご相伴に預かっていい? 今後の参考に」
「……? 好きにするといい」
「それと、一言だけ忠告。君は世界の中心にいる。その事を忘れないで」
「……?」
「何れ分かるよ、嫌でもね」
そう言うとチエ・ハラードは一瞬瞳を伏せる。
しかし、その表情を読ませないようにか、またすぐいたずらっぽい笑いを纏って俺に笑った。
ただ、チエ・ハラードにしろジュリエット・ナオチャンにしろここまでして少女が心を隠す必要がある、その世界のありようが気になった。
あとがき
少しはラブコメっぽくなってきたかな?
次回もこんな感じでいければいいかなーと思っております。
とはいえ、今回の旅行。コメディだけで終わらせるつもりもありませんが。
いくつかフラグを立てておいたので回収しておかないと。
それからアキトの方、表に出てくるに当たって、かなり世界に混乱を巻き起こせそうです。
つまり、逆に言うと舞−乙Himeの正史とはかけ離れていきそうな予感がひしひしと(汗)
だってアズワドの目的はあれですし、この先を考えると……。
彼女らにとってはアキトは禁書庫の情報より重要かも(汗)
当然国家も動き出しますし、ハルモニウムがオマケになってしまいそうな予感がひしひしと。
まぁ楽しければいいのですが(爆)
しかし、アニメを見直してナオはもう少しひねくれさせないといけないなと思いました。
違和感ばりばりですね、申し訳ない(汗)
今後は気をつけますのでお許しを
WEB拍手にはいつも力を頂いております!
感想は嬉しいもんです!!
今後とも頑張っていきますのでよろしくお願いします♪
12月28日
21:09 今回はアキト強化フラグですか、若干アリカフラグが進展したようにも見えますが(w
否定はしません(爆) というか、今回マシロ、アリカ、イリーナ、エルスティンと一気にフラグつけまくりです!(爆)
22:40 白馬の王子様か・・・・アキトなら漆黒の王子様か・・・
そんな感じですねー。彼女も学園内でないとカルチャーギャップに苦しむたぐいの人ですからね(汗)
22:48 シズルVSアキト アリカはアキトの援助を
22:50 選んでしまった為に セルゲイの出番半減 嫉妬、七つの大罪の一つ 嫉妬キャラ2名かw
セルゲイは……恐らくアキトに接触を図るでしょうね。彼の目的から考えるとアキトの能力はのどから手が出るほど欲しいでしょうから。
23:20 今年最後の更新 お疲れ様です 来年も更新がんばってくださいw「ナデシコクロス系SSファン」
ありがとうございます♪ 私もクロス作品の方が読みやすいタイプの人間ですし。今年もがんばりますよー♪
23:34 そりゃー拍手ーーーーw
どうもです! コメント入れていただけるというのはうれしいものです♪
23:52 次回も期待しています
次回もがんばります、今回の旅行は一応三話構成の予定です。どれくらいフラグが立つのかお楽しみに♪(爆)
12月29日
0:41 ナツキ妄想。シズル、暴走。素敵でした。
0:44 いくらシズルが忠告されたところで「天然横綱スケコマシ」には効果がないのですよ
0:45 アキト、月の無い夜には気をつけろ!!
ははは、確かにそうですねー。アキトがシズルを落とす事が出来るのでもなければ難しそうかな?
とはいえ、落としたら落としたで独占欲強そうですから(爆死)
0:47 五柱のメンバーは「ナツキ・クルーガー、シズル・ヴィオーラ、サラ・ギャラガー、マーヤ・ブライス、
0:48 ジュリエット・ナオ・チャン」の五名でユカリコ先生は違ったと思うんですが? ナオが五柱に任命されるまで
0:50 鴇羽舞が行方不明のため空位だったような・・・
ふむー、申し訳ありません。一応直しておきました。よく確認する前に行ってしまい申し訳ありません。
1:52 更新お疲れ様です。アキトが一方的にやられず少し安心。でもでもラブコメ分が足りませんw
今回はかなりラブコメ度UPしたつもりです!(爆) 次回も結構高めかも?
11:53 やっぱりこういう展開は好きですよ私はwナツキはもう落ちるのは決定のようですから、シズルが
11:53 いつ落ちるのか楽しみにしてますよ!!
ははは、どうなります事やら。成り行き任せですから(爆死)
12月31日
22:17 ナツキとナオ、いい味出してますね〜。シマシマアキトもそのうち出てきたりするんでしょうかね(笑)
シマシマアキト……アキトが捕まる可能性かー、ただシナリオが少し変わり始めてますからどう動くのか難しいですね(汗)
1月3日
22:00 「マスターは、自分から女性に手を出すような人間ではありません」
22:02 アキトに自覚がないのが最大の問題では?シズルがその事に気づいた時は手遅れの気が。
22:06 アキト惨敗、でも最後の一撃が今後に大きく左右するようですね。毎回最高に面白楽しいです。
サレナさんの言葉は重要ですね(爆) とはいえ、どうなるかは不明ですので頑張ります!
楽しんで頂けてうれしいです♪ 今回の旅もアキトフラグを出すためのものですので、もう少し分かりやすい形になると思います。
1月5日
0:18 教師陣を含め学園所属のオトメは真祖フミと契約してるからですよ byヴェナス
ヴェナスさんはじめましてなのかな? ネーム無しで送ってくれた事のある方でしたらごめんなさい。
なるほどー、真祖フミさんとですかー。
でもそうなると……学園側のオトメに数の制限が無いという事に……。
いや、政治的にそういうわけにも行かないのかな?
難しい所だ……。
理由付けの必要な部分になってきそうですね。
貴重な情報ありがとうございました。
1月6日
23:26 続きを渇望しています!どうか、続きをお願いします。
はいな、申し訳ないです。年末年始はそれなりに忙しかったもので(汗)
また頑張りますので、よろしくお願いしますorz
では、今後もがんばりますのでよろしくです!